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俺は月夜の女神に恋をした  作者: 安部野 馬瑠
3話 ダイヤモンドリング
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光の欠片 四 (夜気の神社)

 二人から過去の経緯を聞いた俺はようやく有栖を探すことにした。といっても、既にだいぶ時間は経っていて、既に日も暮れつつある。闇雲に探すにしてもの有栖を見つけるのは容易ではないが当てはあった。

 向かう先は有栖と一番最初に出会った場所。行き方を忘れてしまっていたため、妹に教えてもらい、佐山嬢と妹で有栖に連絡をとるように頼むと、学校を出た。

 そして、日も暮れた頃にようやく神社にたどり着き、階段を上る。

 長く先の遠い階段。息を切らせながら上がっているが、先に有栖が居る保証などない。


「これで……外れだったら……割に……合わないな……」


 息を切らせながら呟くが、佐山嬢や妹にさんざん迷惑をかけ、苦しませたことを思えばこれくらい小さな事だろう。


「こりゃ……明日は筋肉痛で……部活行けそうにないかも……」


 今日、部活をサボり、明日もサボりで呆れる部長の姿が容易に想像できたが立ち止まる理由にはならない。

 苦労しながらも神社をようやく上り終えると、そこには社前の階段に座る夜気が居た。


「よう、空。ここに来たって事は思い出したか?」


 夜気は立ち上がると空のもとへ近づき微笑む。空もそれに答えるように微笑んだ。


「ああ、この場所の先で初めて出会った事から有栖の髪が黒くなったところまですべて。で、夜気はどうしてここに?」


 息を整えながら尋ねると夜気はため息をついた。


「やっぱりか……お前の記憶に俺はどう映ってた?」


「どうって……」


 記憶を辿る。夜気に関する記憶がないことをようやく思い出した。


「あっ……」


「あっ……って、ひでえなぁ。まぁ、無理もないけど」


 夜気は苦笑いすると俺に近づく。


「さて、この場所、この位置。見え覚えはないか?」


 空は夜気に言われるままに見てみると、見覚えがあった。

 ただ、一度は来た場所、見た覚えがあっても不思議などない。


「……そりゃ見覚えはあるけど」


「そうかそうか。じゃ、一度目を閉じてみろ」


 夜気はにやりと微笑む。空は不思議に思いながらも目を閉じると夜気が空の目もとに手を添えた。

 次の瞬間だった。


「あっ……」


 目を閉じているはずの空に不思議な光景が見えた。

 

 それは、事件後、部活を止めて孤立していたときのこと。

 当時、時間を持て余していた空は学校の後にこの神社へと毎日通っていた。

 長い階段に息を切らせながら上り、神社にお参りしてはあの場所へ向かい、夜空を見ながら一息つくと帰っていた。

 理由は単純で自分が招いた出来事を打破できるきっかけが欲しかったから。そして、願わくば過去に戻ってもう一度やり直したい。そんな身勝手な理由だった。

 そして、その回数も百回目となり、学年も二年生となったとき、いつものように一息ついてから日が暮れた頃に帰ろうとしたところ、突然後ろから目隠しをして呼び止めた人が居た。それが夜気だった。


「よっ」


 向かって手を上げて微笑む夜気。空はそれに応えるように軽く頭を下げる。


「毎日熱心にお参りしているようだけど、何を願ってるの?」


 夜気の問いに空は照れ隠しするように苦笑いする。


「何も……」


「何もって……何度もわざわざこんなとこへ?用もないのに?」


 夜気は驚いた様子を見せた後、苦笑いした。


「いいじゃん、せっかくだから聞かせてくれよ」


 空は少しだけ悩んだものの不思議と話してもいい気がして頷く。


「……そうだな。まぁ、言ってもいいか。実はもう一度やり直したいなと思って」


「やり直す?ふーん、でもただやり直すって繰り返すだけになるんじゃないの?」


 夜気が不思議そうに尋ねると空は再び苦笑いする。


「ああ、そうかも。でも、そうだとしたら成功するまで繰り返したいかな」


「……過去は変えられないとしても」


「だとしたら、俺は未来でもいいから願うよ」


 空の返答に夜気は納得して頷く。


「ふーん。ま、いいんじゃない。それだけ強い願いならきっと叶うよ」


「そう……だといいな」


 空は微笑む。


「俺の名前は夜気。よろしく」


「俺は空。よろしく」


 それが夜気との出会いだった。

 そして翌日。学校に行って、空は驚く。というのも夜気とは同じ教室だったのだ。

 その事に気づいた空は驚いたものの夜気とすぐに仲良くなっていった。


 それから程なくしてだった。妹が空の机に有栖からの手紙を置いたのは。

 願いが叶ったと思った俺は自転車に乗り神社を目指した。

 はやる気持ちを抑えられず、いつも以上の急いだ俺は神社が見えたことで注意力が緩んでしまったのかもしれない。


 突然聞こえたクラクションと急ブレーキの音。聞こえた方向を見ると車は既に目の前に来ていた。

 避けれない事を悟った俺は、最後のチャンスを逃したと同時に事故で中学時代の記憶を失った。

 

 再び目覚め、ようやく学校へと登校できるようになったとき。

 不安の中で再び教室で出迎えてくれたのが夜気だった。 

 それ以来、疎遠となっていった佐山嬢とは対照的に誰とでも仲良くなる夜気と再び友達の関係へとなっていた。

 そして、今日の現在に至る。


「夜気……お前、もしかして……」


 夜気を驚く目で見ると夜気はニヤリと微笑む。


「お前っていい奴なんだな!」


 空の言葉に夜気はずっこける。


「いや、間違っちゃいないけど、期待していた答えと違うから!」


 その回答に空は首を傾げる。


「……どういうこと?」


 その反応を見て、夜気はため息をついた。


「まぁ、気づかないならそれでいいさ。俺は疲れたから帰るわ。せっかくの場所で邪魔するのは悪いし」


「え?お、おい」


 夜気が階段を下りていく姿をぼんやりと見ていると、夜気が振り返る。

 

「な、願いは叶っただろ?」


「願い……?」

 

 有栖を捜していた事を思い出す。


「しまった、急がなくちゃ!」


 俺は再び駆け出した。


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