かつてチビと呼ばれていた爺様のお話
お年寄りの思い出話は長くて、くどくて、説教臭いぞ(一一")
覚悟しろ!
白骨街道に秋が来て、沢山の荷物を載せた隊商の馬車が行きかっている。
農村から収穫物が、街からは生活必需品などが運ばれて、一年の内で一番流通が活発になる時期なのだ。
新たにアスファルトとか言う名の新素材で舗装され直した街道は、以前より遥かに良路となって、馬車の揺れも少なく快適な進化を遂げていた。
加えて、以前と違い治安が劇的に良くなった事も白骨街道が賑わいを見せている理由なのだろう。かつて重武装した腕利きの冒険者を雇ってでさえも、命の保証は無いと言われていた魔の街道が、今では嘘みたいに平和となって荷馬車が行きかう活気あふれる大動脈となっているのだった。
「あぁ~いい匂いだ、この匂いを嗅ぐと秋が来たんだと思うねぇ」
そんな隊商の男の1人が休憩を取ろうと、街道の端にある<茶屋>の暖簾を潜り抜けた、その途端に元気の良い声に迎えられる。
「いらっしゃいませー、あっ、お久しぶりです商人さん。1年振りかな、また寄ってくれたんだね、嬉しいなぁ」
「あぁ、久しぶり娘さんも元気だったかい?秋にここを通るなら食べなきゃならんだろう?名物の焼き芋をさ」
「今日も美味しく焼けていますよー」
商人と茶屋の看板娘が賑やかに会話を交わしていると、奥の方から頑固そうな爺様が呼ばれもしないのにしゃしゃり出て来た、村の最古老の爺様だ。
「ただの焼き芋じゃねぇ、こりゃぁ聖女芋だ、名を違えるな」
「おや、元気そうなお爺さんが出て来たね。聖女ってあの聖女様ですか?この前お亡くなりになって国葬したと聞いているが」
「そうじゃ、その聖女様が有難くもこの村に使いを寄越されてな、お授け下さったのがこの聖女芋よ。そもそも・・」
爺様が話し出したのを見た看板娘は『やばっ、また始まっちゃったよ』と、
「爺様!商人さんは忙しいんだから、聖女芋の話をしたいなら短めにするんだよ」
爺様の耳元で大声を張り上げた。
「やかましい、聞こえているわぃ!」
爺様は看板娘が差し出したお茶を一口啜ると徐に語りだした。
聖女様の剣と盾と呼ばれていた二人の青年と、小さな不思議な女の子のお話・・のショートバージョンを。
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そもそもこの村は青い森の辺に起こした開拓村だった、農地を継げない2男・3男の家族が集まって金を出し合い、領主様にお願いして所有権を得て造り上げた住民自治の村だったのだ。森を開拓するのは大変な苦労が有ったようだが、それでも自分の土地が持てる喜びの方が大きかったそうだ。
そんな村の暮らしも初めは上手く言っていた、畑は広がり収穫量も増えて、曾爺様の頃は幸せに暮らしていた。
「ところがだ、王都に住む貴族達に何やら悪い病が流行って、貴族の数がもの凄く減ってしまったんだ・・それが苦労の始まりだ」
元々遺族は子供が生まれにくい質だそうで、子供を増やすと言う事は傍で思っているよりも難しかったらしい。そこで貴族達は平民の魔力持ちに目を付けた、A級平民と言う言葉を聞いた事は有るか?今ではあまり聞かない言葉だが、昔はある程度の魔力を持つ者はA級平民と名付けられて、貴族に良い様にこき使われていたものだった。それでこの村からも魔力の強い者が、若者を中心に大勢連れ去られてしまったんだと。
儂が生まれた頃の話だがな、残されたのは何の力も持たない平民達だけだった・・それは難儀な事だ。
それからと言うもの、森から魔獣が溢れても退治する事が出来ない、逆に返り討ちに会い怪我をする者や命を落とす者さえ出てしまった。
せっかく丹精した畑も魔獣に食い荒らされて収穫も危うくなっちまった、そりゃぁ村人達も頑張って掘りを廻らしたり罠を仕掛けたりと対策は取ったんだが・・魔獣はそんな甘いもんじゃねぇ。コッチが弱いと知れりゃぁ、奴ら昼間から堂々と畑の作物を喰いに来やがる。
儂がまだ小さな小僧で、チビと呼ばれていた時分は本当に困り果てていて、何時でも腹が減っていたものだったよ。
そんなギリギリな生活を続けていた時に、突然村長と名乗る男がやった来たんだ。
おかしな話さ、この村はずっと自分達の事は自分達で決めていたし、それは御領主様も承知している事だと思っていたのだが。いつの間にやら土地を治めているお方が変わっていたらしく、そんな昔の約定など無効だと言われてしまったんだと。あの時は大人達は皆大慌てで、寄り合いを開いちゃぁ深刻そうに夜遅くまで相談していたものよ。この爺はまだ小さな子供だったからなぁ、何にもできない我が身を随分と嘆いたものさ。
代官に収める金が足りないからと、初めに父親達男衆が労役に連れ去られて行った、その後に母親達女衆もどこかに連れていかれてしまったんだ。
村に残ったのは年端も行かない子供と仕事も儘ならない年寄りばかりよ、どうする事も出来ない、どうしたら良いのかもわからない、そんな切羽詰まった時にあの人達が現れたのさ。
大きな剣を背負った大男の剣士と、女の様なズルズルとした服を着た魔術師・・それから奇妙な顔をしたチンチクリンな女の子の3人組がな。
「いやぁ~、あの人達は強かった、本当に強かった。
代官と名乗る男と武装した用心棒の集団を・・40人くらいはいたと思うが、たった2人でこてんぱんにやっつけてしまったのだから、そりゃぁ驚いたものよ。
強いだけではないぞ、大男の剣士は魔術の腕も達者でな・・戦った後には荒れ果てた土地を掘っくり返して元通り以上の畑に蘇らせてくれたものだ。
魔術師のラチャ先生はのぉ、儂ら子供に魔術の基礎を教えてくれたのだ。
親切丁寧にな、平民の子供にだぞ・・考えられないことだろう?
嫌な顔もせずに儂らの話を聞いてくれたし、本当に心の優しい良い先生だったよ」
「お爺さん、肝心の聖女芋の話は何処で出て来るんです?話は楽しいんだけど、そろそろ芋も食べ終えるし出立しなけりゃいかん」
「忙しいのは結構な事だの、この芋は聖女様のオマケの女の子が呼び寄せた商人が持って来たのよ、この土地に合った特産品を栽培したらどうかと提案してな」
「あぁ、聖女様の御使いのオマケ様だね、彼女の話はあちこちで聞きますよ、何でも飯を作るのが凄く上手かったとか、不思議な石を使うとか」
「・・あぁ、あの時の飯は本当に美味かった・・」
青熊が剣士の大剣で仕留められて、命拾いをした後の飯だったからのぅ。
今まで喰った事の無い様な上等な飯で、儂たちは我を忘れて夢中で食べたものよ。
あの人の作った飯を食べると不思議に力が湧いて来てな、気分まで明るくなったような気がしたものだ・・今思うとそれが聖女様の御力だったのかもしれないな。
聖女様の使いっパシリって事で、そりゃぁ偉かったのかも知れないが、あの小さいオマケの女の子が大人の先生達に指図しているのを見た時には驚いたのものだ。
あれをしろ、これをしろと・・随分と人使いが荒かったような覚えが有る、怖いモノ知らずだと感心したものよ。
・・あぁ、懐かしいねぇ。
聖女芋を石で焼くのを教えてくれたのもオマケ様よ、御味見と言って目の前で芋を焼きだした時には嬉しかったものだ・・凄く香ばしい良い匂いがしてなぁ。
匂いを嗅いでいるだけで腹の虫がグーグーと鳴いて、それが妙に可笑しくて、皆で大笑したたものさ・・笑い方も忘れてしまった毎日だったのに・・儂らに笑顔を取り戻したくれたのは聖女芋とオマケ様だった。
儂らが美味い美味いと言って芋を食べていると、オマケ様は目じりを下げて笑っていたっけ・・けして美人とは言えなかったが感じの良い明るい人だったよ。
「それから何年か過ぎて、そのオマケ様が突然ドラゴン様に乗って空から舞い降りて来た時はもう・・皆腰を抜かさんばかりに驚いたものさ。
ほれ、焼いた芋の他に菓子にこさえた物もあるだろう?スイート芋とか芋のパイイとか、それもオマケ様が教えてくれたものだ」
「芋のパイイは私も大好物ですよ、そうだ家の御土産に買っていこうかな。すいませーん娘さん、4個ほど包んで下さい。ホールでね」
「・・あれから何十年過ぎたのか、あれ以来会う事も叶わなんだが・・」
「そうですねぇ、その大剣の剣士と言う人は確かプマ何とかと言う名の軍の偉い方で、反聖女派の貴族達が起こした乱を鎮圧した際に、御気の毒にも深手を負って亡くなってしまったとか聞きましたが」
「表情が乏しい厳しい顔の人だったが、儂ら平民に威張り散らすような人ではなかったよ、青熊に立ち向かって行った儂に勇気が有ると褒めてくれたんだ」
「惜しい人を亡くしましたねぇ・・」
爺様は其れっきり黙りこくってフリーズしてしまったので、商人の男は黙って挨拶を済まし、看板娘に後を任せて静かに茶屋を去って行った。
「爺様、そんなに寂しくなるなら、もう昔の話は控えた方が良いんじゃないの」
「・・儂が話さなけりゃ誰があの人達の事を語るんじゃ・・あの時、儂らがどれだけ嬉しかったのか、安心したのかお前達には解るまいよ。
儂はあの人達の事を忘れたくは無いし、皆の衆にも村の恩人の話を覚えていて欲しいんじゃい」
「少なくとも私や村の衆はもう、耳にタコが出来る程聞いたから大丈夫だよ」
=歳を取ると言う事は寂しいものだ、もう一度会いたいと願っていた人達が、会え無いままに櫛の歯が抜け落ちて行くかのように・・一人、また一人と逝ってしまうのだから=
ラチャ先生・・あの人は偉大なる魔術師長なのだと後から商人に教えられて、儂らは心底驚いたものだった、礼儀も弁えない村の子供に魔術の基礎を教えてくれた優しい先生だったから。
あの時、身分を忘れ思わず抱き着いた儂を怒るでも無く、抱きしめ返して優しく背中を叩いてくれた先生・・連れ去られた父親を思い出させる様な大きな温かい懐だった。結局、儂の父親は二度と村に帰って来る事が叶わなかったので、抱きしめて貰ったのはあの時の先生が最後となったのだ。
『たった一言でいい、有難うと伝えたかったのに・・』
大剣の剣士様・・そしてオマケ様、みんな儂を置いて逝ってしまわれた。
目を瞑るとあの時の光景が鮮やかに蘇って来る、若々しい命に溢れて輝いていた二人の青年と、雑に扱われながらも存在感が抜群だった女の子。
笑う事を思い出せたあの日、あの時・・懐かしい大事な思い出。
村で過ごしたあの僅かな日々が、あの人達にとっても楽しかった時間で・・つい微笑んでしまう様な、温かい懐かしい思い出であって欲しいと願うのは・・儂の子供っぽい我儘なのだろうが。
儂らの事を覚えていて欲しいのだ・・村はあの日、オマケ様が願ったように大きく豊かになったし、白骨街道に茶屋も出して聖女芋を売っている。
『・・村の衆も頑張りましたんじゃ、儂らはオマケ様の宿題を果たせたじゃろうか。喜んで、あの時の様に笑って下さるじゃろうか。
儂はあの人達に今の村の姿を一目でいいから見て貰い、良く頑張ったなと褒めて欲しかったのかも知れないのぉ』
すっかりションボリしてしまった爺様の所に、王都から出版社の記者が訪れたのは翌々日の事だった。何でも亡くなった聖女様の伝記を記念出版するついでに、外伝としてオマケ様の一代記も造る企画が有るのだと言う。
「色々と取材してきましたが、オマケ様の話もなかなか面白く・・(こほん)・・興味深いものが有りまして、ぜひ多くの皆様に読んでもらい、オマケ様の事を少しでも知って欲しいと思いまして」
「是非とも!よろこんでーーー」
俄然張り切ってしまった爺様が、生贄の記者を解放するまでには7日間のもの日数を必要とした。二人は妙に気が合ったらしく、目指せ100冊、再販出来頑張ろうーと喚いていたのだが。
それは・・いったい、何の呪文なのだろうか・・。
思い出は美しすぎて~チビ爺さん、美化しすぎ(*´ω`*)
嫌な事はサッサと忘れて、楽しい事だけ思い出しながらお迎えを待ちたいものですねぇ♡




