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その十 作者と読者の距離感

今回は、いつものテーマから脱線しますがちょっとした愚痴です。

 商業作品に関しては、読者と作者の立場は、需要と供給、消費者と生産者という形で固定されています。

 消費者である読者にとって、作品に関する感想もクレームも、特定の窓口(出版社編集部)を通して伝えることになります。


 その一方、同人作品(Web小説を含む)の場合、読者と作者の距離が近い。「作者と直接触れ合える」ことが、同人誌の即売会の醍醐味の一つとさえ言われています。

 けれどその結果、作者との距離感を勘違いする読者は、少なからず存在することになるのです。

 では、正しい距離感というべきものはどう捉えるべきなのでしょううか?


 とはいっても、商業作品でもその距離感を違える読者がいない訳ではありません。映画〔ミザリー〕は、偶然出会った愛読書の作者を軟禁し、自分好みの結末になるように強要するという話です。

 また作者側が「読者参加イベント」と称し、例えば二人のヒロインのどちらと結ばれるか、読者投票によって決定するという場合もあります(実際は二つのプロットのどちらを採用するか、という程度の話だろうが)。

 前者はただの犯罪ですが、後者は敢えて(企画として)読者と作者の距離感を壊すことで、読者に「俺たちの作品」という認識を与えさせることが出来るのです。


 そして、同人作品(Web小説)の場合。ここまでくると、ピンからキリまでです。

 また、これは作家自身のメンタルとの兼ね合い、という部分もあります。

 例えば、漢字の使い間違い(変換ミス)や誤用、誤字脱字、そういったものを報告してくれることを有り難いと思う作家もいるでしょうが、僅か一字の指摘さえ「これは俺の作品だ! 余計な難癖をつけるな」と反発する作家もいるでしょう。誤字の指摘は有り難いが、作品についてのネガティブな意見はノーサンキュー、という作家もいますし、読者の希望によっては展開も結末も、幾らでも修正させられるという作家もいます。

 読者がどこまで踏み込むか、ということと、作者がどこまで踏み込まれることを許すのか。これはそれぞれの読者・それぞれの作者によって違います。

 全ての読者に対して一律に線を引く作者もおそらくは間違いでしょうし(とはいえ作者の場合自己保全の為ある程度の線を引く必要はあるのでしょうが)、全ての作者に対して同じレベルで踏み込む読者もまた間違いでしょう。


 では、私自身は?

 私自身は、基本誤字脱字衍字の指摘は有り難く頂戴しています。作中の展開や描写について不明な点があれば説明しますし、それに沿って加筆することも(やぶさ)かではありません。明らかな設定矛盾などがあれば、辻妻合わせの加筆をするなり矛盾を解消する為に書き直したりすることもあるでしょう。

 その一方で、「~であるべきだ!」という論調には、同意するつもりはありません。プロットは、誰が何といおうと作者のモノ。前述の「読者参加型」のようにはじめから複数のプロットを事前に用意しているというのならともかく、物語の展開や結末まで、読者様のご意見に従うつもりはありません。べき論を口にされる読者様に対しての返事は、だから「ご希望に沿えず申し訳ありませんでした」の一言以外に返事をするつもりはありません。


 先日、凄いメッセージを戴きました。

 何と、誤字指摘116箇所。

 これが全部そうならば、自省し謙虚になることも出来ましょうが、指摘された箇所のうち実際の誤字(×「開放」○「解放」等)に該当する部分は全体の三割程度。残りは、その人の独自校正基準に該当しないとか、勘違いとか(「新生児は寝返りが打てない筈」とか)、どこかの「教えてg●o」から拾ってきたような知識に基づく指摘(×「ひと段落」○「いち段落」等)とか、漢字をひらがなにした方が良いとか、既に感想欄で指摘されて回答したものとか、そういったモノだったのです。

 更におまけに「自分も前回り受け身で助かったことがある」とか「ノーワイフキングならここにいる」とか、くだらない小ネタを挟んできて(おそらく「小粋なジョーク」のつもりだったのでしょうね)、余計苛立ちを増幅させました。


 全部が正しい指摘だったら、その通り直せば良い。

 全部が独自基準や勘違い、だとしたら、指摘全部を無視すれば良い。

 けど、正しい指摘が3割。これ、逆に面倒臭い水準なんです。

 全部独自基準や勘違い、と切り捨てるには指摘された誤字約40件は多いですから。


 結果、一つ一つ全部を確認し、直すべきものは直し、そうでないモノは無視する、という作業が必要になりました。最後の一行を確認し終えたときには、開始してから既に3時間が経過していました。


 このメッセージを送ってくださった方は、純度100%混じりっ気なしの善意だったのでしょう。けど、これ。ここまで来ると、(れっき)とした迷惑です。

 挙句の果て、「一日以上の日数をかけて作品を読みつつ、(中略)正直ものすごく手間がかかりますし、本来はお金をもらって行う「校正」のお仕事の範疇になるかと思います。▼では、なぜそんなことをしているのかといえば「ポイント以外での応援」方法のひとつと思っているからなのです」と、自分の苦労と善意をわかってほしい、と仰ります。


 けど、私はその人に、校正を依頼した覚えはありません。

 つまり、私にとっては嫌がらせ以上の何物とも感じませんでした。

 善意に起因し、苦労した結果なのだから、作者にとって迷惑だったとしてもそれは許せ?


 それ、「独善」とか「偽善」って言いませんか?


 これも、その方のメッセージの引用。


 「参考するもしないも作者様次第であり、今回のように取捨選択される方もいれば▼まるっきり無視される方、作風に合わせて部分的に直される方、▼書籍化して後書きに名前を入れて感謝を書いてくださる方、▼様々いらっしゃいます。」


 ……恐ろしいことに、この方が同様のメッセージを送った相手は、私だけではなかったようなのです。


 恐るべき、校正厨。きっと彼にとっては、同人作品(Web小説)とは作者と読者が協力して作るものであり、だから自分の行いは作者がその作品を作るにあたって大きく寄与している! と思っているのでしょうね。


 読者様から寄せられるメッセージや感想は、可能な限りは誠実に対処する。

 それが私のポリシーでしたが、限度があることを今回知りました。


 読者の皆様。作者にモノ申すときは、「その作者がどう感じるだろうか?」を考えてください。けどこれは、人間関係に於いて当たり前のことだと思います。失敗もするでしょう。第三者が意図しない部分に横槍を入れて訳のわからない状況になってしまうかもしれません。


 けど、手探りで、その作者との間の適切な距離感というものを、見定めるよう心がけてください。

(2,714文字:2016/10/13初稿)

【注:引用部分の「▼」は、改行位置を示します】

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