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俺は月夜の女神に恋をした  作者: 安部野 馬瑠
2話 動きだす時
10/19

悩み

 あれから数日間。有栖はお昼は毎日来てくれるようになったものの、進展がない日々が続いた。

 そして今日もだった

 本日の授業終了のチャイムがなり、俺は席でうつぶせになる。。

 本来であれば、すぐさま部室に行かなければいけない。ただ、なんとなく気分がのらず、ぼんやりと眺める。途中、夜気が声をかけてはきたものの、夜気も放課後に意味もなく付き合うつもりはないらしく、早々に帰ってしまった。


「……退屈だ」


「だったらさっさと部活に行きなさいよ」


 声がした方を見ると、そこには両腕を組みながら立っている袴姿の佐山嬢が居た。

 俺のやる気のない反応に怒っているのだろう佐山嬢は苛立った声だった。


「俺、今日も部活は休むわ……」


「これで何日連続だと思っているの!?そんなんだから、あなたは一年生のときに全国大会のメンバーでレギュラー逃すのよ!」


「知ってる」


「じゃあどうして!」


「俺はもうごめんなんだ。努力したら嫉妬と逆恨み。大会では勝手に期待して結果がでなければ勝手に失望してくる。だから気楽にいこうと決めたんだ」


 俺の返答に佐山嬢は顔をうつ伏せて身体を震わせていた。

 てっきり呆れて部屋をでていくと思っていた俺は動揺する。


「……じゃない」


「え?」


 俺の呆然とする返答に対して、佐山嬢は顔を上げて俺を睨んだ。


「それでもいいじゃない!努力すれば報われるんでしょ!他人の恨みや嫉妬が何よ!大会だって期待してもらえるだけまっしじゃない!空はあのときから逃げているだけじゃない!」


 佐山嬢はそう叫ぶと走ってさっていった。

 その姿を見送って俺は後悔とため息をつく。


「何やってるんだろう、俺」


 俺はため息をつくと、立ち上がる。そし教室を出て階段、渡り廊下から弓道場をぼんやりと眺める。

 弓道場からは真面目に部活に取り組む人達が見える。その真剣な姿をみればレギュラーが外されるのも納得の状況だった。


「今日は部活に行かないの?」


 声が聞こえた方を見ると有栖が無表情で俺を見ていた。


「ああ、今日はサボった」


「どうして?」


 俺は二度目の質問にうんざりしたものの、有栖は無表情ながらも興味を持っているのか首を傾げこちらを見ている。

 その様子を見た俺は再び弓道場を眺めながら答えた。

 

「努力したら嫉妬と逆恨み。大会では勝手に期待して結果がでなければ勝手に失望してくる。だから気楽にいこうと決めたんだ」


「ふーん、で本音は?」


 有栖の言葉に俺は再び有栖を見ると、有栖は相変わらず無表情だった。

 ただ、表情が見えないだけで少し覗き込むような仕草は俺を見透かしているようだった。


「逃げているだけ……」


「それ、誰かに言われたの?」


 俺は再び弓道場を眺め、佐山嬢のほうを見る。


「……ああ、そうだよ」


「そう」


 有栖も無表情なまま弓道場を眺めた。


「実は俺、最近、弓を引くのに集中できてないんだ。一本一本に集中しなくちゃいけないし、全国大会も近いのに不調な姿なんて部員に見せれるはずがない。サボりの上に不調なんて笑えないだろ?大事なときに何やってんだって感じだよ。ほんと自業自得」


「そう」


 俺の愚痴に有栖の返答はそっけないものだった。


「何も言わないのか?」


「逃げる人を追ってどうするの」


「……それも……そうだな」


 有栖の意見に納得し、帰ろう渡り廊下から歩き出したとき、有栖が呟くような声で言った。


「……ただ、逃げないなら付き合うわよ」


 その言葉に俺は立ち止まり、振り返る。


「どういうこと?」


「言葉のままよ。どうする?」


 俺はじっと有栖を見る。しかし、有栖は無表情のまま首を傾げるだけだった。


「わかった。逃げないから付き合ってくれ」


「人にお願いする態度じゃないわ」


 淡々と話す態度に少し苛立ったが俺は素直に頭を下げる。


「お願いします。付き合ってください」


 その様子を見て、有栖は頷く。


「いいわ。じゃあ、明日の朝、いつもは朝練を休みにしている日に弓道場にきなさい」


「わかった……え?」


 有栖はそう言うと帰ろうとしていた俺を抜き、帰っていった。

 一方、俺は呆然としていた。どうして有栖がいつも俺が弓道場に居るのを知っているのか不思議だったのだ。


「待て!どうして俺が朝錬を知っている!あれは部員だって部長と佐山嬢以外は知らないはずなのに……」


 驚く俺に有栖は立ち止まった。


「それは、私にとって空が……」


「俺が?」


「……馬鹿だからよ」


 そう言うと有栖は再び歩き出し、帰っていった。

 そして、俺はただ呆然と見送りながら呟いた。


「……説明になってない」


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