49:装備検証 【剣“スペド”】
………遅くなりすいません<(_ _)>
前回のお話
戻ってそうそう新型戦艦の起動試験
そしてとらん〇ふぉーむ!
戦艦から人型へ
「よし、何とか変形は成功したか」
「ですね。あとは見直しと変形機構の再確認と―――」
「洗練作業だな」
ガートライトが呟くように言葉を漏らすとそれに応じる様に側に控えていたアレィナが続き、今後の予定について話を促す。
今回の変形機構も机上の空論であらゆる想定を鑑みた上での行程だったので、これからの見通しと洗い出しは必須になるのであった。
『おぅ!上手くいったな、ガー坊。俺等が造ったとは言え大したもんだ。はっはっはっ!」
いきなりホロウィンドウが現れ、顔を出したゴードウェイイルが笑ってそうガートライトを褒めそやす。
そんな事で褒められてもなぁーと思いながら、ガートライトは言葉を返す。
「いやいや、じーさんよ。これからだよ?本領を発揮するのは」
そうゴードウェイイルへと返答しながら、ガートライトは手元の伝声器を手に取り別室のレイリンへと繋げる。
「少尉、準備よろしく。そちらから行動シークェンスを起動してくれ。ヴィニオ頼む。あと、ジョナサンズもな」
『了解』
『承りましたガーティ』
『『『『了解』』』』
レイリン、ヴィニオと電脳ルームにいるジョナサンズ達がガートライトへと頷き返事をする。
レイリンは半ドーム状の空間で、その機械に身体を固定されながら、ガートライトの指示に従い行動を開始する。
ホロウィンドウを呼び出しアクショナトレーサモードを起動させる。
寸の間レイリンが纏う機械からピピっと音が鳴り、全体が青白く光が灯る。
『アクショナトレーサ正常稼働。次の行程へ移行して下さい』
「了解。基本動作開始します」
ようやく実機を操れる高揚感のままに、少しばかり急いたレイリンが指示に従い次の行程へと移ろうとしたところにガートライトから待ったがかかる。
『の前に、船体の位置を移動するから、ちょい待って』
「………あ、了解」
別にこの姿勢のままでも構う事はないのだが、どうしてもこの状況を見やる人間がいるとなると見映えというものは重要という事で、いったん姿勢を変えるという訳である。
もちろん見ている者に対するフォロ-でもでもあった。
第35開発試験場に置ける。ある程度の役職を担う人間に対して、この試験は公開しているのだ。
「姿勢制御変更。頭部を天頂へと垂直に移行します」
エルクレイドが操縦桿を握り微妙に操作してスラスターを調整しながら噴射していく。
そしてその動作はジョナサンズにより、精密かつ正確に行われその姿を屹立させる。
ホロウィンドウに映るその映像を見たガートライト達クルー以外の者たちは、その姿に畏怖を覚えた。
静かに音もなくゆるりと90°回転するその姿をただ唖然と見やるのだった。
もちろんそれを理解することの適わぬ人間は、主たる人間へとおもねるよう下卑た嗤いを含ませ視線を向けて主へとのたまう。
「あっはっははっ!まさしく愚かな馬鹿共の所業ですな。カレングル様」
だがその視線の先にある当の人物は、目を見開いて戦慄いていた。
「?」
いつも通りの嘲るような視線と言葉を向けると思っていた件の君は、通常と全く違うその姿を見せていたのだった。
それは怒り、そして羞恥。あるいは今まで彼が見る事が無かった感情。
だからその持て余した感情は、すぐにその者へとやつ当たりとして露わにされた。
ゴッ!
「げがっ!?」
手に持っていたグラスを投げつけられたその者は、額に当たりそのまま昏倒してしまう。
すでにその者へ意識を失したヴィーフルトは、ホロウィンドウを凝視して声を上げる。
「な、何なんだっ!アレはっ!!」
それは自身の矜持を保つためのものであったのかも知れない。
あるいは今まで知らされる事のなかったこの試験運用に対する憤りであったか。
それは見た者に恐怖とを、知らずに与えたのであったのだった。
巨大なものというものは、それだけで人に対する脅威を感じさせる。
それは力というものを求める者にはそれだけでその真価をありありと感じられるそんなものであった。
カレングル家の筆頭侍従である老人は、部下に何事かを命じ外へと送り出す。
まずはこの艦についたあらゆる情報を入手することが先決であると。主の様子に彼は察したのだ。
ひと度激昂したせいか、そこで落ち着きを取り戻したヴィーフルトは息を吐きソファーへと座り直す。
だがそれでもホロウィンドウを見やるその艦には、言いようのない畏怖を感じてしまっていた。
生来傅かれる事はあってもその逆はなかったヴィーフルトは、それへと慄いてしまったのだ。
だがその畏怖と驚愕は、その思いとは裏腹にさらに加速する事になる。
仰臥していたその船体がスラスターを噴きながらゆっくり身体を起こす機動を始める。
どちらかと言うと、それは人で言うところの腰を中心にクルリと反時計回りに90°回ったと言った方がいいだろう。
そして設置された岩塊と相対する様にピタリとその正面へと停止する。
この動きひとつをとっても、それを知る者達には目を瞠る行為であった。
「行動位置変更完了。あとはよろしく」
艦を操作していたエルクレイドは、そう言って操縦桿を離す。
「了解。中尉、これより基本動作を始めてくれ」
『了解。これより基本動作開始します』
伝声器を手にレイリンへとガートライトが指示すると、次の行動へと移る旨の返答が返ってくる。と同時に外部カメラから新造戦艦(人型)の動作が開始される様子がホロウィンドウに映し出される。
まずは両腕を前方へと差し出し前倣えの動き。それからそのまま上へと腕を伸ばす。
これを10ターンほど繰り返す。
その動きには淀みも遅滞もなく、まるで人間が動いているような錯覚を起こさせた。
もちろんこの動きはレイリンが身に着けたアクショナトレーサの動きに追従するものだった。
だがその動きはジョナサンズ達が、レイリンの動きを蓄積されたデータを基にその動きを予測しカバーしていたのだった。
そのおかげもあり、その動きは滑らかに特に何の問題も出る事なく行程は進んで行く。
本来であれば、この時点で耐久試験棟で動作行動を何度も(それこそ千単位で)やるところであるが、今回は他の試験もあるのでこの程度に留める。
「うん、見た感じは問題なさげだな。部品頻度の方はどうだい?」
「問題ありません。こればかりは数こなさないとどうしようもありませんから」
ホロウィンドウに次々とデータのログが流れるものの、さすがにそれを注力する気のないガートライトはザーレンヴァッハの部下である研究員へと訊ねると、そのような返答を返して来る。
まぁ確かにそりゃあそうかと、ガートライトは納得する。
どうにも新造戦艦の性能試験というよりも、大准将たるゴードウェイイルへ結果を見せるお披露目へとなっているからだ。
□
その様子をホロウィンドウから見ていた第35開発試験場の研究員の1人が、疑問を口に出す。
今回の起動試験は、閲覧資格はあるものの多くの研究員が見る事が出来ていた。
「おかしい。何故慣性が働かない?もしや重力制御?あの大きさで?まさか………」
頭の中で何やら計算をしながら研究員が腕を組み唸り声を上げる。
腕をを動かすにしてもそこには作用反作用が起きる。無重力空間であれ程の質量のものが動けば慣性が働かない筈が無いのだ。
だからこそ重力制御の技術が使われていると考えていたのだが、専門家である研究員にそのような要請が来たことはなかった。
「いや、あれはスラスターによる噴射制御だ」
「まさか!それこそ重力制御よりありえない」
側にいたもう1人の研究員がホロウィンドウを拡大しながら研究員へと説明する。
「だが、これを見ろ」
「っ!まさか!」
自分でもまさかばっかり言ってるな、と思いながらつい口に出してしまった。
確かに拡大されたその映像には、動きに合わせる様に船体に設置されたスラスターから噴射が行われるのが見えた。
それも絶妙なタイミングと時間によって、ピタリと正確な噴射が行われていたのだ。
「………どんなコンピューターを使ってるんだ。まさかAIか?」
「わからん。だが、一流の技術を持ったクルーなのだろう」
そんな会話をしている研究員達を傍目で見ながら、“ふふ~ん”と何故かニュービーズ達がドヤ顔をしていた。
□
ホロウィンドウ越しに新造戦艦(人型)が基本動作を行う中、ガートライトはつい思いを馳せる。
どの道本人が満足して帝星へと戻った後はテストテストとの日々となるであろうと、この後の事を思いガートライトは溜め息を漏らす。
反復作業って苦手なんだよなぁ………。あ、でもPitcv見る時間できるか?でも下手にホロウィンドウを見るとアレィナとヴィニオがうるさいしなぁ………。
ガートライトがこの後にあるであろう作業に関してそんな益体もない事を考えていると、レイリンから通信が入る。
『基本動作試験終了します。次行程へと移行し・ます』
「了解。装備検証【剣】開始願います。剣は指定位置に移動せよ」
艦の操船に関してはエルクレイドが担い人型に関する任はアレクスが行う為、全てにおいてアレクスに情報が集約される。
ガートライトはホロウィンドウに表示される様々な数値を確認しながら安堵の息を漏らす。
そもそもなら異常が出てこないってのは問題ありまくりなのだが、衆人環視の中で行うものとしては上々といえよう。(どの道後の試験では問題山程出て来るに違いないのだから)
『剣了解っス』
「ひゅう、………っと」
剣搭載のジョナサンズが、指示に従い指定の位置すなわち右手部分へとするすると移動して停止する。
その動きはエルクレイドに引けを取るものではなかった。
エルクレイドは思わず感嘆の口笛を吹いて慌てて口を押える。
他のクルーは苦笑しながらそれを見ない事にする。
「剣。武装機構へ変更開始」
『了解っス。開始するっス』
アレクスのさらなる指示に剣がその船体を変化させていった。
艦首から1/4程が上下縦に割れ、そのまま90°回転し固定される。
そしてその開いた艦首の上下部分から電極の様なものがせり出て来る。
次に艦橋後部から艦尾部分の甲板から取っ手のようなものがせり上がる。
見た目は刃のない柄だけの剣のようなものだった。
それを新造戦艦(人型)はそれこそ人がものを掴むようにひょいと手に取り構える。
右手で剣を前方に突き出す姿に、不自然さは全くなくまさに人の動きと遜色がなかった。
「e.r.f展開開始。ジェネレーター稼働率20%」
『剣、了解っス』
アレクスが指示すると、それに応じ剣がe.r.Fを展開。
すると柄の先から不可視のエネルギ-フィールドが発生する。
陽炎の様に揺らめくそのエネルギーフィールドはまさに剣のように細長く100mを超える程のものだった。
「剣武装検証開始。標的放出」
『了解。標的放出開始します』
ガートライトが(ここだけは)責任者としての指示を行う。
それに電脳管制ルームのジョナサンズが応え、新造戦艦(人型)と対峙している正面の岩塊が移動を始める。
岩塊後部には小型の燃料噴射機構が据えられ、命令に従い噴射をしていた。
それが4つ1列に並びながら、新造戦艦(人型)へと迫る。
「剣のe.r.fゲイン40%。艦長、どうします?」
バイルソンがガートライトへと剣のエネルギーフィールドの充填量を訊ねて来る。
理論上はこの充填量でも充分とあるのだが、万が一という事もありえなくもない。
そういう意味でバイルソンはガートライトへと確認の意味でも訊ねた訳だ。
とは言ってもこの充填量でも、ガートライト達にとっては未知の領域であったのだ。
それを鑑みれば安全策を取りつつ、その威力を確かめる必要がある。
それをふまえ、ガートライトは指示を出す。
「充填量はそのまま、発射後後方へ移動できるよう準備をしてくれ」
「了解。充填量40パーセントを維持」
「了解。状況次第で移動準備します」
バイルソンが機器を操作し指示を出し、エルクレイドは操縦桿を握り待機する。
「レイリン中尉、検証開始。やっちゃて」
『了解。検証に入ります」』
そうレイリンが応じ、コントロールルームの中で剣をかたどった棒を持った右腕を上へと掲げる。
数コンマ程の遅れで新造戦艦(人型)もそれに倣うように右腕を掲げる。その動きに淀みはない。
すると剣の柄先の空間が揺らぎ下から上へと弧を描く。
岩塊は100m程まで接近しているものの、攻撃できる距離には程遠い。ホロウィンドウを見ている試験場の人間はそんな乾燥を頭に浮かべた。
にも拘らず新造戦艦(人型)は、そのまま腕を下へと振り下ろす。
無音の空間であるはずなのに衝撃音が柄先から放たれるような錯覚の中、すぐにその結果がもたらされる。
「何っ!?何が起きたっ!?」
1人の研究員のその言葉は起動試験を見ていた多くの人々の言葉でもあった。
ある者は目を見開き、ある者は目を擦り、またある者は瞬きを繰り返す。
彼等にとってそれはあまりにもあり得ない光景だったのだ。
先頭を進む岩塊が真ん中から縦にパカリと両断されたのだ。
そしてそれを見た一部の人間は唖然とし、またそれ以外の人間は感嘆の声を上げる。
両断された岩塊は、中心から崩壊しながら左右へと流れていく。
その後新造戦艦(人型)は、横払い、斜め振り下ろし、斜め払い上げと繰り返し全ての岩塊を両断していったのだった。
「おし、剣は大体こんなもんだな。次は槍の検証やるぞー」
「「「了解」」」
『『『『『了解』』』』』
多くの人間に畏怖と感嘆をもたらした本人達は、いたって平常運転であった。
(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます




