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41/55

41:開けば出るのは、ものの道理

前回のお話

 

とある惑星領で救出作戦

決死の覚悟もあっさり任務完了

ヴィニオの分体奮闘す

洗脳って怖いですね

 

 

 

 ノーザンス中継都市(リンカァコロニナ)―――いわゆるこの中継都市とは、エイディアルス航路上にノーザンス、サウザンス、イースラ、ウェスタの位置にそれぞれ存在する大規模衛星都市である。(ちなみにサウザンスの中継都市はエクセラルタイド中継基地があるので、その規模は他と違いそれ程大きくはない)

 

 それはともかくガートライト達はようやく、ノーザンス中継都市へと到着したのであった。 

 帝国宙空間航行運用法において、寄港した際に必ず行われるのが乗組員と艦船への検疫だ。

 実際にはそのような作業は現在においては必要性はないものの、一種の慣例という形で現在まで連綿と続けられている。

 

 確かに未知の宇宙塵、細菌、生命体との接触がない訳ではないのだが、それも入港前に通過する検疫回廊を通りぬける事によって艦船にたいしては万難を排すことが出来るので、そもそものところ検疫官という役職はある意味無用の長物と化していたのだ。

 

 だが検疫という名目で、艦船の乗組員の不正および犯罪行為の防止という面においては効力発揮していたので、無用とまでは言えないだろう。

 検疫と称して一部の乗組員の犯罪行為を探索調査を兼ねることが出来るのだから。


 本来民間船に対しては、帝国航行運用法に則りそれぞれの船には必ず検疫が為されるものである。

 だが軍務につく艦に限ってその検疫が免除されることが多々あるのだが、このノーザンス中継都市に於いては何故かその検疫が徹底されていた。

 

 まぁそれぞれがそれぞれの権限で、色々と行われるのが世の常であるもの。

 その任を持つ者が、たまたまその責務を固く重く担っていた訳だ。

 なのでノーザンス中継都市に到着した試作第1号戦艦も、その憂き目に会うのであった。


 もちろん通達な為されていた。このふねに検疫すること能わずと。

 なので油断というには少しばかり酷と言えなくもない。

 だがそれは確実に起き得る事であったのだ。

 

 

 

 試作第1号戦艦とスペドクロヴダインは指定された停泊位置に係留しクルーが到着の安堵の息を吐いたところで、ガートライトは現時点より48時間の完全休息を全クルーへと伝える。


「みんな、ご苦労さん。係留作業終了後より48時間の完全休息フルゥフラクタにする。都市内で過ごすも艦内で過ごすも自由だ。ただし、端末に指定された時間には集合すること。以上」

 

 そうガートライトが伝え疲れを吐き出すように息をシートへと凭れる。

 

「艦長、お疲れ様でした」

「うん、お疲れ。あーみんなも報告書提出したら休んでくれ」

「「「「了解(I.K)!」」」」


 

 ガートライトの言葉を機にエルクレイド、レイリン、アレクス、バイルソンが退出して行った。

 クルー達は完全休息であるが、ガートライトとその副官といえるアレィナにはまだまだ様々な報告の為の資料作りが待ち構えていた。

 

「書いても書いても終わらないってのはどうなんだろうな、実際」

 

 何気に僻みを持った溜め息を吐きつつガートライトは呟く。

 

「もうこれって、上役の定めみたいなものだから諦めて下さい」

 

 確かに階級が上がれば上がる程に書類作成の時間は比例して上がるのは自明の理というものだが、些か量が多すぎるような気がするのではないかと、ガートライトなんかは思うのだ。

 まぁその原因が何かは分かっているので、それを口にするのはガートライトとても憚れるものだ。

 自業自得とも言う。

 

 どうにもAI達(ヴィニオ及びジョナサンズ)の反応が例の熱光照射衛星の時から薄くなっているのだ。

 おそらく何か企んでいるとはその様子から伺えるのだが、それが何であるのかは彼等に聞いても答えることはなく、はぐらかされるばかりである。

 ガートライト自身はおおよその見当は付いているものの、とは言え今迄が彼等に頼り過ぎていた部分はあるので、いい機会かと思い放置することにしたのだった。艦の管理は通常の管理AIに任せれば問題もない。

 まぁその分のしわ寄せが確実に自分に来ていたのだが。

 

 今迄おんぶに抱っことは言えない迄も、彼等に任せていた部分は(当たり前だが)多々あるのだ。

 こんな時ぐらいは自分が作業をこなすのもバチは当たるまい。

 やや諦念気味ではあるものの、ガートライトはそう考えながらホロウィンドウを表示しながら報告書の作成へと勤しんでいった。

 

 

 

   □



 

 ノーザンス中継都市艦船格納施設。

 現在この施設には約1000隻以上の艦船が収容され係留されている。

 この施設内において、その艦船を管理担当を担う中の一人が艦船管理局の艦船検疫官という人間である。

 その検疫官であるゴーエル・ヴィントは軍管轄エリアへと進み検疫作業を始めようとしていた。

 

 本来であるならばこのエリアの艦船に関しては、検疫不用というのが中継都市における不文律なのだが、それを覆してしまうのがこの人物であった。

 確かに法令上は当然行うべきものである。だが公的機関、しかも軍務に携わるものに関してはある程度の融通と根回しがあるので慣例として免除されていた。

 

 だがこの男はそれをよしとせず、検疫官としての役目を遂行するのである。

 彼の上司を始めその行動を苦々しく思いはするものの法令上は当たり前のことをしているので、咎めるわけにも行かない。

 時折同僚や別部署の上役がそれとなく窘めるものの、逆にやり込められてしまうので現在は誰もが彼に対して口を出す事を半ば諦めていた。

 

 それに検疫に関しても民間の検疫と違い、艦船の隔壁及び各ドアを開放させて中の空気成分等を確認するという簡素なもので、軍関係者も事前連絡の上無人の艦船の検疫という事で特に苦情を上げることもなかった。

 検疫をされたとしても、何かを指摘されるいう事がなかったこともある。

 あくまで形式上のものであるという、建前が入っているという話なのだ。

 

 ゴーエル・ヴィント検疫官は、現在係留している艦へとモートロイドと検疫用サージボールを伴って向かっていた。でっぷりとした体格の小男の後に細身の人型機械が規則正しく歩き、その後方を2つのボールがふよふよと浮かびながらついて来ている。

 軍管轄エリアに停泊する艦船はそれほど多くない。日に1、2隻がいいところである。

 だが今日に限っては珍しく4隻もの艦船が入港してきた。

 

 普段この都市に軍関係のふねが来ることはそれ程無いので、ゴーエルはつい張り切ってしまったというのもあったりする。

 データを見た感じでは旧式のふねではある。だがそれもゴーエルの経験上では当てにならない事も理解しているが故の検疫なのだ。

 まずは手前にある船体が他の艦より黒め(基本船体の色は白が多い。特に軍関係の艦は)、登録名称剣スペドからゴーエルは検疫を開始するのであった。

 

 検疫方法は基本、検疫官1名と随伴員2名が艦内を確認するというものだが、ゴーエルは随伴員を伴わずに1人で検疫を行っていた。

 そこで伴うのは、管理用に用いるサージボールを改良したものを2基であった。

 

 ゴーエルはそのなんの特徴も見受けられないその旧式艦を見ながら、搭乗ハッチの前に立ち自身の端末のホロウィンドウを立ち上げて、隔壁及びハッチ開放の共通コードを入力する。

 この共通コードとは全艦船の電脳に基本的に備えられているもので、これが入力されることにより全ての艦船(一部皇帝御座艦を除く)――――民間含めて軍艦にも適用されているもの。

 

 これにより隔壁及び搭乗ハッチなど扉という扉はすべて開放されることになる。

 コード入力後すぐにハッチが開きスペドの搭乗ハッチや隔壁が開放され、全てが明るみに曝される。

 それはこの艦に閉じ込めている人間も含めて。

 

 こうしてゴーエルは剣、槍、盾を次々と検疫して行った。

 その作業の中で、少しばかりゴーエルは首を傾げてしまう。

 どこにも人がいる気配というものが感じられないのだ。

 経験上映像からでもその船の中の生活感というものが感じられるものなのだが、この古臭い艦からはそれが全くと言っていいほど見られないのだ。

 

 だがそれを追求するのは己の職責を超えるものであり、現時点ではなんの問題もないので無視することにした。

 ゴーエルが想像するに、この艦は軍関係の貨物運搬の任を請けていると思ったのだ。

 それだけこの3隻ともが、それなりの貨物をあらゆる場所へと詰め込んでいたのだった。

 民間と違い軍関係となれば、そこまで追求してまで調べることはさしものゴーエルでも躊躇われるものなので、サージボールに記録をさせながら3隻の検疫を終えて試作第1号戦艦へと向かうのであった。

 

 

   □

 

 

 アイナクラィナ・ムハマンディは少しばかり飽いていた。

 この閉じ込められた室内くうかんでやれる事と言えば、なんかよく分からない動く絵の観賞とモートロイドとは思えない人間臭いモートロイドとの対戦ぐらいだった。

 

 食事もまぁそれなりに美味しくて、ちょっとだけ楽しみにしている自分がいることも自覚している。

 そんな堅牢かつ頑強なドアがなんの予告もなく開かれたのだ。

 一瞬脱出を考えたものの、もしや罠では?とも勘繰り少しばかり慎重になりながらドアから顔を出し通路を眺めつつ声をかける。

 

「もしも〜し………」

 

 アイナクラィナはなんの反応をないことを見て即決し、部屋を出て搭乗ハッチへと向かう。

 開いてるのは罠かもしれないのはもちろん承知の上、それに2週間以上が過ぎた今、仲間達のことも気にかかる。

 金や身分証(偽造)はここ《・・》にあるのでなんの問題もない。

 こうしてアイナクラィナは意気揚々と搭乗ハッチを抜けて中継都市へと入って行ったのだった。

 

 

 

   

 

 

「いんやぁ〜〜〜っ!最高だな、スモウレスラーはっ!」

 

 ダルクヴェルは部屋の中で壁いっぱいに拡大させたホロウィンドウの画面を見ながら感嘆の息を吐く。

 ああ………、やっぱりPictvはいい………。

 

 この艦の長から提供されたPictvは、ダルクヴェルが観た事のないものばかりであったが故に、時を忘れて夢中になってしまったことは、自身を省みてもやむを得ないものだ。

 そんなあまりにも稚拙な自己弁護をしながら、ダルクヴェルは手を組んで軽く伸びをする。

  

 現在の状況に不満はないが、気にかかることは多々ある。

 あの宙域に残してきてしまった部下の安否や、拠点にいるであろう庇護者たる面々の事など。

 いくらPictvを観ていたとしても、胸にしこる様にダルクヴェルの頭の隅でチリリと気に掛かるものであった。

 とは言うものの、籠の中の鳥(とりこ)の身であるダルクヴェルに何が出来るかといえば正直何もできはしないと言う話だ。

 

 いくらドアを叩こうが喚き叫ぼうとも、この虜の主は必要事項以外のことに関しては無言を通していたのだ。

 よって彼の人物が何者でどういう人間なのかも、全くダルクヴェルには見当もつかなかった。

 ただ非常にPictv好きの上に、その所有量はダルクヴェルを遥かに上まっているという事実のみだ。

 そんなくだくだと考えを巡らせていると、いつもの空気が変わっていることにようやく気付いた。

 風と言えばいいのだろうか。どうにも空気が動いている感じをダルクヴェルは受けたのだ。

 

「………まじか―――――」

 

 そうして空気の動く方を見てみると、堅牢たるドアがぽっかりと開いていたのだ。

 いったい何が起こったのか、いつもと全く違う状況が目の前に現れたのだ。

 

「いやいや、まじ有り得ねぇ〜んだけどっ!?」

 

 何事にも慎重を期すダルクヴェルは、訝しみつつもドアの向こう側を窺い見る。

 どうやら何もないし、起こる様子も見られない。

 それを見てダルクヴェルはすぐに判断を下し、行動へと移すことにする。

 それはそうだ。開いてるドアを通らない道理はないのだから。

 

 

    

 

 

 キャプテン・スタァジングァは深く思考の海の中をたゆたっていた。

 帝国が発展すればするほどに、自身の胸の内にどうにも形容のしようのない焦燥感が常に付きまとっていた。

 それはスタァジングァの先祖達が苦難の末に辿り着いたこの地にいるという、訳も分からぬ罪悪感というものかもしれない。

 

 彼等が得る事の出来なかった生きる上のでの平穏を、自分がこのまま享受して生きていてもいいのだろうか。

 疑問を呈してもそれに答えてくれる人間はそれほどいなかった。

 貴方は至尊の冠を抱く一族のものである、そのような瑣末な物事に拘泥する必要はないと言いのける教師の言葉には、貴族たるが故の歪んだ精神性を感じスタァジンガァはそれ以後彼らに対し口を噤み沈黙した。

 

 この沈黙は言い返す言葉がなかったのではなく、このような人間に何を言わんやという彼等の心情を見たが故の判断であった。

 その時点でスタァジングァはこの世界で生きるのを半ば諦めたのだ。

 このさながら死んだような生活に何の意味があろうか?と。

 それでも抗うこと。スタァジングァと名乗った時から、それが自分の為すべきことと結論を出す。

 それがこの帝国を出帆する契機になったのは言うまでもない。

 

 徒手空拳。まさにそんなものであった自分に、やがて部下ができ道を違えた稼業へと勤しむことになる。

 これはこれでいいのだろうと、その生き方に得心と納得を得て自分はあっさりと諦めたはず(・・)であった。

 あまりにも遠く遥かすぎるその行程に、生活と理想の間を垣間見ながら。

 

 そして、こうして捕らえられ監禁に近い状態の中でスタァジングァは望むものを与えられそれに夢中になってしまった。

 それはただのシミュレーション・ゲームだ。だが、いかに。どれだけ。なんの不都合も起こさず。宙を往けるのかを。それは命題とした。

 新たなる新天地。古の故郷と同等の、その惑星ほしを見つける為に。

 

 所詮は理想。いや、妄想と空想の類のものだ。

 周囲の人間に問えば鼻で笑うように言うであろう。“現実的ではない。もっと周りを見るがよかろう”と。

 そんな事はスタァジングァも理解してるし、もちろん正しいとも思う。

 だが、だがそれでもスタァジングァにとって、それ(・・)は行われるべき事なのだ。

 

 必ずしも正しいが正解とは限らない。

 数式の解とは違うところにスタァジングァは立っていたのだ。

 この道を誤らなければ、スタァジングァはそこ(・・)へと至る事が叶うかも知れない。

 だが現実は厳しいもので、ゲーム上といえど必ず破綻が訪れていた。

 

 他のゲームに興じつつ、“G”と名乗る人物との会話で(なぜか時たま通信が入り会話をするようになっていた)1つのアイディアが思い浮かんだ。

 彼は通話中に他のクルーとの会話で、こんな事を言っていたのだ。

 

『今の俺達と“彼ら”じゃ、覚悟が違うからな。俺達は“豊か”すぎ――ー―』

 

 ムッ、通信が途絶えてしまった。Gは一体何が言いたいいのか。豊か過ぎることの何が悪………いのか?

 大脱出エクソダスの時点では、すべての人間がこれからのことに不安を抱いていただろう。

 先の見えない、その生への渇望。それは焦燥とあるいは諦念もあったのやもしれない。

 それでも彼等はそれを成し遂げたのだ。

 それはどれ程の気概と信念であったのか。

 30億とも20億とも言えるその数の人間を、この地にまで連れてきた初代皇帝の偉業はスタァジングァにとって心胆寒からせるものであった。


 なる程“豊かすぎる”。ふん、そうなのだろう。我等が新天地と求め旅立ったとしても、すぐに挫折するだろう。

 兄上は言っていたのだ。無駄であると。それはスタァジングァの能力故の言と思っていたが、全く違っていたのだ。

 

 人の認識が変化していたのだ。

 

 豊かさは怠惰につながる。それは貴族も平民も同じだ。

 先の見えぬ旅程に誰が好きこのんで挑むことがあろうか。

 この年になってようやく理解に及ぶとは、スタァジングァは我が事ながらも呆れてしまう。

 

 スタァジングァは手元の操縦端末コントローテを手に取りホロウィンドウを出して、ゲーム画面の設定エディッタモードを呼び出して色々と状況を変更していった。

 今回は使えるものは何でも使うことにした。


 本拠地を設定し率いる艦船を今迄の1/10に。その内訳は居住船と貨物食糧船、そして工作船を3:5:2の割合とする。

 航行距離は食料在庫の半分に。

 今回は自動行動によるプレビューでやってみることにする。

  

 結果が分かるまでは、他の事に取り掛かることにしよう。スタァジングァは操縦端末をいじって別のゲームを呼び出す。

 今日こそ憎き巨神軍団ティタノズを屠ってくれよう。我らが大虎軍団ダイガストの力で。

 画面に9人のキャラクターが定位置につき、その後(バッテス)を持ったキャラクターが入り、正面のボーラを持ったキャラクターと相対する。

 

「私が先攻だ」

 

 キャプテン・スタァジングァは挑戦的な目で事に挑む。

 

 

 自動行動の結果が出るまでの間、対戦すること8戦。

 

「………おんのれぇ〜〜〜、巨神軍団メェええ………」

 

 操縦端末を握りしめ、スタァジングァは歯ぎしりをする。

 3勝4敗1引き分け。最後の最後で満塁ホームランを食らってしまうとは………くっ」

 眉間に悔しさの皺を刻みながら、深呼吸をして精神を安定させる。

 

「すぅううう、はぁああああ、ふぅううう………」 

 

 落ち着いたところでもう一方のホロウィンドウを見ると、予定の宙域に到着が完了していた。

 1年4ヶ月余(これが現在の亜空間ゲートが跳べる限界距離)の旅程を細かくパラメータを見るも、特に不具合は何も見られない。

 ………こんな簡単な事であったとは。

 

 要は点と点をつなぎ線で結び、やがて面と成す。そしてそれを繰り返し新天地を見つける。

 こういう話なだけなのだ。スタァジングァは今までのことを振り返り、少しばかりげんなりしてしまった。

 なんと己は遠回りをしていたことかと。

 

 ここからは工作船を使い、貨物食糧船から資材を出してゲートを作り出す。あとはそれを繰り返して先へと進めばいい話だ。

 では取り掛かるかと、コントローテを手に始めようとすると、いきなりドアが音もなく開く。

 

「ん?食事の時間か?いや………」

 

 ドアが開いたにもかかわらず、モートロイドがやって来る様子がない。

 もしくは何らかのトラブルでもあったのだろうか、あるいはどこからかの策謀か。いや、だが海賊の首魁ごときに何を言わんやだ。

 それにこれこそ天の配剤というものやも知れない。そうスタァジングァは思い直し行動へと移す。

 

 どれ久し振りに外の世界を見て回ることにしようか。

 目的やれることも出来た。これ以上の模索など必要ない。実践あるのみである。

 スタァジングァはそう決意し、ドアをくぐり搭乗ハッチから艦を抜け出す。

 通路途中で仮面を脱いで素顔を晒す。肌に触れる空気エアが心地よい。

 

 幸い?都市入場ゲートをを何事もなくパスし、腕に移植してある生体デバイスは何の問題もなく機能したようで都市の中へと入ることが出来てしまった。

 まるで何者かの手引きであるようだなと、スタァジングァは胸中で独り言ちる。

 

「お待ちしておりました。殿下」

 

 そこに漆黒の執事服を身に着けた老人が音もなく側に侍る。はん、何者かの手引きとはどうやら的を射ていたようだ。

 10年ぶりだろうか。なんとも久しい顔を見たなとスタァジングァは口元を緩めた。

 

「殿下ではないよ、私は。久しいなオルデマン」

「どうぞ、こちらへ」

 

 老人―――皇帝筆頭執事オルデマンは、微かに笑みを浮かべスタァジングァを先導する。やれやれと思いながらスタァジングァはその後へと続く。

 

 彼、キャプテン・スタァジングァ―――皇弟マルグジートにとっての怠惰の日々は終わりを告げたようだった。 

 


(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

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