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B級聖女 小話集  作者: さん☆のりこ
21/29

オイ君の船出~1

若人よ、海と冒険を目指せ!(@^^)/~~~

さらばートデリよー旅立つ船はー

 「ちぃーす、デリバリーでーす」


 秋が深まったある日の夕方、詩乃は特製の岡持ちを持ってオイの家を訪ねた。


岡持ちの中身はオイの好きなスパイシーピザの他、弟妹それぞれの好みに合わせたピザである。元地元の様な便利なピザ専用の薄い箱も無いので、皿の大きさに合わせて持ち運べるよう岡持ちを自作してみたのだ。皿も直径が30センチ程の小さめの物しか無いので此処は数で勝負するしかない、岡持ちの中は細かく仕切られていて、これでも9枚のピザが持ち運べるようなっている自信作なのだ。凄いだろう、エヘンだ。詩乃のピザは生地が厚めのもっちりタイプだ、トデリでの生活は厳しい仕事が多いから、何より腹持ちが大事なのだ。


      美味しさよりも量、何て言っても量!


特に育ち盛りの子供がワンサカいるオイの家では、何よりも満腹になる事が重要なのである。ちなみに詩乃の好みは薄いクリスピータイプなのだが、トデリにモッツェレラチーズが無い事が悔やまれる。あぁ~食べたい。



「あれ~シ~ノンちゃん、いらっしゃい、どうしたのぉ~」

「デェバリバリってなんだぁー?」


オイそっくりのクリクリ天パのチビ弟妹が顔を出した、遺伝子って凄い。


「バリバリじゃなよデリバリー、お届け来したぁ。明日はオイが見習いでは無く、大人の船乗りトシテ初めの出港でするしょ、お祝いと激励を込めぃピザ焼いて来ただ。食べぃ美味しくな」


岡持ちをスライドさせて開けて中をみせると、ピザのいい香りが部屋の中一杯に広がる。


「わぁーピザだ、ピザピザ!兄ちゃ!シ~ノンちゃんピザ焼いて来てくれたよ」


弟妹達の大騒ぎの声に、奥の方から慌ててドタバタと出て来ようとする音が聞こえる。どうやらオイはまだ明日の準備中だった様だ、お邪魔しちゃったかな?

しかし大急ぎ出て来たオイの目は、既にピザにロックオンされていて・・お邪魔じゃ無かったようだね。うん。




「すげぇ、美味そう!有難うなシ~ノン」


オイの燥いだ声に家族の皆も笑う、笑顔の花が咲くと表現するそうだが、今夜のオイ家は本当に大輪の花が咲いた様だった。成人の年齢まで育つ事が稀な厳しいこの異世界で、一人前の大人になってクルーとして船出する息子が誇らしいのだろう。

ピザだけ渡してお暇しようとした詩乃だったが、せっかくなんだから家族で食べようと(・・家族?)引き留められ、思い掛けずに出港前日の家族パーティーにお邪魔する事となった。




『・・それにしてもオイの家って、こんなに狭かったっけ?』


別にオイの家が縮んだわけでは無い、子供達の方が大きくなったのだ。

初めて会った時には詩乃とそう背丈が変わらなかったオイだったが、厳しい食生活を送りながらもメゲル事無くスクスクと成長し、今では無駄にデカくなってしまった。トデリでは目立つ事も無い、ごく普通の身長なのだろうが・・元地元では高身長の部類に入るだろう、いったいどこまでデカくなる気なのやら。


『元地元では背が高いだけでモテる時期が有るからな、一時の気の迷いなのか、中2病を発症する頃に現れる特異な現象・・そして、デカ男でモテ期であるはずの家のお兄は、何故だか全然モテていなかったが・・まぁ、丸刈り頭の脳筋じゃ無理か』


台所に案内されお婆さんに御挨拶する、このところは腰の調子も良いのか表情も明るい。妹ちゃんに「シ~ノンちゃんは兄ちゃの隣」とか仕切られて、何故だかオイの横に座らされた。


    ・・・・狭い・・・・


決して小さくはなかったテーブルだが、今ではその周りに隙間も無く兄弟の身体がミチミチと詰まっていて一炊の余地も無い。あのか弱かった妹ちゃんも既に詩乃の伸長を抜かしているし、膝に乗せていた赤ん坊だった下の妹ちゃんまでも、今では膝に座られると前が見えにくくなっていたりするのだ。


    ・・・・子供って・・成長って凄い・・・・


どんどん拡大コピーされていく年下の知り合いの中で、等倍のまま変わりの無い詩乃は何だかちょっと置いて行かれている様で居心地が悪い。

『あたしだって、元地元に帰れば平均身長なんだよ!』

・・・密かに負けず嫌いの詩乃だった。


    ******


 テーブルにピザや、お婆さんの心づくしのご馳走が沢山並んで賑やかに食事は始まった。オイとお父さんはお酒で(生意気にお酒だと)、他の家族は詩乃の美味しい水にモレンを絞って味を付けて頂いた。

皆揃って笑顔で乾杯だ、皆の健康と安全を祈って プロピーナー!!


「スパイシー、どれ?」


オイは相変わらずスパイシーピザが大好物だ、皿ごと渡してやると嬉しそうにヘニャァと笑う。既に見習いで何度も航海を経験しているせいか、日焼けしていて歯ばかりが白く目立つ。雀斑の茶色と日焼けの赤が斑になって、大層薄汚い見た目なのだが・・海の男になったんだなぁ・・と実感させられる面構えだ。


「今年もノアさんのお母さん習ってよぉ、ピリ辛ソーセージ作るみタンだどさぁ、レシピは同じなのにねぃ、なか違うだよねぃ味が、丸くなてる言うか。アッシの優し心根が味に出てマイルドなるでヤスかねぃ」

「シ~ノンちゃん。これ、後から凄くピリピリ来るよ、ビリ辛だよ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


『・・そうかい、弟よ・・たんと食べるが良い・・』

多少引っ掛かる言動も有ったが、和やかに食事は続いて行く。


「今まで遠くても隣の王領までだったからなぁ、それに夏だったし。今回は王都だから冬の間中、家を空けなけりゃならないんだ。親父も一緒に来るしな」

「おい、俺の船にお前が乗るんだ。船長を敬え平甲板員」

「家に男手がいなくなるんだ。悪いけどシ~ノン、たまに覗いてやってくれないか」


・・・無視かよ・・ボソッ・・お父さん船長いじけない。


「男手がいなくなるって何だよ、俺が居るだろう!」


失礼しちゃうとプリプリ怒る弟君に、兄貴ズラしたオイがヘッドロックを掛けながら頭をポンポンしている、随分とワイルドな撫でポンだ。兄弟はじゃれ合いながら関節技を掛け合っている、何処の世界でも脳筋兄弟のやる事は変わらない様だ。

「そこ五月蠅いよ!」妹ちゃんの教育的指導が入った。厳しい(笑)。

海からの風で屋根に雪が酷く降り積もる事は無いが、道の雪掻きや軒の氷柱を取る等の力仕事が無い訳ではない。頼る大人がお婆さんだけでは、このトデリの冬を乗り切るのには些か不安が有るのだろう。


「水配りにも来るかラネぃ、様子は見れるし、任せいなぁ」

「あたちだって、お手伝いできゆもん!雪掻き得意だーら!!」


下の妹ちゃんが元気よく手を上げた、頭の真上で一つ結びにしてある癖っ毛がポンポンみたいでとても可愛らしい。リンゴのホッペの元気っ子だ。


「あれぇーー、お父さん何泣いているのぉ」


妹ちゃんに指摘されたお父さんが、鼻を赤くさせながら(たぶん赤い、日焼けで良く解らんが)グズグズ涙ぐんでウンウンと頷いている。


「みんな大きくなって・・良かった、母さんにも見せてやりたかった・・」

「もぉー、出航前にシンミリしちゃってぇ。まだまだみんな大きくなるんだから、今から泣いていたら涙が足りなくなっちゃうよ」

「よーー」


娘達の言葉に、日焼けして深い皺が有る顔を殊更にクチャクチャにして笑うお父さん。オイの家族は暫しの別れの前に、絆を深め合っている様だった。



   ******



「じゃ、元気で行ってら。頑張れよー」


家族団欒にあまり長く居座るのも悪い気がして、食後早々に空いた皿を回収すると詩乃は席を立って別れの挨拶をした。


「おう、ご馳走さんありがとな。俺ちょっとシ~ノン送って来るわ」


オイも当然の様に席を立つので詩乃は焦った、団欒の続きをするべきではないかと。


「はぁ?いぃよ、すぐそこしぃ。オイは明日の準備がまだ有るんしょう、そっちやれよし」

「暗くなった路地裏を、女を一人で帰せるかよ。それ寄越しな持つから」


オイは勝手にマイ岡持ちを取り上げると、スタスタ先に出て行ってしまった。

詩乃は慌てて皆にバイバイをしつつ後を追う、玄関の扉を閉めたら何故だか背後で大きな笑い声が上がって・・不可思議でもあり面白くない。


『何なんだよ!』


オイは暗い路地裏を黙って先を歩いて行くし、送ると言った割には無愛想な事だ。まったく、女慣れしていないのがバレバレなんだよ、エスコートなんて百年早い。


『まったく、何かっこ付けてんだか年下のくせして。だいたい16歳って言ったらまだ高1だろう、それが偉そうに!少しばかり髭が生えて来たからって』


心の中で盛大にデスっているのだが、語彙力が伴わなくて上手い事言葉に出来ないのが腹立たしい。自動翻訳スキルは未だにポンコツだ。

「どうした?行くぞー」とか言われて、素直に後を付いて行くのも胸糞悪い。


「・・生意気」

「はぁ?・・何でだよ」

「送るとか・・なんか・・カッコつけすぎ・・」

「美味いもん差し入れして貰って、送るぐらい当然な事だろ」


二人が歩く坂道の先に、大きな月が昇って影を黒々と映し出してきた。

その影は二人分くらい前後に離れていて、それ以上近づく事は無さそうだ。

オイの岡持ちを持っていない方の手が、落ち着きなくポケットの中から出たり入ったりしているのが見える、何だかハムスターみたいで面白い。


「・・なかさ・・この頃、男ぶちゃって・・なマイきだよ」

「俺、生まれた時から男なんですけどー」


『何か急に、蛹が孵化するみたい・・と言うよりは。

宇宙昆虫がはらわたブチ破って出て来る様な勢いで、オイが変わっていくから・・ちょっと怖いようで、気に食わなくて・・だから要するに生意気なんだよ』


そんな詩乃の心中も知らずに、オイは機嫌良く話し込んでいる。


「領主様を乗せる船だからな、領都にも、更に遠く王都にだって行くんだ。王国を半周回るから長い航海だよな~、そんな遠くまで出かけられるなんて・・俺まだ夢見ているみたいだよ」



小さなトデリの街を飛び出して、オイの世界はこれからドンドンと広がって行くのだろう。あの美しい領都を見たら、オイはどんな感想を漏らすだろう。雑然としながらも活気が有る王都の平民区画、あの街をそぞろ歩きながら、オイもちょっと堅い肉パンをバリバリと食べるのだろうか。

大きく広くなったあの背中で、長い腕を翼の様に広げてオイは何処まで飛んで行くのだろう。あの、生意気で雀斑だらけで、痩せっぽちだったオイ君が。うんうん、子供の成長は速いよねぇ、お姉さんは嬉しいよ・・すっかり立派になって。

そんな事を考えていたらオイが急に立ち止ったので、背中に思いっきりぶつかってしまった・・悔しい事に詩乃の身長はオイの肩甲骨付近までしかなかった。


「なに、きゅう止まるして。鼻打ったぞぃ痛し」

「なぁシ~ノン、ノアさんが結婚して領都に行ってしまったから。お前この冬はあの家で一人で過ごすんだろう?初めてだよな一人の冬って・・俺もトデリに居られないし」


憂い顔で詩乃を見降ろして、心配そうに見つめているオイ君だったが、詩乃は別の言葉に引っ掛かっていてその表情には気付いていない様だった。


『お前って何だよ、お前って!オイ如きにお前呼ばわりされる所以はー』


「寂しくなったら俺んちに行け?あんな五月蠅い奴らだけど、気晴らしくらいにはなるだろう?独りで泣くなよ、俺が傍にいて怒らせてやれないんだから」


潮焼けのせいなのか、薄い茶色の目で見詰められると何だかドキッとする。

     ・・・・・影が重なってきた・・・・


『ちょ なっ はっ ふっ ほぉ☈ 怒らせてぇ~だと?』


「やせ我慢するなよ、街のみんな心配してる、俺だって・・凄く心配だ」


『はぁあーーーーーーーーーーーっ?』

オイは岡持ちを詩乃に突き出す様に手渡すと、両手で詩乃の頭をワシャワシャワシャと撫で繰り回し・・脱兎の如く走り去って行った。


「帰ったら、またピザ焼いてくれよなぁー」


と、笑顔で手を振りながら・・・・・なんやねん!

『何なんだよーーーーーーーーーーーーーーーーーー!』

詩乃の絶叫は驚き過ぎて声になる事は無かった、近所迷惑にならずに何よりだ。


月明かりの中にポツンと只一人、両手で岡持ちを持ちながらボサボサの髪で・・詩乃は気が付くと自宅の前に立っていた。


オイ君、詩乃より精神年齢が高いようです。異世界は早婚ですからねぇ。

・・(*´ω`*)詩乃も頑張れ!甘酸っぱいお話になったでしょうか?婆には遥か彼方の感情ですねぇ~若いってのも大変だ( *´艸`)

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