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B級聖女 小話集  作者: さん☆のりこ
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詩乃の船旅~2

海は広いな大きいな~~。

 船は快調に航海していると思っていたが、そう信じているのは詩乃だけの様だった。ラウンジに食事を取りに行っても他のお客さんに会ったことが無い、お風呂もいつも一人で楽しくオキゴンドウ状態だ。不思議に思った詩乃は朝食の時にボーイさんに聞いてみた。


「コ 船、私 貸し切り ナノ?」


真面目腐って聞いてきた詩乃に、ボーイは<ぶふぇっ>と、吹きだすのを慌てて堪えた。何でもこの数日の海はかなり時化ている状態だそうで、繊細な他の乗客の皆さんはベットで青い顔をして寝込んでいるそうなのだ。


「・・御気 毒 ね?」

詩乃は心から同情しつつ、厚切りベーコンをモッシャモッシャと咀嚼した。

そう言えば昨夜も窓のカーテンを開け放して、ベットに横になりお月見をしながら風流に寝ていたら、月は上に下にと激しく動いていたっけ。

・・あれは、もしかしたら船が傾いて揺れていたのか?長い船旅は初めてで、東京湾フェリーしか乗った事の無い詩乃には解らなかったが。


「世界 不思議 いっぱい ねぇ」

詩乃がそう言うと、ボーイの見習いの少年は呆れていた。

少年曰く、慣れた船乗りでもチョッと気持ちが悪い?と感じる程の時化の時に、朝からもりもりと脂ぎったベーコンを食べる方が不思議だと思うそうだ。


「・・そう?・・・ありがと」

「別に褒めてないから!それ」


客室からは絶えずヘルプコールが鳴らされ、ボーイたちはてんてこ舞いの大忙しで、本来ならラウンジになど立てない見習いの少年が詩乃のお世話に回されたらしい。汚れ物が大量に溜まり、多くの見習やクルーが洗濯室に動員されて人手不足の厨房は大変らしい。お客たちは少し気分が良くなると、軽い食事を部屋まで運ぶように注文して来るので休む暇が無いそうだ。寝てろし。


『・・よろしい、ならば助太刀いたそう。暇だしね』


詩乃は食事を終えると、食器を持って厨房に侵入した。

船の厨房は初めてだ、揺れても物が倒れない工夫が沢山してあって面白い。

さぁ、離宮の調理室で皿洗いをしていた、詩乃様の実力をお見せしようではないか!


突然入って来たチビッ子に、料理人達は怪訝な顔をしたが、皿をB級魔術で洗いだしたので文句を言ってはこなかった。

ダ~~~ット洗い、バ~~~ット乾かし、サ~~~っと仕舞う・・・すいません、仕舞う所が解りません~~~。

連日の時化で、料理人さん達も疲れていたのか大変喜んで頂けましたの。

お礼に果物(桃みたいなやつ)を貰って詩乃もホクホクだ。



 その後少年に案内してもらって、船のバックヤード巡りで探検気分を味わった。普段見られない所を見るって凄く楽しい、船にはエンジン代わりの魔術具が設置されているのだが、魔石を沢山使うので港の出入りなど、重要な場面にしか使えないそうだ、今は風を受けて進んでいるらしい。


「デも、帆船みたイな帆 無カッタ よ?」

質問すると航海長さんと言う偉い人が教えてくれた、船の周囲に結界(目には見えない)が張ってあり、風の向きによって自在に結界を動かし帆の代わりにしているのだそうだ。船長さんや航海長さんは魔術師で、かなり強い魔力があるらしい。王宮や王都の様な堅苦しい暮らしを嫌う、自由人が付く職業が船乗りなのだそうだ。船での物流は大事なので、王族も海の魔術師達を囲おうとはしないらしい。船員さん達のご家族は、ボコール公爵領に住んでいるそうで・・って!

この船のオーナーはボコール公爵だったよな、知らなかったよ、やり手だな公爵様は。


=詩乃は王宮のイベントでボコール公爵と合った事が有り、言葉も交わしたのだが・・例によって見分けのつかない異人さん顔事だったので、残念ながら覚えては居なかった=



 まぁ、そんな事より今は船の旅を楽しもうではないか!

詩乃は誰もいない廊下に一人仁王立ちし、揺れに逆らい足を踏ん張る。足が動いたら負けだ、誰と戦っているのかは定かではないが体幹が鍛えられて大変に宜しい。

食事は一人ではつまらないので、賄いに混じって船員さんの馬鹿話を聞きながら食べる。海の魔獣の話や、精霊の話・・人魚の話など面白く聞いた。此方の世界の人魚は男だそうで、その涙は真珠にはならないそうだ。真珠の養殖技術はまだ確立されていないようなので、この世界で御〇本さんを狙っても面白いかもしれない、誰かやるといいよ・・・私はしないけどね。面倒臭いから。

夜はお風呂でオキゴンドウになり、お月見をしながら眠る極楽だ~。

他の客が船室に引っ込んでいたから、変に絡まれたりしないで済んでラッキーだった。


「もうすぐ、公爵領の領都<麗しのスラン>に着くよ。ほら、見えて来た」

ボーイ見習いの少年が、嬉しそうに指をさして教えてくれる。


『いよいよか・・自分の居場所探しが始まるのだ・・』

詩乃は緊張して来て、胃がキュウっとなった・・・ヤバッ・・・。


最後の最後で船酔いするなんて、変な奴・・・少年はそう言って笑うが。

きっと緊張するとダメなんだ・・・大丈夫!きっと大丈夫だから!!

手の中のパワーストーンを強く握りしめ、そう何度も心の中で呟く。

手の中の石はアオライト。


挿絵(By みてみん)


アオライト・・もう最悪だと思い逃げ出したい時でも、視点を変えれば・・違う場面で、新しい未来の種を含んでいる事もある。

希を願いたい時にアオライトを持つと、真の自分自身を取り戻し、進むべき方向を自信を持って進んで行けるようにサポートしてくれると言う。

鬱な気分を晴らすのにもお勧めな美しい青い石だ、その昔には羅針盤を作るのに使われたとか・・迷う事なく目標に到達するための導きの石だ。


アオライトを光に向けて変わる色を楽しむ、海の様な空の様な・・どちらにも似ている美しい青。目にアオライトを当てて、青い世界に<スラン>を見る。大きく美しい、白亜の街・・・麗しのスラン。


さぁ!行くぞ!!

詩乃は思いを新たに、街を眺めた。

豪華客船で旅行してみたいものです・・・近場の温泉でも十分ですけど。


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