33:常套はそれゆえに有用される
前回のお話
倉庫の不要品の利用法をザーレンヴァッハに相談され
ガートライトは海賊退治にと小細工の一計を案ずる
そしてとある情報を聞いた3つの海賊団が動き出す
エイディアル航路には主に2つのルートがある。
1つはジャンプゲートを利用したまさに星系をグルリと周る主航路。
もう1つは外縁部から星系内部へと向かう為の、分岐用の副航路。
これは帝星へ向かう為のルートとなっている航路への分岐連結用のもの。
そして帝星を中心とした環状航路がエイディアル航路の内側に幾つもあるのだ。
そして特に人が密集している宙域が、このサウイスエリアとなる。
ただこのサウイスエリアの航路の一部に、重力井戸が多く点在する難所がいくつか存在する。
その航路を安全かつスムーズに進む為に、重力観測員という存在がこの宙域ではとても重宝されていたのだ。
そしてエイディアル副航路の航路上には人工建造物があり、そこには多くの重力観測員が職を得る為に多くの人間が常駐していた。
それが帝国宙航運行輸送省が管理する航路拠点駅である。
通称“駅”と呼びならわされるこの建造物は、始めの頃は小さな一時的駐留集積場であったのだが、時を重ねる毎に人と物が集まる事によって、やがて多くの要望と利権の獲得を元に宙航運輸省により全長20kmほどの巨大な建造物が作られていったのである。
構造的には見た目には巨大なパイプにしか見えない。
そして機能としては、艦船の発着場たる外輪部と居住区および貴族区がある内輪部と分けられている。
貴族は金の集まるところには必ず発生するものなのだ。
そしてもちろん海賊と称される構成員も、この“駅”の中に多く存在していたのである。
その話がどこから入って来たのかは誰も分からなかった。
ただ近々輸送船10隻を越える船団がこの航路を通るという情報が入って来たのだ。
日頃仕事に追われる者達にとっては、いつもの世間話の1つではあるが、それを好機と捉える者達もちろんいた訳である。
そんな彼等がとある宙域で会合を開いていた。
ひとつは海賊団“栄光たる黄金”を率いる団長であるダルクヴェル・ベント。
次に頭目が女性という、この時代にしてはかなり珍しい部類の憂国勇姿団“ミスティアミースト”の姿団長のアイナクラィナ‥ムハンマンディ。
そして宇宙旅団“白き明星”の旅団長キャプテン・スタァジングァである。
この3つの集団は場所は違えど、どれもが似た様な宙域を拠点としているのだ。
そしてそれにはメリットもあればデメリットもある。
たやすく逃亡が可能ではあるが、それには熟練の重力観測員が必要不可欠ということだ。
しかも度々変化する重力変動に柔軟に対応でき、回避することが出来る人材が重要になる。
そのような人材がいなくなれば、さすがにこれ等の宙域での活動は危うくなる訳である。
なので重力観測員は、この周辺宙域ではかなり優遇される存在であると言えよう。
それはある種の力とも言える。
そしてこれら海賊を率いる3人は、その道のエキスパートでもあった。
こうして今彼等3人は重力の安定している宙域に陣取り、自身の愛艦を繰り出して話し合いを行っていた。
団長室の中で1人ダルクヴェルは、ホロウィンドウに映し出されている者達と水面下で拳を交えつつ言葉をかわす。
『前回の業務はゴルドが主導だったんだ。今回はあたし等のトコでいいよな』
『待て!その前はミスト、お前等がやっていただろうが。ならば今回は私達の番ではないか、順番は守るがいいい』
『はぁあ?前の業務はあんた等が急に出来なくなったって言ってきたから、あたし等がわざわざ出向いてやったんじゃないか、あんたはあたしに借りがあるのを忘れたのかい?』
『グッ………』
ミスティアミーストのアイナクラィナが勝ち誇ったように視線を向ける。
この女―――くすんだ銀髪をたなびかせ厚化粧をして皺を隠しているように見せている。年齢不詳の女だ。
老女の顔をしているにも拘らず、その身体はダルクヴェルが思わず喉をゴクリと鳴らすほどのナイスバディ。
だがその顔を見てしまうと、さすがにその気は萎えてしまう。
ダルクヴェルの守備範囲はそこまで高くはないのだ。
宇宙旅団“白き明星”の旅団長―――キャプテン・スタァジングァ。彼は彼で謎の人物ではある。
常日頃から鉄仮面を被り、その顔を部下にも見せることがないという。
果たして青年なのか、老人なのかは全く分からない。(唯一男性ということが分かっているのみだ)
声も仮面からの電子音が混じったもので、もし素顔の状態で声を聞いたとしても彼だと判断することは出来ないに違いない。
そもそもスタァジングァがこの稼業に身をおいている理由も、来たる未来に自分達の艦で外宇宙を探索するという何とも途方もない目的を公言していたからだ。
果たしてそれが本当かどうかは少しばかり怪しいとダルクヴェルなどは見ているが、腕そのものには疑いを抱いてはいなかった。
そして彼ら3人が何を話し合っているのかと言えば、誰――どこの海賊団が引き込み役を担うか――にするかを決めようとしていたのだ。
この宙域の特徴として、サウイスエリアのここから帝星へのルートには重力変動帯域というものがあり、日によって重力の増減があちこちで発生している為、それ等の状態を観測し道筋を決める人間が必要となってくる。
重力変動帯域―――重力井戸をデータと目視(モニターからの映像)を駆使しルートを決める人間が必要不可欠となる。
なのでこのルートを通る場合、重力観測員を必ず伴う必要がある。
まれに重力観測員を伴わずに重力変動帯域に進入し、重力の井戸に嵌まってしまい往生してしまうケースも年に数件ある。
よって現在民間船に関しては、そのルートを利用する船には必ず重力観測員を搭乗させることが義務付けられていた。
そこで先の話に戻る。
ようはその件の輸送船団に重力観測員として一味の誰を送り込むのかを話し合っていた訳だ。
そして彼等の業務の手口はこうなる。
まずは航路拠点駅で重力観測員の募集をいち早く受け輸送船団の中へと乗り込み、空気循環口や主要な部署に睡眠導入ガスを密かに設置する。
そしてある程度進んだところで、待ち伏せをしていた本隊と連動してガスを放出。
同時に輸送艦のメインCPに強制介入し、一時的に艦のコントロールを掌握する。
その後人と船を行動不能にしたのち、荷物の半分から1/3を収奪し転進離脱する。
引き込み役の重力観測員は疑われる事のないように輸送艦に残していく。(眠ったふりなどをさせて)
輸送船団ともあれば、先導艦を同様に行動不能にし、残りの船を人海戦術を用いて人、船ともども無力化させていく。
またその中には“上”からの依頼で、保険金目的のやらせ紛いの収奪もあったりする。
変な話ではあるが、その辺も持ちつ持たれつと言うものなのだろう。
使い古された手段ではあるが、有効であることは過去からの事例を見れば分かることだ。
よもや自身の輸送艦の中に、手引きする者などがいるとは思っていないので尚更な話である。
そしてこの引き込み役たる重力観測員に、どこの団の人間が担うかで彼等の取り分に影響が出て来るのでみな互いに真剣にならざるを得ないのだ。
本来は持ち回りでやっていたのだが、前回の業務において“白き明星”に不都合があり、そこを“ミスティアミースト”が代理で重力観測員を送ったことで事なきを得たことがあった。
そのことに関して順番を考えればミスティアミーストであるが、業務の面を鑑みれば白き明星も自身の番と主張をしない訳にもいかない。
ダルクヴェルとしては順当にミスティアミーストがあたるのが筋だとは思いはするが、さりとて前回の業務では大した収穫物もなかったことを考えると、もう1度という思いもあるにはあるのだ。
ちなみにその取り分は4:3:3となる。
たかが1されど1であるのだ。
結局ダルクヴェルも前回の獲物が少なかったことを理由に参戦するも、結果としては落ち着くところに落ち着いたという訳で、ミスティアミーストが担う事となったのだが――――
「何だと!?じゃあ募集してねぇってのか?」
『へいっ!おかしな編隊組んだ輸送船団が内輪部に入駅してきたんで、話を通してみたんでやんす。でやすが専任の重力観測員がいるから必要ないと言われたんでやんすよ』
駅にいる部隊長からの報告についダルクヴェルは眉を顰めてしまう。
「ああっ?重力観測員なんぞ他の宙域じゃ必要ねぇだろうがよ。専任ってのは虚偽なんじゃねぇのか?」
限定された宙域の航路を行き交うとなれば、専任の話も肯けないことではないが、ダルクヴェルにはそんな話も輸送船団もこれまで1度たりとも耳にしたことがないのだ。
あるいは罠か何か………の筈はないな。
そもそもわざわざ偽の会社を仕立てた上に10隻もの輸送船団を用立ててまで官憲共がこちらを捕まえようなどとは考えられない。
それに“上”との契約上その手の捜査や手配書はこちらに及ぶことが無いようにされているのだ。ある意味杞憂な話なのである。
どの道輸送船団を襲うことは決定しているので、引き込み役が使えないとなれば残る手段は1つとなる。
「ちぃ………。面倒だが“白”に任せるしかねぇか………」
『やんすね。うちの連中じゃ電雷戦はそこそこでやんすから』
AIのサポートはあるが、うちの奴等は(ダルクヴェル自身も含め)細かいことが得意じゃねぇからなぁ………とダルクヴェルは独りごちる。
「分かった!“白”と“ミス”にはそれを伝えろや。今回は“白”が主導だとな」
『合点承知でやんす!』
部隊長が敬礼代わりに右拳で左胸を叩いて返礼する。
なんでこいつはやんす喋りなんだろうか、とダルクヴェルはちょっとだけ今更ながらに疑問を感じた。キャラ作りか?
襲撃地点に件の輸送船団が到着する前に、こちらもそこで待機する必要がある。
予め襲撃地点に障害物などを設置して隠れ場所を作り上げる為、12時間ほど前にはその場所に集まらなくてはならない。
この辺りはマニュアル化されているので特に問題はないのだが、想定外というものは稀にある。
そして今回のこれが“イレギュレタ”であると、彼等には未だ気づくことはない。
待機状態であるにも拘らす、その艦の空気は緩みきったものであった。
だから気づけたという事もある。
1人の乗務員が集結してくる艦を眺めているうちに、何かが船体にくっ付いていることに気付いたからだ。
「ありゃあ何だ?」
「おう、どうしたケッキィよ」
当直員であるケッキィ(25)がホロウィンドウを拡大させる。
「これでさぁ」
それは自分達が搭乗している艦とは別の船体に、いくつもの突起物が付着しているのが映し出されていた。
そして他のカメラを見てみると、自分達の艦にも同様のものが付着しているのが分かる。
「なんじゃ、こりゃあ?」
さらに拡大をかけて見てみはするが、ただの黒い棒にしか見えない。
それが数えきれない程船体に引っ付いているのが見て取れた。だが船体の質量計には重量が増したという様子は見ることが出来なかった。
「なんだこりゃ。……デブリか?」
「ゴミですかねぇ………」
「取れねぇか?」
上司である男がケッキィの肩に手を載せ聞いてきたことに、ドキリと心臓が跳ねる。いや、気のせいだと内心で頭を振りながらコンソールを操作して外にある機動作業機を動かし付着しいているゴミを取り除こうと試みるが、何故か剥がすことは出来なかった。
「くっ………。何なんだ、こいつは!」
作業腕はそれをしっかりと捕らえ掴んでいるにも拘らず、何故か船体から引き剥がすことができないでいた。
機動限界値迄もって行っているにも拘らず、そのデブリはうんともすんとも反応することがなかった。
そしてそれはあまりにもあり得ないことであった。
ただのゴミが何を持ってそのような強度を持っているのかと。
後は直接外へと出て調べるほかない。
これに関しては団長へと報告と指示を仰ぐ必要が出来てきてしまう。
とは言え宙空間に関して言えば、絶対などというものはない。
であるからケッキィは上役である隣の男に進言を行おうとした時、艦内アナウンスが入って来た。
『輸送船団が接近してきた!各自準備を始めろやっ!!』
そのアナウンスが入るやいなや、船体にうぉぉおおっっという震動が響き渡ってくる。
「うっし!行くぞっ、」行動開始だっ!!」
「合点承知―――っっ!!」
この時、可能性の天秤がまた少しだけ一方に傾く。
どちらかであるのかは、誰が見てもそうと分かる話であった。
そして3つ海賊団が動き始める。
自分達の破滅へと向かう道筋を――――ー
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
ブクマありがとうございます!感謝です!(T△T)ゞ
Ptありがとうございます!めっちゃ嬉しいです! (◎▽◎)
たくさんのPt&ブクマ感謝感激です!
おかげさまでジャンル別月間3位にランクインしました
これからも頑張って書いていこうと思います! Σ(T人T)
指摘いただいた9話10話の廃船等を廃棄艦船にしました
10話で指摘いただいた誤字部分一部加筆しました
読み返されなくても影響ありません
私掠船部分変更します無知でしたm(_ _)m
ありがとうございました




