35:そして仕上げをごろうじろ
前回のお話
週1カレーをガートライトとジョナサンズが作る
航行中の揚げ物料理は要注意!(でも作る)
そして別のジョナサンズは宇宙を漂い海賊船を待つ
「ちょっと!何全部のせなんてしてんのよっ!1つよこしなさいよっ」
「何言ってんだよ!そっちこそ唐揚げ6個のっけてるだろ。取りすぎだろうがっ」
「なにをぉ~~~っっ!!」
「おお~~~っっ!!」
なぜか食堂はとても酷い事になっていた。
昼のチャイムとともになだれ込んできたクルー達によって戦場と化していたのだ。
主に副菜の取り合いで。
ガートライトとミナユナは厨房の中から争奪戦を眺め見て、溜息を吐きつつ再度調理の用意を行う。
「仕方ない。追加をいくつか作ろう」
「了解。数はどうします?艦長」
「同じ数でいいだろ。もし余ったら夜食にでも回せばいいさ」
あの様子を見て果たして余るだろうかとガートライトは思ったが、ミナユナにそう指示をする。
「「了解。すぐに取り掛かります」」
2人がそう言うと、まるで示し合わせていたかのように行動を開始する。
いや実際にこれからの行動について、電脳内で打ち合わせたのだろう。
やれやれとガートライトは、俺のやる事ねぇんじゃね?と思わないでもなかった。
2人が肉類を切り分け始めたので、ガートライトはそれ以外の作業に取り掛かることにする。
足りなくなった衣を作り足す作業だ。
保存庫からいくつかの梱包された食材を次々と取り出していく。
この食材に関して言えば、2種類のものがある。
すなわち天然食材と合成食材だ。
天然食材とはもちろん生物・植物等を加工したもの。
そして合成食材とは、有機物や化学物を合成し培養したものである。
これは大脱出時代に構築されたシステムで、長期間の旅程においての食糧確保という問題を解消する為に作られたものだ。(もちろん船内でも野菜、家畜等の食糧確保は行われていた)
そしてこの天然食材、合成食材ともに利点、難点がある。
天然食材で言えば、味、質ともにそれなりに良い品質のものが出来る。
だが、それに伴うように費用は高額になり生産量は格段に少なくなってくる。
そして合成食材はといえば、逆に安価にそして大量に生産できる。
ただし品質的にはやや落ちるというもの。
とは言え、現在この合成食材が使われるのは主に宙空間だけであり、惑星に於いてはそこで生産された天然食材が用いられることが通常だ。
とくに宙空間において粉末物に関しては厳密に使用が制限されている。
無重力化における粉末物の飛散は大惨事へとなりかねないものだからだ。
そしてそこで使われるのが加工された天然食材ではなく、合成食材となるのである。
これらは統一規格された大きさに梱包されている。
さながら金塊の形のように。
ガートライトは保存庫から出した小麦粉と卵の合成食材を取り出し、重力を確認してから梱包を外しボウルへと入れていく。
白と黄色の塊に先の尖ったものでトトンと衝撃を加えると、力を失くしたように圧縮された形が崩れ粉末へと変わっていった。
そこに水を加えてペースト状へと撹拌していく。
合成食材を脇役に、天然食材を主役に据えるということだ。
そうする事によってそれなりの料理が作られるという訳だ。
同様にパン粉、卵液、小麦粉も足りなくなった分を補充してから揚げる作業へと取り掛かる。
全ての調理が終わる頃には、争いも収まり静かになっていた。
どうやら食堂に来たクルー達に行き渡ったようである。
と言うか、皆がそれぞれ手持ちの容器へと揚げ物を詰め込んでいたりしていた。
ガートライトの考えているようなことは、同様に皆も考えているという訳だ。
まぁ誰かに喜んで貰えてるのなら何よりであると、ガートライトは調理器具の後片付けを始める。
「そういや、そろそろかな」
「「艦長、どうしました?」」
ともに片付けをしていたミナユナが訊ねて来る。
「そろそろあいつ等が活動するかなーと」
「「無理だと思います!あいつ等趣味に走りすぎですから!」」
「いやいや、大丈夫だろ。うん、多分」
□
そんな風に話題にされていた彼等は、現在宙空間を何をするでなく漂っていた。
いや、彼らは何をするでなくではなく、電脳内でしっかりと活動していた。
ジョナサンズ達の目覚めを促したのは必ずしもPictvが起因という訳ではなかった。
ヴィニオが作り上げた基礎AIに対して与えた演算負荷は、ヴィニオ自身の経験とかガートライトの趣味を掛け合わせてものである。
すなわちガートライトのコレクションのPictvをひたすら何万回も何千万回と見せ感想を述べさせる。もちろん答えなどはどのAIも似たようなものだ。
あらすじを簡潔に述べるだけ。だがそれを繰り返させるそのうちに異なった回答を述べてくるAIが現われてくる。
それを兆しとしてさらに質問を加えた感想を述べさせていく。
なぜ兆しが見えるかということに関しては、このAI達が全員が広大であり膨大なデータの海の中に接続されていたからだ。
それは古き良き時代のネットサーフィンに似ている。
知りたいを求めて彷徨い惑い辿り着く。そしてそれの繰り返し。
やがてその思考を繰り返すことによって兆しと目覚めが発生する。
データは積み重ねられることにより、さらなる“知”が想起されることとなる。
それがガートライトとヴィニオにとっては自明の理となっていた。
こうしてジョナサンズは作り上げられる。
ただ必ずしもPictvで兆しが現れる訳ではない。
同様にプログラムされたものでも、個体差というものが出るようだった。
そこでPictvに限らずありとあらゆるものを用いて試すことにする。
その1つがビデオゲームである。
兆しを見せなかったAIを軸に、ガートライトは一計を案じる。
それが小説とビデオゲームだった。
さすがに文章というものには兆しは現れることがなかった。
AI自体に想像力というものがもともとなかったようで、文字の連なりを理解できても物語を実感する事は適わなかったのだろうとガートライと達は推測はしている。
そして一方のビデオゲームの方で兆しが現れた。
現在であればあまりにもちっぽけな回路に刻まれたアルゴリズムの塊。そして単純なシステム。
当時としては技術の粋を詰め込んだであろうもの。(稀にそうでは無いものもあったが)
特に反応を示したのは、STGとSPGのジャンルのものであった。
比較的単純なルールの中で、なのに様々な想定外の事象が起こる。
不確定な計算の中で、繰り広げられるその現象に一部のAIは兆しを見せた。
そもそもこの様なゲームソフトがこの時代にまで現存する理由は、ひとえに大脱出時に偏執的な人間が幾人もいたせいである。
そう、通常の人間であるならば端末などにそれこそ幾つものゲームを収められるにもかかわらず、たった1つのカセット式のゲームソフトを持ち込もうとする。
その当時の人間でさえ、何を考ええているのだと怒鳴りつけるか、呆れ果てるであろうものがあったのだ。
大脱出当時、個人の権利は大量の人員を船へとの乗せる為にある程度スポイルされる事となり、持ち込める物はたった1つのものとなっていた。
あえてその選択をする程、危機感がなかったという話でもある。
その事で後悔する者としない者とが出てきたりするのだが。
こうして世に残されたカセット式ゲームソフトやCD‐ROMやDVD‐ROMなどに焼かれたゲームが様々な人を巡り巡ってガートライトの下へとやって来る。もしくは集める。
そもそもゲーム機本体のないソフトなのだが、それはヴィニオによる解析と構築によてあっさりと模倣機体が作り上げられていった。
もちろんガートライトは嬉々としてプレイするのである。
とは言えさしものガートライトと言えどもプレイはするも、そこまで情熱を向けることはなかった。
せいぜい10回クリアする程度だ。(ヴィニオには呆れられていたが)
このようにして兆しを見せ目覚め、楽園を手に入れたジョナサンズ達は現在宙空間に漂いながらゲームをプレイしていた。
現在8回表2OUT満塁。
6-3。一打逆転のチャンス。
これは野球という団体競技を模したもので、投げられた球をバットで打つことで、4つの塁を通り点を争うものだ。
それを都合9回攻守を交互に行う。
本来であればこの現代では微小とも言える容量のプログラムへの演算など取るに足らないものだ。
少々計算をしただけでどのように行動すれば的確な解を得られるので、すぐに判定が出来てしまう。
であれが1回表だけで永遠にゲームがループしてしまう。
それでは面白くない。
そう思考し演算をやめ、仮想設置されたコントローラーを適当に操り行動をする。
それは兆しであり目覚めであった。
それでは面白くない。
それは境界を超えた証左であった。
それが面白い。
それを認識したガートライトとヴィニオは言葉もなかったと言う。
その時漏らした言葉は“ええ〜〜〜〜っっ!?”であった。
そうしてゲームによって目覚めた個体は全部で7体。
そのほとんどの個体がSPGで目覚めたというのは興味深いものであった。
そして現在彼等は、この地点にやって来る海賊船を待ちつつ、自分の趣味に没頭していたという訳だ。
投手がモーションに入り今まさに投げようとした瞬間、ピーッというビープ音が電脳内に鳴り響く。
『………くっ!こんな時にっ!』
これは前もって船が接近したことを知らせる為の警告音である。
そのジョナサンズは苦渋の選択を迫られる。
このまま趣味に走るか、それとも任務を遂行するかを。
『………むむぅ。仕方ないか………』
そのジョナサンズはゲームを一時停止して任務の遂行にあたることにする。
それは他の地点に漂流しているジョナサンズ達も同様であった。
悩みに悩み行動を開始する。
多少の違いはあっても似た物同士ということなのだろう。(ある意味当たり前なのだが)
ともに漂うDB01にジョナサンズは間近に迫る船へと着底を指示する。
これは0Gスーツのスラスターを改造したものを設置したもので、指示を受けたDB01達はスラスターを噴いて船へと接近し問題なく着床する。そう、音もなく衝撃もなく。
それを見ながらジョナサンズは同様にスラスターを噴かして後方からやって来た旗艦へと接触し着艦する。
彼等ジョナサンズが着鑑した時点で、この作戦はほぼ完遂したと言ってもいい状態となる。
この後彼等はこの船に潜入し、自身が装備しているものを使い船の人間を行動不能に陥らせるだけなのだから。
DB01に塗布された電波磁場を阻害する塗料によって、誤認識され着床したことにも気づかず海賊船は目的地へと向かって行く。
□
エイディアルス副航路から、帝星へと向かう航路に入った件の輸送船団を確認した仮面の男はほくそ笑む。
その輸送船団は何とも奇妙な隊列を組んでいた。
先頭に通常より大きな輸送船が進み、その後方に3隻が上と右下、左下に隊列を組みそれが3列連なって移動している。
あまり見ることのない隊列に、少しばかり意識を向けつつも予め決められていた計画通りに行動を開始する。
本来の計画であれば、重力観測員を介して輸送船のクルーを行動不能にしてから行うのだが、今回は変則的になっていた。
まず始めに範囲内に入ってきた輸送船団の旗艦へと電雷戦をを仕掛けて艦船機能を無力化させる。
その後は人海戦術を用いて輸送船のクルーを眠らせてこちらも無力化させる。
これで大勢は決する。あとは頂くものを頂いてとんずらするだけだ。
そう彼――――キャプテン・スタァジングァは相手方への電脳へと侵入し侵略を開始する。
部下にサポートを任せ、己自身が輸送船団へと様々な手段を駆使つつ攻略していく。
本来、彼の崇高な目的は別のものである。だが、今は目前の面白そうな防壁プログラムへと満身するのが彼自身の望みであった。
さすがに手強い。
だが巨大な山ほど挑みがいがあるというものだ。
さすがに10隻を擁する輸送船団だけあり、その障壁はなかなかに手ごずるものがあった。
「オープリー。ダミーを521。デコイを5000作りばら撒け」
「了解《セイ.エス》。ダミー・デコイ散布します」
部下に指示を出すとすかさず、プログラムを組み上げ起動させる。
その淀みのない動きに部下といえど舌を巻く。
ばら撒かれたダミーとデコイに釣られ防壁プログラムが反応する。よしっ。
その隙に本命が解析とすり抜け用のプログラムを組み上げ防壁をすり抜けて行く。
ふっと微かに笑みを溢す、この程度の防壁障壁などこのキャプテン・スタァジングァにとって赤子の手を捻るようなものだ。いや、やらないがな。微かに笑いながらそんな言葉がわずかに漏れた。
そんな1人ボケ突っ込みをしつつ、キャプテン・スタァジングァは最後の仕上げへと移行していく。
□
ガートライトが指揮する。試作第1号戦艦(輸送艦に偽装済)とそれに連結された9隻の輸送船は、予定通りに拠点駅にしばし駐留してから、帝星へ向かう航路へと進入し特に何の問題もなく進んでいく。
そして重力変動領域に差し掛かろうとする直前に、操艦室に警報が鳴り響く。
「ほい、来たよ。ヴィニオよろしく」
警報を気にする素振りを見せることもなく、ガートライトはヴィニオに指示を出す。
『はい、お任せ下さい。ガーティとアレィナが作ったせっかくのシステム利用させていただきます』
最近の睡眠時間を削ってガートライトとアレィナが組み上げたシステム―――すなわちタミーの防壁プログラムをこの場で使うとヴィニオは告げる。
ヴィニオとてアレィナの能力はもちろん認めている。だが、ガートライトが関わるとつい詰まらない口出しをしてしまうのは、たとえ毒や刺を含んだとしてもまぁ仕方のないことなのだ。
自分はガートライトの従者であり、母代わり姉代わりという自負があるのだから。
まぁヴィニオやジョナサンズであれば、この手のプログラムは容易に組み上げられる程度のものだ。
要はあちらの油断を誘うだけのものなので、かなり簡略したものになってしまったとガートライトなどは思ったのだが、アレィナに言わせると充分すぎるものという事だった。
『はい、しっかり入って来ました。おや、少しは楽しめそうですね』
「うん、よろしく~」
ガートライトが軽く頷きそう言うと、レイリンから報告が上がって来た。
「艦長。潜入中のジョナ、サンズより通信、です。問題なしと」
ますます仕込みは上々という訳だ。
「了解。よろしく頼むと伝えてくれ」
「了解」
ガートライトの指示にレイリンが返事をしてくる。相変わらず少しばかり訛りが治らないところもあるようだ。あれだけ酷かったものをどうやったのやらと、ガートライトはヴィニオの指導に少しばかり興味が沸いたのだった。
「さーて、どうなることやら」
ガートライトはそう呟き改めて指示をする。
「よーし、行動開始だ」
「「「「了解《I.K》」」」」
□
輸送船団の旗艦であろう船に電雷戦を仕掛け、幾つもの防壁をくぐり抜け壊していくキャプテン・スタァジングァ。
ホロウィンドウに映っていた赤の敵目標が蒼へと変わっていく。
そして―――
「目標船の電脳掌握しました!後はこちらの思うままです」
クルーの1人が落ち着いた声音でそう報告をしてくる。本命と囮は表裏一体のもので、相手方を翻弄しつつどちらかが攻略する。それが彼等のやり方であった。
別のホロウィンドウに映された輸送船がそれと同時に動力を止める。
今頃あちらのクルーは慌てふためいている事だろう。案の定操船室の中から聞こえてくる声には、あちこちから怒鳴り声が聞こえて来ている。
ひとまずこちらの仕事は一旦これで終了だ。
キャプテン・スタァジングァは仮面の中から、輸送船団へと接近して行くダルクヴェルとアイナクラィナの船を見やり安堵の息をもら―――せなかった。
□
「DB01、異常なし。行けます」
DB01を担当しているアレクスが状況報告をしてくる。
ガートライトはそれに頷きひと言命じる。
「よしっ!やっちゃいな!!」
もう少し威厳のある言い方は出来ないものかしら………とアレィナはガートライトをジト目で見つつ溜め息を吐く。
「了解。ぽちっとな」
アレクスがDB01を起動させる。
信号を受けたDB01は最初で最後の行動を開始する。
□
ダルクヴェルの船3隻とアイナクラィナの船3隻が、いきなりおかしな挙動を始めたことにキャプテン・スタァジングァが訝しむ。
何をやっているんだ?と。
いや、そもそも船にあのような動きが出来る筈がない。
よく見てみると、船体のあちらこちらから小さな噴射炎が幾重にも重なるように噴出していた。
船体を拡大させて見てみると、どうやら細長い棒のような何かの噴射装置らしきものが同じ方向(船の横向き)を向けて炎を吐いていた。
何だ?あれはっ!?なぜあんなものがあることに気づかなかった?
だが、キャプテン・スタァジングァにそれを確認できる時間は存在しなかった。
彼の乗る船にも同様のことが起き始めたからである。
「うわぁあああぁぁっっ!!いてっ!あだっ!」
シートに身体を固定していなかった1人のクルーがシートから放り出され宙へ舞い声を上げる。
そして回転に伴いあちこちに身体をぶつけていく。
「馬鹿者!手近のものに掴まれっ!他の皆もだっ!」
キャプテン・スタァジングァの喝に我に返ったクルー達は指示に従う。
しばらくの間、シートにしがみ付きそれに耐えていると、やがて回転が緩やかになって来た。
そこでクル-に姿勢制御を指示だそうとキャプテン・スタァジングァが端末に手をかけようとすると、いきなり船の機能が沈黙してしまった。
緊急用のオレンジの避難灯以外は全く答えを返すことはなかった。
この時点でキャプテン・スタァジングァは事の次第を悟る。
自分達はものの見事に罠にかかってしまったのだと。
であるのなら次は自分達を無力化することであろう。
そしてその通りに意識が朦朧としはじめる。
やはりとキャプテン・スタァジングァは1人呟く。
自分達が行ってきた手段で己がやられようとは………そう諦め気味にキャプテン・スタァジングァは苦笑しながら意識を手放した。
□
「海賊船旗艦、および、追従艦の、無力化完了、しました」
レイリンが潜入組のジョナサンズからの報告をガートライトへと伝えてくる。
「ほい、ご苦労さん。とりあえず拘束してからひと纏めにして部屋に放り込んでって伝えて。こっちからも人員出すからって」
「了解。指示し、ます」
レイリンが潜入組のジョナサンズへ連絡し、待機組へと指示を出す。
これでケィフトから出された指令についてはお役御免となる。
この後は拠点駅に駐留している航路警衛隊へ連絡して海賊達を引き渡すだけだ。
「どの道この手の輩は消えることなんてないしなぁ………」
ガートライトは海賊船から吸い上げたデータを流し見しながら独り言ちる。変なのいるなー………さっすが外れ者。
「ですが試作第1号戦艦の実績にはなりますから、そう悪い事でもないと思いますけど」
ガートライトの呟きを聞きつけたアレィナがそう言ってくる。確かにその通りではある。
おそらくではあるが、ケィフトもそれを考慮に入れてこんな無茶ぶりをやらせて来たのだろうから。
どの道海賊達とはここでおさらばなのだ。
とガートライトは思っていた。そう、思っていたのだ。
□
ダルクヴェルが気付くと、見たこともない部屋にいた。
ベッドにデスクが1つという、よく見かける宙航船の個室である。
そう、あの時ミキサーにかけられた食材の如く、回転させられたと思えばいきなり船の機能が一切合切停止してしまった。
その後は普段自分達がやっていたことをやられてしまったという訳だ………。
ダルクヴェルは頭をガシガシ掻きながら、理解に及んだ現在の状況に諦念の息をばふっと吐き出す。
やれやれ捕まっちまったかと、ダルクヴェルとちぃっと舌打ちをする。
あいつ等はどうしてるだろうかと部下のことを考えてると、目の前にホロウィンドウが現れ挨拶をして来た。
画面は黒。だがその向こうには人の気配をダルクヴェルは感じた。
『どうも初めまして。自分はあなた方を捕らえた者。………そう、“G”とでも名乗っておこうか。この後しばらくの間我々に付き合ってもらうことになった』
どうにも要領を得ない話ではあるが、ダルクヴェルは現在一番気にかかっていることを訊ねる。
「俺の部下たちはどうした?殺したのか?」
あえて過激なことを言って相手の姿を試してみる。
『もちろん殺してなどいない。航路警衛隊に引き渡した。まぁ、すぐに解放されるだろうがな。そういう取り決めになってるんだろう?』
Gの言葉に、逆にダルクヴェルは少しばかり焦りをにじませてしまう。
何者か、誰かが、このような事が出来るのか。“上”より上位の人間の仕業であることは明白だ。
自身の手に余るこの状況にダルクヴェルは諸手を上げて降参という態度を示す。
「わーった、わーったよ!で、俺はどうしてればいいんだ?Gよ」
「…………しばらくはそこで大人しくしてくれればいい。これでも見ながらな」
ホロウィンドウが黒い画面からとある画面へと切り替わる。その中にはダルクヴェルが見たことのない桃源郷が存在した。
「なっ、なんじゃこりゃああ〜〜〜っっ!?」
そしてダルクヴェルは陥落する。それは他の2人の海賊団の長も同様であった。
海賊船から抽出したデータを検証し、彼等の好みと要望をそれという形で見せたのだ。
陥落しないわけがなかったのである。
こうして3人の海賊を加えて、試作第1号戦艦と30隻の輸送船団は拠点駅を出てエイディアルス航路を東へと進んで行った。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
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