37:彼らの素性、そして新たな指示
前回のお話
平民出のレイリンさんは貴族の子となり務めで軍へ
そこで貴族のボンに絡まれボコ殴りにする
いろいろあって今は試作第1号戦艦の索敵通信士長
元頂点と戦えてひゃっほい気分
試作第1号戦艦は、ノウイスエリアにある拠点駅に一時滞在した後にケィフトからの指示を受けて航路を変更することとなった。
そのケィフトからの指示もそうなのだがガートライトとしては目下面倒というか、ちょっと複雑すぎる状況に辟易していた。
「あ゛〜〜っっ面倒臭っ」
ザーレンヴァッハから請けた2ヶ月間も残り僅かという時点で、本来であればのんびりとデータ検証やらPictvを見て過ごせる筈なのにだ。
「くっ、これも全〜〜部ケィフトのせいだ。くぅうう〜〜っ!俺の安息の地はどこに行ったんだっ!?」
さすがにガートライトもいい加減に鬱憤が溜まっているようで、背凭れに寄りかかりながらだらけるように管を巻く。
たしかにアレィナから見てもオーバーワーク気味と言わざるを得ない。
現在ヴィニオやアレィナのサポートがあるおかげで辛うじて決済をこなしてはいるが、普通の大佐がこなせる量では実際ないのだ。
が、この状況に至った経緯を考えてみれば、全てガートライトの行動のせいとも言えなくもなかった。
ユールヴェルン機関の全力運転により辿り着いた宙域で、趣味の赴くままに採取、採集を行い、発見したマーリィ・セレストン号から色々なものを接収したり。
エクセラルタイド中継基地においても何故か模擬戦闘をやる事になり、本来表に出すことのなかった剣、槍の一部とは言え能力を披露したりと、色々やらかしていたりする。
そして航行試験の他のもう1つの命令に於いて、ある宙域で猛威を奮った海賊団を無力化する。
現在はケィフトの指示により、海賊団のリーダー達3人をこの航行に同行させている訳だ。
本来であれば彼等海賊団の頭と言うべき人間を、この艦達に乗せることはあり得なかった。
のだが、何故かそんな事になってしまったのだ。
もちろん軍命であれば、従わなければならないのが世の常である。
結局は急遽剣、槍、盾へ、それなりの部屋を設えて収容することにした訳だ。
まぁケィフトの意図としては、あそこで全ての海賊団員を引き渡したとしても上から圧力を掛け放逐されるのは目に見えているので、それへの抑止力としてリーダーを仲間から引き離したのである。
その意図も目的も理解は出来るのだが、何もよりにもよって試作第1号戦艦に持ってこなくとも良かろうもんにと、ガートライトは言わずにおれない。(言わないが)
そしてガートライトを始め、アレィナそしてヴィニオでさえも彼等の経歴に驚いたのだった。
なんせあの禿頭の人間は帝国国立大学機構院において、至宝の頭脳と呼ばれた人物であったからだ。
幼少の頃から神童といわれ、様々な理論を発表していき帝国中を震撼させたという。
後年になると社会学、経済学へと傾倒し、そちらでも輝かしい成果をもたらす。
ただし、机上のものとして一部分が社会に還元されるに留まる。
あまりにも鋭新すぎる考え方(この場合は懐古に帰ると言った方が正しいか)は、ある種の嫌悪をもたらすものだったからだ。
特に専制主義社会の中で民主主義を謳うのは、下手すれば非国民と見なされ反逆罪になりかねないものだ。
だがこれ迄の功績を鑑みたおかげで、ダルクヴェルは今までと同様に据え措かれることとなった。ただし要注意人物として少々窮屈な思いをすることになったのだが。
しかしそれに懲りるダルクヴェルではなかった。
社会不適合者と言われる人間に関しての論文を書き上げ発表すると、忽然と消えてしまった。それこそ監視の目を掻い潜ってだ。
そして現在、海賊の頭領としてここに現れたのである。
しかもこの御仁、大のPictv好きというのが海賊旗艦の電脳を走査した時に判明する。
ならばと、ガートライトはこれ幸いとダルクヴェルの部屋に大量のPictvの作品を布教したのだった。
目の前にPictvを広げられダルクヴェルは陥落する。
それだけでなく、ガートライトやジョナサンズ達が時折り話し相手となりダルクヴェルの大まかな経緯を知ることが出来た。
「人に歴史ありだよなぁ〜………」とその時ガートライトは呟いたものだ。
どうやら例の論文の発表によって過激な専横主義の人間に目をつけられたダルクヴェルは、命を狙われるようになったらしい。
幸い家族のいなかったダルクヴェルは、当時知り合った社会不適格者と言われる者達と共に帝星を脱出し星系内をあちこちと彷徨くことになる。
そこで先代の海賊団のリーダーと知己となり、やがて自身がリーダーになったとか。
なんとも波乱万丈の人生と言えよう。
それに比べれば憂国勇姿団ミスティアミーストのアイナクラィナ・ムハマンディはわりかし大人しめ?な方なのかも知れない。
捕縛当初、老婆と思われた彼女は妙齢の女性であることが判明した。
アイナクラィナは老婆の顔マスクを使って変装していたのだ。
そしてマスクを取った後に現れたその顔は、知る人ぞ知るという有名人であった。
数年前に無重力格闘技の大会で、多くの対戦者を降し見事に頂点者となった人物だったからだ。(レイリンが珍しく興奮していたので、ガートライトは印象に残っていたのだ)
あの頃と比べて体格も女性らしさが現れ、その顔は美麗と言うに他ならない。
アレクスやエルクレイドが映像を見て息を呑んだ程だ。(ガートライトは平常運転)
茶飲み話という取り調べに於いてなぜ老婆のマスクをつけていたのかを訊ねると、何ともあっさりとした答えを返して来ていた。
「あ?まぁ面が割れてっからさ、ババァだとギャップあって面白ぇーと思ってさ。あんま深い意味はないね」
アイナクラィナは竹を割ったようなさっぱりとした性格のようで、そんな言い方をしていたのだ。
そして彼女が海賊団に入った経緯も話の中で判明していく。
大会の賞金で購入した個人用の小型航宙船で、星系内を彷徨いていたところにミスティアミーストと行き会い戦いとなる。
とは言っても乗り込んできた海賊達を、アーツでもって1人残らず倒していっただけだと本人はのたまった。
その後海賊たちを完全に封殺したところ、海賊達の数人から是非私達のリーダーになって欲しいと懇願される。
彼女達は、貴族たちの横暴や専横に嫌気が差して逃げて来た集団で、出来ればいい国になって欲しいという願いを込めて、海賊団を結成して今に至ると言って来たようだ。
そう憂国勇姿団ミスティアミーストとは女性だけで構成された海賊団だったのだ。
日常に飽いていたアイナクラィナは、その話にあっさりと乗ることにした。
理由が面白そうというのが、何ともな話である。
こうして彼女をリーダーにしたミスティアミーストは、かの宙域に腰を据えて活動するようになる。
その間に“上”の話もあったのだが、アイナクラィナとしてもよく分からないという話だった。
なにせそのやり取りは二言三言の通信と、どこからか射出された伝書筒で送られた文書による指示のみで、その文書も時間が経つと内容が分からなくなるように変質し崩れ落ちるという徹底したものだったからだ。
よって何者なのかは3人が3人共分からないということだった。
問題なく報酬が支払われていたので気にもしなかったようだ。
しばらくしてアイナクラィナが身体を動かしたいと要望があり、彼女にアーツで暴れられても困るということで、同じ0Gアーツ使いのレイリンに相手役を頼むこととなった。
0Gアーツの訓練をしてはと提案すると、どうやらどちらも身体を動かすということに関しては燻っていたようで、すぐに了承を返して来た。
ジョナサンズによる突貫工事で盾と試作第1号戦艦に格戦用の空間を設え、アレクス監修によるモートロイドを使っての0Gアーツの戦闘訓練を行えるようにした訳である。
0Gスーツと同様に各関節部分にスラスターを装着し、行動模倣を利用して動きをトレースさせていくというものだ。
行動模倣は映像とモートロイドに付けられた発信装置を元に、その動きを瞬時に再現するものだ。
メリットとしてはそれを使う遠隔地に於いて安全に同様の行動が可能な事と、その人間の行動データを蓄積することが出来る事で、デメリットは細かな動きに対して僅かに遅れが出ることとモートロイドの消耗が激しいことで何台もの機体を損耗することであった。
ガートライトとしては半ば諦め気味になりつつも、やむなくこのことは了承されることとなる。
下手に暴れられても面倒なので、それを回避できるのであればそれも致し方なしというものであった。
その後は定期的に模擬戦を行うことによりアイナクラィナに対する面倒事が減ったのは僥倖と言えよう。
そして一番の面倒事であったのが、宇宙旅団“白き明星”の団旗長というキャプテン・スタァジングァである。
先代の皇帝陛下には12人の子供がいる。
この皇帝も子沢山皇帝と名を馳せていた。
それも側妃や妾妃などでなく1人の皇妃から生まれた純然たる血統者として。
双子を2組入れて、上は20歳から下は0歳児まで。
現皇帝が即位時にその妹弟達は臣籍に降る、もしくは継承権を放棄し皇族の一員として仕えるということにより現皇帝の治世が始まる。
その中で異色だったのが、一番末の弟のマルグジードだ。
彼は日頃から星系外への宙域へと目を向けており、常々自分はあの外宇宙の向こうへと行きたいと公言していたのだ。
確かに外宇宙への調査は代々の皇帝により行われていたが、それは無人の探査機等であり有人の調査は行っていなかった。
そもそもその必要性がなかったからだ。
ど言うより内政に力を入れる事のほうが重要であり、他のことに予算も人員も回す余裕がなかったと言える。
という訳でマルグジードの要望はあっさりと却下される。
そしてしばらくすると彼は何処かへと出奔する。
兄たる現皇帝へ“自分自身の力でやれるだけやろうと思う”というメッセージを残して。
その事態に大慌ての周囲に反して皇帝は、肩を竦めながら「捨て置け」と一言いい捨てこの件はそれで仕舞いとしたと言う。
対外的には病に罹り亡くなったとされる。皇族とは思えぬ程式はしめやかに行われた。
まぁ1番被害にあったのはマルグジードについていた従者達であろうが、その辺りは問題なく皇宮がフォローを行い事なきを得る訳だ。
よもや表向き亡くなったと言われた皇帝陛下の末弟が、海賊稼業を営んでいるなどと思いはしないだろう。
宇宙旅団“白き明星”の旗艦を拿捕し、無力化したキャプテン・スタァジングァの仮面を外し、その顔を見たガートライトはすぐにその仮面を戻すように指示する。
そしてヴィニオにキャプテン・スタァジングァと称される人物に関しての全てのデータ(映像及び音声等)を破棄するよう命令する。
ヴィニオはすぐ様その命令に従って、あらゆるデータを抹消する。
一緒に確認をしていたアレィナは首を傾げるのだが、自身の記憶を手繰り寄せ解答を得ると顔を青褪めさせる。
「ガ、ガートっ………、この人って………」
「あ〜………はいはい。それ以上は黙っとこうな。色々面倒い事になるからな」
「う、うん。分かった。了解!」
目を閉じたその顔は、若かりし頃の先代皇帝にとても良く似ていた。
ただ、先代皇帝の顔などはそれほど覚えているとも思えないが、裏を返せば現皇帝の顔ともよく似ているという話になるのだ。
キャプテン・スタァジングァとの話はそれほど深く掘り下げることもなくあっさりと済ませられた。
下手に突っ込むと、いらぬ面倒事が降りかかるであろうことが目に見えたからだ。
かといって放置するには色々と問題が出てきそうなので、とりあえずガートライトとヴィニオで作ったゲームをやらせることにした。
いわゆるSLGというもので、大脱出をモチーフにしたものだ。
人・物・船とありとあらゆるものに数値を設定し、大脱出時のデータを網羅して作り上げたものだ。
案の定キャプテン・スタァジングァはこれに食い付くことになる。
多くの船団をいかに安全かつ安定に運用すればいいのか。
そしてキャプテン・スタァジングァはこのSLGを通じて自身の不甲斐無さを痛感する。
バランスよく配置しようとしても、どこかで破綻をきたす。
それは大脱出自体が無謀であったという証左でもあった。
なぜこれが成し得たのかといえば、それが人の生き汚さだとガートライトなどは思っていたりする。
どのような局面にも、個々が自身をその子をその系譜をいかに守り繋げようとしたか。
それこそが現在に生きる人という種の有り様であった。
方や先に移住した星系に。方や追われた上で辿り着いた星系に、それぞれ居をなし生を育むこととなった。
人が“証”―――それぞれの存在意義を見出す事こそ人としての本質があるのではないかと、当時の資料を見ながらガートライトが思ったことであった。
そんなものは数値にはどうやっても替えることは出来ない。
それこそが現実と虚構との圧倒的な違いではある。
それでもガートライトとヴィニオが考案と深謀に費やしたものは、キャプテン・スタァジングァにとってはそれだけで満足足り得るものだった。
その後は一画面から多画面へ発展させながら、次々と不測事態を起こしその変化によって複雑化させていった。
ヴィニオと共に作りながらこりゃ1人でどうこう出来るもんじゃないわと、ガートライトは思ったのであった。
それは国家を運営するに等しいものであったからだ。
そしてある日の事。海賊団のリーダーを加えながら、日常に戻ったガートライト達にケィフトから1つの指示が下される。
ノウイスの拠点駅から少し内に入った所にあるとある惑星の調査である。
いや、惑星の調査というよりは惑星側に設置された衛星の調査というのが正しい。
このエルファーガ星系の特徴として、太陽がないこととそれに付随する公転がないこと。
なのに各惑星が自転をしていること。
多少の差異はあるもののほぼ同じ自転率を持つ各惑星を不可思議と思うながらも、彼等にとっては特に気にするものではなかった。
彼等はようやく1つの安住の地を手に入れたのだったから。
だがそれでも不満を漏らす者達は必ず存在する。
意見が別れる中、1人の人間が武力を行使して権力を得てこの地に留まることを宣言する。
これが帝国の始まりとなる。
やがてその衛星が造られ、惑星は光を与えられ現在に至る。
現在の繁栄を帝国にもたらした物。それが熱光照射衛星であった。
その惑星に設置された稼動前の熱光照射衛星に異常が発生したという話であり、その調査をたまたま近くにいた試作第1号戦艦へと回ってきたという訳だ。
ガートライトとしては畑違いのお門違いとも思う。だが、命令であれば仕方がない。
こうして試作第1号戦艦と共にその船団は、一時的に航路を変更し星系内へと進んでいった。
その目的地は、水の惑星 AAT・Bz−125。その熱光照射衛星である。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
てな訳で太陽と公転なくしました。一応修正はしましたがあったらすみませんm(_ _)m
相変わらずのにわか知ったか浅知恵です
へーそっか馬鹿なこと考えんなぁぐらいで流し読んで下さるとありがたいです




