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9.起動試験と航行試験

物質結合分離現象→作用エネルギー輻射反射現象へ変更しました

コロコロ変わってすみません

前回の話

ユールヴェル機関を開発したザーレンヴァッハ

その副産物にビックリしたよ

上に報告したら所長になったとガートライトに言うとガートライトもビックリ

ザーレンヴァッハとヴィニオがなんか企む

 

 あれから2週間。ガートライトは様々な作業に追われ忙しなくしていた。基地外の停泊プールにある旧式の戦艦のブリッジを借りてクルーによる航行シミュレーションを行い、クルーの練度や不具合の有無を調べたり、操作性の問題を調整したり、弾薬食料類の発注及び運搬作業の確認と監督など。


 まぁ、一部は専門外(ガートライトも含めて)の仕事のせいで、幾度も失敗を繰り返しながらも体裁を調える位の足並みは揃えられるようになり、今日の日を迎えることとなった。


 起動試験の場所は開発試験場から往還高速艇で1時間ほど行った廃棄艦船集積場だ。

 帝国軍では何十年か毎に主力戦艦をリニューアルすることがある。

 後は古くなったりジェネレイターが作動不能に陥った時などもこの場所に集められ一時的に保管されている。

 一部技術者が必要とされる部品取りをしたり、鉄材を得るために解体等をするのだが、現実的には何も行われておらず、ただ集められるばかりだった。


 その名を枯れ花の苗床(フラワーズヘヴン)と―――――


 その一部の宙域を利用して、第35開発試験場では様々な実験などをしていた。

 いま、そこでは廃艦扱いとなった輸送艦が1隻、何かを待つように佇んでいた。

 そう、その10000m先に完成したばかりの試作戦艦が停泊していた。

 完成したふねは曳航船によってここまで運び込まれ、未だ自力で稼働してはいない。いや、ユールヴェルン機関の始動実験はもちろん済ませてはあるが、ふねとしての機能は未だ試験をしていない。


 ガートライトとクルー10余名が往還高速艇で試作型戦艦の艦尾下部ハッチから乗り込み、予備電源が点けられた中を艦橋へと進みそれぞれの席へと着き、計器のチェックと始動のためのシークエンス作業を始める。

 この日までのシミュレーションの成果が試される訳だが、皆よどみなくテキパキと作業を進めていく。

 ガートライトは艦橋後部にあるクルーを見渡せる席へと座り、ホロウィンドウを立ち上げてクルー達の作業を随時チャックする。

 艦橋内の配置は前から3ー2ー1となっている。

 前3人は中央に航海士長、ガートライトから見て右側が通信索敵士長、左が機関士長となっている。

 次の列は右側に船務士長、左側には副長のアレィナが座っている。

 最後の席は少しだけ高くなっていて座席からクルーを見下ろすようにガートライトが着席している。

 

 クルーの性格なんかはこの1ヶ月過ごしていて大体は把握したつもりでいる。

 航海士長のエルクレイドは、芯の通ったチャラい男と言ったところか。経歴を見てみるとどうもスピード狂というか、猪突猛進的な性格であることは分かっている。

 上手く手綱を握れるといいが、とガートライトは考える。

 

 通信索敵士長のレイリンは担当を間違えてるんじゃないかというほどの脳筋娘だ。果たして通信や索敵など出来るのかと訝しんでいたが、補助についたAIがしっかりサポートしてくれて何の問題もなく作業が行われている。

 通信担当が喋らないのは少し問題だが。

 機関士長のバイルソンは年齢も相まって本当に頼れるおやっさんだ。

 この開発試験場付きの技術者であるが、何故こんな所で飼い殺しにされてるか不思議でならなかった。(まぁ、いろいろ後で分かったが)

 

 船務士長のアレクスは、少々変わり種で平民出身でどこかの研究機関から軍へと入ってきた人間だ。コネか才能かは分からないが、こんな所まで来させられて少しは同情してしまう。

 本人はいつもボーッとしているから、気にもしてないのかも知れない。

 

 副長はすんごいマジメさんだ。(少し引くよな)とガートライトは思う。

 あとは予備シートにザーレンヴァッハの部下が数名テレメトリーを確認しながら記録に余念がない。

 やがて準備が終わったらしく機関士長が計器類を見ながら報告してくる。


「メインジェネレイター稼働安定、サブ電源よりボルトシフトします」

了解(I・K)。ボルトシフト開始」


 ダブルチャックの後(実際はトリプルチェック)、機関士長が機器の操作をしてユーヴェルン機関(メインジェネレーター)へ動力を繋げる。

 フィーンと唸り音を上げた後、艦橋全体が切り替えられた照明により明るくなる。


「艦内チェック開始」

了解(I・K)」「了解(I・K)」「()」「了解(I・K)


 アレィナの号令で艦内チェックを開始する4人。

 現在の操艦や機器の操作にはホロウィンドウとホロキーボードによるものが主流なのだが、この間はコンソールとホロキーボードの併用になっている。

 初めて使う人間には大変なことになるだろう。

 しかしここにいるクルーは最初の頃は多少手間取りはしたが、今では手慣れて流れるように発進シークエンス作業を行っている。恐るべしヴィニオのシミュレーションマシンとガートライトはちょっとだけ震える。

 全ての作業が滞り無く終了すると、インジケーターが全て正常グリーンのシグナルを表示してくる。


「艦長発進準備完了しました。ご命令(P・C)を」


 艦長制帽を被り直し、全員の姿を見回しガートライトが立ち上がり命令を下す。


「ただ今より航行試験を行う。進路 F−4−G9。微速前進」


 航海士長が航路を復唱しコンソールを操作する。


了解(I・K)進路 F−4−G9。微速前進」


 艦橋がビリビリと振動して右方向へと艦首を向けて前へと進み始める。

 問題はないと思いながらも、未だ緊張の糸を張り詰めるクルーを尻目にガートライトは前方を見やる。


 数世代前からあらゆる艦船に“窓”が無くなった。

 外部の状況は3次元レーダーと外部モノアイによるホロモニターで行っている。

 まれに窓がない船など恐ろしくて乗れない。などという高齢の人間もいるが特に事故もなく、問題なく過ぎていたからだ。

 

 外が見えないとやっぱつまらないなーとガートライトは心の中でふっと思う。さすがに口に出すのは憚れると空気は呼んで言わないようにしているが、1人だけリラックスし過ぎな感がある。

 副長のアレィナなどはその様子を見てジト目をガートライトへと向けている。

 ガートライトは気付かぬふりを制帽を直すふりをして自分の目の前に覆ってホロモニターを見ている。

 惑星と開発試験場を背にしているため、目の前は全て漆黒の空間が広がっている。星も無く確かに肉眼で見たとしても、人の知覚ではそれを把握する事など不可能だと理解はできる。

 

 でもつまらない物はつまらないのだ。

 ガートライトがPictvでも見ようかなぁと端末をいじろうとした瞬間2人に睨まれる。

 ジロリ×2


『ガーティ』


 小声のヴィニオにガートライトは小さく溜め息をふぅと吐き、前方のホロモニターと簡易レーダーを見やる。

 艦橋前面を全て覆うほどのホロモニターには、やはり漆黒の宇宙と立体表示されたこの艦のミニチュア映像が映し出されている。

 ひと昔前のレースゲームの様なそれは、より艦の機動を分かりやすくした物だ。

 そこには帝国規格の3次元方位識別グラフノフ、そして速度表示レティクル。

 人が動きを認識する為には、対象が必要となる。宇宙空間ならなお更だ。

 これは宇宙を放浪して来た人類の生きる為の知恵に他ならない。


「航行安定。第2船速へ移行します」

「第2船速前進開始」

了解(I・K)。第2船速前進開始します」


 航海士長の声にガートライトが応える。そして復唱の後速度を上げる。

 グンと加速が増し、一瞬シートに身体が押し付けられる。

 重力制御が追い付かないのか、皆が少し驚きを表す。


「ジェネレーター正常機能。問題ありません。しっかし化物だなこりゃ」


 機関士長が思わず心の内を漏らす。ガートライトもそう思う。第2船速でいわゆるローズトラン級戦艦の第3船速のパワーゲインへと迫っている。

 本来駆逐艦クラスのこの艦がだ。同乗しているザーレンヴァッハの部下達がテレメーターを確認しながら頷き合ってる。予定通りなのだろう。

 しばらく第2船速で航行していると、コンソールのテレメーターに変化が訪れる。全ての数値が少しばかり上昇し始める。


『やはりジェネレイターとターレナスバーニアの調整パランスはあまりよろしくない感じですね』


 ヴィニオがそう声を掛けてくる。気付いたのは機関士長ぐらいか。まぁ何事も順調に行く訳ではない。


「航海士長、第1船速へ速度を変更。航行試験を終了する」

了解(I・K)。第1船速へ速度落とします。………艦長何かあったんすか?」


 航海士長が復唱してから不思議そうに問いかけてくる。


「いや、これだけのエネルギーゲインを見てみると充分だろうと思ってね」


 そう言うガートライトを訝しそうに見るが、肩を竦める仕草をして前に向き直り再び操舵に専念する。

 性能的には満足の行く結果だと思うが、課題は山積みだなぁとガートライトは独りごちる。


「それじゃ次の試験に移るからさっきの場所に戻って」

了解(I・K)第1船速(ファストセイルド)戻し減速、フロントスラスター噴射、5セコンドリバースします」


 航海士長の言葉と共に艦が速度を落とし停止する。

 ガートライトはいい腕だと内心舌を巻く。そもそもこれだけの艦になるとAIのサポートがあるとは言え、ひと1人に操艦というには荷が勝ち過ぎるものがある。

 だがそんな事を思い起こさせないほど、彼の操艦が卓越したものだった。

 こんな場所にとばされるような人材ではない。本来ならだ。


「飛ばし屋エルクねぇ……」


 その呟きは誰にも――――いや、側にいるヴィニオ以外には聞き取れながったが、諦めにも似た何かがガートライトの口からこぼれていた。


「180度回頭のち、A−0−A0地点へ帰投します。艦長、全開試験はしなくていいんですか?」


 航海長が身体をウズウズさせながら、こちらを見ずに聞いてくる。


「今回は見送りかな。どうだい、行けるかい?」


 前者は航海士長へ、後者はザーレンヴァッハの部下への言葉だ。


「艦長のおっしゃるとおり見送るのが良いかと思います。少し一考が必要かと……」


 乗り込んでいる研究員の言葉にガートライトは内心安堵する。

 ガートライトに気付いたものが彼等に気付かぬ訳が無いのだ。


了解(I・K)。転回後第1船速を維持し帰投します」


 ガッカリした航海士長を脇目にガートライトはたった今調べられた船体のデータを流し見る。

 やはりユールヴェルン機関とこの艦の機能がミスマッチングを起こしているのが見受けられる。

 

 まー、そもそも廃艦1歩手前の船体に化物ジェネレーターを取り付けるってのが無理があった気もする。

 こうして先程まで停泊していた場所まで戻り停止する。

 やっぱり上手いなぁとガートライトは再度心の中で舌を巻き唸る。


「第2シークエンスへ移行します」


 ザーレンヴァッハの部下がそう言って指示してくる。


了解(I・K)。第2シークエンスへ移行。両舷腕部前面へ移動。エレメントリフレクトフィールド展開」

了解(I・K)。腕部移動後erf展開します」


 ガートライトが頷き機関士長へ指示をする。機関士長が復唱しそれに応える。

 艦の前部両サイドに付けられた腕というには少しお粗末な棒状の物が180度後ろから横へ回転して前へ移動する。

 目の前に浮かぶ艦の立体映像を見てまるで前倣えだなとガートライトは幼年学校低学年時にやった体錬の授業を思い出しほくそ笑む。


「|エレメントリフレクトフィールド《erf》展開しました」

「微速前進でで目標へアタック。ゆっくりでいいよ」

了解(I・K)。微速前進します」


 粒子変換されたエネルギーがターレナスバーニアから噴射されゆっくりと目標―――すなわち廃棄艦船ゆそうかんへと移動を始める。

 こちらは副産物であるerfエレメントリフレクトフィールドのデモンストレーション代わりの実験である。

 ゆっくりじわじわと目標である廃棄艦船へと向かって行く。


『ガーティ!』

「ああ!、微速前進停止!逆噴射(リバーストレイル)5│セカンド!急げ!」

「っ!了解(I・K)。前進停止、RT5S開始します」


 航海士長がガートライトの命令通りに作業を行う。

 慣性で移動する艦に制動が掛かり身体がシートへ押し込まれる。


『erf、目標へアタック』


 抑揚のない声で索敵通信士長代理(AI)が状況を伝えてくる。

 廃棄艦船の左舷―――真横の腹の部分へ2本の腕が刺し込まれる。廃棄艦船はerfの作用エネルギー輻射反射の現象が繰り返されて次々と連鎖崩壊を起こしていく。そうその2ヶ所だけ。

 艦首が接触する前に何とか停止することが出来た。

 ガートライトは冷や汗を拭うように額に手を当てる。


「あー、まじやばかったな。えーと少し後退して」

了解(I・K)。後退します」


 皆状況が理解できたようで、安堵の空気が艦橋に流れる。

 そう、erfはフィールドが展開できる範囲は腕に着いてる鉄塊の部分だけなので、その間にある艦首はぶつかれば普通に損傷することになるのだ。

 何で気付かなかったのか、アホかとガートライトはつい思ってしまった。自分も直前まで気付かなかった訳であるが、ヴィニオに突っ込まれる恐れがあるので口にしないだけだ。

 しかし廃棄艦船の損傷を見れば、ある意味効果は覿面てきめんなのだがどう見てもインパクトに欠ける。

 ザーレンヴァッハ達も見てるだろうし、ちょいと演出を効かせてみようとガートライトは口を開く。


「航海士長!機関長。目標に並列した後erfアームを90度移動。のち左舷上部スラスター及び右舷下部スラスターを10秒噴射、その後リバーストレイル」

「│了解《I・K》。erfアーム移動後、左舷上部、右舷下部スラスター10S噴射のちRT」


 ガートライトの指示に戸惑いつつも、航海士長は命令に淀みなく応じる。

 前後のスラスターを器用に使い分け、廃船艦と平行に並ぶと機関士長がerfアームを横へと移動させる。立体映像の艦がと十字架のよう姿を見せる。


「erfアーム移動完了」

「スラスター噴射します」


 機関士長の言葉に航海士長が言葉を続ける。


「全クルー。シートフック固定。ヴィニオ、│重力制御《Gコントロール》を艦橋下部へ」

了解(I・K)」「了解(I・K)」「()」「了解(I・K)」「了解(I・K)

『畏まりました』


 返答とともにシートに備え付けのシートフックが後から回転し身体を支え、床面に身体が押さえ付けられる感覚が起きる。

 erfアームが両手を広げたような形になり、それぞれのスラスターが10S噴射される。 ゆっくりと試験艦が回転を始め廃棄艦船に近付くとerfアームが廃棄艦船を捉え押し潰すように装甲を破壊していき前後に真っ二つにしてしまう。

 それを見ていたクルー達とザーレンヴァッハの部下達は口をあんぐり開けてしまう。


「こりゃ、いかんなぁ」


 ガートライトは肘掛けに腕を起き頬を手の平に乗せて思わず独りごちた。




(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

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