21〜30
#夢中風景 何処までも続く果てしない花畑。色とりどりの花弁が舞い踊る美しい風景のはずなのにそれは何処か物悲しく私の涙腺を刺激する。そして気付く。これは人の人生の墓場なのだと。誰かの死で咲く花々の宴なのだと。何故私はここにいる?何を探してる?それは君の魂。手遅れになる前に連れ戻せ。
#夢中風景 見たこともないような人の渦の中心で、私は自らの躰を削って花弁を撒き散らしていた。見世物になる感覚は悪くはなかった。その空間に漂っていたのは畏れであり、羨望であり、興奮であった。私は初めてこの世界の中心に立っていて、それはきっと何物にも変え難い恍惚。あの喝采をもう一度。
#夢中風景 我なら奴等を一呑みぞ。その巨大な白蛇は笑いながら言った。私は驚きもしない。育ての親だからだ。白蛇は私が両親に棄てられた時もそう笑って、頷いた私の目の前で彼等は死んだ。その時の穢れがやっと浄化されてきたというのに。いいの、白蛇様は穢れないで。私の言葉にくかくかと笑った。
#夢中風景 帰る場所を失って見上げた空は何故だかとても澄んでいて、私の存在なんて認知している訳がなくて、こんな孤独も、そんな苦痛も、虹色になって私の胸から飛び立った。空を見た人が歓声を上げて走っていく。何人も、何人も。悲哀が織り交ざった橋でも誰かの心を渡せるのなら、紡いでいよう。
#夢中風景 酷く焦がれる人がいた。いたはずだった。それはどうしようもなく儘ならない感情を抱かせる人だった。もどかしさは現実すら歪めていく。意識した側から歪が生じ、世界は暗澹へ飲み込まれていく。嫌だ、嫌だ、まだ見つけていない。そのたった1人の誰かを。真っ逆さまに足掻いて墜ちた。
#夢中風景 跳ぶように走った。森を駆け抜けて山肌を滑るように下って、自由を体で感じるほどの爽快。耳に何かが届く。立ち止まる。あれは救難信号。行かなきゃ。再び走り出す。君の信号目掛けて一直線に。待ってて、待ってて。今行くよ。それが罠だと、君の銃口が頭を撃ち抜くとしても知っていても。
#夢中風景 『それに目を付けられたら待っているのは死のみ。それは何処まででも追ってくる。獲物の血の臭いに惹き付けられてひたすらに野性を剥き出しにする。それに理性など存在しない。生への本能、食への飽くなき恋慕にも似た衝動がそれの格である。それの瞳』ノートはここから血に染まっていた。
#夢中風景 仄暗い路地裏の粗末な露店でふと足を止めた。胸騒ぎがする。やめろと叫ぶ脳味噌をぶち破って好奇心が踊り狂う。何を売ってるんだい。なんでもございます。これは。尻尾を失くした蜥蜴。これは。人魚の目玉。これは。誰かが産むはずだった嬰児。気味が悪い。魅入る前に早々に立ち去った。
#夢中風景 何を恐れて私の足は竦んでしまったのだろう。世界を壊すこと?命を失うこと?君を喪うこと?そのどれもが間違いで、どれもが正解。君を救うには命を懸けねばならないし、その為には世界の存続なんて取るに足らない些末なこと。つまりこの期に及んで私は君以外の全てを軽んじているのだ。
#夢中風景 名前が死んだ世界で君を呼び止める術はない。Q.僕も誰。A.そこらの辺の以下同文。遠ざかっていく君を見失う恐怖が急き立てる。同じになるな。殺されるな。個性の爆発を。なんだそれ、そんなものとっくに忘れた。でも。待って!僕の声が届くなら!雑踏の中で叫ぶ。存在証明ヲ開始セヨ。