53:帝国大儀堂会議
前回のおはなし
あいつ、独立宣言したってよ
デラ・フューリュア・カレンギュア独立国家宣言より5日の後。
皇帝陛下勅命で、帝国内の全貴族へと招聘がかけられた。
その内容は“翌日午後12時までに帝都大儀堂へ来られたし”と。
とは言うもののただし可能なものはという注釈がつけられるのだが、この皇帝からのという部分はこの帝国貴族というものにとって、それはなによりも絶対に優先されるものであった。
だが、であったとしても不可能事があるというものだ。
皇帝陛下からの招聘の時点で領地においてその務めを為していた者などは、たとえ急いだとしても定刻までに赴くなどという事は到底無理な話なのである。
しかしその日その定刻、帝星帝都中央部“大儀堂”には9割に及ぶ貴族たちが集っていたのである。
これはもちろん事前に情報を得ていた貴族達をはじめ、この状況に対して先見の明を見出していた貴族により招聘が遂行された訳だ。
これは貴族という生物の強かさであり、狡猾かつ生き汚さの証左であろう。
そう。そしてこの場にいない貴族達というのは、そういう理由なのである。
もしくは、これは夢見る者とそうでない者の境界線という事なのであろう。
安寧とした現状に満足せず幾ばくかの不満を持つものは少なからずこの帝国―――いや、何処の世界にも存在する。
貴族であれ平民であれ、そして皇族であっても上位下位は存在するのだ。
なれば何かの弾みで、それが噴出する事があると言う事象があり得ることは分かり切っていたのである。
であればこそ大儀堂に来なかった残り1割に近い貴族達は、その天秤の片方へとその何者かの目論見通りに行動した結果であると言えよう。
この帝国―――いや、宰相たるザーレンヴァイス公爵としては、そのどちらでも構わないという姿勢であった。
どの道この帝国そのものが存続していればいいというものであったからだ。
だが自身の子達や負い目のある親友の子のこの事を思うと、それでもという思いも自身の立場であるにも拘らず思い煩ってしまうものがあった。
だがそのような思いをぶち壊すほどの成果を彼のものは成し遂げてしまっていた。しかも現在進行形で。
であるのならば、その行動に老いた身であるものの応えねばならぬと思ってしまうものも致し方ないと思ってしまうのだ。
それが感傷であるというのは分かっているのだ。自身の立場が重責というがだからと言って自身が何を担うなどとは傲岸不遜もいいところだと思ってもいる。
だが今迄陰に隠れその姿さえも見えずにいたものが、いま目の前に現れ出でて来たというこの事だけで、この老体自身がこれからやるべき物事であるのだと、なんとも青臭い考えが頭に浮上する宰相たるザーレンヴァイス公爵なのであった。
そしてこの“大儀堂”
この帝国において儀典・儀式等を執り行う場所であり、歴代皇帝の即位の儀も行われた由緒ある建造物である。
なのでその外見はこの帝都において他の建造物と比べてかなり古い。
これと同等のものとなると、帝宮ぐらいであろう。
数千人をゆうに収容できる大儀堂を中心に、副儀堂・待機堂等々の施設がその周囲に配置されている。
その中心たる“大儀堂”では現在、皇帝陛下を中央に継承権を持つ皇子・皇姫達がその側に控えており、それを数多の貴族達が対面にて固唾をのみ座していた。
その席次は前方に公爵を配し後ろへ行くに従い侯爵、伯爵と下位の位へと爵位が下がって行く。
それが半円を描く様に皇帝を下に配置されている。
一方皇帝側の配置は皇帝の玉座を軸とし、ハの字に広がるように左右に継承順に皇子・皇姫が並べられていた。
そして皇帝の両脇から継承権の高い順に席次が決められており、それぞれがその定められた席に各々が座していた。
左から順に、第1、第3、第5、第7、第9位の者が。
次に右からは、第2、第4、第6、第8、第10位の者が。
この席順というものも中々に厄介で面倒くさくあり、過去互いの席順を巡り継承者とそれに列なる者達によって暗躍が為されていたものであった。
だがその当時の皇帝の鶴の一声で現在の形態となり事無きを得る事になったのだが、この事だけを見てもこの皇帝の位を巡る争いというものは、歴史をなぞる如く変わり映えする事なく互いが違いを牽制するものであったのだ。
その表面上は和やかであっても、その胸中はピリピリと空気が張り詰めたものであった訳である。
なればこそ皇帝の側にに侍る皇子皇姫はにこやかな表情でこの席に着いていたのである。
その様子を内心辟易しつつ、宰相たるザーレンヴァイス公爵は口を開く。
「では、これより独立国家などと言う世迷言をのたまう暗愚たる者達へと、どのように対するかを陛下より下知を戴く」
下知して戴く。
この時点で帝国の姿勢は、明確かつ明瞭になったとも言える。
すなわち、かの独立国家とはこの帝国において仇なす存在という事だ。
大儀堂内に座する人間全員が、皇帝へと視線を注した。
そして皇帝はその視線に臆することなくさりとて気張る事もなく、ただただ気怠げな表情を見せながら訥々と告げた。
「余は。カレングル子爵家を排そうと思う」
………あぁ。これが現在の皇帝の限界であると、ザーレンヴァイス公爵は思う。(もちろんそれは分かっていた事ではあるのだが)
“排す”ではなく、そこに“思う”とつけ足して述べてしまう。
この長き時を皇帝の名を冠していても、その本質はどうしても変えようがないというものなのだろう。
それは致し方ないとも思う。眼前に抗うべき敵もなく、その場所はあまりにも安寧であった。
帝国の成り立ちを鑑みれば、そんな安穏とした気持ちを持つという事はあまりにも危機管理というものを蔑ろにしていると言える………だろう。
エクセラルタイドの向こうに、仮想敵国が存在してるにもかかわらずにだ。
過去は過去。そう言えればいいのだろう。
だが、これまでの報告から。そして現在の状況からそのような安易な思考を持っては、帝国という土台を蔑ろにしてしまうだろう。
現在を保って現在よりも更にその階を上へと目指す世界を造る。
宰相たるザーレンヴァイス公爵はそれこそを想い侍らせ宰相の任を務めていたのだ。
親友の生命を削り失わせても。だ。
ギリリと両の拳を強く強く握りしめて、その未来を見やる。
「さすがは皇帝陛下っ!我もそれに同意いたす!」
座を勢いよく立ち上がり、声を高らかに上げる偉丈夫。
皇帝マイヨサンマール・ゲルフィハイン・エルファーガの左脇に座する、オウルヴィレス・フルツィポ・エルファーガ皇帝継承権第1位(36)その人である。
この時代―――いや今代の皇帝は、皇妃を持たず全てが側妃扱いとなっていた。
もちろんその立場により位階はあった。だが、だからこそ側妃の立場により、皇位継承権というものがある。
この皇子皇姫達のセカンドネームは、その側妃―――すなわち母の名を冠したものであった。
立ち上がったオウルヴィレスは腰ほど迄ある緩やかに流れる黒髪をたなびかせ、その金瞳に寸の怒りとギラリとした大望を滾らせてその両腕を大仰に広げ話し始めた。
「そもそも彼の家を優遇し過ぎていたのだ!帝国初期の苦難を乗り越える一助になったとはいえ、その後代々のあの家の一族は、その功績のみばかりでその後に何も成す事もなく、あまつさえ過去には反乱を企てた者達である。なれば今迄の緩すぎたこの温情を!それさえも解せぬ愚か者共に鉄槌を下すものである!!」
まさに次代の皇帝は、それこそ我であると言わんばかりの主張。
その言い様に他の継承者の反応は様々であった。
継承権第2位たるエリリィエル・ワラヴィエ・エルファーガ(35)は、皇帝陛下の右横で苦虫を噛み潰すような表情をし、その後ろへと纏めた藍髪を微かに揺らしながら金瞳を揺らめかせて無言でその兄の姿を見やる。
継承権第3位のシィエスティン・スィンフ・エルファーガ(35)は、女性ながらも軍服を身に纏い母譲りの朱髪を揺らめかせながらその金瞳は冷めた表情でこの状況を眺めていた。
と言うよりも興味がまるで無いというような態度を、隠す事なく隣の兄?たる者を見ていた。
その表情はなにか嘲笑じみている。
同腹の兄の隣で第4位のカングリィノ・ワラヴィエ・エルファ―ガ(30)は、周囲の様子をその金瞳を少しづつ動かしながら紫紺の伸びた前髪を右人差し指に絡めつつ嘆息する。
僅かでも自身が入れる余地を探るかのように。
そして意を決し、その機を見つけすかさず言を発する。
「反乱者―――もちろん【賊物】共を討つことは当然であるとして何故かの賊物者共があのような戯言を述べて5日も経ってなのか、その間のことを説明していただけるかな?」
カングリィノの言葉に反応したのはオウルヴィレスと、継承権第10位のヴァージックィル・エンディミィナ・エルファーガ(21)だけである。
だがその様子を見た他の皇位継承者達は、その意味を理解した。
すなわち。
皇位継承権第5位のアインレズィ・ビリィリーカュ・エルファーガ(29)が肩まで伸びる金髪を揺らし口元を歪める。
皇位継承権6位のユーファミュウ・シュタシィエ・エルファーガ(27)は、身体を少しばかり反らせ豊満な胸を揺らし腕を組み紫紺の髪を軽く払い金瞳を細め嗤う。
その双子の片割れである皇位継承権第7位のエーフェミィア・シュタシィエ・エルファーガ(27)が、それらを無視してデータグラスを掛けながらホロウィンドウを出して何かに集中していた。だが時折父たる皇帝へと視線を向けている。
反対側の末席ではヴァージックィルが顔色を青褪めつつ黒髪を汗で滴らせながら、その様子を黒眼を真剣に眺めている。その背後では側近たるメイドが表に表す事なくハラハラしていた。
なお、皇位継承権第8位のファルエルライド・ディヂルネルク・エルファーガ(22)は、この会議に間に会う事が出来ず未だエクセラルタイド中継基地に滞在していた。(と言うより本人は参加する気がなかったようであった)
その事が何を成すのかは、後に判明するものであるが。
カングリィノの言を受けて宰相たるザーレンヴァイス公爵が、軽く咳ばらいをしながら説明を始める。
「かの者達の独立宣言の後、即対応すべく軍を派遣しましたがその全てを撃破されました」
「「「「「「「……………………っ!??」」」」」」」
その宰相の言葉に皇位継承者達をはじめ、それに付随する貴族たちも絶句した。
そしてすぐに熱と共に言葉が爆発した。
「「「〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!」」」「「「――――――ッ!!」」」「「「「「〜〜〜っ!〜〜〜っっ!!〜〜〜〜〜〜っっっ!」」」」
怒号がビリリと空気が叩かれる様に響き、言葉が言葉とも思えぬ喧噪が大儀堂内に鳴り響く。
皇位継承者達もその一部を除き、発言の主たる宰相へと詰め寄っていた。
この事で責められるべき人間は他にいるのだがそれを口にするのは憚れる為、分かっていてもそういうなんとも舞台裏的と言うか楽屋オチとも言える状況であった。
もちろん宰相へと暴句を吐きつつ、ちらと第1位たるオウルヴィレスを睨み付けるという器用な事をしている訳だ。
それも今迄事情を知らないでいた継承権者達全員がだ。
この程度の如才さは、皆持ち合わせているという事である。
その中で青褪め我を失いつつあるのは、第10位のヴァージックィルのみで、その肥えた身体をただ震わせていた。
黒幕たるオウルヴィレスは威風堂々といった感じで周りを睥睨している。
この状況を俯瞰して見ていれば、誰が何を先んじて行動したのかを宰相が語った事で思い至るという話ではある。
だからこそ内情がどうであれ、このような公の場で互いの失点を見せる事は出来なかった。(無理ではあったが)
「では、その時の記録をご覧になっていただき、この後の方針を立てたく思います」
そして宰相の言葉が終わると同時に、全ての席にホロウィンドウが現れ件の映像が流される。
映し出されたのは、遠方からカレングル子爵領たる惑星とそれを包囲する艦隊の陣容であった。
『全軍進撃!』という旗艦からの号令の下、その艦隊が惑星へと向け前進を始める。
陣容としては戦艦3隻に巡宙艦と軽巡艦20隻と規模としては小さくとも、この手の反乱分子に対しては十二分といえるものであった―――筈であった。
帝国内におけるあまりにも教科書通りの動きの前に、敵対するデラ・フューリュア・カレンギア独立国家の艦体の動きはなんとも緩慢であった。
帝国艦隊に対し前方に陣取っていた艦船が緩やかに後方へと下がると、それに追随する様に帝国艦隊突出して来る。
現在それを見ている者達にしてみれば、いかにも誘いを出してくる相手に何の疑問も持たず進む艦隊につい舌打ちと罵倒をしたくなってくるものだろう。
実際艦隊運用と兵法に明るいものの幾人かは、舌打ちや微かに声を漏らす者も現れていた。
やがて帝国艦隊が惑星への進入領域前へと至ったその時、いきなり眼前に巨大な人影が出現する。
「っ!?」「なっ、何だあれはっ!?」「………っ!」「………あ゛あ」
貴族達の驚愕の声が響く中、映像はそれを余所に流されていく。
それはカレングル子爵領惑星を背景にしている為、細かなディテールは分からない。
だが、どう見てもその人影の大きさは、既存の戦艦をゆうに超える巨大さであった。
その人影が、降ろしていた両腕を前方に掲げて手の平を広げると、高出力のエネルギービームがその巨大な人影から放たれた。。
「「「「「「つっっっ!!!!」」」」」」
巨大人影の手や足、そして胴体から撃たれたビームは、狙い過たず突出してきた艦隊をその一撃であっさりと撃沈していた。
そこで映像は途切れホロウィンドウが消えて行く。
そしてしばらくの間、なんとも言えない沈黙が流れて行った。
「………なる程、了解。理解しました。では、この謎の人影の物体について何か分かっているのですか?」
皆を代表するかのようにカングリィノが発言すると、その強い視線に捉えらえたザーレンヴァイス公爵は、首を横に振りその答えとした。
「未だといいますか、これ以後どなたも進軍に関しては消極的であり、調査隊も派遣できない状態ですので何も判明しておりません」
嘘である。が、そのような事はこのような公的な場でいう類のモノではない。と考えるザーレンヴァイス公爵は言を以って答える。
正直言って宰相位を息子に譲って自身はのんびり隠居したいという気分であった。
若かりし頃は、確かにその言はあったのだ。下位継承権の何か異変があったとしても自身に出番が来る事が無いとしても、彼は確かにそう想いを考えていたのだ。
だがいざその身に兆してしまうと、帝国貴族と官僚共に揉まれ攪拌されてしまう事によって、その想いは灰塵と帰す事となってしまったのだ。
諦めてしまった彼は、それから己が欲望に更けてしまった。
この巨大な社会形態の前にしてみれば、ザーレンヴァイスとしては致し方ないと同情するものの実質的には赦す事は出来ないものであった。
幾度となく注意や喚起をしても、なんの反応も示す事は無かった。その態度にやがてザーレンヴァイスも諦めてしまったのだ。
友人であればもっと強く言えたであろうが、臣下という立場であればそういう訳にもいかない。
結局これまで何もできぬまま現在へと至ってしまったと言うものであった。
「ふむ。では私が出る事にしよう。我が艦と第1艦隊ならば、かの賊物共を降す事も容易であろう」
皆が映像を見て沈黙する中、オウルヴィレス継承権第1位皇子が腕を組み泰然とした表情でそう発言をする。
「いえ、兄上が出るまでもありませんでしょう。ここは私が第1艦隊を指揮し、かの領を平伏させましょうぞ!」
「……………」
そこへエリリィエル継承権第2位皇子が、その言を遮るように言を発する。
ザーレンヴァイスは、その言葉に眉間に皺を寄せ思わず唸りそうになる。
そもそもの目的としてこの先走り的な継承権第1位皇子の進言を以って、他の皇位継承者達の行動を制する事をザーレンヴァイスは目論んでいたのだ。
だが、その想定は覆されてしまった。
そうしてその後、幾人かの皇位継承者達が声を上げ今回の討伐に参加すると表明する事となり、ザーレンヴァイス公爵は頭を抱える事になったのだった。
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