その九 プロット、って、どう作るの?
さて。「小説の書き方」を書いたエッセイを読むと、大抵「プロットを作ろう」という文章が見つかります。
ところが。筆者は実は、この「プロット」というモノが、よくわからないんです。
その、重要性はわかります。これは物語の骨組み。
これを事前に作って、その上でそれに肉付けするつもりで文章を書いて行けば、少なくとも物語の着地点をどうしよう? と悩む必要はありません。
それでも、物語のシーン、エピソードなど、書いているうちに次から次へと湧いてきます。
そして当初予定した着地点とは全く別のところに、物語が辿り着いてしまう場合も少なくないでしょう。
では、プロット、とはどうやって作れば良いのでしょう? どの程度それを尊重して執筆すれば良いのでしょう?
筆者が『転生者は魔法学者!?』を書くにあたっては、実は論文の作成手順を流用しました。
論文では、まずそのテーマを決め、論者の結論を真っ先に提示します(これを「序論」と言います)。
次いで、幾つかのパターンでその論を検証します(これを「各論」と言います)。
最後に、各論の集約が序論と同じ結論になっていることを確認して、論文を締めます(これを「結論」と言います)。
そして、次に来るのが「アウトライン」。
ここで重要になるのは、各論同士の繋がりです。これは、基本的に三通りあります。
一つは、「数珠繋ぎ」。各論1>>各論2>>各論3、と展開していくモノです。
二つ目は、「並列」。各論1と各論2と各論3はそれぞれ独立して存在し、けれど序論と結論を直結するモノ。
三つ目は、「数珠繋ぎ」と「並列」の混合。例えば、各論1>>各論2と展開するけど、各論3は各論1>>各論2と並列して存在する、といった類のモノ。
更にアウトラインが出来たら、それぞれの各論で論じたい部分を箇条書きし、それぞれで重要な部分を小見出しで拾い上げ、論文中で必ず記述しなければならない文言を備忘記録しておく。
ここまで来ると、あとはそれぞれの文言を繋げていくだけで、一端の論文が出来上がるのです。
そして筆者は、これを流用して小説の執筆を行ったのです。
まず、序論。これは「プロローグ」に相当します。
拙作『転生者は魔法学者!?』は、基本的に「異世界転生物のアンチテーゼ」を描くことが目的でした。魔法と科学の兼ね合い、異世界チートの実際の効用。だから、「プロローグ」で「この世界の魔法理論は、根本から間違っている!」とぶち上げる必要がありました。
次いで、各論。
実は、最初にこの物語を思い浮かべた時、『冒険者が騎士になり、国から開拓予定地を下賜され、そこを開拓して国を興す』というモノでした。
だから、「各論1 冒険者篇」「各論2 騎士篇」「各論3 開拓・建国篇」というアウトラインが整うのです。
最後に結論。これは「新たに興した国で、魔法は(そして科学は)どのような位置付けになるか」。それを描くのです。
ところが。これに肉付けを行っていくと、幾つもの不整合が出てきます。
例えば、「国から開拓予定地を下賜され、そこを開拓して国を興す」という内容。
これ、このままだと旧宗主国と主人公が興す国の間で、戦争になります。また逆に穏便に建国出来たとしても、それは宗主国の属国、という形にしかなりません。この問題を解決する為には、旧宗主国には亡んでもらう必要が出てきました。
しかし、主人公は最強です。なら主人公が宗主国の騎士である以上、宗主国が負け亡びる筈がありません。なら、一旦主人公に、国を離れてもらう必要があります。その為にはどうすれば良いか。
一方で、「冒険者が騎士になり」。この展開にも問題があるでしょう。
冒険者が騎士になるのなら、当然それは戦争で勲功を上げる必要があります。
それ以前に冒険者が戦争に参加するのなら、冒険者として一定の地歩を築いている必要があるでしょう。
また、冒険者には「旅」がつきものです。が、中世欧州をモデルにする異世界であるのなら、当然居所移転の自由は認められていない筈(住民の流出を恐れ、当時の領主は特殊な立場――例えば旅商人――を例外として、居所移転の自由を認めなかった)。
なら旅に出る前に、そのランクを得る為の活躍が、当然ある筈なのです。
そして、旅には相棒がつきもの。けど出会った瞬間から腹の探り合いは筆者の趣味ではないので、(なろうのテンプレでもありますが)ここで奴隷という立場でヒロインを登場させます。
けど、「ご主人様」というだけで、奴隷少女は主人公を信頼するか?
そこで、ヒロインは異世界チートを以てしか治療出来ない難病に冒されているという設定が生まれます。
異世界チートを以てしか治療出来ない。けど、オタク知識と素人執刀で治療出来る可能性がある。そこからその難病は「皮下腫瘍」に決定します。これに伴い皮下腫瘍(脂肪腫)を調べ、重篤化の可能性や再発の可能性、執刀の難易度や治療に伴う副作用などを調べ、オタク知識と異世界チートで解決可能な範囲であると確信した上で、これを採用します。
更に遡って。異世界チートを持ち込む為には、主人公はこの世界に関する一定の知識を有している必要があります。が、知識・書籍に触れることが出来るのは、通常貴族か富豪(豪商)のみでしょう。けれど、それだと家を出て冒険者になる動機付けに不足します。
だから、主人公は「貴族の庶子」。知識を得ることは出来るけど、家を継ぐことは出来ず、それどころか親兄弟に疎まれる立場。この設定が成立したのです。
さぁ、これで執筆が出来る。そう思ったこともありました。
現実は、そんな甘いものではありませんでした。
まず、いきなり第03話で主人公はヘタレました。このフォローの為、当初はワンエピソードで関わるだけだった孤児院が、前面に出てきました。結果、第一章はこの孤児院を中心にして展開されることになります。
第二章でヒロインが登場。けど、ヒロインを治療する根幹である腫瘍。その元凶が、実に第三章まで影響することになります。実を言えば、その腫瘍の元凶は、匂わすだけで出てこない筈だったのに、それが旅に出る動機付けになってしまいました。
ちなみに、この作品。一通りのアウトラインが成立した時、全五章だったんです。
冒険者になり、旅に出るまでが第一章。
旅に出て、戻ってくるまでが第二章。
騎士になり、国が滅びる第三章。
開拓を始め、国を興す第四章。
そして興した国が国際社会で成立するのが第五章。
ところが、当初の第一章が二章に分章され、
当初の第三章では国の滅びを語れなくなり、
当初の第四章では開拓が始まらず。開拓を始めるまでと、開拓と、そして建国で、それぞれ一章ずつ使い、全八章。
最早、当初のアウトラインなどすっ飛んでいます。
そもそもアウトライン。
これは、書いているうちに「目次」に化けます(論文を書いている時もそうでした)。
そして、目次を書いているうちに、本文を執筆したくなります(これも、論文を以下略)。
その意味で、アウトラインが完成したのは、第八章の執筆を開始してから。
それ以前は作った傍から崩壊し、アウトラインとして纏まるのは本文が書き上がって文字通り「目次」になった後。
これじゃぁプロットとは言えませんよね。
そうなると、エッセイでアドバイスする内容は、基本に戻るだけ。
「序論」(導入)。
「各論」(書きたいエピソード)。
「結論」(物語の着地点)。
この三つを抑えれば、おそらくエタることはないでしょう。
だから、この三つを抑えること。それが最低限のプロットと言えるのではないでしょうか?
(3,088文字:2016/09/03初稿)
 




