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辻斬

作者: 中ノ 晁

さる御家人が辻斬りを思い立ったのは長閑な午後に、亡父の形見の刀の手入れをしていたときだった。胡乱な目が波紋の上から彼を見つめ返した。

戦といえる戦が絶えて久しい世の頃である。戦国乱世ではいざ知らず、御家人といえ刀で人を斬る機会など滅多になかった。

手頃な日の夜、密かに自分の屋敷を抜け出すと用意していた頭巾を目深に被り、寺の前の林沿いの道端に身を潜めた。

いつだったか酒の席で辻斬りをしたと打ち明けたものの話を聞いたことがあった。そのときは各々の顔が皆同じように獣じみて、薄く覗かせた歯に燭台の火を照らし奇妙な面持ちが、地の底から沸いたような感嘆を漏らしていた。

今夜は月が明るいせいか、往来には人が多い。御家人は辛抱強くじっと機会を待った。

夜も更け人通りも絶えた頃に、一人の乞食坊主らしい格好の男が南から歩いてきた。

折よく、月に雲を運んできた生ぬるい風が男の草臥れた襟にも這入り込んだらしく、ぶるっと身を震わすと寺の溝端にかがんで小便を垂れ始めた。

機は今と御家人は木陰から男の背後へ忍び寄り、用を足して立ち上がったところを斬ろうと、刀を振り上げ、柄をかたく握った。

小便をしていた男は息をつき飛沫をふるい、そして念仏を二度唱えた。

これから自分が辻斬りにあって死ぬことも知らで、と御家人は急にぞっとして、振り返って驚いた男を残しそのまま足早に歩き去った。

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