表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は月夜の女神に恋をした  作者: 安部野 馬瑠
3話 ダイヤモンドリング
14/19

光の欠片 二 (佐山の後悔)

いい区切りが見つからず、ちょっと長めです。

この話は佐山視点となります。

 佐山舞が空と話すようになったのは小学生から。

 当時はお姫様を夢見ていた佐山を男子達が理解してくれない中、お付役として付き合ってくれたのが上野空だった。

 その事がきっかけとなり空と遊ぶようなると空は妹も連れて来るようになった。人見知りだった空の妹は最初は空の後ろに隠れ、怖がるように佐山を見ていた。

 ただ、それも最初だけで一緒に遊び始めると徐々に仲良くなり、妹がねだるからと空の方から誘い、三人で一緒によく遊ぶようになった。そんな関係が続き、中学生で同じ教室となってからも空とは仲の良い男の子だった。


「……てな事があったんだ」


「ふーん、そうなんだ」


 新学期も既に始まり落ち着いた頃。

 休み時間に佐山は空からアリスとの話を聞いていた。


「ねえ?そんなにその場所の景色が綺麗だったの?」


「うん、すごかったよ。あたり一面に夜景が広がって空を見上げれば一面の星空」


「いいなぁ。私も見てみたかったなぁ……」


 佐山はちらりと空を見る。しかし、空は複雑な顔をして表情を曇らせる。


「うーん、俺もそうしたいところなんだけど、部活がね……」


「……そう、よね」


 佐山と空はお互いの顔を見て苦笑いする。

 二人とも中学生になり、部活に入部すると急に忙しくなっていた。小学生の頃は放課後に遊べていた時間は部活と塾で消え、休みの日もそれぞれの友達と会う時間に割かれていたのだ。ただ、それでも疎遠にならず、こうして話せるのは、今も時折会って仲良くしている空の妹のおかげかもしれない。


「そういや、お嬢は部活はどう?楽しい?」


「うーん、それなり……かな?吹奏楽で必須の腹式呼吸は昔からできたしピアノも習っていたから楽譜も読めるし」


「いいな、俺なんて野球部たけど全くだめだよ。元少年野球の人が沢山が入って補欠だし、これじゃ、アリスを捜す体力もないよ……」


 空はそういうとぐったりとしてため息をついた。

 その様子を見て佐山は複雑な気持ちで苦笑いすると小さな声で呟く。


「私と遊ぶ時間じゃないんだ……」


「ん?何か言った?」


「え?……あっ、ううん、何も。何でもない」


 佐山は両手を横に振り、誤魔化す。

 名前意外は全く知らない相手。どうせ会う事もない。

 そう割り切ってその時は話を終えた。

 

 

 しかし、佐山の予想とは裏腹にアリスはすぐ見つかった。

 吹奏楽部の練習を終え、同級生の部員とたまたま美術室前を通ったときに開いていたドアから見えた教室。

 そこに彼女が居た。空が言っていたきれいな白銀の髪。見間違えるはずがなかった。


「あははは……はぁっ。本当に居た……」


 佐山は思わず苦笑いしてため息をつくと、同じ部員の子が佐山に気づいて話しかける。


「あれ?星野さんと知り合い?」


「え?あ、ううん……ん?あの人、星野さんていうの?」


「そうだよ。えーっと、確かお母さんが外国の人なんだけど、中学の入学に合わせて引っ越してきたとかなんとか……見た目の髪型が目立つからね。それに美人だしけっこう噂になっているよ」


「ふーん……」


 それが佐山にとって初めてアリスと出会いだった。

 

 ただ、その後聞いたアリスについての噂は、あまり良い噂ではなかった。

 見た目に鼻をかけ、見下している。言葉の一言一言がきつい。おかしな事を言い、何を言っているのかわからない。と言ったもので、女子の間では評判があまり良くなく、最初は興味で周囲が集まってきていたらしいものの、今は一人でひっそりしているらしい。

 加えて、『彼女と話すと不幸になる』と噂が飛び交っているらしい。その理由は、初期に男子同士が彼女の事で言い合いになって、怪我をしたいった男子間、女子間で、珍しい彼女に対する扱いでのいざこざが続いたためらしい。

 そんな彼女に対する皮肉だったのかもしれない。髪型の色から彼女を『ルナ(月の女神)』、関わって悪い事が起こった事を『ルナティック』と、噂するようになっていた。


「ま、私には関係ないか……」


 不吉な噂があるのにわざわざ関わる馬鹿はいない。 

 そんなときだった。空がアリスを見つけたのは。 


「お嬢!聞いてくれよ。ついに見つけたぞ!ルナって噂を聞いて、もしかしたらと思ったら合ってたんだ!」


「ふーん……」


 佐山は冷めた目で空を見た。しかし、空は皮肉を利かした悪い意味とは思ってないらしく嬉しそうに話していた。


 それから更に数日後。珍しく空が違う場所でご飯を食べようと、来るよう言われたのは鍵の閉まっているはずの屋上。

 疑いながら向かうと、なぜかそこの鍵は開いていて座って雑談する空とアリスが居た。


「待ってたぞお嬢!彼女が以前話していたアリスさん。有るに栖と書くんだって」


 空が紹介すると有栖は佐山を見て立ち上がり、頭を下げる


「はじめまし星野有栖です」


「はじめまして、有栖さん。私は佐山、佐山舞よ」


 佐山も笑顔を作り頭を軽く下げると空を睨んだ。


「空、もう少しわかりやすく言ってくれないと……」


「そういいつつわかっているんだろ」


 挨拶もそこそこに佐山も雑談に加わる。いざ会話してみると彼女といざ話してみると噂は嘘であったものの、間違ったものではなかった。

 見た目に鼻をかけ、見下していると思ったのは有栖自身に満ちたように見える姿勢と当人達のコンプレックス。目は言葉の一言一言がきついのは単に素直で、発音しづらい『たちつてと』を意識していたから。変なことを言うのは日本語が難しいだけ。と、話してみれば噂がいかに当てにならないか実感した。

 こうして一安心しながら会話していると、空が提案する。


「そうだ!有栖さん。お嬢と連絡先交換しなよ。こいつ、見た目は気取った態度とるけど。いい奴だからさ」


「……気取った態度で悪かったわね」


 佐山は空を睨んだが、佐山自身も断る理由はない。有栖と笑顔でアドレスを交換した。

 ただ一緒にご飯を食べ、談笑して、時間がくれば解散する。そんなごく普通で平穏な日々。


 しかし、その日々は長くは続かなかった。

 

 いつものように三人でお昼を食べようと屋上に居たが、星野さんから来れないかもしれないと連絡があった。その事を不思議に思った二人は、ご飯を食べるのを中断し、確認しに教室に向かうと教室は閉められていた。

 友達を待っているのか何人か教室の前で待つ姿も見えるが一向にドアが開く気配はない。


「……何かあったの?」


「さぁ?」


 見かけた同じ部活の女子に話しかけても困惑しながら

 首を傾げるばかり。そして、ようやくドアが開き、突然先生が出てきて中の様子を見ると、全員が席に座り疲労した異様な光景が広がっていた。

 その光景に驚きながらも佐山を含めた外で待っていた人達は中へと教室内へ入っていく。

 佐山と空も顔を俯ける有栖の元へ向かった。


「なにかあっ……」


 佐山は顔を上げた有栖を見て驚く。

 涙を堪え、悔しそうに唇を噛み締める有栖。初めて見る顔に佐山は驚き事情もわからなかったが、有栖を優しく抱きしめ、有栖を落ち着かせようと頭を撫でる。

 有栖は身体を震わせ、声を隠しながら泣いていた。

 

「私じゃない……」

 

 微かに聞こえる有栖の言葉。

 佐山と空はお互いに顔見合わせるが、事情がわからないのでどう話しかければいいのかわからなかった。ただ、周囲から感じる異様な視線を二人はひしひしと感じていた。


 有栖が落ち着いた後、佐山と空は場所を変え、事情を聞いた。


 その内容は教室内で財布が無くなり、なぜか有栖の机の中にあった。というものだった。

 特に目撃者もおらず、その日は体育もあったのでその時間に起こったのでは。という推測まではされたらしいものの、それ以外のことは全くわからなかったらしい。

 その限られた条件、状況で先生はクラスの誰かの仕業としたものの、有栖が一番疑われ、とりあえず放課後までに犯人は名乗りでるようにと言われたそうだ。

 その話を聞き佐山と空は考える。

 佐山にはその犯人を見つける方法が思い浮かばなかった。空を見ても黙って考えているだけで同じ。

 そして、その場は解散となり放課後。授業が終わると共に空が佐山の元へ来た。


「お嬢。お嬢は俺を信じてくれるか?」


「……何よ突然。犯人でもわかったの?」


 佐山は空を見ると空は首を横に振った。


「いや、わからなかった。だから、有栖の事をお願いな」


「お願いって……え?ちょっと!」


 言い捨てるようにして教室を出る空を佐山は慌てて追いかける。

 空が格好つけた台詞を言うときは碌な事がない。世に言う死亡フラグのような嫌な予感がした。


 空は教室を出るなり駆け出し、有栖の教室へと向かう。

 佐山は空を追いかけ、ようやく追いついたときは既に教室内に空が居た。

 そして、空が第一声に言った台詞。


「俺がしました」


 戸惑いながら確かめる先生に、空は自分が犯人だと言い出した。

 そんなはすがないと知っている佐山はたた呆然と状況を見ていたが、今まで散々有栖を疑いの目で見ていた周囲の厳しかった。

 結局、他に何も手がかりが見つからなかった事を受け、教室内での多数決で空が犯人と思われるということで決着した。

 そして、その事は空のさして知らない人達によって噂は尾ひれをつけて瞬く間に広まった。

 やがて、このたった一言によって有栖に関するすべての原因は空が首謀者だと思われ、問題視した先生によって、所属していた部活は退部。いじめの首謀者とでっちあげられた空は孤立するようになった。


 対して無実を知っている佐山はこれまでのように空に話しかけようとした。しかし、空は佐山をあしらいその事が返って周囲のイメージを悪くしてしまい、佐山も空に話しかける事ができなくなった。

 一方、何も知らず空は犯人だと思っている有栖だったが、その事がショックだったのか結局周囲とは打ち解ける事はできかなかった。ただ、あのとき唯一最後まで有栖の味方となった佐山だけは心を許したようだった。

 一体誰がこんな状況を想像しただろう。中学生活が始まったときには予想だにしなかった状況に佐山は一人席に着きながら呟く。


「ルナティック。かぁ……」


 ラテン語で「月に影響された」という意味。 昔、月から発する霊気に当たると気が狂うとされていたことから来た語源らしい。

 そんな噂を今も信じるつもりはない。ただ、空の行動はその一言で説明がつくような気がした。


「私にも空は同じ事をしたのかな……」


 思えば小学生のときも、空だけが佐山の遊びに付き合ってくれていた気がする。

 ただ、それでも佐山には空の気持ちがわからなかった。

 

 * * *


「……といった経緯があったの」


 空を見て佐山は過去の有栖と空の出来事を話すとため息をついた。


「どうりで、佐山嬢には止められて、有栖には不幸になるとか言われ、あの教室の光景にも見覚えがあったわけだ……」


 空は納得したように頷くが、ふと首を傾げる。


「ん?でも、何で俺にその記憶がないんだ?」


 そう空が呟いた瞬間だった。

 保健室のドアが勢いよく開き、ドンとという音と共に人が入る。

 佐山は振り返ると微笑む。


「こんにちは。わざわざ来てくれてありがとう」


 やってきたのは空の妹だった。佐山が微笑むと微笑み返す。


「いいえ、(ねえ)さまのためだった何でもします」


「お前……どうして」


 驚く空に空の妹は睨みながら近づき、空に掴み掛かる。


「どうしてって、バカ兄が(ねえ)さまに迷惑ばかりかけているからでしょ!」


「す、すまないと思っている」


「思ってるなら行動で示しなさいよ!」


 佐山は自身と空の扱いの落差に苦笑いしながら空の妹をなだめる


「まあまあ、落ち着いて」


 佐山に言われて空の妹は手を放すと近くにあった椅子に座る。

 座ったのを確かめた佐山は話を続ける。


「空が不思議に思っている記憶喪失の部分は、彼女が知っているの。もしかして記憶がもどったんじゃないかと思ってきてもらったのよ」


「ふんっ!(ねえ)さまの頼みだからきてあげたの。感謝しなさい」


 空の妹はため息をして、空……というよりも佐山に説明するように話し始めた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ