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その六 青い目、黒い目

 あなたの目は、何色ですか?


 日本人がこう問われた時、おおよそ全ての人が「黒」と答えるでしょう。


 日本語の言い回しに「俺の目が黒いうちは」というモノがあります。だから、「目が黒い」という表現に違和感を覚える人は少ないのです。


 あなたの目は、何色ですか?


 昔、筆者はある人にそう問われたことがあります。

 筆者はその直後、鏡を覗き込みました。そして知りました。自分の目の色が「黒」ではないことを。


 今、このエッセイを読んでいる読者諸君。今すぐ“黒い目”を検索してみてください。とてもホラーな画像を堪能出来るでしょう。


 そう。日本人の目の色は、「黒」じゃないんです。


 「目」は、見えている部分で「白目」(生理学的な名称ではありませんが)「虹彩」「瞳孔」があります。

 そして、日本人が言う「黒い目」とは「瞳孔の色」であり、外国人が言う「目の色」は「虹彩の色」なんです。


 虹彩は、茶、褐、青、緑、灰、銀、紫、黄、赤、そしてそれらの濃淡など、様々なバリエーションがあります。

 が、日本人は茶褐色一色。だからこそ、「目の色」というのは異彩(その人の特徴)たり得ないのです。

 そして、「俺の目が黒いうちは」という表現。では「黒以外の色になる時」とは、一体いつでしょう?

 日本人にとって目の色が黒以外に変わるときは、「死んだ時」。厳密には目の色が変わる訳ではなく、眼球が反転して白目の部分しか見えなくなるだけなのですが、「黒と白」のコントラストから、「黒目」=(イコール)正常、「白目」=異常、というのが普通の感覚として受け入れられてしまっているのです。


 日本人同士であれば、それは問題ありません。が、外国人が登場する作品、異世界転生や異世界転移などで主人公の特徴を表すときに、しかしこの描写は正しいのでしょうか?


 「日本人だから黒目」とした時。その「黒」は前述の通り「瞳孔の色」です。が、仮に金の目を持つキャラクターを登場させたとしても、そのキャラクターの「瞳孔の色」は黒なのです。主人公の目の色は瞳孔の色を描写し、それ以外のキャラクターの目の色は虹彩の色を描写する。これは、「Aは背が高く、Bは座高が高い。Bはそれをコンプレックスに思っていた」というのと同じ。比較するのなら、同じ部分を描写しなければならないのです。


 ついでに、「目の色を変わる」という表現。これも、日本語独特の表現です。というのは、外国人にとって「目の色」は「虹彩の色」なので、これはそう簡単には変わりません(「食生活を変えると、虹彩の色が変わる」という話もあるようですが、それはまた別の話。染色体系の病気になった時も虹彩の色が変わるという話もありますが、これもまた別の話)。そして、日本人にとっても「目の色」(瞳孔の色)が変わる訳ではありません。

 「目の色を変える」、この場合の「(いろ)」は仏教用語の「(しき)」に由来します。仏教用語の「(しき)」は、現象そのものを意味し(それだけではありませんが、ここではその解釈で問題ありません)、(すなわ)ち「(あらわ)れるもの」「表現」「感情」を意味します。

 「目は口ほどにモノを言い」といいますが、その眼差(まなざ)しにその人の感情((しき))が見える。だからその人の感情が変わると、「目の(しき)が変わる」のです。


 閑話休題。


 先程、「“黒い目”を検索したら、とてもホラーな画像を堪能出来る」と述べました。これは、「黒い目」というのを「虹彩が黒い」と認識するのが世界的な標準だからです。

 黒い虹彩を持つ。実は、これは生理学的に有り得ません(ちなみに「黒い虹彩」が実在しているとしたら、その眼球はあらゆる可視光を受け入れるということだから、光量過多であっという間に失明するでしょう。逆に、赤道周辺は可視光を制限する為に明るい色合いの虹彩になります)。

 その、「有り得ない黒い虹彩」を持つ。それが、ホラーなのです。


 で、言われた通り実際に検索した人。どの程度いるでしょうか?

 その時、“黒い目”だけでなく、“black eye”を検索した人はいらっしゃいますでしょうか?


 “black eye”を検索された方は、もうご理解頂けたと思います。

 英語で“black eye”(黒目)というのは、「目の周りの黒(あざ)」を意味します。

 つまり、顔を殴られた(あと)、です。

 そして、西洋の貴族社会では「顔を殴る」ことは決闘の申し込み(後年、あまりに野蛮なので、殴る代わりに手袋を投げることで代替するようになりましたが)を意味しました。何故なら、「顔を殴られる」ことは「不名誉(black eye)を刻まれる」ことを意味し、それでいながら何ら対応し(けっとうをうけ)ないということは、その“不名誉”を認め受け入れる、という意味になるからです。


 さぁそうなると、大変です。

 主人公はblack_eyes(ふめいよ)を持ち、ヒロインはblue_eyes(あおいめ)を持つ。

 ……ラノベの主人公として、これってどうなのでしょう?


 「異世界だから」で言い訳出来る問題ではありません。

 むしろ、「この世界の人間は、瞳孔の色が青いんだ」という設定にすれば、まだ言い訳が立ちます。が、「瞳孔が青いのなら、虹彩の色は?」と問われた時、その作者はどうこたえるのでしょうか。

 そして、(異世界転生や異世界転移の場合)主人公は、(現代地球・日本の常識を踏まえたうえで)瞳孔の色が黒でないイキモノを、普通に受け入れることが出来るのでしょうか?


 それは、獣人だの亜人だのといった異彩より、違和感は大きいでしょう。

 「目は口ほどにモノを言い」。特に日本人は、“目”に多くの情報を求めますから。


 どんな精巧なアンドロイドでも、目がガラス貼りのレンズであれば、日本人はそれを人間と誤認することはないでしょう(だから一部で義眼が気味悪がられるし、だから義眼は可能な限り眼球の作りを模して造られるのです)。

 そしてガラス貼りのレンズで出来た義眼と、青い瞳孔の目。どちらが日本人(しゅじんこう)にとって受け入れられ易いでしょう?


 あなたの目は、何色ですか?


 あなたはこの問いに、どう答えますか?

(2,504文字:2016/06/04初稿)

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