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B級聖女 小話集  作者: さん☆のりこ
13/29

お家を作ろう  

物件見るのって、楽しいですよね~~~。

 1人暮らしをする物件を探して欲しいと、この街の大家さん?な代官である子爵様に頼んだのは良いけれど。物件はすぐには見つからなかった、子爵様は大雑把な人で大きことは良い事だと、信じて疑わない人だったのだ。


「あぅぉ、私 1人暮らスるの デスがよ?」

なぜ一人で住むと言っている人に、庭付き一戸建て6LDKを紹介するかな?

新しい建物で日当たりが良い?店に日が当たったら、商品が日焼けしちゃうじゃぁ無いですか・・・不可!

その他にも山の手の1等地だとか、大きな店の間だとか・・もう、この人は維持費とか光熱費とか考えていないんじゃぁ・・みたいなのばかりだった。


「1人 暮らスン スユぉ!」

「そうは言っても、君みたいな小さな子が1人で暮らすなんて危ないよ?」

「トデリ 治安 悪い デスぎゃぁ?」

「そんな事は無い、此処の民はみんな気の良い、頼りがいのある奴らばかりだ」

「なぁ、問題 ない のは?」


・・・こんな押し問答がずっと続いている、気持ちは有難いが正直面倒くさい。

それにできれば暖かいうちに、冬にならない前に生活の目途は付けておきたい。

そんな子爵様と詩乃の様子を、陰険針金執事は馬鹿にしたように静観していた。最初に詩乃が無視したから、関与しないつもりだろう。


『よろしい・・では、陰険針金執事さんに使用人の悲哀を味わって頂こう』


詩乃は殊更目を潤ませて、子爵様に訴えた。

「お家 ナケればぁ・・子爵様 館、ずっとイる 私・・もシわけなシ」

「そんな事を気にしていたのかい?シ~ノン君さえよければ、いつまででも居て貰って構わないんだよ。賑やかで館も明るくなるし、何よりマイ・ハニーが喜ぶ」


ダ〇ボ耳で二人のやり取りを聞いていた陰険針金執事が、もの凄い勢いで振り向いた、首痛くなるよ(笑)。


     ******



 詩乃が来てから、館の雰囲気が変わりつつあった。

脳筋子爵様は特に代わり映えは無いが、マイ・ハニーの奥様が目に見えて生き生きして来たのだ。


トデリは北国の訛りが強く、王都の者にとっては言葉が解りにくい。その為か古参のメイドにも馴染めず、奥様は随分と苦労と嫌な思いをして来たらしい。

館の裏方の采配は本来なら奥様の仕事なのだが、その奥様を当然のように無視して、陰険針金執事と能面メイドが好きなように館を動かしていた。

先代の代官様(子爵様の父上が)高齢な事も有って、二人を頼りにしてきた経緯があったのだろう。代替わりしても、その感覚はなかなか抜けにくい。


「王都から来た方には、お解り頂けないのでしょうが。此方には此方のやり方が御座いますので」


何かと言えばこれだ・・。

どうも能面メイドは小姑的に奥様をイビっていたらしい、奥様としては面白くない事も多かった様だ。

しかし今、詩乃と言う王都仲間?の援軍が出来た為か、館内の風向きが変わりつつあり、奥様も俄然やる気が出て来たのだった。

知り合いもいない辺境で一人孤独に耐え、子爵様の愛だけを頼りに孤軍奮闘していた奥様にとって、詩乃の登場は強固な因習の壁をブチ破る大きな岩の様なものだった。何たって、王都どころか異界から(使用人達には内緒だけれど)来たのだ。変わった行動は当たり前で、此方の風習?何?それ、美味しいの?状態なのは見ていて大変に面白い。


詩乃はただ、船員の小父さんに忠告されたように<ハイと言う素直な心>で<トデリのやり方に馴染む>を実践しようと頑張っていただけなのだが。

王都と此方ではやり方が違う~うんたらかんたら~~と、文句を言って来た能面に「それはなぜか?」「此処ではそれに、どう言う意味が有るのか?」「その風習の出来た経緯は何だ?」「効果は有るのか、どの程度だ、王都との差を数値化しているのか?」などなど・・・。

それはそれは熱心に(しつこく)聞いていた・・だって、トデリを知る事は大事だと船員の小父さんに言われたから。その土地の知恵を知るのは大事でしょぉ?


『彼女が答えられる訳が無い、それは単なる意地悪なのだから』

能面メイド以外の使用人&奥様はそう思って見ていた、苦笑いしながら。


能面が答えないと、詩乃は今度は子爵様を捕まえて質問しまくり出す。

「何だい?そんな習慣がトデリに有るなんて、今まで聞いたことが無いよ。どう言う事だい、ハニー、君何か聞いているかい」


奥様の冷たい微笑みに、能面メイドは蝦蟇の油の様にダラダラと嫌な汗をかく羽目になった。困った能面は詩乃から逃げ回る様になって、詩乃の姿を見かけると行方を眩ます事が増えてきた。


指示を出すべき上司が行方不明なのデアル、これでは仕事に触りが出てしまう。

まぁ困った事、困るわ~~(笑)。


そこで他の使用人の皆さんも、内心意地悪で高飛車な能面の事が苦手だったから、これ幸いと奥様に指示を仰ぎにやって来る様になった。

もう奥様は大喜びで快諾し、使用人達の不満と希望を聞き出すと、館内の使用人のシフトを大幅に変更してしまった。今までは能面メイドと陰険(以下略)の都合が良い様に、かなり不公平で無理な勤務体制だったようだ。奥様によるシフトの変更・および勤務体系の整備は、他の使用人達に好意を持って迎えられた。

元々王都でメイドから出世し女官まで勤め上げた女性なのだ、内向きの仕事は専門と言って過言ではない。能面メイド以上に世事に詳しかったし、人を動かすのにも慣れていた。もともと有能な人物なのである、あの伏魔殿の様な王宮で生き抜いて来た女性なのだから。

そう、良い嫁キャンペーンの、終了の時間がやって来たに過ぎない。

舅・小姑の様な二人組には、嘸かし腹立たしい事だっただろう。


詩乃を囮に奥様が暗躍し、息を潜めていた能面が気が付いた時には、館の内向きの人事と実権は奥様に握られていた。いくら能面が悔しがって悪口を言っても、使用人のほとんどは奥様の味方になっていて援軍は期待できない。もとからの能面の人望の無さは、自己責任と言えなくも無い。ご愁傷さまである。


しかし・・・。

『1匹の虫けらが館に入り込んで来て、由緒ある子爵家の伝統が乱されてしまった。こんな事が有っても良いものか!』

少なくとも能面メイドと陰険針金執事はそう感じていたに違いない、伝統と言う名の既得権益・・単に甘い汁が吸えなくなっただけなのだが。


『あんな痴れ者を、いつまでも館におくつもりだと!冗談じゃぁない』


    ****


 詩乃と奥様が、午後のお茶を楽しんでいた時だった。

陰険針金執事が良い物件が見つかりましたと、奥様に直々に言ってきたのは。


『流石仕事が早いね、そんなに目障りなのかな?わ・た・く・し(笑)』



 奥様と子爵様と3人で(陰険針金執事は数に入れてあげない)物件を見に行く事になった。今までと違い海に近い、トデリの丘の中腹くらいの位置だろうか?もっと下の方には港や倉庫、船を造るドッグなどが有るそうだ。海の香りがする、洗濯物は潮風でベタつくのかな?部屋干しの方が良いのかな?考えていると心がウキウキとする。


「この辺は下町と呼ばれるエリアだな、漁師や造船関係者が住んでいる。木工関係者はもう少し上の方かな?店はパン屋や肉屋・よろず屋何かが有るな。もっと下の方の店には食堂がある、美味いが夜は酒場になるからねシ~ノン殿は出入り禁止だよ。2階には船員たちの宿も兼ねている、3階は家族の部屋だ」

子爵様は指をさしながら教えてくれる。


「あの大きな建物が船を造るドックだ、大きいだろう?此処の港にある船は、皆あそこのドックで作っているんだ。確かな造船技術で他の街からも注文が入って来るぞ、凄いだろう?トデリは林業も盛んだからね木材に困る事も無い、家具の生産も出来るんだ」

「へや 家具 素敵 シた、木の色 飴色 素敵 だすぅ」

詩乃が褒めたら子爵様は、凄く嬉しそうに子供の様な顔で笑った。

「そうよ貴方、あの家具は何処に出しても恥ずかしくない品よ。王都の石で出来ている冷たい家具より、温かみが有って断然素敵だわ」

奥様は更なる販路を考えている様だ。



    ****



 陰険針金執事が紹介してくれた物件は、詩乃の理想に近かった。

下町の大きな通りを少し奥に入った場所で、客商売にはどうなのかとも思うが、元よりパワーストーンの店はマニアックなのである。あの故郷のお店も、ちょっと駅から外れた所に有ったっけ。その分価格も安いし、維持費も少なく済むだろう。

なかなか陰険針金執事はお眼が高い。


玄関から入り口の部屋は店に改装しよう、棚を設置し品物を置く台も必要だ。

中庭は今は埃だらけだけど、掃除したら吹き抜けも広々として気持ちが良いだろう。明り取りの天窓が天井に有るせいか、窓がない行燈部屋だが暗い感じはしない。台所は狭いが1人ならダイニングキッチンとして使えそうだ、裏口を開けると細長い庭が有り、背の丈ほどの雑草が生い茂っている。庭師の御爺ちゃんが見たら怒り狂いそうだ、雑草は心の緩み・庭は心の鏡だそうだから。


窓ガラスにヒビが入っだていたり、壁が一部剥がれている所が有って、今すぐの入居は無理そうだがリホームを兼ねて大工さんに見積もりを出してもらう事となった。柱は暗めの木の色で壁は漆喰塗がいいな、イメージは日本の古民家だ。台所の壁はタイルを張って貰おう、1センチ四方位の小さなタイルを貼れば、曾ばあちゃんの家の台所に似るだろう。

楽し気に見て回る詩乃に、陰険針金執事が後ろからそっと囁いた。


「この家は魔術具が沢山有るでしょう?何故かと言いますとね、此処には20年くらい前ですか?王都を追放になった元貴族の若い女性が一人で住んでいたんだそうですよ。何をして王都を追放されたかは知りませんが?きっと碌な事じゃぁ無いんでしょうよ・・誰かさんに似てはいませんか?最後は王都の近親者にも見放されて亡くなった様ですがね・・御気の毒に」・・クスッ。


ほんっとぉ~に、嫌な奴だぁ~この陰険針金執事野郎は。

「そですのぉ~ぅ?じあ・・子爵様 館 もと 居るぅウかなぁ」

「お嬢様は此処にお決めになるそうです」


『えぇぇぇぇ~~私 ンナ事、言 て無いシィぃ~』



挿絵(By みてみん)



 リホームが終わる間は、主に奥様の愚痴話に付き合っていた。

居候だしね、話を聞くだけで奥様の気が晴れるのならお安い御用だ。

今、子爵様の館で奥様に一番詳しいのはこの詩乃様であろう。生い立ちから王都での暮らし、結婚に至るまでのアレやコレや、まとめて全部聞いてしまった、勿論トップシークレットである。奥様はA級平民の出で、貴族ではないのだそうだ。それが貴族の血を持つ、陰険針金執事や能面メイドには面白く無いらしい。


『う~ん、魔力的に言ったら奥様の方がよほど強いし、人となりも貴族らしいと思うけどね?』


面倒だなぁ、身分制度って・・。



 奥様が用事で留守な時には、館の使用人の皆さんにトデリの生活の仕方などを習いつつお手伝いをする。王都と違って魚料理が多いので、ボフ小父さんにレシピを習う。

夜は客間で、念願のお店を開いたときに売る品物を作っている、勿論パワーストーンのアクセサリーも造っている。やりたかった事が、ようやっと出来始めてきた感じだ・・後は、パワーストーンが平民の皆さんに受け入れられるかどうかだが?



詩乃は王都から持って来た<空の魔石>でシトリンを造って握りしめる。

大丈夫・・きっと、大丈夫だから・・と願いながら。



シトリン・・豊穣の象徴で仕事の成功を導く石、新規の事業のスタートにはピッタリだ。

これで、やっとB級聖女のお店開店につながりました。やれやれ。

次回はトデリの日々、生意気小僧の話です。

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