8.ユールヴェルン機関
だいぶ間が空いたので前回の話
副長のアレィナさん。元カレのガートライトと出会って
思わずボディブロー 事故でアレィナさんの記憶がないと知りorz
だけどヴィニオとけんか友達?
ヴィニオとアレィナの噛み付き合いが終わった後、ガートライトは彼女に詰問される。何故か女性関係を事細かく執拗に詳細に聞いてくる。
しかし何故か女性と縁の無かったガートライトは簡潔に何も無いと説明する。それを聞いたアレィナは嬉しそうに拳を握り締める。
何でそんな事を聞くのかをガートライトは不思議と思ったが、後でヴィニオがあれは過去の過ちを取り戻す為の無駄な努力と言い捨てる。仲がいいと思ったが違うのだろうかと少しだけ己の過去が気になった。ガートライト自身こういうのは思い出すものはどんな事があっても思い出すと考えている。なので10年経って思い出さないのだから、たぶん思い出さないんじゃないかとも考えている。いかんループしてると独りごちる。
新参者のいろいろな儀式(懇親会etc)をどうにかこなして1週間が過ぎた現在、ガートライトの執務室にザーレンヴァッハが諸々の事を説明するため来ていた。
「俺的には楽が出来ていいんだが………。いつになったら試験艦に乗れるんだ?」
ドリンクサーバーから紅茶を出してザーレンヴァッハへ渡し、自身はコーヒーをテーブルに置いてソファーで対面する。
「そうだな………。ユールヴェルン機関の調整が済めばすぐにでも乗り込めるが、あと1週間は掛かると思う。それまではシミュレーションルームで操艦訓練をしてもらう事になるな」
「ふむ、で?ユールヴェルン機関てのはどんなもんなんだ?」
ガートライトの問いにザーレンヴァッハは待ってましたとばかりに語り始める。
「そもそもエネルギー発生装置ってのは、幼年学校時代に俺達も学んでいるんだが覚えてるだ?確か12年か13年時のことだから」
「んー、うろ覚えだが………何となくだがまぁ………」
ここで語られているのは昔ながらの化石燃料や核分裂を利用した動力や電力のことではなく、ある触媒を利用したエネルギー発生装置のことだ。
EdΔ96121と名付けられてその物質は、空間にある粒子を条件が合致するとエネルギーを発生させる。そのエネルギーゲインは、物質拳大で80億を越える人類を100年賄う程のものだった。
今迄の既得権益など吹き飛び意味を成さなくなる程に。
その後のゴタゴタが元で人類がこんな所にいるハメになっていることは上級貴族は教えられているが、下級貴族、市民階級の人間にはあずかり知らぬことではある。(何気に2人は知っていたりする)
その物質がもたらしたエネルギー革命は、宇宙への進出と宙間ゲートの発見、そしてとある戦争のトリガーとなって今に至る訳である。
「物質クロイツェイのエネルギー発生装置ばかりに依存している今の状況は必ずしもいいとも言えないと考えた人間がいたわけだ。これが」
そう言って端末を操作し、ホロウィンドウを表示してガートライトの方へ放ってくる。クルクル回りながらガートライトの目の前にやって来たホロウィンドウを見て右手で顎を擦りながら独り言のようにボソリと呟く。
「ユールヴェルン・オーゼリア博士。ん〜、これって130年前に書かれた論文だよな。……確か新物質を媒体ととした│エネルギー発生装置の構築とその運用……だったけか?」
ガートライトの言葉に目を丸くするザーレンヴァッハ。知ってるとは全く思っていなかったのだ。
「でも、これ、やたら文字化けと欠損部分が多くないか?これじゃどんな内容か理解出来ないんじゃないのか?」
そう、ザーレンヴァッハが見せた論文は、あまりにも欠損部分が多すぎて内容を推測しながら読み解いていくしか無いものだったのである。
「んー、それは発見されてライブラリーデータが何かの影響で壊れたらしくて、結局発掘できたのがそれだけだったんだ………」
悔しさを滲ませてザーレンヴァッハがそう答える。完全な形でこの論文が発掘できていれば、もっと早く効率的に作業が進捗しただろうことを思うと、少しばかり惜しむ気にもなる。
「あれ?これって………。ヴィニオ、論文関係のアステロイドってどこだっけ?」
アステロイドとは、ネット上で個人のデータ保管を行うメモリスペースのことである。ガートライトはこのアステロイドを複数所有しており、様々なデータの保管庫として利用しているのである。この試験場に来た時点で自分のデータはこちらのサーバーに搭載済みである。
論文をスクロールさせて流し読みしていたガートライトが、何かに気付いてヴィニオへデータの在り処を聞いている。
『それでしたらB-428934-Cu4ですね。ちょっと待ってください、今出しますので、………ウィンドウに表示します』
ホロウィンドウに表示されたそれは、ザーレンヴァッハの目の前へと滑る様に飛んでいく。
「はあぁっ!?」
ザーレンヴァッハはそれをスクロールさせながら文字を追い見て驚きの声を上げてくる。
「何でお前が完全論文を持ってるんだっ?」
そうそれは先程ザーレンヴァッハが見せた論文のデータ欠損の無い完全な物だったのだ。
ザーレンヴァッハの疑問にガートライトは頬を掻きながら恥ずかしそうに答える。
「いやー、ほら俺の趣味って言うか何と言うか、データとかpictvとか集めるの好きじゃん。そんで色々惑星都市とか巡ってた時、学校とか資料館のデータライブラリーにお邪魔してコピーしてたって訳よ」
『主に私がやってましたけどね。ガーティはもっぱらpictv集めばかりでしたけど』
ヴィニオがチクリと棘を刺してくるが、いつものやり取りだから然程も堪えた事もない。
ザーレンヴァッハは1人唸りながら、論文を読み進め感嘆している。
「もう少し早くこれが……っ、くーっ何だよっ!もうっ!!」
悔しそうに頭を掻き毟るザーレンヴァッハへガートライトは反論する。
「いや、逆に欠損してたから良かったと思うぞ。ある意味それが無かったら大事になってたと思うしな」
「どういう意味だ?」
ザーレンヴァッハが不思議そうにガートライトへ聞き返す。これがあれば実証実験だけで効率良く研究が進んだはずなのだ。
「最後の方に映像データがあるだろ。ユールヴェルン博士は物質同士をぶつけちまってどえらい事になってるから」
ガートライトに言われウィンドウを最後までスクロールさせ出てきた映像デイータを再生させる。
そこには、どこかの惑星の砂漠地帯に直径数kmに及ぶパイプ状のものが円を描いており、その一点に巨大な粒子加速装置が取り付けてある。
モニターが4つの画面に分割され、数km先からの俯瞰された望遠画像、パイプに設置されたカメラ群、各種数値を表示するパラメーター、そして粒子加速装置本体。
カウント10からのカウントダウンが男性の声でして、粒子加速装置の予備動作の振動が響き聞こえ、カウント0なった瞬間、監視カメラとパラメーター表示、本体の映像が白く染まり――――ホワイトアウトし、画面は黒く何も映さなくなる。
望遠映像の方は、粒子加速装置とパイプ本体を中心に爆発が広がる様子が見られ、次に衝撃波を受けノイズが走った後、こちらも黒く沈黙する。
「な、何だこれっ!いや、………確かに可能性も……いや、しかし……」
ザーレンヴァッハが目を見開き顔を青褪めさせる。
「ん~論文の元々が物質の性質やら特徴の説明で実証実験したのはついでだったみたいらしいが、今もだけど、当時も予算が潤沢だったおかげでかなり大規模な施設が作られて実験が行われたのがこの大爆発らしい。んで一時的に凍結してたんだけど………」
少しばかり肩を落としてガートライトの言葉を引き継ぐようにザーレンヴァッハが話し出す。
「その論文を俺が見つけて新たに開発して確立させちまったってことか………。ってか何?この数値。おかしくね?一瞬で5級都市半分のエネルギーゲインってありえないだろっ!」
映像テータの後ろには、この時の破壊を免れた計器類が数値化され並んでいた。
エネルギー研究を生業としている研究者がいたら、有り得ないと鼻で笑ってゴミ箱へ投げ捨てることだろう。
「うぉぉ………。やっべぇ、何?この綱渡り感………。こわっ」
普段の所長としての態度を忘れて、論文を見ながら頭を抱えて青褪めるザーレンヴァッハ。正直過去の自分にもう少し慎重に進めろと言いたくなる気分だった。
その間にガートライトはヴィニオに渡されたザーレンヴァッハが提出した論文を流し読んで、感心しながら宥める。
「ユールヴェルン博士は理論畑の人間だったから、技術的なスタンスに立っていなかったせいで、あーいう結果になったけど、お前はその技術的なことを踏まえてブレイクスルーを起こしたんだ誇ってもいいと思うぞ。誰も粒子同士を擦過接触させてエネルギーゲインが得られるなんて、夢にも思わないだろうよ」
ガートライトにそう褒められザーレンヴァッハは少しだけ気分を持ち直す。
「って知ってたのかよ!機密扱いの情報どうして知ってんだよっ!!」
「いや、なんか話が脱線してきたんで、いま読んだ」
それを聞いて誰が情報を、と思ったが、すぐに気が付き肩を落とす。
「ヴィニオ嬢………」
少しばかり恨めしそうにガートライトの胸元を睨む。
『“論文”だけですよ。他の物には手も付けてません』
しれっと言葉を返すヴィニオに、言外に簡単に手に入ると示唆してくるのを見せて、ザーレンバッハは呆れる様に溜め息を吐きソファに寄りかかる。
うちのシステムはザルなのかと見直しをしなければと考えるが――――――
「ヴィニオ嬢」
『はい。承りましょう』
ザーレンヴァッハが何も用件を言わないうちから了承してくるヴィニオに笑顔を見せる。どちらかといえば黒い方のだ。
「では、開発試験場内におけるセキュリティ及びデータの管理を一任します。より強固にお願いしたい」
『畏まりました』
お互いがニヤリと悪巧みをするように笑い合い(実際ザーレンヴァッハは笑ってる)理解したように言葉を交わす。
なーんか厄介な事に巻き込まれそうだなぁーと独りごちガートライトは肩を竦める。
「まぁ、ほどほどにな」
ザーレンヴァッハがヴィニオとセキュリティ管理について話していると思い出した様にホロウィンドウを出してガートライトへと放る。
「驚かそうと思って見せなかったが、ヴィニオ嬢には筒抜けだし艦のデータを渡しておく。何か思いつく事があったら言ってくれ」
「ほいよー」
ホロウィンドウに表示されたスペックデータと艦船の姿は、以前ヴィニオが見せてくれた物と同一の物だった。
リリィトラン級戦艦の胴体先端の両脇部分にヒョロ長い腕の様な棒の先に付いた鉄球状のもの。あれで何かを殴れって事なのだろうか………。与えられた物に不満を言うつもりは無いが、やはり少しばかり不安にはなる。
「なぁ……、この腕みたいなものって強度とかって大丈夫なのか?当たっただけでポッキリ逝っちゃいそうなんだけど……」
ガートライトの問いにザーレンヴァッハが別のホロウィンドウを出して映像データを見せてくる。
「この俺が開発したユールヴェゥン機関の副産物と言えるもんだな。名付けるとすれば“エネルギー作用輻射反射現象”(エレメント リフレクション フェノメノン)ってとかかな」
見せられた映像とヴィニオから渡された論文を改めて見直してガートライトは目を丸くする。
ある意味最強じゃね?これ―――――――
映像データが流れ出し、実験室のような部屋と作業をしている白衣姿の男たちが現れてくる。
彼等の前には粒子加速装置の模型が置かれ、触れられない様に目の前にゲージで仕切られている。
いや、どうやら小型化した粒子加速装置のようだ。ただ、部屋の大きさからみて大したエネルギーが抽出される物ではなく、動作確認の為のもののようだ。
そしてその最中に異変が起きる。
研究員が手に持っていたペンが何かの拍子で滑ってクルクルと実験装置の方へと飛んでいってしまう。
低重力下のせいか、そのペンは漂うように回転しながらゲージを越えパイプの上を過ぎる瞬間、そのペンは等倍の速さで飛んで来た方向と逆に辿る様にヒュンと飛んで壁へと突き刺さりペン自体は壊れてしまった。
その後検証として鉄の廃材がその場所に押し付けられると、廃材がそこから押され進む毎に崩壊していく。どうやらエネルギーそのものが反射され連鎖反応で崩壊を起こしてるようだ。
ガートライトはパズルゲームで同色のアイテムが3つ揃うと消えるヤツを想いだす。うまく組み立てると連続して消すことが出来、それが全て相手への攻撃なるのを。なんか違うか?
資料を読み解いていくと、運動エネルギー、仮にKがerfに接触するとそのKを等倍にして反射する。Kの2乗、それにさらに接触するとKの4乗、Kの16乗、Kの256乗とフィールドが発生している限りエネルギーの反射が続いていくらしい。ガートライトは物理はあまり得意ではない。
しかしこれは考えれば考えるほど恐ろしい物だった。
「何っ?これ!こっわっ!!」
ガートライトは映像に目を丸くして驚き見やる。
ザーレンヴァッハはその顔を見てしてやったりと笑いながら話し出す。
「そいつの後いろいろ調べた結果、物質から発生した粒子を加速させると作用エネルギー輻射反射という現象が起きることが推測された」
あくまで想定の域を出ない話なので、ザーレンヴァッハ自身は細かく追求はしていない。彼自身は研究者というより技術者であると認識しているのだ。
なので現象のロジックの追求よりもその現象が何に利用出来るかに重点を置くわけで、知れりたければ自分で調べてねという訳である。(ユールヴェルン機関もあわせて、別の班が担当してはいる)
そしてザーレンヴァッハはこのジェネレイターと作用エネルギー輻射反射現象システムを利用したものを上層部に提出したところ、何故か採用された上に開発試験研究所の所長に任命されたのだ。
ザーレンヴァッハはこの事態に何で!?と思ったが、所詮軍人である身なので拝命されたことは謹んで受けて半年前にこの第35開発試験場へ来ることになったのだ。やってることは以前と変わらないのだと笑ってガートライトに話す。
「船体自体を粒子加速装置に見立ててエネエルギー発生装置を組み込み、副産物の現象を利用するってことだな」
「なるほど、だから近接戦闘用の戦艦ってことになったわけか。でもそれなら先端に現象を発生させて体当たりでも良くね?」
ガートライトの言葉に「あっ」と口を開け目を少し逸らして口をモゴモゴさせて、言い訳する様にザーレンヴァッハが答える。
「現象の発生の時間とかいろいろあるんだよ。それに本体に発生させてダメージを受けた場合、最悪ジェネレイターが停止するおそれもあるからあまりお薦め出来ないんだ」
ふむふむと口元を少し緩めながらガートライトは納得したフリをする。確かに血液のように船体に張り巡らせた粒子流動チューブに傷がついただけでも機能が停止したのでは目も当てられない事を考えればさもあらんと言った所か。
ガートライトは戦艦のスペックデータと│ユールヴェルン機関の取説を眺めながら、艦長として何をやればいいのかと優先順位を頭の中で組み立てていった。
その間ヴィニオとザーレンヴァッハは「フフフフフフ」と互いに黒い笑い声をあげて悪巧みをしていた。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
自分この手の科学知識皆無でテキトーにでっち上げております
ですので、あーそうなんだ―と流して頂けると有難く思います
分子結合分離現象→物質結合分離現象へと修正しました
物質結合分離現象→作用エネルギー輻射反射現象へと変更しました
コロコロ変わってすみません