子爵様と奥様
メイドちゃんに案内されて行きついたのは、チョッと大きめな食堂の様な所だった。広いテーブルの御誕生日席に子爵様、窓側の奥の方(上座?)に綺麗な奥様、反対のドア側が詩乃の席だった。
「はジメシ 子爵様、トデリに住む 許シけ、あリとうごザマす。王都 平民に やッテまシた、詩乃・大西と申ス。どゾ ヨシク 願いますぞ」
どうだ、女官長仕込みのカーテシーだぞ、文句あっか!能面メイド。
どうも詩乃は子爵様夫婦より、敵対する上級使用人の方に意識が向いている様だ。
「やぁ、ようこそトデリへ。可愛いお嬢さん、君の事は公爵様から良く聞いているよ、トデリは君を歓迎するよ、此方こそよろしくね」
なんと!子爵様は腐れ能面メイドより、よほど優しくて話が分かる方の様だった。それに子爵様の発音は王都の音で、詩乃の耳には聞き取りやすい。これは嬉しい!
「疲れは取れまして?あなたは2日も眠っていたのよ。海の魔獣の事は船長から聞きました、凄く活躍したそうね、船の皆さんが感謝していましたよ。
さぁ、どうぞお座りなさい。王都や領都ほど派手な料理ではないけれど、此処で採れた魚を、毎朝民が持って来てくれるの。美味しいわよ、どうぞ召し上がれ」
奥様はアリア様と言って、栗色の髪が綺麗な優し気な方だった。
『むぅ、旦那様が脳筋寄りで、奥様がしっかり者のご夫婦と見た』
奥様も王都の発音だ、王都で出会って結ばれたカップルなのかな?
「王都より取り寄せた品々が、無事にトデリに着いてホッとしたよ。前払いで半金払っているからねぇ」
「まぁ、あなたったら。それなら大活躍したシ~ノンちゃんに感謝して、何かお礼をしなくてはね」
「アの・・・・詩乃 ス」
「あら、発音が難しいのね。シュ~ウンノウちゃん?」
「いえ、シ・の す」
しばらく御夫婦でシユ~ニュンとかショ~ノウンとか言っていたが。
「・・・シ~ノン 良いす」と諦めた。
だって何だか痩せていて苦労性みたいな、執事様が睨むんだもの。そんなに難しいかな?詩乃って発音?そう言えば王妃様もシ~ノン呼びだったね。恐れ多くて訂正できなかった。
お食事はとても美味しかった。
船で採れる魚は基本一夜干しだから、焼くだけだし、美味しいけど。後は保存食の塩漬け肉に、大人はラム酒だ。野趣あふれる船乗りディナー、日本の漁師さんみたいに一本釣りして醤油マヨネーズで御刺身を食べたかったな。
その点、トデリの食事は調理の技が偲ばれる、ますます嬉しくなった。海の幸の他にも、山の傾斜地に牧場が有るそうで、牛や羊、ヤギなども飼われているらしい。鶏は人に移る風邪をひくそうで、風下にまとめて飼われているそうだ。
『ふ~ん、鳥インフルエンザ対策か、経験則かな良く知っているんだな』
「北から渡り鳥がやって来ると、家禽に病気が出るんだ。その前に絞めて氷の室で保管したり、燻製にして保存したりするんだよ。街中に燻製する煙の良い匂いが漂って、お腹がすくのがトデリの秋の風物詩なのさ」
子爵様はトデリの事を良く知っている、王都出身ではないのか?
「俺、いや・・私はここトデリで育ったんだ。10歳の時の魔力検査で、いやいや王都に行く事になったがね。初めは王都の空の狭さ事、星も見えない結界の中が・・どうにも慣れなくて息が詰まる思いだったよ。此方に戻れてホッとしているのが本音だね。それに綺麗で優しい奥さんも連れて帰れた事だし」
「まぁ、あなたったら。そう言って頂けると嬉しいわ」
イチャコライチャコライチャコラ・・・・
『おぼぼぼぼぉぉぉぉぉ・・・・』
詩乃はいちゃつく生の3次元を目の前で見た経験が無かったので、目のやり場に困り視線をそっと外した。壁際に控えている能面メイドが、遮光器土偶メイドになっている・・目に入れたくないのか?神経質そうな執事の方は、あからさまに苦り切った顔を隠していない。
『使用人にしては、随分と失礼な態度だね?』
詩乃は一応執事に合図を送り、メイドちゃんに贈り物の箱を持って来てもらった。一応執事が中を検める、まぁ儀式のような物だ・・気になどしない。執事は中身を見て、小馬鹿にするように鼻を鳴らした。
いけ好かない執事め、好感度がズズゥゥ・・と落ちまくって行く。
執事がシ~ノンさまからの贈り物ですと言って、投げやりに(どうせ大した品でもあるまいに的な?)箱を子爵様に見せる。
「おおぉ、これは。聖女様が御披露目の時に付けていた、あの飾り物と同じ物じゃ無いか?」
「まぁ、綺麗。聖女様はピンク色のバララだったかしら?」
聖女様と聞いて嫌味コンビが、ヒクッと反応する・・でも、余り聖女様に好感を持っている感じじゃ無いなぁ。やな感じ。
一応既婚者と言う事で、クリーム色のバララにしてみました栗色の髪には良く似合うだろう。
「こんな素敵な物、頂いてもいいのかしら」
『派閥的に・・とかでしょうか?』
「これ 同じ 色違う、公爵様 受け取ッたがよ」
「まぁ、其れなら安心ね」
奥様は華が咲いた様にフワッと笑った、あなた付けて下さる?
どこがいいかな?綺麗な髪かな?それともトデリの山の様な豊かなお胸かい?
まぁ、いやね。あなたったらお客様の前で・・・。
2人の世界が永遠に展開されそうだったので、詩乃は執事に合図してお暇をする事にした。
『久々に美味しい食事だったけれど、正直なところ疲れたな・・主に目のやり場に』
客室に向かう途中で執事に捕まった、詩乃に話が有ると言う・・明日では駄目なのかな、疲れているのに。食堂の部屋を離れ、渡り廊下を歩いて別棟に向かう様だ、此方は仕事をしている区域だと思ったが?
執事はその中でも狭そうな一室に詩乃を押し込んだ、この部屋は何だろう?面接室なのか、それとも執事の書斎なのか。書類や本に囲まれていて、少し銀ロンの部屋を思い出した、スケールは6分の1程度だが。あれだ、ワーカーホリックの部屋だ。
執事の発音はスラン寄りなのか北の訛りなのか、王都と違って発音や単語が解りにくい、執事は王都には行った事が無い人なのかも知れない。
「何故わざわざ、このトデリにやって来たのです?」
執事は詩乃に席も進めず、自分の机の前に立たせたまま、使用人の面接の様に臨んで来た。喧嘩を売る気か?言い値で買うぞ?
『上から目線を有難う、では上からブーメラン返しと行きましょうか』
「ボコル 公爵様ぎゃ、おキメ タコでし」
直訳・・文句あるなら公爵に言えや、ごらぁ。
詩乃の心の声を察したのか、執事は質問の方向を変えた。
「子爵様の援助を当てにしているのですか?あなたにその様な価値が有るとでも?」
・・良くある言葉による精神攻撃だね、そんなもの・・2年の王宮暮らしで嫌って程味わって来た。パンチが弱いね、幼稚園児のポカポカぐらいのダメージだ。執事の様なタイプは権威とか権力に弱い、使えるものは使わせてもらいましょう。
「王妃様、1時金 賜っテくれオますぅ。執事 心配はぁ、無用な事だ まするぃ」
あえて王妃様の名前を出して、執事の敬称を軽くしてみた。案の定、執事のデコには青筋が走り、顔はどす黒くも真っ赤になっている。
『駄目だなぁ顔に出過ぎだよ、女官長や王妃様を見習いな』
これだけ怒らせてみても執事のノイズは能面メイド並みだったし、皮膚に悪意をチクチクと感じる事も無かった・・かなり低い魔力だね。
それでも執事の書斎は<魔力>以外の、自分に有用な能力を身に付けようと、努力して来た人の部屋だった。こんなに本が並んでいる部屋は、銀ロン以外に見たことは無い・・たぶんこの執事は努力家なのだろう。
「本 沢山、執事さ・・頭 良い人?教え くさると嬉シでぅ」
詩乃の精一杯の好意の表明に、執事は馬鹿に教えても時間の無駄でしょう・・と切って捨てた。
『・・宜しい、ならばあんたも敵だエネミーだ』
名前は痩せているから、陰険針金執事に決定だ!
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次の日の朝食時、詩乃も御夫婦と同席していた。
食後のお茶の時に、子爵様にお願いが有りますと詩乃が言い出した。
執事を飛び越えての直訴である、本来なら根回しが必要な場面だろう。
「あぁ、なんだい?私に出来る事なら何でもするよ?何だか可愛い娘に頼られている様で嬉しいな」
昨日あれから、楽しい時間でも有ったのか?子爵様におかれましては大層のご機嫌さんだ。反対に執事は、自分を飛び越して事を運ぼうとする詩乃に不機嫌を隠さなかった。悪いな、ワザとだ。
「下町 手頃な家 有りシタら、其処 買い取る店開く 思ッテす。バララ 手芸品や、お守りペンダント 売る店でぅ」
お守りのペンダント・・そう、パワーストーンだ。
あちらの世界で大好きだった、あの店主さんみたいに素敵なお店を開きたい。
「一人 住むで、小さ店 良イすぎゃ」
ずっと監視され、缶詰状態で2年間生きて来た詩乃のささやかな願いだ。
「少し時間をくれるかい?空き家は有ったかな?まだ新米代官だからね、街を知るのはちょうど良い機会だね。張り切って探してみるよ」
俄然張り切る子爵様に、面白くなさそうな顔の陰険針金執事。
この分じゃぁあの執事さん、主人に隠れて甘い汁の一つも吸っていそうだね。
詩乃は物件の候補が見っかったら教えてくれるように頼み、建物が傷んでいたらリホームは自分でするむねを話して朝食を終えた。
そのままメイドさんと一緒に調理室までワゴンを押して行き、食器を洗う手伝いをした・・もちろん人力でだ。下手に魔力をひけらかしたら、あの陰険二人組に何されるか解らない。この館に居候している間は、波風立てずに大人しくしていようと心に決めた詩乃であった。
次回、お店の改装です。リホーム番組って、面白いですよね。
せめて、部屋の模様替えでもしてみたいな。




