31〜40
#夢中風景 世界は未知のウイルスによって崩壊した。まるでいつか観たB級映画のような、分かりやすい地獄絵図。絶望の恐怖に彩られた文明の終焉。記憶と知性を失くした肢体は何を求めて彷徨うのか。震える私に見知らぬ誰かが手を差し伸べる。「君の力を貸して欲しい」まさか。私が救世主だなんて。
#夢中風景 君の言葉が僕に翼を与えた。君の言葉が明るいと僕は上昇し、暗い言葉に下降した。君は酷い。その僕の意志とは関係ない翼の性質を面白がって、下降と上昇を繰り替えさせる。君は酷い!僕の言葉に君は口を閉ざした。僕は翼を失った。元々なかったものなのに僕は宙から少しも動けなくなった。
#夢中風景 この手にあったはずの温もりを奪われた。誰だ。許されない思いを胸に、血眼になって探す。何処だ。私の宝物を奪った奴は。煮え滾る腸が熱くて堪らない。この鈍い痛みから解放されたくて仕方がない。宿敵の発見に費やす鼓動は無駄な赤を垂れ流す。もうすぐ。もうすぐだよ。復讐の鐘が鳴る。
#夢中風景 追い詰められた。眼下から建物を伝う風が私を煽る。自分の罪を忘れた愚か者。小賢しい。舐めるように私を眺める。ここから落ちれば楽になれるだろうか。そんな欲望に負けてしまいそうになる。いや駄目だ、守らなきゃならない人がいる。さよなら、過去の亡霊。お前の場所はここじゃない。
#夢中風景 誰1人味方のいない世界であなただけが手を引いてくれた。あなたを追いかけて何処までも行ける。それは幻想ではなかったと思いたかった。あなたが奴等に地へ落とされ、私の全身を憎しみの炎が駆け巡る。奴等を八つ裂きにしても良かったが、それよりあなたの元へ逝ける方を選んで宙を舞う。
#夢中風景 近頃夢の風景が掴んでいられない。夢は見ている。確実に、毎晩、幾つも幾つも、瞼の裏で上映されている。それなのに掴めないのはきっと、捕まえる前にするりと手の内から抜けていってしまうから。悲しい結末も、恐ろしい命運も、全ては幻として消えていく。少しの物足りなさを引き連れて。
#夢中風景 あなたに守って貰うばかりは、もう嫌だった。私だって、戦える。その為に沢山練習してきたのに。対峙した敵はとても強大で、逃げの一手を強いられる。せめて、せめてあなただけは。囮になって飛び回る。世界はいつも以上に意地悪だ。もっと私に力があれば。悔しさが残るまま瞳を開いた。
#夢中風景 待って、待ってよ、置いてかないで。私を振り返りもしない背中が歩道橋を渡っていく。階段を駆け上がった所で地面が唸り声を上げ隆起した。慌ててしがみついた私を一度眺め、走り去ったあなた。私の叫びは崩れる橋と共に掻き消されていく。待ってよ、あなたにまだ何も伝えていないのに。
#夢中風景 繋ぎ止める手段が見つからないまま過ぎ去っていく景色を眺めていた。寂しさなのか、虚しさなのか、胸の端の方を締め付ける言葉にならない痛みは、痺れる両足を更に封じ込めていく。動かない体と頭なんか捨てていけばいいのよ。いつかの君の声がする。そりゃそうだ。僕は宙に泳ぎ出す。
#夢中風景 優しい目だけが僕を見つめている。微笑みを湛え、目尻の下がった瞳。普通に考えたら恐ろしいのだろうけど、何故だか不思議なほどに怖くない。寧ろ今まで求めていた全てを抱き締めていてくれるように思えた。広がる両手などそこには見えやしないのに。母なる微笑。それがずっと欲しかった。