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B級聖女 小話集  作者: さん☆のりこ
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王妃様の憂鬱     

王妃様は忙しいのです


ザンボアンガ直系の血筋を誇る王妃様・・・ドラゴンの血を受け継いでいるとかいないとか・・・。

最強なはずだ・・勝てる気がしない・・頑張れ詩乃!チベットスナギツネ!!

 いつもの様に書類(木簡がほとんどだが、重要な書類しか羊皮紙は使えない)に囲まれている王妃様は、下を向いて気づかれ無いように欠伸をかみ殺していた。


『いい加減・・小娘の言葉によると、そうね・・ウザイんだけれど』


王妃様の大きな机の前にわざわざ椅子を運ばせて、妙齢な女性がハンカチを噛み噛みキーキーと文句を垂れ流している。①王子の母上、側妃A様である。かれこれもう2時間は居座って居るだろうか。


「この書類は地方局のインフラ整備部門に持って行って、こんな大雑把な計画書と予算書では認可は出来ません。業者を複数集めて合い見積もりを出させなさい、談合するなど百年早いわ、王家のお金は民からの税収無駄な事には使えません」

王妃は①側妃の愚痴を、完璧にブロックして書類に集中している。気分は悪いが、仕事の効率は落さない。流石ベテランのプロ王妃である。


「王妃様そろそろ午後のお茶の時間ですが流石、お休みになられませんか?天気も良く風も心地よいようですのでバルコニーにご用意させて頂きましたが如何でしょう」

筆頭女官がさりげなく側妃をチラッと見て、微笑んでそう提案して来た。


『この鬱陶しい熟女おばさんを、如何にかしろっていう事ね。はいはい解りましたよ』


「さぁ側妃様、少し休んで落ち着きましょう?今日の御菓子は何かしらね?」

側妃様を待たずさっさとバルコニーに移動する、アラまぁ、本当に良い天気ね。メイドがお茶を入れたタイミングで人払いをさせた。


「さぁ側妃様、お座りになって」

「王妃様、お仕事も大事でしょうが、私の話を聞いて下さいましたの?こんな酷い事って有りませんわ。王子だけの為では無く、この国の未来の為にも考え直して頂きたいのです」


酷い事ね・・・。

「貴方の息子が王子の地位を降りて家臣となり、公爵家を興す事かしら?どこが酷いのかしら、かなりの温情決定だと思うのだけれど・・」

その言葉に側妃Aが逆上する。


「私は王子を生んだのです、本来なら王妃になるべき女でしたのよ。それを踏みにじって王の隣に居座っていた貴方様は、私に謝罪と賠償をするべきでしてよ。えぇえぇ!心からの謝罪と、私の王子の復権を要求いたしますわ!」

話は王子だけでは無かったか・・・長年の面倒事がまた蒸し返される。


側妃Aは有力な公爵家の出身と言うだけが取り柄の、各段美しくも賢くも無い女性だったがプライドだけは無駄に高いのだ。祖国が滅び亡国の姫となった女が、いつまでも王の隣に居座るのも、彼女にしてみれば長年の癇癪の素であったのだ。偉そうに王妃面して、この私の上に立つなど許される事では無いはずよ・・それが側妃の持論である。


ウンザリしている心を笑顔で隠し王妃様は悠然とお茶を飲んだ、うん美味しい・・味覚は正常、この位のストレス春風の様だわ多分に花粉が含まれてはいるけれど。


「まず、問題の整理をいたしましょう。

第1の罪は・・王子が禁忌の魔術を行使させた事です、それは理解していますか?誘惑の魔術は人の心を操ろうとする、恐ろしい魔術です・・それ故に禁忌となっているのですから」

王妃様は側妃を冷たく見つめ、続けて溜息交じりに呟く。

「親子は似るのかしら・・誘惑の魔術を使おうなどと大それた事を仕出かすなんて。それともお母様やお爺様の公爵に唆されたのかしら恐ろしい事」


王妃様の言葉に側妃の顔が、驚愕し真っ青に歪む・・手は震えている様だ。

【何故、その事を知っているんだ?】

側妃の顔は如実に事そう語っていたが・・王妃様は事件当時から、すべての動きを完全に把握していた。

沈黙を守っていただけだ、いつか使える隠し玉になると思っていたから。



   ****



 今を遡る事20年前・・王妃がこの国の王宮に入って、3年が過ぎたころの事だった。なかなか御子を授からないのを心配して、貴族達が王に側妃を娶る様にと圧力をかけて来たのだ。

そのころ王妃様の祖国は魔樹の勢力拡大に苦心している最中だった、王妃様としては祖国の救援に忙しく、王の側妃の事など実はどうでも良い事柄だった。


『だって・・仮面夫婦だったし・・』


王は実の母上を嫌悪するあまり、女性全般を大変に苦手としていた。あっちの方?もひどく奥手で、チェリー君だったのだ。結婚以来、この王夫婦はベットを共にした事など一度たりとも無かった。まあ、王妃としても自分はまだ若いし、ゆっくり仲良くなっていけば良いと長期戦略で臨んでいたのだ。だから、重鎮達に側妃達を押し付けられても、王は側妃達の寝所には行かないだろうと楽観視していた。


『それが誘惑の魔術を使って、無理やり事を運ぼうとするなんて・・』


幸か不幸か、王は魔力の強い質だった。

だから王に魔術を掛けようとしても、なかなか上手く掛からない。

それが解っていたから、何人もの魔術師が王の寝所に密かに身を隠して潜んだのだ。王が安心しきってウトウトと眠りに就こうとした時だ、寝台の周りに結界が張られ誘惑の魔術が発動されたのは。


突然の訳の解らない気分に困惑し、熱い体に狼狽する王が誰かの気配に振り向くと・・そこには、そっと寝所に忍び込んで来た側妃の姿が。グラグラとする頭で、必死に自分を保とうとしている王に・・大っ嫌いな女が・・破廉恥な格好をして近づいて来る・・固まる王にしなだれかかっり寝巻の中に手を差し込み胸を触った。


ゾワッ!!悪寒が体の中を突き抜けた。

王は、王は・・突然絶叫して、魔力を暴発させたのだ。


今、側妃Aが生きているのは、ひとえに魔術師達が身を挺して側妃を守ったからだ。王の寝所は全壊、死亡者多数の大惨事となった。

それからしばらくの間、王は錯乱とノイローゼ状態が続き離宮に引きこもり絶対面会謝絶状態となった。事件の顛末は完全に情報を遮断され、貴族達には伏せられた・・それほど酷い有様だったのだ。


仕方が無いので王妃は、この国の政務と祖国への救援など多数の仕事を大車輪でこなし、1日3時間の睡眠時間で働いた。

『・・・あの時は死ぬかと思った・・・』

後に王妃はそう語ったと言う。




 引き籠っていた王が徐々に回復していき、そろそろと頭を離宮から出して来た頃・・側妃Aから、驚くような事を告げられた。王の御子を身籠ったと言うのだ・・・。


王は悩んだようだった・・世継ぎの必要性は理解している。

王曰く、魔術を掛けられた前後の事は記憶に無いそうだ、気が付いたら寝所が全壊していたと言う。王の本心は・・あんな事やこんな事をもうしないで済むのなら、王子はこのさい誰の種でも良いのだと言う。王子が来た今、もうあんな嫌な酷い目に合わないで済むのだから・・と。

王は王妃に、貴方には本当にすまないが、そういう事にしてくれないかと頼み込んで来た。


それでは私は王妃の地位は降りるし、この国を出て行くつもりだと王に告げた。

しかしそれは、王に全力で拒否され引き留められた。

「あんな恐ろしい事をする女を、王妃とは呼べぬし傍に置くつもりも無い、どうか私を見捨てないでくれ!このまま仕事として、王妃業をしてくれないか?もちろん報酬は弾む!」


盛大に泣かれ縋られ、金をチラつかされて・・王妃は折れた。

祖国は魔樹の侵攻により、いよいよ不味い状態に陥っていた。民を救うには、お金は喉から手が出るほど必要だったからだ。王妃は大きな港が有る、豊かな領地を譲り受け、商会を立ち上げ金策に励んで行った。


側妃Aの誤算は、もう一人の側妃Bが、何故か同時期に御子を身籠った事であっただであろう。

『あれが王の御子で有るはずが無い、しかし糾弾しようにも、私の子とて王の御子では無い』


かくして①と②王子は、こうして誕生した。

王も思う所が所多分に有ったのか、王子達の後見人は王妃とし、養育や教育全般は王妃に采配するよう指示を出した、王子達は母親の側妃や、その実家から引き離されたのである。

王妃としては余計な仕事を増やして!と内心思ってはいたが・・王は父親としては没交渉で見向きもしない、王妃が構ってやるしかなかったのだ、生まれて来た子供達には罪は無いのだから。

側妃達は事あるごとに、口をはさんで来て煩わしい事ったら無かったのだが。


あれやこれやで・・・はや19年である。


「王子にこれ以上の地位を望むのは諦めなさい、それは王自身が許さないでしょう。王はあの出来事を忘れている訳では有りませんよ、今すぐ貴方達を逆族として処罰しようと思えば出来るのです。これ以上王を刺激するのはおやめなさい、一族郎党滅びたくなければね」


側妃は、それでもなお王妃様の足元に跪き、靴の先にキスをして慈悲を乞うた。

「今一度だけ、どうかお慈悲を。まだ年若い幼い者の仕出かした事です、お慈悲を・・どうかお慈悲を王妃様~~~」


『あああああああぁぁぁぁぁぁぁ~~面倒臭い!!!』


王妃はニッコリ笑ってこう言った。

「では、お試し期間を設けましょう。課題をクリアしたならば、王に王子に返り咲けるよう進言いたしますよ」

側妃Aは思わず王妃を仰ぎ見た、しかし王妃の顔は微笑んでいたが、目は氷の様に冷たかった。


「側妃様のご実家のご領地は魔獣の侵攻で随分とお困りのはず、王子が1年でその魔獣を片付け、領地を今の倍の規模で復興させる事が出来たら・・王になる資格も有ると言うものでしょう。やらせてごらんなさい、若い頃の苦労は買ってでもしろと申しますでしょ?」

さぁ、お茶の時間はお終いです。あなた方の、健闘を祈っていますよ。


王妃は跪いたまま、動けないでORZの恰好をしている側妃Aを残して、さっさと執務に戻った。

『顔だけ王子の中身を、身をもって知るが良いわ』

この私が、あれほど教育したと言うのに・・・出来が悪い事。

私のせいでは無いわ、生まれ持った性格が怠惰なのよ・・散々側妃の実家に入り浸り、祖父母に甘やかされ見事な三文安に成長した・・天晴な程だ。


『私も激務の最中に、怠け者にワザワザ構ってやる暇も気力など無かった』

反省はしない・・物心が付いたら己の立場を自覚して、自分で這い上がろうとする気力が無い者を教え導く程、私は甘くはないと言う事だ』

・・ついでに言うと、②は我儘で短気で甘ったれな坊やだ。


挿絵(By みてみん)


王妃は詩乃とのおしゃべりを思い出していた。


『王政など、いつかは無くなる制度、縋って執着してどうすると言うのか。小娘は面白い話をたくさん残して行った。

耳慣れない、立憲君主制・・・共和制・・・民主主義・・・。

どの制度も今のこの世界では馴染まないだろうが、貴族の魔力が減り能力が平均化して来た今こそ、次を切り開く<何かを>求め、<何か>の種を撒き始める時期なのだろう。

聖女はそのために現れたのだろうか・・・?


この混沌とした世が、どんな世界に変わるのか楽しみだ、私が御婆になった頃には見る事が出来るのだろうか。歳をとるのも悪くは無いわね・・王妃は一人微笑んでいた。

王妃様は必殺苦労人なので、怠惰な遊び人は嫌いなのです.


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