40:とある惑星での救出作戦
前回のお話
気が付くとなぜか浜辺に立っているガートライト達
実地調査と称して遊び始めるクルー達
とあるきっかけにより元に戻る彼ら
なぜ起きたかは謎である。
この経験でAI達はその計画を立てることになる。
ガートライト率いる試作第1号戦艦がケィフト依頼の調査を終えてエイディアルス航路へと戻った頃、その惑星でとある救出作戦が実行されようとしていた。
その惑星の場所は帝星より北に位置し、ちょうどセントラルエリアとノーザンスエリアの境目付近にあった。
カレングル子爵惑星領―――トゥルア。
初代当主の名を冠したその惑星領はいろいろな意味で有名であった。
表ではかのカレングル子爵が治める巨大な所領として。
裏は血族以外を排除する難攻不落の要塞として。
その惑星領は血族とそれに連なる者以外に中へと入ることを禁じ極めて厳重な警戒を為し、それを可能とする権限を有していた。
この権限は2代目当主の時に皇帝から賜ったもので、皇帝の許可無くしてはおいそれと入出がかなわないものであった。
徹底的な血族主義、平民であっても必ずその血族の血を引くと言うなんとも極めつけのものである。
これは3代目当主から徐々に歪みを孕みながら、連綿と受け継がれ続けていった。
血族主義―――己等こそが、この世界の統治者であると言わんばかりの。
初代でその力を示し、2代目でその力を更に浸透させ盤石なものへと成していく。
そしてそれを3代目はその力故に勘違いを起こしてまう。我等こそがこの帝国を統べるに値する存在であると。
その勘違いは色濃く一族へと深く伝えられていき、やがて暴発する。
反乱という形を為して。
それは分家が端を発した形ではあったが、実際は本家が主導で行われたものだった。
不法に所持した戦艦群を繰り出し帝星へと進軍するも、事前に察知した帝国艦隊により打破されてしまう。
後にウィンザーグレィテの乱と言われるそれは、いまから110年程前の話である。
それが伯爵家から子爵へと降爵された現在のカレングル家である。
何故廃爵とならず1つ爵位を下げられるに留まったかと言えば、そもそも分家が始めたその反乱を伝えたのが本家たる彼等であったからだ。
自作自演と言っていいものであろう。
そしてそれとは別に、熱光照射衛星の権限とその運用方法を担っていたからであった。
当時この熱光照射衛星が完成した暁には侯爵にいたそうと皇帝が言ったのだが、初代当主はこれを固辞して来たので、その代わりにということで熱光照射衛星の全ての権限を彼に与えたのだった。
これにより多くの富が彼の一族に流れ込み、やがて巨大なものへと膨らんで行く。それと共に多くの人間が彼等におもねり従っていく。
その経緯を見れば、勘違いしたとしても致し方がないとも言える。
自身もその一員ではあるのだがと、サァクルヴ・ドゥ・エリスハイトはそう独り言ちる。
彼等本家の人間にとって分家の人間などは、使役する駒の1つ、歯車の1個でしかない。
傲慢かつ尊大。それがサァクルヴが持つカレングル家の心象であり印象である。
そう、カレングル一族と言っても、一枚岩ではなかった。
亀裂などというものは端から発しじわじわと浸蝕していくものだ。
それが彼まで到達したというだけの話だ。
だから彼にそんな話が来たのも、むべなるかなと言うものだった。
この惑星領に保護されている2人の人間をここから脱出させる協力を。
それは見知らぬアドレスからの着信であった。
本来この手の連絡については、本家からすぐに削除せよという命令が出ているのだが、サァクルヴは好奇心に揺り動かされて開いてしまう。
それがサァクルヴにとっての人生の分岐点であったのだが、なし崩し的になだれ込むようにそれは進行して行った。
それに従い行動するだけで、自身の所領の生産量の10倍もの報酬を得られるとなれば、しょせん四男坊のごく潰しと周囲に言われている身としては、頷かざるを得ないというものである。
所詮食い詰め者の飼い殺しの身に選択肢なぞないものなのだと。
サァクルヴはその話に乗ることにして、指示されたことに唯々諾々と従うのであった。
どの道彼があの着信を開いて時点で、それ以外の選択肢は無かったのだから。
□
正直このような事が可能なのかと疑っていた。
物事には無理、無駄、無茶というものが往々にしてある。
その最たる無茶と言えるのが、カレングル惑星領への潜入行動である。
たとえ帝国軍諜報部の人間といえど、この領にはおいそれと侵入することは生半に敵わぬ筈であった。
だが盤石と言われるその警戒網をいとも容易くすり抜け、ましてや内通者をこちらに呼び込ませる程のものとは。
自身が経験したことのないこの状況に戸惑いながらも、冷静かつ沈着にその使命を果たすべく行動へと移して行く。
彼等カレングル子爵家の人間は彼等に有用な人間と見ると、物と金銭、弱点等(家族、または負い目のあるもの)を調べ上げて籠絡し、手中に収めて自身の本拠地へと何食わぬ顔で保護という名目で押さえるのだ。
そこら辺の貴族が使う懐柔策など鼻で笑うように。
特に家族等などは、わざわざ病気の兆候を細工してこちらで治療しないと回復の見込みがないなどと言って連れて行く訳である。
それがウィンザーグレィテの乱を経た後の、彼等の手段となっていった。
じわじわと彼らの思考を少しづつ浸透させて行き、やがて帝国中へと蔓延させていく。
それが現在のカレングル子爵家の意志と思惑であった。
堅牢かつ厳重なその惑星領へと侵入するのは、生半なものではない。
たとえザーレンヴァイス公爵家の影の存在である自分達だとしても、不可能というものである。
だが指令を受けた以上は、必ず潜入をし保護されている2名を救出して脱出してみせる。
それがただの虚勢であると誰もが理解し分かっていたが、そうでも思わないととてもじゃないが、というのが彼等の実情である。
だが、それを可能にしてしまう存在があった。
そしてその存在の指示に従えと。
潜入者は全部で若手2名に壮年男性3名の5人のみだ。
潜入行動に手慣れた3名はかなりの熟練者であり、若手2名もそれなりのものであると理解している。
その組み合わせがベストだと言われてしまえば、多少の不安はあるもののやらざるを得ないだろう。
隊長格である壮年男性は、若手が暴発しないように気をつけねばならないと胸に留める。
だが領内潜入は彼等が尊ぶべき御方から指名された存在によって、あっさりと成されてしまった。
本来彼等がその惑星領に侵入することなど出来はしないと思っていたのであるのにあっさり、そうあっさりと入れてしまえたのだった。
それがどれだけあり得ないものであるのか、知ってるものは驚愕するものであろう。
いや全てはあの方の輩の力であった。
そう、あらゆる所で見えぬまま、その力を与力して下さる彼の者。年を経た彼等は有り難さと感謝を感じずにはいられない。まぁ年若きものには、ちと分からぬものであろうが。
潜入行動は至って簡単であっさりとしたものだ。
普通に軌道都市港に入り、そのままチェックを受けるというもの。
元々この計画には懐疑的ではあった。だが彼等は元々主の命により動くことが至上の悦びと認識しているものの、あの方の言葉でなければ恐れながらと言っていたであろう。
なのに覚悟と決めた心とは真逆に、あっさりと入り込めてしまった。
目標はあの方の輩の部下の家族。
彼等2名の救出だ。
有り体に言えば拉致とも言える。
しかも潜入員はわずか5名。
どんな無体だと思ったものだ。
だが、彼の者は自身がその身内であろう人物に対しては並々ならぬ親情を持つ人物であった。
それは我々ならばあの方と主の為に何かをせずに入られぬ、そんな心情と似ているものだ。
それがザーレンヴァイスの影なる身である我等である。
状況はかなりこちらに有利に運んでいる。
なれば今回の作戦は必ず成し遂げなければならぬものと、彼等は改めて決意をするのだった。
のだが。
「隊長………」
「………分かってる。私だって困惑はしている」
「まさかこれ程とは………」
そんな言葉を漏らしてしまうのも仕方がないというものだ。
軌道都市港から軌道エレベーターを降りる中でも、そんな覚悟はあっさりと覆されてしまったのだ。
なにせ全てが何の障害もなく進んでいくのだから。
これは彼等自身経験したことがない状況であった。
何もかもが上手く行き過ぎることに対して、ある程度の警戒をしてしまうのもやむをえない事であろう。
とあるルートから入手した紅い手の平程のカードと、紋章を象ったアクセサリーを用いてここまで辿り着くことが出来てしまっていた。
何とも拍子抜けではあるが、ここからはそう簡単には行かないだろう。
大型のソーシャルポーターに乗りながら目的地へと間もなく到着するというところで、“彼女”がホロウィンドウから説明を始める。
どちらかといえば再確認というところか。
『では先だって説明いたしましたが、再確認の意味も含めて話させていただきます』
大型ソーシャルポーターに乗る5人の人間が頷きを返す。
今回は少数での作戦行動なので、皆それなりの腕利きの者達だ。
『この先にある医療施設は、血族とは関係のない人間を従わせる為“病”と称しその家族及び親族を看護という名目で管理をしている施設となります』
そう、医療施設とは名ばかりの特定の人物を従わせる為の人質を集めた牢獄である。
やってる事はどこぞのマフィアと変わりがない。ただやたらと規模が巨大になって1つの産業と化してしまっていたという話だ。
だが施設自体はそれなりに過ごしやすく作られていて充実しており、近隣には商業施設や教育施設等も存在している。
しかもその教育施設では、かの血族こそが帝国における~と嘯く教えが子供達へと為されていた。とんだ洗脳施設と言っていいところである。
『なので他の場所より警戒体制が厳密になっており、“牧羊者”か“羊飼い”しか入る事が出来なくなっております』
なんとも酷い物言いだ。帝国人民を奴隷とでも思っているのだろうか、こいつ等は。
普段は感情を表に出すことはない彼等だが、両の拳を感情に任せギリリと握り締める。
『ですので偽装をしてあなた方には羊飼いとして潜入、目的の場所から人員2名を救出のちに脱出することとなります』
声を出さず全員がコクリと首肯で答える。
『内部に潜入したのちは、皆様方の判断で行動をお願いいたします。未だあの内部の掌握が為されていません。必ず誰かに誰何されると考察されますので、よろしくお願いします』
彼女の言葉に深く頷きを返し、全員が目的地を睨みつける。
だがそれも一瞬のこと。すぐに感情を抑え奥深くへと沈めていった。
それこそが彼等がこれまで培ってきた実績の証左でもある。
長い長い1本道を辿り、ソーシャルポーターは件の建物へと到着する。
堅牢に閉ざされていた門も、その中門も何の問題もなく通り抜ける。
そして巨大な白い建造物が目に入ってくる。
見た限り数千人の人間がここで生活をしてると予測が出来るものだ。
やがてソーシャルポーターは貨物搬入口へと入って行く。
現在彼等の身分としては、エリスハイト家からの臨時雇いの人間というものだった。
家族が重篤でな状況であるという話をして、医療施設の職員3名が所領に戻っている間の補充員という訳だ。
もちろんその身元は家族構成から、収入、現在の役職などをきっちり精査した結果の上問題なしということですんなりと建物内へと入って行く。(2名は車内で待機)
「……………」
いいのだろうか。こんな簡単に潜入できてしまって。キャスター付きの清掃用具入れを転がしながら、潜入工作員たる彼等はそんな感慨を胸に抱く。
だがここからは完全なる敵地である。(この惑星自体そうではあるが)
更なる警戒をと気を引き締める覚悟をしたところで待ったがかかる。
『バイタルが不安定になっています。警戒は必要ですが、あまり過ぎますと逆に疑われる畏れがあります』
「了解」
彼等は事前に決められたとおりに人格へとその精神を切り替えていく。
目標は52階の154号室。現在そこにいるであろう2名の確保だ。
現在時刻は0400.時間にそれほど猶予はない。
彼等は遅延なく行動へと移して行く。
全100フロア、1フロア200ルームという医療施設――――いやこの牢獄は巨大な建造物である。
知らない人間が入ってしまえば、迷うってしまうこと確実な広大さだ。
それも予め教えられたルートを辿り、迷うこともなく目標の場所へと難なく到着する。
だが、そこで想定外の自体が起こる。
本来なら就寝中のはずの目標2名が起きて活動していたのであった。
一瞬そのことに戸惑いを覚えるものの、想定された状況の1つと認識して直ぐに行動へと移行する。
もちろん、その身上の確認は怠らない。
「失礼いたします。テレザ・ヘリウォーズ様とミラ・ヘリウォーズ様でしょうか?」
語らい合いに突然声をかけれるも、日常―――この状況に不安も違和感も感じないように目標はすぐに返答してきた。
「はい、そうですけど………どうしましたか?」
「失礼します」
だがその問いに答えることもなく、2人対し行動へと彼等は移る。
1人が入口を警戒し、残り2名がすかさず2人の首元へと麻酔銃を撃ち意識を失わせる。
予め用意してある清掃用具入れへと2人を収め、そのまま退却を始める。
一般用エレベーターで1階へと降り、更に貨物搬入口へと向かおうとした時、声を掛けられてしまう。
「待て。貴様等見たことのない顔だな。………どこのものだ?」
一瞬3人は身体を強張らせるものの、精神力でそれを抑え誰何して来た人物へと身体を向けて答える。
「ははっ。先日エリスハイト家より参りました、従人であります」
3人は右手を左胸に、左手は背へと回し軽く膝を折る。
従人―――カレングル領内において従者たる人間が上位の人間に取るべき挨拶である。
そのように答えた相手の姿は、銀髪を後ろに撫で付け榛色の瞳を持った壮年の男性である。
薄灰色の詰め襟の制服の下は、筋肉が詰まっているかのようにガッチリと引き締まっているのが窺い知れる。
いわゆる警士と言われる、この医療施設内の監視者の1人である。
そして3人を見るその目は、冷ややかかつ尊大そのものである。
いかにもカレングル家らしい態度であり様相である。
「………ふむ、エリスハイトと言えば、アルバミは壮健であろうか?」
おそらくはこの間に照合は済ませたであろう警士は、まるで世間話のように話を振ってくる。
だがこれも試しのようなもので、今話の出た人物はあの領内に存在していない。
さも知っているような口ぶりをすれば、何者だということになる。
だが彼等はそこまでの情報を入手していなかった。
彼等がつい首を縦に動かそうとした時、グラスモニターに情報が入って来た。
「申し訳ございません。自分は外戚の身の故、アルバミ様という方は存じ上げないのです」
「………ふむ」
彼等3人を眇め見ながら、更に言葉を繰り出そうとするところにピピっと緊急報知が警士の耳に響く。
「なんだ?」
『F72−R115にてF対応発生。直ちに処理せよ」
「分かった。ケイドゥール対応処置了」
警士が右耳に手を当て対応を終えると、彼等3人を一瞥し言い捨てる。
「うむ。我等の手を煩わせるな。そして御家の為にもその身を尽くすがいい。ではな」
その警士はそういい捨てて通路を優雅に移動して行った。
「…………」
おそらくは本家の中でも上位に位置する人間と伺える人物であろう。襟元に着いていた徽章がそれを物語っていた。優雅かつ尊大。
この辺りが貴族と庶民というものの教育というものの差なのかも知れないと、彼等はつい感じてしまった。
それは自身ではあがなえなぬものとしみじみと諦念してしまう。所詮下級貴族の身である我が身がせいぜいとも言える。
まぁそれも仕方がない事であるというものだろう。彼等にしてもそういう教育を受けているのであるのだから。
いや、そんなものははなから考えにも及ばないものである。所詮絵空事の話だ。
三者三葉に彼等は似た様な感慨にふけりながら施設を脱出することが出来てしまった。
彼等としては決死の覚悟で向かった筈なのにそれ程の危機もなく遂行できてしまったことに、ソーシャルポーターの中で安堵と共に空虚感を感じずにはいられなかった。
安全圏に入った時点で、彼等は母親の様態を医療の心得のある人間が診察した結果、投薬と暗示等によりかなりの衰弱状態とであることが分かった。
まさに生かさず殺さずというところか。
「結局“彼女”は何者であったんでしょうか」
副官格の男が呟くように言葉を漏らす。
最後まで姿を見せること無く、口頭でのみの指示で事を成し遂げてしまった。
「やはり御側衆の方なんですかね?声は若そうでしたけど」
若手の1人が緊張の糸が切れた勢いで聞いてくる。
もちろん隊長たる彼は知っている。多分そう思うだけだが。
どの道、自分達がが知らなくてもいい話だ。
「さぁな。私にも分からんよ。おかげで命拾いしたという話だ。私はただこの幸運に感謝するだけだよ」
「「「「了解」」」」
これ以上詮索するなと言外に発すると、すぐに返事が返ってくる。
そうこの作戦もあちらと合流すれば終了となるのだ。
だが、この救出作戦において一番大変な事案がここで起こる。
目覚めた2人に説明を始めようとしたところ、娘であるミラが暴れだしたのだ。
母親は特に何の反応も示さなかったのだが、娘の方は戻せ戻せと大騒ぎを始めてしまう始末。
かの一族の“教育”はこの娘へとしっかり浸透していたのだった。
結局ノーザンス中継都市まで眠らせることで先送りにした彼等であった。
□
彼等ザーレンヴァイスの影達の作戦行動とは真逆に水面下での戦いは、中々に激しくも厳しいものであった。
第35開発試験場にいたカレングル子爵の従者の端末を皮切りに、次々と彼らの電脳を掌握していったヴィニオの分体は2ヶ月かけて彼等の惑星領へと辿り着く。
だがヴィニオでもそう簡単に事が成しえる事は出来なかった。
この惑星領に張り巡らされている電脳システム網は、他と様相が違っていたのだ。
1ヶ月前、何とかシステムに入り込むことに成功したヴィニオは、その中を巡りながら情報を集めて行った。
拠点となる演算処理機構から得られたのは、ヴィニオにしても舌を巻くものだったのだ。
従来のシステマであれば1ヶ所の拠点から指令を出し隅々まで行き渡らせるものなのだが、この惑星領のシステマは拠点を12ヶ所設置し、それぞれが指令を出せる仕組みとなっていた。
一言で言い表すのなら、並列分散型処理機構と言ったところか。
このシステマの厄介なところはメインとおぼしき拠点の1つを掌握しても、他の拠点がメインに切り替わって処理を遂行する。メインがサブでありサブがメインとなるのだ。
なので乗っ取りを行った時点で掌握が露見して、こちらが行動不能になる怖れがある。
であるから拠点12ヶ所の一挙掌握が必須となる。
何よりヴィニオが留意したのは、惑星領に住まう人間に気づかれる事がないようにシステマを支配下に置くことであった。
しばらくの間3歩進んで1歩下がるという状態であったが、領内の人間を利用することにより進捗が大幅に前進する。
そう、彼等は血族に対しあらゆるところが緩やかであったのだ。(それなりにレベルがあるものの)
本物のIDから偽造IDをいくつも作り上げその時に備える。
そして作戦行動開始1週間前、ヴィニオは行動を開始する。
分体12体による一斉掌握。
他に抜け穴がないかを確認しながらの乗っ取りであった。
全ての拠点を掌握しデータを確認していると、ヴィニオは裏口の存在を発見してしまった。(それもヴィニオであれば容易に侵入できてしまうものが)
何ともガックリと肩を落とす気分になりながら、その裏口を解析すると、このシステマを作り上げた人物が浮かび上がる。
故人であるその人物は映像データを残しており、悲痛な表情をしこれを使い奴等を、奴等をどうにかと繰り返し語っていた。
それを見てヴィニオは、なる程彼も犠牲者の1人という話だと理解する。鎖縛者とでも言えばいいのだろう。
無念と諦念の中このシステマをこの天才は構築したと推測できた。
裏口はあなたの希望通りに活用しましょう、消えた映像データを前にしてヴィニオは告げた。
件の医療施設内の1万余名の中から、その目標の位置、行動を確認して実行者へと伝えていく。
途中、警士に誰何された時は少々慌てもしたが、何とか対処する事が出来ヴィニオはほっとする。(ちなみに騒動は突発的に起きたもので、ヴィニオは関与していない)
そうして潜入者と救出者を無事に惑星領から脱出させることが出来た。
この後ヴィニオは脱出することなく、この惑星領内でデータの収集を継続する。
ガートライトがこの地にやって来るまで。
重要拠点にはこの医療施設同様のシステマがあり、ヴィニオは裏口を利用して次々と掌握して行った。
きっとガートライトはまた何か面倒事に巻き込まれているだろう。そんな事を考えながらヴィニオは電脳内を巡って行くのであった。
(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます




