54:継承者達の思惑と動くモノ
遅くなりました <(_ _)>
前回のお話
帝都において皇族貴族による会議が行われる
そして皇位継承者達による独立国家への討伐
が決定する
“大儀堂”での会議は、この後何の混乱もなく終了した。
決まった事と言えば、カレングル子爵―――賊物者へ艦隊を再度派遣する事。
継承者たる皇子皇姫達が、その指揮を執りそれに対する事。
そして継承者が率いる艦隊を東西南北を守護する艦隊から出す事等などがその後決議され、進軍開始日は1週間後となったのだ。
□
「で、どうなったのだ?艦隊の編制は」
「ん?親父殿。言ってる意味が分からんのだが?」
ザーレンヴァイス公爵家本邸。
その公爵邸のザーレンヴァイス公の私室で親と子が相対し酒を嗜みながら会話を交わしていた。
とは言えだが、親と子の会話としては少々空気が軋みかけていた。
父親の問いに対し、子たるケィフトは自然な態度でそれに応える。
艦隊の編制に関しては、帝国軍参謀本部が主導で行われるのが通常である。
そう。本来ならばである。
有象無象の貴族共が難癖をつけてきてもケィフトであれば何言うものぞとヒラリとかえし、己が目的へと誘う事が出来る。だが―――
「私に何が出来ようもありませんよ。父上」
「………はぁ〜、………だよなぁ」
ケィフトの返事にザーレンヴァイス公はグラスの酒をあおり、その後肩を落として言葉を漏らす。
空になったグラスを公がテーブルに置くと、側に控えていた美麗なメイドが改めて主人の好みの濃さの酒を作り手渡す。
ここ数日の顛末を口に出せば、罵倒や憤懣が噴き出る事は間違いなかった。
皇位継承者達が何これという事に対して、その相手たる軍部が何を言えようかという話である。
どうにかこうにか妥協案として皇位継承者達に100隻づつで編制する事で通達するに至っただけだ。
皇位継承権第1位、第2位、第4位、第5位。
ほぼ半数の皇位継承権を有する者達が、この度の討伐戦へと参加するというのだ。
もし、これらの派閥の誰かがそれぞれに彼等を諫めいたのであれば、この様な事態にはならなかったのかもしれない。
だがこれはある意味独裁社会という形態の限界でもあろう。
最善よりも個人の思惑が優先されてしまう。そのような社会とも言える。(まぁどの社会形態でも少なからずある事ではあるが)
まぁ初代皇帝の移住者たる先祖に対する不満などはありはしないが、権力の一極集中と言うのはとかくそのような弊害をもたらすものであると双方とも認識していた。
自身の立場はと棚上げするしかないという訳であるが。
「と言いますか、何故止めませんでしたので?」
「グむっ………」
杯をあおったところで、子のそのような問いにザーレンヴァイス公は思わずむせてしまう。
「コホッ、ン゛ン。無理を言うなやケィフトよ。いくら俺とて御せる人間の質ってのはあるんだよっ!」
「いや、宰相様なら出来るでしょ―が。それぐらいの融通は効かせられると思っていたんですがね?」
少しばかりきつめの視線を父親へと向けるケィフト。
だがこればかりは、彼とてもくつがえせぬものであったのだ。
しばし沈黙の後、子の視線に屈したように淡々とザーレンヴァイス公が口を開く。
「此度の事については陛下から好きにさせよとの下知がくだされた………下されたんだよぉ………」
「………まじですか」
「まじ?んン!?」
つい思わずガートライトとの会話で出た言葉が出てしまい、父がその言葉に首を傾げる。
コホンと拳を口に当て咳ばらいをしてからケィフトは言い直す。
「それは本当ですか?父上」
「ああ、陛下はそう申された。まるで、この先の事が―――いや」
「それを言えるのはやる事やった人間だけですよ。父上」
そもそもあの皇帝が何か意見を差しはさむ事等これ迄あった事がなかったのだからだ。
それはまるでこの未来の事が 知り得るかの如くの事が言葉であったと公は漏らした。
それをケィフトは戯れ事と切り捨てる。
それ程現在の皇帝陛下という象徴は、ただの歯車に成り下がったものであったのだ。
確かにシステマに組み込まれて機械であるならば、その状況にに唯々諾々と従うのも当然ではあるのだろう。
だが人とは機械でもなく組み込まれたプログラムでもない“人間”というものであった。(ある意味ほんとうにどうしようもない存在とも言えるのだが………)
だからいきなりの皇帝の言動に訝しみつつも、或いは別の可能性へとケィフトは思い至る。
「親父殿。それは………」
「言うな言うな!殿下方への不敬になる。俺は何も言わんし何も聞かん」
………おいおい、それ完全に答えちゃってるじゃんよ。とケィフトは心の中で突っ込みながら今まで見る事のなかった父親の一面を目にした。
正直あんた駄々っ子かと言いたくもあったが、ケィフトを慮ったゆえの文言と受け取り黙する。
「それよりもアレは大丈夫なのか?ケィフトよ」
「問題などある筈もないですよ。すでに全て何事もなく手の内にあるとの事です」
「は?というかこのひと月でか?いやいや待て待て、本当にッ!?」
そこはまじっい!?とか言ってもらいたかったが、さすがにそんな事を言うのは躊躇われた。
そんな事を考えながらも、ケィフトはしれっと答えを返した。
「………父上、彼の一族が依頼されたことを逸した事がありましたか?」
その言は確認でもなく、ただ当然の帰結の言葉としてザーレンヴァイス公へと実感させられた。
「因縁は因縁を呼ぶか………。まさに因果よな」
酒精の混じった息を吐き出して、過去の後悔をにじませて嘆息する公。
「まぁ本人は記憶を失くしていますがね」
ケィフトが皮肉混じりにそう発する。
「そうだ。であればこそ、今回で全てを終わらせねばならん」
そう言いながら公はグラスの酒を思いを呑み込むように一気にあおった。
「どの道この始末は本人が下すでしょうよ」
「ふむ………」
なんとも根拠のないながらも、自信満々のケイフトの言に公は頷くだけであった。
□
「………ふむ。で、準備が完了するのはいつの事なのだ」
皇位継承権第1位のオウルヴィレス・フルツェポ・エルファーガが、厳然とした態度で侍従へと訊ねる。
「はい。滞りなく」
老齢ながらも背筋が伸びた最も信頼を寄せる侍従が、当然のように落ち着いた表情で応じる。
眼前のテーブルにに設えられたいつも通りの酒と酒菜を食みながらオウルヴィレスは満足気に頷く。
帝都はすでに夜の帳に覆われており、妻や子達はすでに眠りについている。
オウルヴィレスはこの夜のひと時―――そう一人で思索を巡らせるこの時間をとても大切にしており、何よりも好んでいたのだ。
好みの琥珀の酒を嗜みつつ、1人考えに耽るのはとても楽しくもあった。
それにしても。とオウルヴィレスは口元を緩め笑みをかたどる。
よもやこれ程思惑通りに事が運ぶとはと、内心笑いが止まらないとはこういう事であろう。
かの子爵家に対しては、皇家やオウルヴィレス個人の伝手でどの動向を監視していた。
とは言っても子爵領へはおいそれと入り込むことは不可能であり、本星軌道上にある宇宙港とその周辺へ注視しか叶わなかった。
今少し有能な人間いればとも思いはしたが、無い手足は振れないというものだ。
そしてつい先日彼奴らに動きがあり、こちらの監視を気にする事なく行動へと移していった。
その動きはどうにも不穏で、まさにこれより何かを起こすと言っているようなものであった。
だがその報告に対して、オウルヴィレスは何も言わず捨て置けと―――つまり静観せよと指示した。
もしこのような時点で、何か対策を講じてもたいした意味など無いからである。
「あの者共にはある程度踊ってもらわねばな。くふふっ」
平和とはどうにもこうにも波立たず変わり映えしないものであった。
であるなら、少しでも騒がしく乱れまくるのも酔狂であって面白いではないか。
オウルヴィレスは酔いに揺蕩いながら、自身の未来をそらんじていた。己が皇帝へとなる姿を。
□
エリリィエル・ワラヴィエ・エルファーガは秘密の私室で頭を掻きむしる。
この手の情報に関しては留意していたのだ。
だが独立宣言が為されるまで、自分には一切の報告が来ていなかった。
「ああああっ…………」
ガリガリリリとただ頭を掻きむしる。
その度に机上にはその母譲りの藍髪がパララと振り落ちる。
ひとしきり騒ぎあぐねた後、思考はこの後の事へと想像を始める。
役立たずではあるがそれなりに使える部下だが、内調事に不得手な部下もエリリィエルの配下には多くいた。
だがそれでもあの兄と違い、彼の者達へと秘かにアプローチをかけていたのだ。
監視などという警戒はせずに、互いに歩み寄れる余地があると思った故の行動であった。(もちろん兄等の監視をすり抜けてだ)
だがあちらからの連絡は皆無であり、それ以上の接触は他の継承者達へ漏洩する恐れがあった故にこれ以降の行動は差し控える事しかできなかったのだ。
そんな時にあの独立宣言の放送が流された。
そしてその放送には、一部の人間達には別の情報が流されていたのだ。
必要最低限の人員を残してエリリィエルはその宣言を聞いた。そしてそれを見てしまったのだった。
ある種のフィルタープログラムを介してその放送を聞くと、ホロウィンドウが現れ彼等の真意が示された。
「ば………馬鹿な。こんな事が………」
示された文字を読み、エリリィエルは思わずそんな言葉を漏らした。
それは彼の側にいた者達も同様であろう。
そこにはこのような事が書かれていた。
『“信頼に足る我等が同胞へと告げよう。これより10日の間、我等が胸襟を其方達へと開こう。それが何を意味するのかはもちろん理解しているであろう”』
エリリィエルはそれに何も言葉を発する事が出来なかった。というより理解に及ばなかったというのが正しいだろう。
『“そしてその後帝国内に現存する全ての熱光射衛星は停止するであろう。その時我等に敵対する奴ばらは後悔に苛まれるであろう。その時以降我等に降る奴ばらは全て我らが眷属とする奴ばらとなる”』
エイリリィルは告げられた言葉に、眉を顰めながらも冷たい汗が背中を流れる。
こいつは一体何を言ってるんだ!?本当の事なのか!?
『“すなわち人としての尊厳を失い、我ら上位者に媚び諂う存在となる。親愛なるものよ、選択を誤る事なかれ。道はただ1つあるのみである”』
それが意味するのは、デア・フューリュア・カレンギア独立国家へと服従を誓う事である。
『“もしそれが成されれば、今迄どおり―――いや、それ以上の恩恵と栄華を約束しよう。我等が王である限り、これがくつがえる事のない約定であるとこの場で誓約しよう”』
音声のみであるのにも拘らず、エリリィエルはそのホロウィンドウに目が離す事が出来なかった。
『“これより48時間の間、我等に誓約を求める者はここより通信せよ”』
その不遜有り余る言葉に、エリリィエルはコクリと喉を鳴らす。
『“皇族であれ平民であれ、我等はその身分相応にこれを遇する事を誓おう”。”これは我等に選ばれし者達にのみ語りし言葉である”。正しき選択を我等は待とう。以上”』
それは特定の人間に宛てた言葉であった。これを聞いたエリリィエルは、つい側にいた侍従を怒鳴ってしまう。
何故もっと早く報告してこなかったのか!と。
とは言え、鍵を解凍するのに時間がかかり過ぎた結果、指定された時間はとうに過ぎ去り後悔を胸中に澱ませながらエリリィエルは大儀堂会議に臨んだのだった。
エリリィエルは現在の帝国に、あの力に抗える事など出来ぬと考えた故の参戦であったのだ。
どうすれば彼のもの達へと取り入る事がかなうのであろうか、そんなあまりにも無意味な妄想を胸にきざして。
□
帝都にある帝宮には、皇位継承権を有する者達に対してそれぞれ春宮が設えられている。その位置は帝宮を中央に継承順に2:4:4というように円を描くように配置されている。
その中にある一宮。
そこでは2人の皇位継承者が互いの従者を侍らせて言葉を交わしていた。
ユーファミュウ・シュタシィエ・エルファーガ継承権第6位と継承権第7位のエーフェミィア・シュタシィエ・エルファーガの姉妹である。
この姉妹、趣味嗜好が似通っているもののその方向性は真逆のものであった。
例えるのであれば、動物を愛でるにも一方は犬を、また一方は猫を愛でる。
そしてこの場では、それと同様の事が今ここで行われていた。
すなわち、姉たるユーファミュウは薄衣を身に纏った男児を、妹たるエーフェミィアも同様に女児を抱きかかえ食んでいた。
「ふふっ、本当に行かないの?ユファ」
「あら、あなたもそうなのではなくて?エフェ」
お互いに従者の首元に舌を這わせ、感触を愉しみながらお互いに言葉を交わす。
「「……………っ、はぁっあ!」」
侍らせられた従者が頬を赤らめながら何かに耐える。
彼女達の最近の趣味がこれであった。
年若い平民の子供を徴用し、初々しいその姿態を眺め楽しむという。
そして此度の犠牲者が彼女、彼であったと言うだけの話である。
だがこの場で交わされる会話は、決して彼等が聞いていい話ではなかった。
「わたくしはともかく、ユファは指揮が出来るのではなくて?」
自身の能力を把握しているエーフェミィアは、その首筋に舌を軽く這わせながら問い掛ける。
その瞳の奥にある光には、真意を問うような思いが双子たる彼女には理解できた。
同じ血を受けし者同士多少は性格も思考も把握しているものの、だからと言って言葉に現わす事は必要不可欠なものであるのだ。
たとえ双子であっても、別の人間別の存在なのだ。
なればこそ確認に意味でも問う事が、エーフェミィアには必要であったのだ。
「ふふっ………、そんなに構えなくてもいいじゃないのよ。どの道、此度の出来事はすぐ終わるのだから」
「?」
互いに独自の情報源を持つ故、なんとも遠回りな物言いのユーファミュウへ首を傾げる。
カレングル子爵と言えば、帝国創成期において最たる功績を成した者だ。
であるからこそ帝国はこれを今迄徴用し過去の反乱まがいの事変を起こしても、一部にその責を負わせながら得させてきたのだ。
もしかの苛烈皇帝の代にこのような事を起こしたのであれば、一族郎党処分されていたであろう。
だが期を見て敏なるかの一族は今代まで生き永らえたにもかかわらず、この時を以ってこの様な事を為したのである。
であればこそ、勝算なくして帝国に反旗を翻すという事などありえないと、ユーファミュウは考察していたのだ。
「………!………っ!」「っっ!………ふ……ぅっ!っ!っ!っ!!」
そのやり取りの間にも2人の行為は続けられていた。
犠牲者たる少年少女の感極まる声が室内に響く。
それを気にかける事なく、ユーファミュウは何の気負いも見せる事なく言いのけた。
「だぁ〜〜〜って、あの宰相が関わっているのよ?あの帝国に忠義を尽くす者【達】が、この状況に何をしない訳がないのよ」
それは確信であり、当然の事であった。そう、ユーファミュウにとってはだ。
それに―――と思う。彼もどうやら巻き込まれてるようだしと、心の中で独り言ちるユーファミュウであった。
そんな姉の態度に首を傾げつつも、楽しみを優先するエーフェミィアであった。
どの道自分たちは何をする気もないのだから。
□
自身の宮でヴァージックル・エンディミィナ・エルファーガは、目の前に置かれた料理をただひたすら貪っていた。
食う食う食う。
いつもならすでに満たされている筈のこの行為は、わずかもヴァージックルを癒しも満たしもしなかった。
全てはあのオウルヴィレスのせいだ。
皇位継承権9位など皇帝になる見込みも展望もないに等しい存在だ。
なればこそと、誰かへと阿る事をせねばならなかったのだとヴァージックルは考え至った。
だから継承権第1位の兄へと媚び諂ったのだ。
その兄の要求に応えていたヴァージックルは、今回も兄からの指示に子飼いの艦隊をアレへと差し向けたのだ。
はじめに聞かされたのは、矮小なる反乱しせし者共の討伐ゆえ、すぐに済むものだという話であった。
だが蓋を開けてみれば、差し向けた子飼いたる艦隊は全滅とっていい程の損害を受けただけであった。
話が違うと抗議をするものの、兄たるオウルヴィレスは冷めた視線をぶつけるだけであった。
まるでヴァージックルが悪いとでも言うように。
何故だ!何故だ!何故だっッあ!!
くそっ!誰のせいだと思っているのだっ!
次々と料理と食みながら思考は次第に兄への不満と不信が埋していく。
それがどのような方向へと向かうのかは、今はようと知れなかった。
□
熱にうなされながらもグルーンガルンス・ゼヴィスナ・エルファーガは、“大儀堂会議”にどうにか参加したものの、特に何も発言も出来ずに終わってしまった。
自身としてもいま少し何か言えたのではないのだろうかと考えつつも、結局何もできずに終わった自身を嫌悪してしまう。
ああ………。なぜ自分は継承権10位なのか、他の―――そう、あの妹の方がその資格があるのであろうにと。
そのような事をつらつらと思いあぐねていると、そこで精神と肉体が疲弊していたグルーンガルンスは意識を手放したのであった。
□
ところ変わって名目上の最前線であるエクセラルタイド中継基地内で、皇位継承権第8位のファルエルライド・ディルエルク・エルファーガは表示されるホロウィンドウを目にしながら難しい顔を見せていた。
「………エクセラルタイドが変化した。か」
「まぁ、想定範囲内ではあるがな。あるいはいつものものかもしれないが」
「それはそれで、問題であるがな」
友の言葉に腕を組みながら、眦を顰めホロウィンドウを睨み付けるファルエルライド。
もしもであるが、このような状況の中で内輪もめをしてる場合じゃないんだがなぁと、溜め息まじりの息をファルエルライド吐き出した。
皇位継承権第8位と言ってもさしたる権限を有していなかった。というより必要以上の武力を持たないようにしていたというのが正しい。
そう皇族貴族にとっての武力とは、脅威と共に畏怖の現われに他ならなかったからだ。
色々と手は尽くしているものの、なかなか思うようにいかないというのが現状ではある。
本来であればもっと相応しい存在が末の妹にいたのであるが、降籍してしまった今となってはまぁこれは致し方ないというものだ。
問題はいま目の前にあるこれだ。とは言え手数は限られている。
だがとりあえず現在は、知己を得た者達へ頼む事にしようとファルエルライドは行動を開始する。
よもやこの戦いで思いもよらぬ事態になろうなどとは、神ならぬ身のファルエルライドには知りようもなかった。
□
ここはとある帝国外縁部にある小惑星の一角。
そこには数隻の巡航艦と輸送船が係留されていた。
そしてこの計画の為に敷設されたこの場には、500名を超える人員が整列し来るべき時を待っていた。
そして間を置かず、その時がやって来る。
『皆の者の待たせた。これより本作戦の概要を説明しよう』
巨大なホロウィンドウに現れたのは、カレングル子爵―――いやデラ・フューリュア・カレンギア独立国家と称する次期国王たる継子である。
『命令を発する。この先にある第35開発試験場を強襲し、その全てを掌握せよ。抵抗する者は全て排せよ』
『『『『『はっ!!仰せのままにっ!!』』』』』
その場にいた全ての人間が、まるで機械の様な同じ動きをもってその命令に応じた。
だがその表情には、機械と違い全員が陶酔する様にその言葉に聞き入っていた。
やがてホロウィンドウが消えると、彼等は各々が事前に指示された行動へと移って行く。
それぞれがそれぞれの思惑で行動が開始されたのであった。
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