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B級聖女 小話集  作者: さん☆のりこ
25/29

オイ君の船出~4

 「聖女様は本当に素晴らしいお方だよ~」


 その素晴らしい聖女様がシ~ノンと同じ黒目・黒髪をしていて、遠い世界から来た事を知ったオイは聞き込みを続けていた。

どうにも気になって仕方が無かったのだ、トデリに残して来たシ~ノンと何か繋がりがある様な気がして不安な気持ちが拭えなかったからだ。

真相を知りたかった、何故シ~ノンは一人でトデリに来たのか、時々どうにも堪え切れない様に陰でコッソリ泣いていたのか。


『真相を知ったからって、俺の気持ちが変わるモノでも無いんだが』


これからシ~ノンと深く係わって行きたいのに、要らない落とし穴(地雷)に落ちたく(踏みたく)は無かった、余計な言葉を吐いてシ~ノンを悲しませるのは嫌だったのだ。




 王都の彼方こちらで仕事を熟しながら熱心に話を聞きだしていく、王都の人々は聖女様に関してはもの凄く饒舌だった。

大体王都の住民と言うのは選民意識なのか、王都に住んでいる事に凄くプライドを持っていて、北の訛りを話すオイに小馬鹿にした様な態度を取る輩が多い。

・・まぁ、領都でもそんな感じはあったのだが・・何処の土地にも良い奴もいれば嫌な奴も居るものだ、そんな事は今はどうでも良い。

そんな王都の住民達だが、こと聖女様の話になると老若男女問わず・金持で偉ぶった奴やチンピラまがいの半グレ共でも皆一様に愛想を崩しぺらぺらと語りだすのだ。・・不思議な事である、聖女様は余程好かれているらしい。


「聖女様は良い人だ、俺達平民にもお優しい」

「聖女様が作った<民の目安箱>に困り事や貴族の不正を書いて入れればお調べ下さり、御裁きまでしてくれるんだぜ。御蔭で貴族共の横暴も随分抑えられ減って来たんだよ」

「とても御奇麗な方でねぇ、珍しい黒髪は艶やかに光り輝いてまるで星空の様なのさ。黒い瞳は温かみがあって、優しさが滲み出ている様なんだぁ」

「不思議な御力が有って、遠くからお姿を眺めるだけで癒されるんだよ」


・・・もう、大絶賛である。

此処まで褒められている人とシ~ノンでは縁遠い様にも思えるが、黒目・黒髪での所が引っ掛かった。


「黒い髪や目って、そんなに珍しいの?」

「あぁ、漆黒って感じの吸い込まれそうな黒なんだよ、とっても神秘的でね、あんな人は余所で見た事もないさ。あんたもそんなに気になるなら王都の土産話に王宮の広場に行ってごらんな、始まりの<月>の日に広場上のバルコニーにお出ましになるんだよ、あたしら平民に向かって聖典のお話を聞かせて下さるんだ、良くは解らないけど何だか有難い気持ちがしてね」

「その日だけは平民でも王宮の広場に入れるのさ、周りを取り囲むのもA級平民の騎士様達だから怖い事も無いしね。まぁそれでも、王都に住めるだけの魔力持ちでなければ体が辛いだろうがね」


そう言うと王都の住民達はオイを馬鹿にしたように笑い出した、王都の外は穢れた地、平民でさえもそんな認識を持っているのだろう。


「有難う、無理しない程度に覗いてみるよ」

「あぁ、無理はおよしよ。無事に故郷に帰るのが一番の土産なんだから」


オバサンも根は悪い人では無いのだろう、王都に閉じ籠っていて外の世界を知らないだけだ。


『王宮や貴族区域の発展具合は知らないが、平民区域の様子を見れば領都の方が活気は有るし開放的な雰囲気だな、平民相手に商売するなら領都の方が儲けが有りそうな感じだな』


王都の外は決して穢れているばかりの未開な土地ではない、確かに魔獣は多いし魔術具を使えない等の苦労も有るが・・慣れればなんて事も無い、魔獣だって上手く倒せば良い金になる。


『やっぱ、暮らすならトデリが良いなぁ・・気心の知れた人達はいるし、貴族は領主様だけで、それも良い人だし・・何たってシ~ノンもいるしな』


オイの中で聖女様への関心が急激に無くなって行ったのだが、それでも話のネタにと始まりの<月>の日には王宮に出かけて行った。トデリに帰った時、シ~ノンに笑い話の様に聖女様の事を話せると良いな・・等と思いながら。




 始まりの<月>の日、オイは懐の巾着にありったけのシ~ノンの守り石を入れていた、王宮は魔力が厳しいと聞いていたからだ。

聖女様を一目見ようとする平民の流れに混じりながら王宮の前庭を抜けて、更に塔の様な門を潜り抜け王宮の内部に入って行く、彼方こちらに騎士様が立っていて物々しい雰囲気だ。

薄い黄色をしたピカピカ光る石で出来た王宮は確かに豪華に感じられたが・・まぁオイにとっては3日も見たら飽きる程度の物だった。

奥に進むと更に大勢の騎士様達が平民の周囲を取り囲み、厳しい警備に緊張感が増して来る。周囲の平民達は緊張しながらも、静かに興奮している様で聖女様の人気が伺われた。

群集に紛れて待つこと20刻余り、いい加減ゲンナリして来た所でバルコニーに変化が有った。奥に有る窓が開いて光りを放っている何かが出て来たのだ、途端に弾ける嬌声・・皆、口々に聖女様を呼ばわって手を振り舞い上がっている。


『何だなんだこれ・・凄い熱気だ、芝居小屋の人気役者みたいだ』


「聖女様ーー」「聖女様、お優しい聖女様ー」「こっち向いてー」


周囲の余りの熱狂にドン引きしつつ、バルコニーを見上げたオイが見たものは。


『確かにシ~ノンと同じ髪色だけど・・でもなんか違くね?』


シ~ノンはもっと扁平で、堀が浅くて・・雪の中に顔を埋めても跡が付きにくい顔をしている。でもこの聖女様と言う人はどっちかっていうと、周りと違和感のない顔の造りをしている・・彫りが深いと言うのか?


『やっぱりこの人とシ~ノンは関係ないな、只の偶然で髪の色が同じだけなんだろう。なんかホッとしたぜ』


そのままボ~ッと聖女様の顔を見つめながら講話を聴いて、何だか解らないものの有難い気持ちになっていたが・・次の瞬間、ハッと息を飲んだ。

バルコニーで微笑みながらお手振りをしていた聖女様がハンドサイン・・2本の指を立てていたのだ。


【これはねぃ、アッシの地元のハンドサインで、愛と平和を表すんでやすよ・・ピース!】


ピースサイン・・シ~ノンが得意そうに教えていた愛と平和のハンドサインじゃないか・・どう言う事なんだよ!なんでこの人が知っているんだ。


『二人はどう言う関係なんだよ!まさかシ~ノンも遠くの世界から』


オイは思わず周囲の人を掻き分けて、聖女様にシ~ノンの事を知っているのかと話を聞こうと突進し・・ようとして背後からいきなり拘束された、腕を後ろに取られ口は何か匂いがする布で塞がれている。


『・・放せ、放せよ・・どう言う事だよ・・』


直ぐにオイの意識は暗転してしまった。



    ******



 その頃、王宮の一室では緊張の面持ちの子爵様が・・そう、トデリの領主様夫婦が王妃様と対面してお茶を飲んでいた。


「突然呼び出して悪かったのぉ、驚いた事でしょう?今しか時間が取れなかったものでな」


そう言うと王妃様は柔らかい微笑みを浮かべて奥様を見た。


「久しいな、其方は優秀な文官だったが・・今では子爵夫人か。どうです恙なく幸せにお暮しかえ」


奥様は自分が王宮の下級文官だった事と、マルウム様に嫁いで今では子爵夫人になっている事を王妃様が知っている事実に驚いた。

勿論文官時代も、子爵夫人になった今でも、王妃様の御前に上がるのは夫婦揃って今日が初めてでなのである。


「何をそう驚く、自分の手の内に居る者の事を知らないでどうして政が出来る。今日は子爵にお願いが有って来て貰ったのだ」

「私の様な者に何でしょうか、ご期待に答えられると良いのですが」

「何、簡単な事よ・・預けてあったあの子を返してもらいたいのよ」

「はぁ、あの子とは・・シ~ノン殿の事でしょうか。しかし今更何故なんでしょう、シ~ノン殿はトデリの街にも馴染んで恙なく暮らしておりますし、街の者にも頼りにされていて今では街の一員として愛されている存在なのですが」


子爵様が驚いて問いただすも、王妃様は優雅にお茶を飲んでいるばかり・・


「街の若者の中にはシ~ノン殿に好意を寄せている者もおります、それを今更引き離すような事は余りにも可哀想で・・」

「あの子の持つ知識を其方の領地にだけ秘匿しておくのは惜しいとは思わんのか?其方はもう十分恩恵を受けただろうに・・まだまだ困っている土地は多いのだ。このランケシ王国にはのぅ」

「それは、それは良く解りますが。それではシ~ノン殿の気持ちはどうなるのですか、彼女はトデリを出たくは無いでしょう。大事な店も有りますし、友達もいます・・好意を寄せている青年とシ~ノン殿は良い感じな仲なのです。このままシ~ノン殿の意思を尊重する訳には行きませんか・・」


子爵様の言い分を、ため息を吐いて王妃様が吐き捨てた。


「自分の気持ちの侭に、自由に生きていられる者がこの世に居ると言うのか?

誰しも思いも因らぬ定めに嘆きつつも、どうにか諦めながら生きて行くものよ、それに例外などあり得無いのだ。先程は願いと言ったがこれは命令だ・・あの子は我が手に連れ戻す」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




 王妃様が退室した後も子爵様夫婦は頭を垂れたまま動けないでいた、王妃様の圧に腰が抜けてしまった為と・・既に領民と認識していたシ~ノンに済まない気持ちで一杯だったからだ。


「あなた・・」


自分達の様な弱小領主ではとてもじゃ無いが一国の王妃様に逆らってシ~ノン殿を守る事など出来はしない、しかも余計な事を話すなと接近禁止命令まで出されてしまった。これでは彼女は心を静めて退去の準備をする事も叶わないだろう、大事な物も沢山出来ただろうに。


「・・ボコール様に御相談しよう、私はボコール様から直々にシ~ノン殿を保護し便宜を図る様にと命令を下されていたのだ。たとえ王妃様に逆らう事になっても彼女の事を報告する義務が有る・・ボコール様なら悪い様にはなさらないだろう」


御夫婦は支え合いながら如何にか立ち上がると、逃げる様に王宮を去ってボコール公爵邸に向かうのだった。



     *******



 「まったく・・怖いモノ知らずだな。流石シ~ノンの関係者と言うのか」


王宮の広場でオイを後ろから拘束したのは見知った人物で、シ~ノンと取引が有る商人・・パガイ氏だった。今オイは彼の商会の一室に連れ込まれて、グチグチと説教を受けている最中だ。


「聖女様はこの国の最重要人物なんだぞ、おいそれと近づけるお方では無いんだ。あのように近づいて、いきなり親衛隊に切り殺されても何の不思議も無いんだぞ」


「たまたま俺が近くにいたから良かったものの、こっちの肝が冷えたわ・・お茶で良いか?着付けに酒でも飲むか?」

そんな事を言いながらパガイ氏は自らお茶を入れ、そのお茶に少しお酒を垂らしてくれた。お酒の良い香りが部屋に広がる。


「まぁお茶でも飲んで落ち着け」

「何で・・なんでなんだ!何であの人は王宮で大事に囲われていて皆にチヤホヤされているんだ。シ~ノンだって同じ色だろう?なのに」


パガイ氏は答える事もせずに、黙ってオイの顔をじっと見ている。


「可笑しいじゃないか、なんでシ~ノンは大事にされていないんだ。なんで王都を出されてトデリに来たんだ、酷い扱いじゃないか、それじゃぁまるで罪人の流人扱いじゃないか!」


広い世界を知った今、自分の故郷が十分流刑の地になる事をオイは解っていた。

パガイさんはため息をつくと。


「俺も聞いた話だが、シ~ノンは聖女様の召喚時に巻き込まれて遠くの世界から此処に来たんだそうだ。残念な事にシ~ノンは聖女様の様な膨大な魔力は持ち合わせてはいなかった様でな・・その事がその後の扱いの差になって・・王宮の中では余り楽しい思いはしていなかった様だ。

俺はさるお方から依頼されて、シ~ノンの様子をトデリまで見に行っていたんだ。ちゃんと暮らせているか、不自由な思いはしていないか・・していたら援助する様にと命じられてな。まぁ幸い、シ~ノンは逞しくトデリの街に馴染んで暮らしていたのだがな」

「さるお方・・・?」


誰だか詮索し無い方が身の為だ、独り言のようにパガイ氏が呟いた。


「おまえは誤解しているようだがな、王宮・・王都を出たのはシ~ノンの意思だと聞いている、シ~ノンは貴族のやり方に馴染めなかった様だな。貴族は嫌いだ、王都には住みたくない・・そう言って穢れの地に出て行ったのだそうだ」


オイは驚いた様に顔を上げた。


「お前もトデリを出ていろんな奴に出会っただろう、ムカつく様な貴族達にもな・・シ~ノンの気持ちも解らなくも無いだろう?

シ~ノンは目立つ事は好まないし、トデリの様な街で静かに暮らしている方が幸せな様な気もするんだが・・お前はどう思う?」

「お・・俺ですか・・?」

「シ~ノンは4年前、成人の歳になって王都を離れたそうだ・・あれで完成形だ」

「はぁ?俺より年上ですか・・あれで?」


2人して詩乃のチンチクリンな姿を思い出す・・あれで完成形・・もう変化無し。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


「シ~ノンが幾つでも、どんな姿形でも関係ないですシ~ノンはシ~ノンだ」

「おまえ、あれを支えてやれるか?寄る辺も無い一人ぼっちの境遇なんだぞ」

「いや?もう一人では無いですよ、トデリの人達も俺もいるから。

もうシ~ノンは俺達の身内だ、何かあったら街の皆が支えます。それに俺は苦しい時をシ~ノンに助けてもらった、その恩は忘れはしません」

「そうか・・幸せ者だな・・あいつは」

「そうです、俺はシ~ノンを幸せにしなけりゃいけないし・・俺はもうすでに幸せですから・・シ~ノンに出会えて良かった。俺の聖女はシ~ノンです、神々しさは感じ無いけど」

「そうだな、あれに神々しさとか有難さは微塵も感じ無いな・・良い奴だが」


二人でアハハと笑い合う、酷い言い様に詩乃が聞いていたら「悪うぅ~ございますねぇ」とか脹れて言いそうだ。



『早くトデリに帰りたい、帰ったら今度こそ自分の気持ちをシ~ノンに伝えよう・・シ~ノンは年上でも初心うぶだから照れて困るだろうが・・俺は全然困らないしな』


冬の社交界が終われば領主様もトデリに帰るだろう、帰ればすぐに<春の女神のお祭り>が有る。シ~ノンと一緒に祭りを楽しもう、ダンスを踊りながらならシ~ノンも逃げられないだろうし告白するには最高の演出だろう?




 その<春の女神のお祭り>でオイとシ~ノンが引き離され、詩乃がトデリを去る事になるなど、この時平民の誰もが思いもしていなかった。

・・・運命は常に王宮の奥、伏魔殿で決められて行くのだった。


旅の不仲間にモブ顔の息子を捻じ込んだのはボコール公爵様、旅の補給に商売に活躍する事になりました。公爵様、グッジョブです(*´ω`*)

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