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その一 テンプレ万歳

 物語の世界観を説明する。

 これは、物語を書く上で必要なことでありながら、とても難しいことです。


 たとえば、異世界ファンタジー。

 その世界がどのような世界で、どのような国家があって、どのような問題があるのか。


 「それを説明してくれなければ何もわからないよ」


 果たしてそうでしょうか?


《例文》

 俺は、冒険者ギルドに足を踏み入れた。

《例文ここまで》


 この一言だけで、ある程度の世界観を読み解くことは出来ないでしょうか。


 この世界は中世ヨーロッパ風異世界であり、そこには冒険者という立場の者がいる。

 つまり、(魔法があるかどうかはわからないけど)魔物やそれに類する人類の脅威となる生き物がいて、それと戦うことを専門にしている、けれど正規の軍人ではない「ならず者」に類する「冒険者」と呼ばれる者たちがいる。そしてその「冒険者」たちを束ねる「ギルド」(ギルドの語義は同業者の互助組合)がある。

 ギルドでは魔物の討伐の依頼の他、薬草や希少鉱石等の採取などの依頼、または引越しの手伝いや公共施設の清掃などの依頼を請けることもあるかもしれない。

 ギルドに所属する冒険者は大体ランク分けされて管理され、難しい(つまり報酬の多い)依頼は高位ランクの冒険者でないと受注出来ない。

 ついでに、主人公は男である。


 ……先の、たった18文字で、これだけのことを読み取れるのではないでしょうか?


 ただ、当然ですがそれには条件があります。

 それは、作品がWeb小説或いはライトノベルと呼ばれるジャンルであること。

 読者が、その作品をWeb小説或いはライトノベルであると認識して読んでいること。


 つまり、「ラノベのお約束」、言い換えると「テンプレ」です。


《例文》

「おっきろ~!」

「うわ、何しやがる」

「起こしに来てあげたんじゃない。早く起きなさいよ」

「お前が乗っかってるから起きれないんだ。いいから下りろ、重い」

「誰が重いですって?」

「いいからどけ! そもそもお前、どうやってこの家に入ってきた?」

「普通に玄関からだけど?」

「鍵がかかっていただろうが!」

「おばさまから合鍵預かっているもん。アンタ一人じゃ起きれないだろうからって、おばさまに頼まれたから、仕方なく起こしに来てあげたんだからね。アンタの為じゃないんだから、勘違いしないでよ」

「おふくろ~~~~」

《例文ここまで》


 よくあるラブコメの一シーンです。この246文字の会話文からも、次のような情報を読み取れるでしょう。

・ 主人公は一人暮らしをしていること。

・ 主人公とヒロインは幼馴染であること。

・ 主人公とヒロインは双方の親から一定の信頼(と将来に対する期待)があること。

・ ヒロインは主人公に少なからず好意を持っていること。だけど素直になれずとげとげしい態度を取ってしまうこと。

・ 主人公はヒロインの気持ちに(少なくとも表面上は)気付いていないこと。

・ 主人公はヒロインの行動を少々(わずら)わしく思っているけど、(うと)ましいとまでは思っていないこと。


 これも、例えば一般文芸の読者では、ここまでの情報を読み取ることは出来ないでしょう。

 登場人物の気持ちや一言も言及されていない親の思惑など、超能力者でもない限りわかる(はず)がないからです。


 けれど、ラノベ読者にはこの会話文だけで通じます。

 ヒロインのキャラ付けとして「ツンデレ幼馴染」のテンプレ通りの行動だからです。


 昨今のライトノベルやWeb小説などは、テンプレしかないという人がいます。

 先駆者の後をなぞることでしか作品を描けない、という悪評を聞いたこともあります。


 けど。

 テンプレのおかげで枝葉の描写に紙面を割かず、作者が描きたい幹の部分を描き始めることが出来るのです。


 テンプレ異世界転生物。これも同じです。

 誰が、何故、何の為に、その世界に転生させたのか。

 「白い部屋で、神様が説明した」

 このシーンだけで事足ります。

 何故なら、その作品で語るべきことは、その世界の在り様ではなく、その世界で主人公がどのように生き、何をするかだからです。


 逆に、世界の在り様を語りたいのであれば、一体どれだけの文言を費やす必要があるでしょうか?

 拙作「転生者は魔法学者!?」では、「世界を()ること」を主題の一つに置いています。その所為(せい)もあり、転生の始まりを描写するまでに50万字程の字数を要しました。


 テンプレに頼りすぎると個性が無くなる。

 それは一つの事実でしょう。

 けど、世界観だのキャラ付けだのは、取り敢えずテンプレで輪郭だけを説明して、あとは必要に応じて補足していけば、それで充分でしょう。

 逆にテンプレを利用して読者をミスリードする、という技法も存在します(例えば王様に召喚された勇者が倒すべき魔王は、大きな力を持っているだけの善良な人間で、王様の方こそ魔王の国を侵略する野心を持っていた、とか。もっとも最近ではこれも一つのテンプレですが)。

 また、徹頭徹尾テンプレを貫き通すことで、逆に個性的な物語が生まれることさえあるでしょう。


 冒頭の異世界ファンタジーの例も、ラノベが世に市民権を得られるようになる前(より厳密にいえば〔水野良著『ロードス島戦記』角川スニーカー文庫〕以前)は、やはりそこがどのような世界かということを読者に理解してもらう為に、導入部でかなりの紙幅を割く必要がありました。

 「ファンタジー」が「ラノベ」になったのは、そこで「テンプレ」が成立したからです。それ以前は「文学」でしか描けなかったのですから。


 テンプレは、便利調理器具みたいなもの。

 無くても物語(りょうり)は作れるけど、あればもっと豊か()物語(しょくたく)展開(ようい)出来る。


 なら、進んでそれを使って、より豊かな物語を作り出そうではありませんか。

(2,466文字:2016/02/11初稿)

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