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B級聖女 小話集  作者: さん☆のりこ
22/29

オイ君の船出~2

オイ君の思い出話です・・(*´ω`*)

 夜の海は不思議な感覚に襲われる、うねる様に揺蕩う波を見つめていると、暗い水面みなもに吸い込まれる様な漠然とした不安に襲われる。海を恐れるなど船乗りとしては恥ずべき感情なのだろうが、ベテランの船乗り程自然の驚異を恐れ敬うものなのだそうだ。


『だから、俺は別に恐がりでも・・臆病者でも無いのだ!』


オイは走行する船上で夜を明かすのは初めての経験だった、小さな船は海の魔獣の襲撃を警戒し夜は近くの停泊地に寄港してやり過ごすのが常だったからだ。北の王領に行った時も何泊かはしたが、何れも停泊地に錨を下ろし就寝していたものだ・・安心感が全然違う。


『シ~ノンはたった一人、この暗い海を越えてトデリまで来たんだな』


 オイは当直ワッチの1人として、船頭に立ち見張りをしていた。


【この辺は夜間に海の魔獣が出る事が有る要警戒海域だ、海面を観察して怪しい光が見えたら直ちにキャビンに伝える様に】


初日の航海でこの脅しである、油断が即・命に係わる事態になる船の仕事では脅しが教育的指導なのだろう。海の魔獣はデカくて狂暴な物が多いらしいので、出来れば、いや絶対に会いたくはない。


『親父と俺の2人が家を空けているんだ、無事に帰らなくてどうする!家族が干上がってしまうでは無いか』


父親の仕事を手伝う様になって、オイは一家の大黒柱たる重圧を理解し始めた。家族を守り食わせていくと言う事は並大抵の事では無いのだ、故にトデリでは共稼ぎが普通の事で、何方かに問題が起きると致命的な事態となってしまうのだ・・オイの家では母さんの病気がそうだった。


『俺も親父みたいに、家族を守れる男になれるだろうか・・。

・・そうして、俺と新しい家族を造る嫁さんは一体誰になるのだろうか』


思春期らしく頭の中にお花畑を咲かせながらも、当直の仕事は真面目に勤めるオイなのだ。しかし怪しい光を海面に探そうとしても、月明かりが海面に帯状に反射するし、満天の星空が海面に映ってチラチラとしていて大変に見えにくい。


『・・シ~ノンは、待っていてくれるだろう・・たぶん』




 今朝早くの出港は領主夫婦と坊ちゃんまで乗船される為か、大変に賑わいお祭り騒ぎになっていた。新しい船を造った造船所の船大工達は勿論、飴色の家具を作った木工部の面々も見送りに来ていた。もう、トデリの住人のほとんどが詰めかけて来て、トデリの未来は明るいとばかりに浮かれ燥いでいる有様だったのだ。

オイは平船員としてマストに取り付き、帆を展帆する準備に追われていたが、波止場に屯している住民の中に笑って手を振っている家族の姿をバッチリ見つけていた。


・・でも、そこにはシ~ノンの姿は無かった。

      シ~ノンは見送り来てはくれなかったのだ。ガーン!





『・・やり過ぎちゃったか、シ~ノンはまだほんのガキだからな』


オイは昨晩の出来事を思い出して、ひとり密かに悶絶する。


『マズかったよなぁ~あれは、予定ではもっとカッコ良く送り届けて、甘い言葉でも囁きつつ、手の一つも握りたかったんだけどなぁ。コテコテの負けず嫌いに「泣くな」とか言っちゃったし、シ~ノンは泣いている事は誰にも知られていないと思ってるからなぁ。バレバレだったんだけど・・きっと恥ずかしくて、俺に反発して、見送りに来てくれなかったんだろうな』


・・黒髪だけど、思ったより柔らかかったな・・シ~ノンの髪・・


ロープを引く為に出来たタコが潰れて、やたら分厚くなってしまった手のひらに、何故だかシ~ノンの髪の感触がまだ残っている。


『俺だって苦労して切っ掛けを作ったんだ、シ~ノンにさり気な~く「出港前にピザが食べたいなぁ」と聞こえる様に呟いたし、「シ~ノンのピザは凄く美味いよな~」とか話を振ってみたし・・まぁ、世間では催促ともいうらしいが。駄目もとで言ってみたのだ、ピザを焼くのは手間がかかるみたいだし、友人のリーのパン屋に気兼ねしてシ~ノンはあまり焼く事がなかったから』


でも、シ~ノンは俺の好きなスパイシーピザを焼いて来てくれた!

正直、ひじょ~~~~~~~に嬉しかった!!!!!

ただご近所さんとしての親切心なのか、違う気持ちを少しは期待しても良いのか。

シ~ノンは誰にでも親切だし、変わった技を使うので街では注目されているお嬢さんなのだ・・本人は丸っきり自覚が無いが・・シ~ノンと特別な関係に成りたいと望んでいる野郎は結構多い。

俺としては留守の間に遅れを取る訳にはいかなかった、何て言ってもシ~ノンは俺の家族にとって大恩人だし・・俺が最初に仲良くなった男なんだからなっ!





「よぉ、オイご苦労さん」

「ウォッ驚いた、ジンかよ・・暗がりから急に声を掛けるなよ~。何だ?見張りの交代時間にはまだ早いだろう」


そう言うと同期のジンは少し恥ずかしそうに、吊り床が揺れて熟睡できなかったと・・それに周りのオッサン達の鼾が五月蠅くて、聞いているのもウザイので早めに甲板に来たんだと言う。


「今の所は異常なしだ、尤も夜空も海面もチラチラ光っていて見分けがついてる自信は無いが」

「うぇ~、恐い事言ってくれるなよ」

「この船には<海の女神>の像が祭られているんだ、大丈夫だろ」

「女神ねぇ~守り石って奴だろ、あのチビが造った・・本当に効くのか?お前、随分信用してるんだな」


シ~ノンの事をチビ呼ばわりされて、オイの目に険が籠る。

トデリの街でも山の手の方の家では山からの水を樋で引いて来ていて、あの塩辛い井戸の水を飲んでいる者は少ない。それ故シ~ノンの貢献も知らず、変な物を造る胡散臭い、子爵様に取り入っている詐欺師の様に思っている輩も未だに居るのだ。


「それによぉ~オイはよくあのチビを構っているけど、あいつ今朝の出港の時には見送りにも来ていなかったじゃないか。薄情な女だねぇ、オイ、お前ってば振られてやんのぉ~カッコ悪ぅ」


「シ~ノンは朝は水配りで忙しいからな、俺がワザワザ来なくて良いって遠慮したんだ。それに別れの挨拶は前の晩に済ませてあるからな・・問題はないんだ」


「なになに、挨拶って・・どんな?そこんとこ詳しく聞かせろ?」


オイはニッコリしながら「教えない」と舌を出した、シ~ノンのピザは美味かったなぁ~等と呟きながら。


「ズリィ、ピザ食べたのか?お前だけにぃ?春の祭りで出される美味いヤツだろ」


本当は家族揃って食べたのだが、そんな些細な事をコイツに教える必要など無い。

暫くジンはブツブツ言っていたが、負け惜しみなのかオイに当て擦って来た。


「でも俺には無理だなぁ、あんな得体の知れない女なんか、何処の馬の骨か判んねえじゃん。それにアイツ何歳かは知らないけど、トデリに来てから全然体が大きくなって無いじゃん?変化無しだぜ。あれで完成形だったら惨いよな、主に胸的な意味でさぁ・・オイは良いのかよそれで」


シ~ノンが全然変化していない事はオイも気が付いていた、先日した背比べでは妹に抜かされて酷く凹んでいたくらいだから。シ~ノンがトデリに来てから変わった事と言えば、喋り言葉の荒さと、髪が伸びたくらいなのかもしれない。


「・・大丈夫だ・・」

「・・お前、子供好きなの、危ない人?・・騎士様呼ぼうか?」

「いや、違うし・・大丈夫だ、健全な成人男性だ・・なにも問題はない」


ジンはお前は変わってるなと、呆れた様に言う・・女の価値は胸だろうと。


「ふ~ん・・そうか、では妹には手紙で伝えておく。ジンは胸派のオッパイ野郎で、女は巨乳しか価値が無いそうなんだと。女のお喋りネットワークは怖いからな。ジン君、君がトデリに戻った時、街を平穏に歩けるかどうか見ものだな」

「おまっ、男同士の気軽な可愛いお喋りだろう!裏切るのかぁ」




ジンの怒号を背中に聞きながらオイはサッサと船底へと戻って行った、朝早かったのだ、眠いのだ、サッサと寝ようと。

シ~ノンの悪口なんて、軽い冗談でも聞きたくは無い。


『ジンの様に恵まれた環境で子供時代を過ごせた奴に俺の気持ちなど解る訳が無い、俺達兄弟がどれだけシ~ノンに救われて来たのか、感謝して慕っているのかなんて』


暗い船員用の塒に戻りながら、オイは辛かった頃を思い出していた。



    ******



「随分困っているようだな小僧、噂は聞いているよ。お前の家はお袋が亡くなって親父は借金を背負っているそうじゃないか、食うにも困っているんだろう、この親切なオジサンが話に乗ってやろうじゃないか」


小奇麗な格好をしているが全然似合っていない胡散臭いこの男、領主様の執事の腰巾着でケチで有名な人買い商人だ。俺んちの様な喰いつめた者の家を訪れちゃあ、はした金で人を攫って行く鬼の様な男と恐れられている奴なのだ。家に押しかけて来るたびに婆ちゃんが「大事な跡取り息子を手放すものかと」追い返しているので、この頃ではこうやって加工工場の帰り道を狙って直接俺に声を掛けて来る。


「どうだ、婆さんに楽をさせてはやらんのか?冷たい孫だなぁ」


『冷たいも何も親父が留守の今、俺がいなかったら水汲みも出来ない』


不愉快を隠し無言で横を通り過ぎると、ニヤニヤした顔でいつでも待って要るぞと声を掛けられた・・本当に蛇の様に執念深い男だ。

でも、内心オイも解っているのだ、このままでは一家が総倒れになると。


『父さんが航海から帰ってきたら、反対されても俺は売られて行くしかないだろう・・。あぁ、身体がもう一つ有ったのなら、もっと働いて稼げるのに。せめて水汲みを時短できたら・・』


そんな詮無い事を考えている時に道で噂を聞いたのだ、魔法か魔術か知らないが・・不思議な火花と煙で青熊を倒した幼い女の子が、その後手のひらから水を湧き出させて顔を洗ったのだと。・・遠くの街から1人、トデリにやって来た小さな女の子の話を。

・・それが俺とシ~ノンが出会う切っ掛けだった。



    ******



 シ~ノンに出会ってから、俺の家の暮らしは劇的に変わった。

苦労して水を汲まないですみ、その分違う仕事に注力出来たからだ。

俺は加工場の仕事の時間を延ばせて実入りが少しは良くなったし、妹とお婆さんは力仕事が無くなって体が楽になって助かっていた。


体と言えば妹の事だ・・妹は小さな頃から体が弱くよく風邪を引いていた。

夜中になると具合が悪くなり、咳き込んだりヒューヒユーと苦しそうな呼吸を繰り返していたのだ。母さんが生きていた頃は、そんな妹を気遣って一晩中背中を擦ってやっていたものだが。

その母さんが亡くなってしまったのだ・・その後も苦しい呼吸を繰り返していた妹だったが、目に見えて衰弱していった。真夜中、暗い部屋の中でただ一人眠れずに咳き込んで、どんなに不安で心細い思いをしていたんだろう・・今思い出しても胸が痛む。

俺もそんな妹の様子は気になっていたし、母さんの様に背中を擦ってやらねばと思うのだが・・朝一の水汲みや工場の仕事で疲れ果てていてとても起き上がる事が出来なかった。まるで底なし沼の様な布団に動きを封じられ、もがいても足掻いても眠りの底へと沈んで行ってしまう。

・・やはり俺では母さんの変わりは出来ない、そう思って凹んでいたのだが。

そんな悩みも、あっさりとシ~ノンが解決してしまったのだ。


妹の様子を聞いたシ~ノンは・・「う~ん?それてハウスダスト?]


訳の解らない呪文を呟くと、俺や弟妹が留守をしている間にやって来て、何故だか家の中をピカピカに掃除してしまったのだ。


後でお婆さんに聞いたら

「なんか風がバーッと吹いて、ジャーと水洗いされて、パァと乾いて・・良く解らなかったけど。家の中から家具から服まで・・まとめて綺麗になっていたんだよ」


・・だそうだ。それっていったい、どんな魔術だよ!!

何だか布団も変わっていた、不思議な感触のカバーに覆われていてツルツルしていたし、縫い目の間から中の藁布団が出て来る事も無くなっていた。


「こでチョッと様子を見し、アレルゲンが食べ物だたら 厄介?此処にパッチテストは無し、第一アッシは医者じゃゴザンセんしぃ」


・・訳が分からなかったが・・

その晩、真夜中に目を覚ました俺はいつもと違う事に気が付いた。

・・静かなのだ、妹の咳が、苦しそうな呼吸音が聞こえてこない。

そっと妹の布団に近づいて覗き込んでみると、妹は眠りを邪魔される事無くスースーと眠っていた・・胸がゆっくりと上下していて呼吸が深そうだ、昨日まであんなに浅い呼吸で苦しそうにしていたのに。

じっと見ていた俺の後ろから、いつの間にかお婆さんも覗き込んで手を合わせていた。「良かった良かった・・」と呟きながら。




 それからの妹は夜グッスリ眠れる様になったせいか、食欲も出て来て体力も付き、家の仕事も手伝える様になったのだ。今ではお婆さんを助けて、家の仕事を一手に引き受けるまでに丈夫になってくれた。

そんな妹も勿論シ~ノンの事が大好きで、俺の応援を・・いや、ハッパを掛けると言うか、喝を入れて来る様な生意気な女になってしまった。

そう、ピザが食べたいな・・作戦も、実は妹の発案だったりする。


『シ~ノンちゃんを怒らせてどうするの、兄ちゃんは子供なんだから』

『女の子は褒められて綺麗になるの、可愛いねって1日3回は言いなさい』

『貝や雲丹も良いけど、たまにはお花なんか抓んで来てプレゼントしたら』

『感謝は言葉で表さないと、ありがとうは魔法の言葉なんだってよ』


正直、少々うざったい。

『シ~ノンちゃんを家まで送って行くなら、遠回りして港の見える公園に行くべきだよ。あの場所で告白し合ったカップルは結ばれるって言い伝えがあるんだって、皆が言ってるよ!お父さんとお母さんもあの公園で・・きゃーきゃーきゃー』


どこでそんな話を拾って来るのか、泣き虫だった妹のオツムの中には、いつの間にか綺麗なお花畑が咲き誇っている様だった。




 そうして、決戦の昨晩・・良い月夜でムード満点の晩だった(妹談)のに・・公園に行く事も出来なかった不甲斐ない俺は・・反省しろと激昂した妹から家から閉め出されてしまったのだった。酷くないか?


「もう!兄ちゃんがトデリを留守にする間、私がシ~ノンちゃんをガードしなくちゃ!お邪魔虫の排除は大変なんだからね。まぁ、珍しいお土産買ってきてくれるなら引き受けてあげても良いけど」


家の中から妹が吠えていた、頼りになるのかならないのか・・?

土産は買うつもりだが・・妹より、シ~ノンに力を入れるのは当然の事だろう。




吊り寝床に横になり、残して来た家族と大事な人の事を考える。

大事な人・・の言葉に、一人悶絶する俺はやっぱり危ない人に見えるかもしれない。自重しよう・・瞼がすぐに重くなる。


『お休みシ~ノン・・』


トデリを離れて一日目の夜が更けていく。

詩乃が思っているよりも感謝されていた様です、オイ君詩乃にロックオン(≧▽≦)

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