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俺は月夜の女神に恋をした  作者: 安部野 馬瑠
3話 ダイヤモンドリング
17/19

二人だけの夜空

 ようやくたどり着いた場所。

 周囲が暗い中、薄っすらと黒い影が見えた。一度見た黒髪。あのときこの場所で出会ったときとはだいぶ印象も変わってしまっていたものの、間違いなく有栖の姿だった。

 俺がゆっくりと影の方向へと向かうと、影もこちらに気づいたのか振り返る。


「あなたは……?」


 聞きなれた声。その声に安心すると微笑みながら答える。


「俺を忘れちゃった?」


 声を聞いた有栖は驚いた様子で俺を見ていた。

 俺は微笑みながらゆっくりと有栖の隣まで行くと夜空を見上げる。

 二人を祝福するように夜空いは雲ひとつなかった。


「俺、やっと思い出したんだ」


「……そう」


 有栖も同じように空を見上げた。


「俺の事、嫌いになった?」


「そんな事、ないけど……」


「よかった。あのね、俺は再びこの日がくるのをずっと望んでいたんだ。もう既に何度も失敗して、何度も傷ついて、ときには大切な人達まで巻き込んで傷つけて……おまけに俺自身記憶まで失って」


 俺は思わず苦笑いした。いったいどれだけ遠回りしてしまったのだろう。

 それを見ていた神様はさぞかし呆れていた事だろう。

 ただ、俺はそれでも諦めなかった。記憶を失っても、周りの助けを借りながらここまで辿り着いた。

 空は思わず拳を握り締めると、隣に居た有栖は頷いた。


「……そう、ね」


 お互いに顔をみ見合わせて苦笑いすると二人は黙る。

 お互い話したい事は山ほどあった。ただ、実際に会ってしまうと話したいことのほとんどは頭から抜けて、周囲が聞けば呆れるほどに再び会えたことによる喜びで気持ちがいっぱいで収集がつかなかったのだ。


「……あの」

「……あの」


 お互いに何かを話そうと、ほぼ同時に話し掛けお互いに言葉に詰まる。


「わ、私は後で……」

「さ、先にどうぞ」


 意味もなく譲り合い、お互いに苦笑いする。

 おそらく周囲が見ればなんともじれったい光景だった事だろう。

 再び沈黙の後、ようやく有栖が話し始めた。


「……過去を知っても私の事が怖くなかった?」


 心配そうに見る有栖に俺は微笑む。


「言っただろ。俺は巻き込まれるのは好きなんだって。それにこうして今を迎えて嬉しいのだから、有栖の言っていた不幸も迷信だったじゃないか」


「そう……だったわね」


 お互いに顔を見合わせて微笑む。

 しかし、有栖の表情はすぐに暗くなった。

 

「……盗みの話を聞いて。……二回目なのに空は私を疑わないの?」


「疑う前に結論がでているよ。有栖がそんなことするはすがないって信じてる。それに、そのことを言ったら一度目は俺が本当は犯人て可能性もあるじゃないか。なんてね……」


 そこまで言った空は言葉を止め、首を傾げる。

 

「ただ、何で自分が犯人だなんて言ったの?」


 空の質問に有栖は苦笑いする。


「うーん、何でだろう、何だか昔の二の舞になる気がして……それを止めようと思ったら他に方法が思い浮かばなくて」


「そうだったんだ……」


「うん。ただ……やっぱりみんな私が犯人だと思っているのかなぁ」


 悲しそうにする有栖。

 そんな有栖に空は優しく微笑む。


「大丈夫だよ。今の有栖には俺も居れば佐山嬢もいるし、いざとなれば夜気だって助けてくれる。あのときは有栖はここに来たばかりで俺も中学生になったばかりで手探りだったけど、今なら誤解だってきっと解けるし一緒に解いていこう」


「ありがとう」

 

 お互いに顔を見合わせて微笑む。

 その、影のない笑顔は数年ぶりに見た笑顔に思わず感極まりそうになったが堪える。


「空はいったい何を話そうとしたの?」


 首を傾げる有栖。


「それは……」


「それは?」


 この場で伝えたい言葉など一つしかなかった。

 ただ、その言葉をただ伝えるだけでいいのだろうかと疑問が浮かんだ。

 もっと二人にとってふさわしい言葉、そう思いながら夜空を見上げてみるととてもきれいな満月が夜空に輝いていた。


「月が綺麗ですね」


 自然と出た言葉だった。呟いた空は有栖を見る。

 その言葉を聞いた有栖は小さな声で呟くようにいった。


「死んでも……」


 有栖は首を横にふり、空を見た。


「あなたのものよ」


 お互いに顔を見合わせて微笑む。

 それからしばらくの間、二人は静かに綺麗な夜空を眺め続けた。


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