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俺は月夜の女神に恋をした  作者: 安部野 馬瑠
1話 すべてのはじまり
1/19

月明かりの下で

「あれ?ここは……」


 目を覚ますと目の前は真っ暗だった。

 気が付いたばかりのせいか意識もぼんやりしている。ただ、不思議とこの状況に焦りや驚きはなかった。

 

……こういうとき、何から始めるべきなんだっけ。

 

 手を組み、何をしようか考えながら周囲を見渡してみる。

 前方、後方、左右見渡す限り真っ暗だった。

 視線を落とし、かろうじて見えている足元は芝生の傾斜となっていて、ここが山か丘陵なのだろうという事だけはわかった。

 

「ここはどこなんだろう?それにどうして俺はここに?」


 道もない真っ暗な場所。周囲が闇雲で向かう先もない。


「……どうしようか」


 ため息をつき、途方に暮れて上を見上げる。

 

「……月?」


 真っ暗な中、照らしている唯一の光がそこにあった。


「月ってこんなにきれいだったんだ……」


 見ようと思えば毎日見られるはずの月。ただ、今までこうして意識して見たことは一度もなく、きれいなどと思ったこともなかった。


「そっか、足元がわかったのは月が照らしてくれてたからなんだ」


 そんな当たり前の事に気づきながらぼんやりと月を眺めていると、どこからともなく草を踏み、近づく音が聞こえた。


「だれっ!」


 驚いて音がした方向を見るが、暗闇で何も見えない。


「これってホラーの展開なら……」


 四方が暗闇、足元は傾斜のある芝生。そして逃げた先には寂れた村があって……。

 その後の身も震える展開を想像し、思わず身震いする。


「まさか、幽霊とかじゃないよね……」


 情けない声でそう呟いた後、我に返る。

 そもそも俺自身、ゲームや映画以外で幽霊見たことがない。そう思うと、好奇心で視線が音の真相を確かめたい気持ちもあった。


「どうしようか……」

 

 迷う俺を知ってか知らずか、足音は少しずつ大きくなってきていた。

 足音と合わせるように緊張も高まり、それを抑えるように手で胸を抑え、足音が聞こえる方をじっと見る。


――ごくっ


 姿が見えたのはのどが鳴ったのとほぼ同時だった。

 暗闇の中、遠くで姿を現した人らしき白い影がゆっくりと、こちらに近づいてきた。

 俺はじっと身構えながら、相手の顔を確かめようと目を凝らしていると、その白い影は徐々に月明かりに照らされていく。そして、全身が月明かりで姿を現した瞬間、俺はその姿に目を奪われた。

 

 月明かりに照らされ、現したのは人だった。

 白いワンピースに白いカーディガン。袖から見える透きとおった白い肌。白銀の髪をなびかせ、彼女は俺を見ると凛とした姿。その幻想的なまでに全身が白い彼女は、周囲が暗闇なこともあって先ほどまで見ていた月のように唯一白く輝く光のようだった。

 驚きに呆然とする俺に対して彼女はこちらにまっすぐ近くと、やがて手を伸ばせば届きそうな距離となって足を止めた。

 はっきりと見えた顔は幼さを残しながらもどこか影のある儚げな目。美人かと言われれば人にとって判断はわかれるのかもしれない。ただ、ひとつだけ言えること。


 そのとき、俺は彼女に一目惚れしてしまった。


 月明かりに照らされた彼女は女神様と思えるくらい幻想的で美しく見えた。俺はその姿にただただ呆然と立ち尽くし、我を忘れて彼女を見ていると、やがて彼女はニッコリと微笑み首を傾げる。

 俺もその微笑みに自然と微笑み返し、声をかけようとしたときだった。

 

「……ん!」


 どこか遠くから呼ぶ声が聞こえた。


「……ぃちゃん!」


 そしてもう一度同じ声が先ほどより大きく聞こえた。

 どこか聞きなれた声。目の前の彼女に勇気を振り絞って声をかけようとしたところを邪魔され、不機嫌になりながら振り返ってみるが誰もいない。

 しかし、その声は徐々に大きく、そしてはっきりと聞こえてくる。


「……にぃちゃん!!」


 声に対して左右を見渡しても誰もいない。

 

「まさか……上とか?」


 そう思い、俺は上を見上げる。

 先ほどまで遥か遠くにあった月が白く光り、どんどんと大きくなって近づいてきていた。その(まぶ)しさのあまり、思わず腕で目元に手をやる。そして、全身が光に包まれ視界が真っ白になっていく中、最後にもう一度だけ彼女の姿を確かめようとしたときだった。

 

「いいかげんに起きろやバカ兄!!」


「ぐはっ!」


 腹部への激痛と共に意識が戻る。

 眩しさを感じながら目の前を見ると、そこには見慣れた制服姿の妹がいた。


「やっと起きた!!」


「あ、あれ?ここは?」


 慌てて身体を起こし、周りを見回してみる。そこは見慣れた自分の部屋だった。


「何寝ぼけているのよ!せっかく最初の方はやさしく起こしてあげていたのに!」


「そ、そうだったの。ありがとう……」


 両手を組み、お怒りの様子で見下している妹。

 腹部に残る痛みに少しイラっとしたものの、非は完全に俺にあった。


「もう、いいかげん一人で起きてよね!」


「あ、ああ悪い。確か目覚ましかけていたはずなんだけどな」


 不思議に思いながら目覚ましを見みると、既に誰かの手によって止められていた。


「いつまで経ってもお兄ちゃんが起きないから私が止めたよ!てか、その目覚ましのせいで私が起こされたんだから!」


「え?あ、そうだったの」


 目覚ましが鳴っている中でも、妹が怒りながら入ってきても、俺は眠っていたらしい。


「ほら、朝練があるんでしょ。さっさと起きなよ」


「そ、そうだった!」


 不機嫌そうに睨む妹に言われ、俺は慌てて服を脱ごうとボタンに手をつけて気がつく。

 妹がとこちらを見ていることに。


「ごめん、これから着替えるから部屋でてくれない。見たいなら見ててもいいけど……」


「だ、誰が見るかバカ兄!もうお母さんに頼まれても起こしてやんない!」


 そう叫ぶと顔を真っ赤にして妹は部屋を出て行った。

 

「ちょっと意地悪だったかな。……後で謝っておくか」

 

 妹が出て行ったことを確認し、制服に着替えながら夢の事を思い浮かべる。


「あれ、夢だったのか……」


 夢だったとしてももう一度逢えたりしないだろうか。そう思うと少し寂しくなり、着替える手が止まる。

 だが、朝は一分たりとも無駄にできない。俺は首を横に振り、夢について考えるのはここまでにする。

 そして、急いでリビングへと向かうと朝食を済ませ、いつものように学校へと向かった。

 

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