詩乃の船旅~1
船旅はお好きですか?
不思議に思っていた事がある。
何故にこの世界では、船は夜に出港するのであろうか?出港時には見送りの者のお手振りもなく7色のテープも無い・・寂しい限りだ。尤も詩乃を見送る人など、この王都には存何処にも在しないのだが。船のデッキに一人佇み、王宮の明かりを遠くに眺めながら聖女様に心の中で別れを告げる。
初夏のせいか風は穏やかだが、風のせいか体が冷えてきた。もう部屋に入ろうかな・・と、思っていた時に船員さん風の若い兄ちゃんが話しかけて来た。
「船は初めてかい?気分はどう?気持ち悪くはないかい?」
詩乃が平気だと言うと、兄ちゃんは心底安心したように呟いた。
「良かったよ、客の〇〇の後始末は俺の役目なんだ・・」
召喚当時の話だが・・多くの人の面前で、突如マ~ライオンになった詩乃が大魔神にピーピーピーしたのは、いい思い出なのか?どうなのか・・微妙な所だが。
取り敢えず、今は大丈夫だ。
「もうすぐ面白いものが見えるよ、王都を守る河のゲートだ」
そう言うと兄ちゃんは前の方を指さした。暗い河の前方に、青白く光るダムの様な高い壁と、其れに付いている門のような構造物が見えて来た。
王都は地球に有るロンドンの様に、大きな河に沿って展開している。
その為、河を下れば楽に海まで出られるのだが、それは敵も楽チンに王都まで攻め登って来てしまう事を意味する。それを防ぐために、河に結界を張り危険な船を排除するようになっているそうだ。大掛かりな魔術に魔術具だが、何でも過去の大魔術師が設置したらしい、今は代々の魔術師長がメンテをしているらしく、ここ数年は銀ロンの活躍で門の開閉がスムーズになって船乗り達に喜ばれている。
『ほうほう、些細な知り合いでも何でもないけど、褒められているのを聞くのは嬉しいね』
朝8時から~14時までが入船の時間で、沖合で検疫と検問を受けた船が、このゲートを潜って潜って王都に入って来る。
逆に出船は18時~22時の間だ、昼間は下した積み荷をチェックされたり、積み込んだりとこれまた忙しいらしい。今、船は一列に並んでゲートを潜るのを待っている。この船は帆も張っていないし、エンジンらしい振動も無い、動力は一体何で動いているんだろう?不思議がどんどん増えて行く。
聞こうと思っているうちに、大きなゲートに近づいて来た。
詩乃は昔、レインボーブリッジの下をくぐる遊覧船のTVを見たことが有ったが・・それよりもファンタジー感が満載でスケールが大きい。擦りガラスの様な質感のSFチックなダムがドーーンンと立っていて、それなのに何故かゲートは木製感漂う・・普通の馬鹿デカイ扉だった。
う~ん、ビジュアル的には如何なものか?扉・・ゲートを抜けると・・そこには。
「うワアぁぁ~~、なに れ!ナに あれ!」
詩乃は思わず大きな声を上げた・・何故なら・・夜空一面に広がる星空が有ったからだ。王都の夜は眩しくて、月が3っも有るからだろうと思っていたが、星が見えないのは何か訳がありそうだ・・魔術的な何かを施しているに違いない・・銀ロンが。
「綺麗だろう?空からの侵入者を防ぐため、王都は上空に結界を張ってあるんだよ。だから星が良く見えないだろう?ゲートを出て、王都の結界から外れれば星空もこの通り良く見えるんだ」
凄い凄い!!あちらの世界でも、山奥にキャンプに行っても、何処かしらから灯りが滲んで、こんなに星は瞬かない。
「天 川?」
星雲が川の様に流れている個所を指さして質問した。
「あれか?あれは大昔の女神様が、旦那の神様を失って流した涙だよ。憐れんだ大神が、綺麗な涙を夜空に飾ったんだ」
ほえ~~~っ。神話は何処もロマンチックだね。
「神様、何で 死ンダ ?」
「・・・辛い実を食べ過ぎて、肛門が破裂して亡くなった・・・。」
・・・ホント、神話って訳解らない話が多いよね。
遅くなって来たので、部屋に入ることにして兄ちゃんにお礼を言って別れる。
兄ちゃんはこれから夜勤で、3時までデッキで見張り番との事・・何を見張るのか聞いたところ、海賊や・魔獣や他の船にぶつからない様にとの事だった。
お仕事お疲れ様です、よろしく安全運航をお願いいたします。
王妃様が用意してくれた2等客室は、3畳ほどの広さでほぼベットが占領していた。壁際の机とイスは床に固定されていて動かない、詩乃の体格だと非常~~に使いずらい。反対側の壁には映りの悪い鏡と、作り付けの流し台が有った。顔は此処で洗うのだろう・・化粧室は・・廊下の突き当りの右側に女性用が有った、反対側が男性用。中に入ると広間が有り、此処は化粧でもするのかスーパー銭湯の様に鏡が並んでいた。これまた左右に分かれていて、右側はトイレ・・魔術具仕様なので清潔です。左側の扉の奥には脱衣所と大きなお風呂が沸いていた。
「お風呂!」これは是非とも堪能したい!
早速詩乃は、お風呂セット(離宮の時から使っている、聖女様から貰った香りの良い石鹸と、自家製のシャンプー&リンス・・某有名ラノベを読んで、向こうに居る時から真似して自作していた。後、庭師のじいちゃんと育てたヘチマ、これで体を洗う、皮膚の鍛錬に良いぞ。それを木で作った桶に入れて運ぶのだ。木はヒノキの様な香りがして心地よい一品だ)
誰もいないお風呂に狂喜乱舞する!日本人にはやっぱりお風呂でしょう~~。
どっかに温泉は無いのかなぁ?あったら良いな行きたいな。アワアワと泡立てて体を洗う、鼻歌がフンフンでる。気持ちよく湯船に浸かった時だった、船が外海に出たのか揺れている・・風呂のお湯が右に左に良ザブーンザブーンと。
面白い・・詩乃は波打ち際で、寄せては返す海藻のホンダワラの気持ちになって、湯船の中で浮かんで右に左に揺れていた。
「う~~ン、私はオキゴンドウ、今は何だかオキゴンドウの気分」
一人ぼっちになったら、もっと落ち込んでセンチな気分になるかと思っていたが。なかなかどうして、私って図太い子。
風呂上りにはE級魔術で水を出して喉を潤す、冷たくしたので大変に美味しい。
客室の外は直ぐ海で、波をかき分ける音が聞こえる・・・水の音は眠くなるね、ヒーリングって奴だね。
小さな丸い窓から、満天の星空を眺めながら、詩乃はこっくりと眠りに入った。
「おやす・・みなさい・・聖女・・亜里沙さま」
大きなフェリーは、お風呂が有って良いですね。食事が自販機なところも面白い?
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