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俺は月夜の女神に恋をした  作者: 安部野 馬瑠
2話 動きだす時
7/19

闇夜の教室

「あれ?ここは……」


 周囲を見回してみると辺りは真っ暗だった。そしてなぜか俺は立っていた。

 意識はどことなくぼんやりしているが、どこか見覚えのあるせいか不思議と焦りや驚きはなかった。

 そして、当たり前のようになんとなく上を見上げてみる。そこには大きな月があった。

 

「あれ?なんで既視感があるんだろう……」、


 意識がぼんやりしているせいか思い出せなかった。そのもどかしさからか頭痛がし、頭を抱えるようにして縮こまる。そして、再び目を開けたときふと視界に白く細い手が視界に入る。その手の主を見るために顔を上げてみると、そこには女性がいた。

 月明かりの色と同じ色の髪をなびかせ、白いワンピースに白いカーディガンをまといながら、そこから見えた顔は幼さを残しながらもどこか影のある儚げな目をしていた。

 俺は差し伸べられた手を握り、引っ張られるままに立ち上がるとお互いの顔を見合うような状況になる。

 その顔は無表情で何を考えているのかまったくわからなかった。そして、俺が首を傾げると何かを察したのかもしれない。

 俺の腕を掴んだかと思うとどこかに向かって歩き出した。俺は引っ張られるようにしてついていく。

 そこからどれくらい進んだのだろいうか。

 周囲の視界は暗く、進んでいるのか不安になるが今まで芝生を歩いていたと思っていた足元が急に硬くなる。

 そして、視界が突然開けたかと思うと、そこは真夜中の教室の様だった。

 

「学校?」


 不思議に思いながら周囲を見回してみるが見覚えが無い。ただ、見慣れない机がいくつもあり、教壇らしきものもあるためそう思ったのだが、それでも学校の教室と呼ぶには古めかしく見慣れない部屋だった。

 彼女は手を離し、教室をゆっくりと歩いていったかと思うとぴたりと止まり、ゆっくりと座った。

 そして、不意に両手て耳を塞ぎ、かがみこむような姿勢となる

 

「大丈夫?」


 俺はそう言うと同じくゆっくりと歩いて彼女に近づこうとする。しかし、それができなかった。

 突然彼女と俺との間にいくつもの黒い人影が見え、俺の進行を妨げる。

 そして、その数は次々と増え、焦りを覚えた俺は影をかき分けるようにして彼女を見失わないように必死にももがく。

 しかし、その影は増え続け、俺を押し出すよう動くためになかなか彼女のもとへ辿り着けない。


「あ、ありす!ありす!!!」


 彼女の名前は知らない。ただ、無意識で叫んだ名前だった。

 当然、彼女は反応がなかった。ただ、その両耳を塞いだ彼女は微かに震えていて、その事が余計に俺に焦燥感を募らせた。


「ありす!」


 俺は必死に叫びながら影によって狭まる視界に対して僅かに見える彼女に必死に手を伸ばす。

 しかし、彼女は両耳を塞いだまま震えていて、こちらに気付いていない。手もあと少しのところで届かない。

 

「くそっ!このままじゃ」


 影に押されて必死に伸ばす手があと一歩のところから少しずつ彼女から離されていく。

 その状況に焦るがもはや引き返している余裕もなかったし、今諦めてしまったらもう手が届かなくなる気がした。


「っち!」


 気づかない彼女に苛立ち、思わず舌打ちし、俺は軽く足を屈み、踏み込む体勢を作ると蹴り上げて影先へと思いっきり突っ込んだ。 そして、蹴り上げた身体が宙に浮くとその瞬間、時間が急速にゆっくり進んでいくような感覚になりながら再び彼女に向かって手を伸ばす。

 

「届けえ!」


 必死に伸ばした手が少しずつ彼女に近づいていく。そしてもう少しで届くと確信したときだった。

 不意に眩しい光に包まれ視界が真っ白に染まっていく。

 

「くそっ!」

 

 俺は叫びながら必死に手を伸ばし、眩しい光に覆われてほとんど見えない彼女の手を確かに握った瞬間。

 視界が真っ白になっていく。そして意識がぼんやりとしていながらもどこかはっきりとしていく感覚へと襲われていく。

 ただ、その握った手は確かにしっかりと感覚があり、俺は思いっきり引っ張った。

 その瞬間身体に大きな衝撃がかかり、俺は目を開ける。

 その眩しい光に包まれて目の前に見えた相手は彼女ではなく妹だった。そして、握った手も妹の手だった。

 まだ意識がどこかぼんやりとしていたものの、急激に血液が流れるような目まぐるしい思考が頭を駆け抜け、転んだような姿勢で俺に覆いかぶさる妹を見て俺が手を引っ張ったことが原因だと理解する。

 

「え、あっ……お、おはよう」


「……おはよう」


 妹が立ち上がり服をなおすと笑顔でそう言った。が、明らかにその目は引きつっていて怒っていることがわかる。


「て言うと思ったか!きもいっ!」


 そういうと妹は思いっきりグーで俺のお腹を殴ると怒りながら部屋をでていった。

 痛むお腹を抱えながら、時計を見てみるといつの間にか日は昇り、朝錬に向かうために準備をする時間となっていた。


「なんで、俺はありすと叫んだんだろう……」


 髪の色が違うのだから別人なのは明白だったはずなのにそう呼んでいた自分に首を傾げる。また、夢で見た場所など俺には思いあたる場所などなかった。

 俺は立ち上がって制服に着替えながら考えてみたが結局思い当たる場所など無かった。

 ただ、朝は1分たりとも無駄にできない。夢については後で考えることにして、急いでリビングへと向かうと朝食を済ませた。

 そして、いつものように学校へと向かった。

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