オイ君の船出~3
は~るばる、来たぞ王都へ~~(≧▽≦)
「いいか、いよいよ王都の港に入れるぞ、気を引き締めて行け」
船長の喝が入る、長い航海と停泊の末、オイ達の船はついに王都のゲート前までやって来ていた。
「やっとかよ、今度こそ入れるんだろうなー」
ジンが文句を垂れるのも無理も無い、オイ達の船はゲートの前で待たされる事3日。後から来た船に割り込まれ追い出され、なかなか港に入る事が出来ないでいたのだ。それには何やら貴族間の力学、領地の力や派閥の関係など、ややこしいい話が絡まっているようで、オイ達の様な平船員には如何ともしがたい事だった。
更に問題なのは王都の官吏達だった、王都に入るのには彼らの臨検が必要なのだが、それには<賄賂>的な付け届けが必要で、それが少ないと臨検もせずに船を降りて行ってしまうのだ。
実に腹が立つ態度だ、トデリがそんなに裕福な領地では無いとはわかっていたが、そのあからさまな態度にはホトホト情けなくなってしまう。
『・・金って大事だ、本当に・・』
かつて家族が借金の為に苦しんだ経験が有るオイには、領主様と父ちゃんの姿がダブる様でいたたまれない。苦労掛けて悪いなぁ・・と船員達に気さくに声を掛けている領主様に、ジンの様に陰で悪口を言う気にはとてもなれなかった。
王都を守る海のゲート、唐突に聳える壮大な門は優れた魔術具なのだろうが、3日も見ていたらいい加減飽きる、最初の感動はもはや消え去り今では景色の一部となり果てていた。
・・って言うか、早く入れてくれ。
「今まではボコール公爵様の傘下に居たからな、比較的早く港に入れたんだが、これからはやり難くなるかもしれんな」ベテランの航海士が呟いていた。
トデリに代官として奥様連れでUターンしてきたマルウム様は俄然張り切って商売に入れ込んだ、詩乃の造った製品の他、飴色の家具など、トデリ特有の製品をボコール様の領都に売り込んでソコソコの利益も上げて来たのだ。
それは大変結構な事だったが、そこまで稼げるのならいつまでもボコール領にぶら下っていないで独立せよと領主様に追い出されてしまったらしい。
公爵領の代官職からトデリの領主様へ、一見出世の様だが何時までも巣立たない子供を追い払うネッキの様な行為だったと言えなくも無い。
・・ボコール様は厳しいのだ。
傘下を離れ、自力での王都への売り込みは今シーズンが初めてだ。
頼みのボコール公爵の名も使えなくなり、子爵様としては些か荷が重く、トデリの人々の熱い期待に胃がシクシクと痛む思いだった。
「まったく、いつまで待たされれば良いんだよ。順番守れよ腹が立つ」
「大領地の船が先に入るのは仕方が無い事だ、領地の力が違い過ぎるからな。
あいつらは船に自前の兵も揃えているし魔術具も豊富に持っている、下手に逆らって騒ぎを起こしたら潰されるのがオチだ。領主様も良く知っているから我慢しているんだよ」
オイは全く知らなかったが、子爵と言う位は貴族の中ではあんまり偉く無いらしい。領主様は魔獣が出ればいの一番に矢面で戦うし、いつも笑顔でトデリの人達に優しいから大好きな人なのだが・・その俺達の子爵様が王都の官吏なんかにペコペコ頭を下げている姿は・・物悲しいし、腹立たしいし、ムカつくのだ!
『本当は子爵様は強いんだぞ、お前達なんか瞬殺だ』
・・オイには官吏達を睨む事しか出来なかったが、これがカルチャーショックと言うものなのだろうか?トデリから遠く離れて、オイの知る常識と、王都の貴族の常識との乖離に戸惑いを覚えている最中だ。
「力の違いは俺達にも言える事だ、大領地の船員には逆らうな揶揄われてもやり過ごせ。平民地区から出るな、街並みが奇麗な地区には貴族がいる・・奴らは毒だ。魔力を持っているからな、俺達平民は近づけないし逆らえない」
「平民地区に居るなら大丈夫なんだろぉ?」
「時々平民地区にやって来る貴族も居るがな、そいつらは魔力も弱い下っ端だ。だが下っ端ほど悪い奴がいるもんだ、中には威張り腐って平民を甚振る様な質の悪い輩もいるんだよ。お前ら浮かれて王都をウロウロするなよ、お上りさんは直ぐに見抜かれる、好いカモになって身包み剥がされるのがオチだ・・王都には王都にしか無い怖さがあるんだよ。覚えておけ」
先達の有難い忠告を身に染みて理解するのには、あと数時間の間が有ったのだが・・若者は失敗して学んで行くものなのだろう、船員の通過儀礼の様なものなのだろうか。
*****
その日オイ達は船長に貸し出され波止場の荷運びに従事していた、ボコール系の商船から倉庫まで行く荷馬車に荷を運び込むまでの仕事である。背負う荷は重いしキツイ仕事だがその分実入りは良い、弟妹が沢山いるオイには嬉しい仕事だ。
昼になり休憩時間の事だった、腹を減らしていたオイ達は波止場近くの屋台通りに来ていた、肉パンを食べる為である。
「王都の肉パンも楽しみだな」
「領都と味付けは違うのかな、何たって王都だぜ絶対美味い・・」
話しをしながら歩いていると、悲鳴が聞こえ何かが壊される音が聞こえた。
「止めて下さい、屋台を壊されたら困ります」
「困るだと、平民お前が因縁をつけて来たからだろうが!」
「私はまだ、お代を頂いておりませんと言っただけで・・」
「私が、貴族であるこの私が食い逃げをしたと言うのか!無礼者」
見ると肉パン屋の前で小奇麗な格好をした男と屋台の主人が何やら揉めている、食い逃げと言ったか・・代金を払っていないのか。
それを見た空気を読まない読む気も無いジンが、大きな声で感想を述べてしまった。
「王都の貴族も肉パンを食べるんだな、貴族も色々なんだな、肉パン代くらい払ってやりゃぁ良いのに。貴族って意外にセコイんだな」
時化た海でも聞こえるようにと、日頃声を張り上げている船員であるジンは無駄に声がデカかった。
「何だとこの平民の小僧めが、私を侮辱する気か」
「グッ!」
振り向いた男に睨まれた拍子に、ジンは突然胸を押さえて屈みこんでしまった。
膝を付いて苦し気な浅い呼吸を繰り返し、額にはビッシリと汗が付いている。
「ジン!どうした」
オイは慌てて身体を支え介抱するが、ジンは苦しんで唸っている。
「平民の小僧ども、どこから湧いて来たのだ、王都の礼儀を知らぬようだな」
男は二人を睨みながら近づいて来る、手には肉パンの包みを持ったままだ。
「王都では何事も貴族優先、平民は貴族に従い媚びへつらっていれば良いのだ。
貴族が居なければ生きて行けない下賤な者達が、貴族の私に逆らうなど百年早い」
「それほどお偉いのなら、平民の肉パン代くらい払ってやれば良いのに」
「何だと小僧・・きさま・・」
オイと男が睨みあっていると、何処からか「聖女様の騎士様が来て下さったぞ」「騎士様、こっちです」と声が聞こえて来た。
「チッ」
「待てよ、あんた金払えよ」
見物人をかき分けて逃げていく男の背中に声を掛けると、悔しそうにオイに向かって小銭を投げて来た。
「・・ってか、足りねぇし。はいよ、おじさん金」
「有難うよ、大丈夫かい君?魔力を当てられて苦しかっただろう」
店主に聞いたところによると、貴族は皆魔力を多く持っており、何か気にくわない事が有ると平民に魔力を当てて甚振って来るらしい。
平民の働く様な所へと来る貴族は下級の貴族で、たいした魔力を持っていないから大事にはならないらしいが・・それでもこのダメージである。
王宮の中に居る様な、凄く偉い貴族なんかは途轍もない魔力を持っているのだと言う。恐ろしい事だ、くわばらくわばら・・。
「聖女様の騎士様って?」
「わしら平民を貴族の横暴から守ってくれる、聖女様直属の有難い騎士様なんだが・・数が少なくてな咄嗟の時にはとても間に合わないんだが、それでもこうして貴族除けにはなってくれるんだ」
「そうそう、あの聖女様はお優しくて私ら平民にも御心を寄せて下さるからねぇ」
「あんたら聖女様を知っているかい、遠くの世界から私らを救うために来て下さった有難いお方だよ」
『騎士様の話だったはずが、いつの間にか聖女様とやらの話題に成っている。なんなんだ聖女様って、随分と人気者だなぁ』
「黒い瞳と髪をしているんだよ、この世にただ一人の色なんだ。それが、この世の者とも思えない程の美しさ何だってさ」
『黒目・黒髪・・・?』
皆は余程聖女様が好きなのか、聞きもしないのに色々と教えてくれた。
大層偉く力のある魔術師が凄い魔術を使って、違う世界から呼び出して来て貰ったのだとか。その聖女様が悪い奴らを捕まえてやっつけたとか、聖女様が来てくれてから平民の暮らしが楽になって、意地悪な貴族が少なくなったとかだ。
「なんたって聖女様は聖なる御力を持っているからね、不思議な力で私らを救ってくれるのさ」
『不思議な力ならシ~ノンだってある、皆を助けてくれるのも同じだ』
オイの胸の奥で嫌な感じがモヤモヤと沸き起こって来た、シ~ノンの事で自分が知らない事が有るのは面白くない。
『シ~ノンは、シ~ノンは何で俺達と違うんだろう。どこか変わっている、身体もちっとも大きく成らないし、知っている事も、考え方も俺達と随分違う』
オイが考え込んでいたらジンが泣き付いて来た、此処は怖い、もう船に戻りたいと言う。ジンはまだ具合が悪くとてもじゃないが歩けそうも無い、仕方が無いのでオイがオンブして船まで戻る事になった。
「う~~気持ちが悪い、あいつ何をしやがった?俺睨まれただけだよなってか、オイは何で平気でいるんだよ。お前だって睨まれただろう」
オンブされている割に態度がデカい、狡い狡いと騒いでいる、黙ってヘタッていろ。昼食を喰い損ね、腹をグーグーと鳴らしながらオイは船まで戻って行った。
・・・疲れた。
その晩、オイは着替える為に服を脱いだのだが、いつも首からぶら下げている巾着に異変を感じた。巾着の中にはシ~ノンから貰った守り石が入っている、覗いてみるとそれがいつの間にか粉々に割れていたのだ。
そう言えば・・。
【オイ王都行くか?王都危ない、嫌奴沢山いるら、気をおつけ】
そう言いながらお守りだと、シ~ノンはこの黒い石をオイにくれたのだ、服の下に入れとくが良いよと言って。
『俺の代わりに、あの男の睨み攻撃を受けて割れてしまったのだろうか』
手のひらに広げてみると、黒い石の欠片は砂の様になってサラサラと消し飛び無くなってしまった。
『不思議な力を使う、黒目・黒髪の女・・それって、まんまシ~ノンじゃないか。シ~ノンは王都から来たと聞いているし。
じゃぁシ~ノンはいったい、どこの誰でどうして王都にきたんだ?』
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あの事件が有ってからジンは船を離れるのを嫌がり、王都の街に出る仕事には行かなくなった、船の補修をする方がましだと言って。
どうも重度の王都・貴族嫌いになってしまったらしい、気持ちは解るが・・。
オイは家族の為にも出来るだけ稼ぎたかったし、聖女の事を・・シ~ノンの秘密を知りたいと一途に思い込んで街に降りて行った。
・・服の中にシ~ノンの造ったお守りを忍ばせて。
<備えよ常に>がモットーの詩乃は、もしもの為にお守りの予備を沢山オイに持たせていた。
【オイが危ない目に合いませんように、嫌な思いをしませんように】
・・・そんな思いを込めて造ったお守り。そんな守り石は・・
オニキス・・持ち主を守護し悪意を跳ね返す聖なる石。
口は禍の元・・(。-`ω-)
長いものには巻かれずに、ブッた斬れ(。-`ω-)・・出来るならば。




