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俺は月夜の女神に恋をした  作者: 安部野 馬瑠
3話 ダイヤモンドリング
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光の欠片 一 (空の記憶)

 あれはまだ、空が小学校を卒業し、中学生となる前の頃だった。

 この日、暇を持て余していた俺は自転車に乗り、特に理由もなく知らない場所を巡っていると神社を見つけた。

 と言っても、目の前には、鳥居と共に山を登るような長い階段がつならるのみ。

 その先に社があるようだったが、入り口からは境内の奥を見る事ができなかった。


「……上ってみるか」


 時刻は夕方となり、日が傾きつつあったものの、なんとなく興味をひかれた俺はその階段をのぼる事にした。

 そして、息をきらせながらもようやく辿り着いた場所。そこには小さな社があるだけの寂れた神社だった。


「……ちぇっ、期待はずれか」


 労力に見合わない結果に俺は思わずため息をつく。

 そして、一息いれようと近くのベンチに座り、周囲を見渡していると、木々と柵に囲まれた中で一箇所だけ、不自然に柵がない場所を見つける。


「あれは?道?」


 近づいてみると、舗装されていない獣道だった。

 既に日は沈み始めて帰るべき時間だったものの、ここまで来て確かめずに帰るのもむなしい。

 好奇心に負けた俺は獣道を歩いてみることにした。


 その獣道はそれほど長くは続いていなかった。

 獣道を抜けた先にあったのは木々が開けた場所。高台にあるおかげで視界が開け、街が一望でき、遠くには沈みかけた夕日も見える。


「……おお、すげぇ」


 予期せぬ光景に思わず感嘆の声を漏らし、その光景を目に焼き付ける。

 やがて、日が沈んでいくと共にその光景は暗くなっていくが、今度は街の明かりがつき始め、日がすっかり沈み、周囲も暗くなった頃には目の前には綺麗な夜景が広がっていた。


「……きれいだな」


 ぼんやりと呟きながら街の光景に見惚れていると、ある事に気づく。


「あれ?これって星空と似ているような……」


 そう思い、空を見上げてみるとそこにはあたり一面に星空が広がり、その中で一際目立つ満月があった。


「月ってこんなにきれいだったんだ……」


 普段、自分が知っている月など気にしたことなどなかったし、きれいとも思う事もなかった。ただ、周囲に明かりひとつない場所で、唯一、自分の周りを照らしてくれているのだとわかると、その光はとても幻想的に見えた。


 それからどれくらいの時間が経ったのだろうか。

 ぼんやりと空を眺めていた俺は空が既に真っ暗となっていた事に気づく。


「……しまった!早く帰らないと!」


 俺は慌てて早く家に帰ろうと来た道を戻り始めたときだった。

 遠くから茂みを掻き分けるような音が聞こえた。


「だれっ!」


 驚いて気配がした方を見るが、暗闇のため姿が見えない。

 耳をすませてみたが、音も聞こえなかった。

 

「誰も……いない?気のせいかな?」


 そう呟き、再び歩き出そうとしたときだった。

 再び草を踏み、誰かが近づく音が聞こえた。しかも、その音は少しずつ大きくなってきていた。


「誰か……来ている?」


 手で胸を抑え、足音が聞こえる方をじっと見る。

 暗闇の中、遠くで姿を現したのは人らしき影だった。こちらに気づいたのかゆっくりと近づいてくる。

 俺は静かにじっと立ち、相手の顔を確かめようと目を凝らしてみる。すると、その影は徐々に月明かりに照らされ、全身が月明かりで姿を現した瞬間、俺はその姿に目を奪われた。

 

 月明かりに照らされたのは少女だった。

 白いワンピースに白いカーディガン。袖から見える透きとおった白い肌。白銀の髪をなびかせ、彼女は俺を見ると凛とした姿。歳は同じくらいだろうか。顔は幼さを残しながらもどこか影のある儚げな目をしていて、その幻想的なまでの白い姿は先ほどまで見ていた月のようだった。

 もし、この月明かりに照らされた彼女が月の女神様と言われれば信じていたかもしれない。そう思えるくらい幻想的な出会いだった。

 俺は夢を見ているような感覚に、呆然と立ち尽くして彼女を見ていると、やがて彼女は微笑む。


「こんばんわ」


 彼女の言葉に俺は我に返り、ぎこちないながらも微笑み返す。


「こんばんわ」


 俺の返事に彼女は嬉しそうにしていた。


「よかった。あなた、幽霊さんじゃないのね。私の名前はアリス。あなたの名前は?」


「俺?俺は空。って……ひどいなぁ。俺は君を女神様かと思ったのに……」


 俺の言葉にアリスはキョトンとした顔をした後、可笑しそうに微笑む。


「ふふっ、そんな風に言われたの初めて。綺麗に見えたって事?」


「そうなるかな?さっきまで月を見ていたから」


 俺も照れ隠しするように街の夜景を眺める。


「綺麗ね」


「そうだね」


 しばらくの間、二人で一緒に夜景を眺めた。


 これが、有栖との初めての出会いだった。

 その後、有栖はお母さんと一緒に来ていたらしく、呼ばれ戻って行った。

 俺も夜だったことを思い出して慌てて帰ったものの、両親から怒らた。

 そんな、印象的で本来忘れることがない思い出。

 それが今、記憶を駆け巡るように思い出した。



 * * *



「ぅんん……」


 俺が目を覚ますと、ぼやけた視界から白い天井が見えた。


「あれ?ここは……?」


 ぼんやりと呟くと、誰かが覗き込む。

 やがてはっきりしてきた顔は佐山嬢だった。


「あれ?お嬢。どうして……」


 周囲を見渡すと、今居る場所が保健室のベッドだったことに気づく。


「どうしてって!覚えてないの!?」


 泣き声にも似た震えた声で佐山嬢が言った。

 その驚いた様子を見ている内に、俺も徐々に思い出し始める。


「そういえば……俺、教室で急に頭が痛くなって……そうだ!?」


 教室を駆け出した有栖の事を思い出し、俺は起き上がろうする。

 しかし、俺の思いに反して身体がついていかず、急に目眩がしてふらつく。

 倒れかけたところを佐山嬢が支えた。


「ダメよ!まだ寝てなくちゃ」


 佐山嬢は再び俺を寝かせようとするが俺は抵抗して起き上がろうとする。


「俺、思い出したんだ!」


「思い出したって何を寝ぼけた事を……」


「俺は、俺は有栖ともっと前からあってたんだ!夢じゃなかったんだ!」


 俺の言葉に佐山嬢は動きを止める。


「……空、本当に思い出したの?」


「ああ、本当に」


「本当に、全部?」


「……全部?」


 佐山嬢の言葉を不思議に思った俺は顔を見て驚いた。

 彼女の目は俺を睨み、目に涙を溜めていた。


「……どうしたんだよ佐山嬢。……佐山?」


 佐山は無言で目の涙を拭うと再び俺を睨んだ。


「……いいから座りなさい」


 有無を言わさぬ物言いに俺は圧倒されながら保健室のベッドに座る。


「……いい?覚悟して聞きなさい」


 佐山は一度大きく深呼吸すると、佐山はじっと俺を見た。


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