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55/55

55:強襲する者達?

大変遅くなり申し訳ありません<(_ _)>ありません………<(_ _)>

前回のお話

 

帝都にて御前会議

そして賊軍への再討伐が決定

皇子皇姫の反応は様々で思いも様々


 

 

 それは何も知らないものが見ればただの岩塊としか見えなかったであろう。

 大きさとしては2、300m程の細長く一定の速度で漂流していた。

 その数は5。その全てがその場所へと向かっていた(・・・・・・)

 ただ静かに息をひそめるように。

 

 いや、実際に息をひそめ微かな光の中で緊張に身を張る者達がいた。

 岩塊の中に。

 

「対象距離1000を切りました。これより推進動力を0にし、スラスターのみで航行します」

了解(I.K)。500までは悟られるな」

 

 オペレーターの報告に、艦長たる壮年男性はそう言葉を返す。

 それを聞き操艦担当員は、さらに緊張に身を強張らせる。(とは言え、自身の許容範囲を超えるものではない程度)

 岩塊はばらけるように移動しつつ、微妙に方向を変えて進んで行く。

 

「まもなく距離500」

了解(I.K)。500を超えた時点にて会話による報告を禁ずる。これより後は操指会話(ハンズサイネ)及び文字伝達(ワーズテレスク)にて行う」

『『『了解(I.K)』』』

 

 艦長の言に一糸乱れず全員が声を揃えてそれに唱和する。

 

「――――4,3,2,1.距離500ライナに入りました」

 

 距離500を超えてそのラインを過ぎても、相手方からは何の反応も現れなかった。

 

「………どうやら妨害障壁(ジャミンゲウォーレ)は効いているようだな」

 

 そんな艦長の呟きに、操船室のクルー全員から突っ込みが入った。

 

『お静かに』『命令者が命令破らないで下さ』『………は(笑)』

 

 情け容赦なくホロウィンドウに文字列が羅列されるのを、コホンと1つ小さな咳ばらいをして端末から文字を入力する。

 

『現時点より予定通りに計画行動を開始する。各員指定の配置につけ』

 

 つけったらつけ。様々な薫陶を受けている帝国の人間は、上位者の言にすかさず諾と応える。

 

 こうして彼等による第35開発試験場(・・・・・・・・)への侵攻が始まる。

 

 目的地へと到達すると、それぞれの艦船から搬出された兵がその地に達すると、まさに予定されていたと思わんばかりに行動を開始した。

 何の妨害もされる事ない事を疑問に思う事なく。

 それはまるで魚群の様に、ひと塊になりながらそれぞれ指示された目的地へと向かう。

 一部は動力部の制圧。

 一部は情報管理部の制圧。

 そして一部は中央指令部の制圧。

 

 これらは有機的に機能させる為に、ほぼ同時に行われる必要があった。

 その行程―――予定表は綿密に時間とその場所の記述されている。

 そして重要度に対し、A〜Fのランク分けがされて、さらに1〜12のカテゴリーに分けられていた。

 

 そして時間が経つにつれ、その行動は次々と成果を上がて行ったのだった。

 すなわち中央指令部がA1、民間人の居住区はF12というように記述によってなされた。

 

 やがてこの計画された行動は、次々と成果を上がて行ったのだった。

 

 そしてその成果は、次々と待機下にある中央指令部たる輸送艦へと報告がなされる。

 

『A8制圧』『B7制圧完了』『C1問題なし』

 

 進入開始から30分ほどが過ぎた現在、次々と責任者たる彼が望む成果が徐々にと言った感じで報告が上がってきている。

 これはかの主が呈した様に、あの計画表の通りに順調に事が進んでいる。 

 そしてその事に疑問をさしはさむ事は全くなかった。

 

 その事に根幹をなす物が、全員が身に着けている情報端末機器であったのだ。

 それは頭部全てを覆いつくすもので、その内部は視界全面がホロウィンドウで構成されており様々な情報が表示される。

 それもリアルタイムでである。

 

 これにより現在進行形で情報が全員に伝達され、遅滞する事なく行動が為されるという訳だ。

 現在の状況としては、B〜Eエリアを各10名を1チームとして制圧及び脅威の排除の遂行をしている。(Fエリアは民間施設等なので後回し)

 事前に指示されたルートを進みながら、現れる人間を問答無用で無反動銃(リアクレスガンズ)で除いているという訳だ。

 倒れている()はそのまま放置し、先へと進んで行く。

 

 この時点で岩塊にカモフラージュしていた輸送艦はその擬装を解き、港へと侵入し拠点を築いていた。

 

『言語規制を解除。これより通常体制へ移行する』

『『『了解(I.K)』』』

 

 その返事を耳にし、少しばかり指示者たる男性は韜晦する。この了解(I.K)も国家創立がされた時、別の文言に変えるべきではないのではないかという意見が発されたのである。

 だが、もしそれを実行したとして自身達の計画に著しい混乱を招く恐れを考慮して、その案は棄却されたのであった。

 まぁそれはそれである意味功を奏したという話でもある。(あるいは帝国の呪縛とも言えるなくもない)

 

 こうして一部分とは言え、多少の混乱はあったものの、その後は問題もなく計画は進んで行った。

 ある一つの想定外を残して。

 王国の、あらゆる人員が己が役目を果たさんとすべく動き流れるような行動をする中、1人の人間がその枠を外れるが如く動きを始めた。

 

 その輸送車に乗った兵達は、Dランクの制圧を命じられた者達であった。

 指示されたあらかたのカテゴリーを終え次の行動指示(めいれい)をあおごうとした時、1人の兵士が言葉を発する。

 

「うむ、大勢は決した。この後は我の思うようにしては良いと思う。どうであるか?」

 

 その凛とした突き抜ける様な声音。そしてそれを当然であると意識させてしまうその纏う空気。

 この場にいる兵士達は、何故かその姿に呑まれる。

 それは本人の資質ゆえか、あるいは血筋ゆえか。

 ある意味敵陣と言えるこの場で発する類のものとは言えなかった。

 

 だが彼はそう言いのける。

 さも自身がこの場での上位者たるを認識しているがゆえに。

 

「………ですが、王太子(かのかた)の命令は絶対であります」

 

 その言に1人の兵士がそう言って彼を諫める。

 心身ともに刻み込まれた思想おもいは、それでも彼のその言葉を跳ねのける意識を保てていた。

 だが(かの)者はその気質ゆえ、他者に対して傲慢に振舞う。いや、振舞える。

 

「うむ。確かに私はこの作戦にある立場で参加しているが、私の行動に対し全般的に委譲されている筈だが?」

 

 それは当然の如く、自分は上位者たるを彼等へと示したものだ。

 

「………ですが現在、重要作戦行動中につきその上位者たるは作戦指揮大佐であります。であれば、事前に報告する必要があります」

 

 どうんか意識を保ちながら厳格にそう告げる兵士。その視界の端に映るその顔はなんとも頑なであり、それに対してニヤリと口元を歪ませ言を返す。

 

「ならば報告をするがいい。早いか遅いかの違いである。よってこの場は私が単騎で行動する」

「………了解(I.K)

 

 道理を無理でぶった切るが如く、かの御仁は言葉通り単独(ひとり)で行動を開始する。

 他の5人を輸送車から降ろし、1人操車桿を操り移動する。

 

「くっふ。さぁて、どのような人間(えもの)がいるのかなぁ」

 

 1人になった途端、その表情を愉悦に歪ませて笑みを浮かべる。

 そう、彼―――オヴィフ―ロ・カァレンギアは、そういう気質の人間であった。

 すなわち著しい加虐志向を持つ性質であったのだ。

 

 そもそもの始まり―――いや、彼の一族はその血ゆえか、そうした気質のものが多く見られた。

 自身より位の低い者を見下し嘲て貶めるという。

 これは何故か代々のカァレンギア家がその様な気質を顕していた訳だ。

 

 であればこそ、前回の反乱においては首謀者の銘をうける事になったという理由にも至る。

 ようは、その気質のせいで蜥蜴の尻尾切りの憂き目にあった訳であるが、それを知るのは主家たるカレンギル家だけである。

 オヴィフ―ル自身は、特に何を含むというものはない。

 彼は彼自身の欲求さえ満たされれば、何も不満もなかったのだ。

 

 しばらく目的の場所へと進んで行くと、彼にとっての目標(えもの)が目に入って来る。

 歩道を1人の青年がこちらへとやって来たのだ。

 それを見てオヴィフ―ロは、目と口元を歪め愉悦を浮かべる。

 飛んで火にいる〜とはまさにこの事だと古の故事を思い浮かべながら、オヴィフ―ロは腰に装着した愛用の得物(じゅう)を撫でつけながら輸送車を停止して外へと出る。

 

 手に取った得物(もの)は常日頃オヴィフ―ロが使用しているものだ。

 全長は60cm余、円柱状のバレルの中間地点に弾倉(バレッタストレゼ)があり、その後方に引鉄とグリップがあるというものだ。

 これはオヴィフ―ロの生家から彼が幼い頃に見つけたものであった。

 

 それを見た時、オヴィフ―ロは魅せられた。

 そしてその威力に魅せられてしまった。いや、魅入られたのだろう。

 弾丸は鉄製の先端が鋭利に尖った10cm程のもの。

 それを圧縮した空気にによって撃ち出すものである。

 

 実際の威力自体はそれ程でもない。

 だが相手を痛めつける事に関しては、これほど都合のいいものはなかったのだ。

 オヴィフ―ロは口元をさらに歪ながら、目の前の獲物へと向かう狙いを定めて引鉄をひく。

 

 パスパススッという音と共に目標へとその弾丸が穿つ。

 目標はその身体を何度もその衝撃に震わせやがて伏せ倒れる。

 

「くくくぅっ!は、はっはははは――――――っ!!」

 

 そうそう。これだ、これだぁよっ!

 

 久方ぶりの行為にオヴィフ―ロの鼓動は高まる。

 オヴィフ―ロは(父親の)自領において領民に対しこのような行為を幾度となく繰り返していた。

 領民は己の()。何をしようとも誰も逆らう事はなかった。(いや、出来なかった)

 男、女、老人から子供に至る迄、オヴィフ―ロはこれを使い弑してきたのだ。

 

 そしてそれを是として彼の一族もそれに倣うようになる。

 ようは彼等は昔の釘打ち機で人間を打って愉しんでいたのであった。

 まぁそれが本家から切り捨てられる事の理由でもあったのだが。

 

 であればこそ万が一と、或いはと思わくを兼ねてオヴィフ―ロはこの作戦に参加する事にしたのであった(笑)。

 オヴィフ―ルは次の獲物を求め移動を再開する。

 大通りを進みつつ、1軒の家へと向かった。

 

 その表情は愉悦と嗜虐に染まり満ち満ちていた。

 次は誰だ?子供か女かジジィか。くふふふ………。

 扉を蹴り破り中へと進入し歩を進める。 


 この音に気付いてやってくれば、そのまま打ち倒せばいいのだ。さぁ、来いよ。

 愉悦をその貌に浮かべながら足を進めていくと、突然視界がブラックアウトした。目の前が闇へと染められる。

 

「っ!?なっ、何だこれはっっ!」

 

 いきなり起きた状況に慌てふためくも、オヴィフ―ルはどうにか次の行動へとすかさず移った。

 機能を停止した端末メットを無理やり外し叩きつける。

 

「くっ、なんだと言うのだ!この欠陥品(やくたたず)めがっ!!」

 

 それはどのような機器にも愛着も執着もなかったオヴィフ―ロは、その感情のまま怒りに任せゲシゲシと存分に蹴りたくる。

 端末であったそれは、カラコロと乾いた音を響かせて視界の端へと消えて行った。

 

「なっ!?こ、ここは………どこだ?」

 

 怒りが収まると、オヴィフ―ロはキョロキョロと周囲を見回す。だがそこは先程とはうって変わったとても同じとは思えない場所であった。

 そこは広いとは言いつつも、まるで建設途中の何の変哲もない壁や地面が連なっていたのだ。

 オヴィフ―ロがその光景に疑問を浮かべた瞬間、いきなりの衝撃が全身に走りその身体は弛緩し膝落ち崩れ伏せ倒れる。

 消えゆく意識の中、声が耳へと伝わる。

 

『スンマセーン。想定外(イレギュラレ)発生し()ました。既に対応済みでデース』

 

 それは人の声ではなく、スピーカー越しから発せられたとオヴィフ―ロは感じた。

 そしてそこでオヴィフ―ルの意識は途絶える。

 

   □

 


 

 先行隊は数多のエリアを攻略し、ついに所長室へと侵攻した。

 

「――――第35開発試験研究所所長タケオ・ザーレンヴァッハ殿ですね」

「………………」

 

 眼の前の所長たるザーレンヴァッハへと銃を向けて、1人の兵士が誰何する。

 が、相手は返答せずにこちらを睨み付けて来る。

 受けた指示は重要人物の捕獲ではあった。

 が、それは可能であればという話であり、そうでなければ(・・・・・・・)排除しても構わないという許可も与えられていた。

 

 であればこそ、彼等は正確にその顔面へと銃を向け引鉄を躊躇なく引きその力を放つ。

 その弾丸は狙い過たず、吸い込まれる様にかの人物の額へと穿たれる。

 そしてその作用に抗う事もなく身体を後方へと反らせて倒れるザーレンヴァッハ。

 それを横目にしながら通信を開き状況をその隊士は伝える。

 

「フェイザ1終了。これよりフェイザ2へ移行する………ん?」

 

 拠点たる輸送艦へと報告するも、ノイズがザザと流れるばかりで応答がない事にその隊士は訝しむ。

 

応答せよ(R:e)。………応答せよ(R:e)!………まさか」

 

 周囲を警戒し見まわす。

 思い起こせばあまりにも順調であり過ぎた。

 辺りを見回しても額を穿たれが死体があるのみで、特におかしな点は見受けられない。

 

 拠点艦との通信をしつこく試みていると、ふいにその声が混線している様に紛れ込んできた。

 

『ほぼ配置完了ですぅ。これよりぃ第2段階(セカンダリィザ)に移行しますぅ』

 

 そのやたら気に障る声と共に、視界が黒へと染まる。

 

「なっ!?これは、ちぃっ!」

 

 何か想定外(イレギュラレ)の事が起きたと、そう判断し端末である頭部装備を強制解除した時点で時すでに遅しであったのだった。

 端末を外した途端、室内に充満していた何かを吸い込み自身の意識が離れていくのを彼は自覚したのだった。

 

 

 

 

   □

 

 

 

「…………つーか。見ていてどうにも居た堪れないんだが。はぁ………」

 

 その全てをホロウィンドウを通して見ていたザーレンヴァッハ(・・・・・・・・)は何とも痛ましい目を浮かべながら言葉を漏らす。

 

「あの方は預言者か何かなんでしょうか………」

 

 傍らにいた秘書たる任の彼女がそう独り言ちる。

 

「………まぁ、というか面白いという思う方に思考を巡らせる奴ではあるがな。はぁ………。これ、俺が後始末するんか?するんっ!?」

 

 ザーレンヴァッハが少しだけ肩を落とし呟くのを見て、秘書たる彼女はキュンと保護欲を掻きたてられる。

 

「………大丈夫です!ヴィニオ()より、この後の指示も承っていますので、なんの問題もありません」

 

 と、ふっと肩に手を乗せられたザーレンヴァッハはどのような感情をのせたらよいのか判別できずに声を上げてしまう。

 

「ガートライトのこんちくしょ――――――――めっっ!!」

 


 


(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

 


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