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32/55

32:小細工という程のものでもない

前回のお話 

 

ボルウィンは悪戦苦闘し

帝国王子が注目する中

ガートライト達は海賊対策を着々と進める

 



 

 

 これはまだガートライト達が第35開発試験場に着任して1ヶ月ほどが経ったある日のことだ。

 

「この第35開発試験場ってのは、一応2つの役目を今現在担っている。1つは他から送られてきた武器、装備の様々な試験だな。耐熱、耐寒、耐衝撃やらのデータ取りだ」

 

 所長であるザーレンヴァッハとガートライト、そして副官のアレィナが公共移動車ソーシャルポーターに乗りとある場所への道すがら、ザーレンヴァッハが第35開発試験場の存在意義の説明をする。

 もちろんガートライトもアレィナもそんな当たり前の事など知っているというか分かってるのだが、これから向かう場所について説明するのに必要なことであるようなので静かに聞いている。

 

「もう1つはこの第35開発試験場独自での研究開発とその試作だな」

 

 そんなザーレンヴァッハの声を耳にしながら、ガートライトはもちろんこの第35開発試験場で作られた物のリストを以前目にしていたので、それがあまりというか全く何かの役に立ちそうな物でないことも知っていた。

 ただ、今はザーレンヴァッハの顔を立てて付き合うことにしていたのだ。

 

「でだ、ガートライトが顔に出してるように、はっきり言ってガラクタばかりなんだが………、その中で一際ひときわ、いやとてつもなく厄介な物がある」

「…………」

 

 どうやらザーレンヴァッハにはバレバレであったらしい。


「いや、丸分かりの顔をしてるわよ」

『いえ、丸分かりの顔をしてます』

 

 アレィナとヴィニオがユニゾンで、頬を擦るガートライトへと指摘する。

 

『「むぅうっ………!」』

 

 声が揃ったことに互いが不満の声を上げ、それがまた合わさる。

 そんなやり取りを聞きながら、そうだったのかとガートライトは改めて頬を擦る。

 そして公共移動車がその目的の場所へと到着する。

 そこはいわゆる倉庫区画といわれるところで、ありとあらゆる開発試作品できそこないが収められてるいる場所でもあった。

 

 ここで開発というものに対してガートライトは考察めいた事を少しだけしてみる。

 とは言うものの大したものではない。

 要はコンセプトーーー考え方の違いというものだ。

 

 開発というものは、何かを良くしよう不便をなくそうという考えが起因になるものと、これが出来る、これをさらに発展させようという一部分が起因になるものがある。

 それは研究者というものの業と言えばそうなのであろう。

 ただ、どちらが正しいかという話でもない。

 

 不便を補う為に何かをつくり上げること。

 或いはその可能性を突き詰めながら発展させるもの。

 これは両輪の輪というもので、一見無駄に見えても決して無駄と言えるものではない。

 だが、結果もしくは成果だけを求める人間ほどこれに決して気付くことがない。

 

 幸いにも今回赴任してきた所長であるザーレンヴァッハは、そのことに理解を示す人間ではあったが、さすがに看過できないものがあったのだ。

 格納庫の中に入るとそれ等はすぐに目に入ってきた。

 

「うわぁ………半端ないな、これは………」

「いやまぁ……。ある意味帝国軍だからとも言えますけど………」

『AIの私も思わず嗤っちゃいますね。これは』

 

 それぞれがそれぞれの感想を口にしてそれらを見やる。

 その倉庫―――格納庫いっぱいに収められていたのは大量の筒であった。

 全長3m、全幅50cm程のそれは、ここでの開発の成果ではあった。

 

 これのコンセプトは固形化したエネルギー物質と物質の化合割合のエネルギー噴射の変化の測定というものだ。

 そもそもその割合を調べるのであれば、電脳上での模擬動作シミュレーテである程度結果は知れるのに、実際に物を作り上げてしまったことが事の発端である。

 

 当時の所長ーーーハイデルハンド・ヴュルーグ技術大佐は、怠惰なる人物であった。

 まぁ大概はこのような辺鄙な所にある施設に来て何かやる気を起こさせる者など、どこぞの中毒者けんきゅうしゃ以外にはあまり存在しないのである。

 

 そこに赴任してきた副所長たるカレングルの甘言により実行されたのが、この格納庫にあるものの存在である。

 その製作に関わる予算の幾許かがハイデルハンドの懐に入り、その大半が何処かへと消えて行った。

 その事に監査が為されハイデルハンドは罪に問われ更迭されることになり、代わりにザーレンヴァッハが着任することになったのだ。

 終始ハイデルハンドは副所長の関与を示唆していたが、それに関しては何の証拠も出て来るでもなく全ての罪はハイデルハンドに被せられることになった。

 

 だが例え他者の負債の尻拭いとは言え、出来る事であろうならば少しでも何がしかの成果を出せないかと、ザーレンヴァッハはガートライト達へと相談したのだった。

 なんだかなぁ〜とガートライトとアレィナは、それらを仰ぎ見つつ溜め息を吐く。

 

 それはそれ程の規模と量であったのだ。万でなかったのが救いであろう。

 その数2269。

 正直バカか?と言いたくなる程のものだった。


 確かにそれぞれの配合を試した結果なのであろうが、実際やり過ぎだと思わないでもない。

 所詮過ぎ去ったことなのだと、ガートライトは思うことにしてザーレンヴァッハへと向き直り問い掛ける。

 

「これをどうしろと?」

 

 ガートライトの言葉にザーレンヴァッハは肩を竦めて苦笑する。

 

「んー、ってかお前ならなんかいい考えが浮かぶんじゃなかろうかと思ってな。正直こんな使い途ないもん置いとくもの場所がもったいないって意見もあってなぁ………」

 

 あるいは証拠隠滅的なものなのかな?などとガートライトは穿った見方をする。誰とは言わないが。

 そんなザーレンヴァッハの愚痴らしい愚痴を耳にしながら、やあっぱ偉い人間になんかなるもんじゃないなぁとしみじみ思ったのだった。

 

 実際ここにある2269本の筒は、固形化エネルギー物質の配合比率を色々変えてあるので全てが同じものではなく噴出量や継続時間がバラバラに作られているものになっている。

 結局は筒の後方からエネルギーを噴射するだけのものなのだ。

 しかも1回限りの再利用不可能というもの。

 

 山と積まれた問題物件に腕を組み、ついガートライトは思い悩んでしまった。

 ほんとにどうせよと?

 結局この後ガートライトやアレィナの手に終えない話ということで、クルー達やジョナサンズ達に相談して今回の仕様へと相成ったのであるが………。

 

 

 そして現在、その使い途のないと言われた開発試作品を改修したものを利用すべく、試作第1号戦艦からスペドクロヴダインへとそれを移し替えていく作業を行っている最中である。

 剣、槍、盾へとそれぞれ600本づつ、まさしく大盤振る舞いと言ったところか。

 とは言え宇宙空間の広さに比べれば微々たるものと言わざるを得ない。

 

「ルートゥウデ。着材の塗布作業終わった?」

『あ、あっはい。問題なく終わりました。ただ、僕の開発品が必ず効果が出るのかは、はっきり言って分かりません』

 

 ガートライトが端末からいまだ作業を続けていた担当官へと状況を訊ねる。

 答えた担当官は作業の終了を伝え、効果の程は自信無さげに報告してくる。

 この試作第1号戦艦内では、幾つもの研究用の部屋というものが、それぞれ個人の裁量の範囲内で認められ設えられている。

 開発試験場ならばともかく、移動する艦の中でも研究をしたいというクルーからの熱烈な要望の結果である。

 ガートライトとしては実務に差し支えない範囲であれば、プレイベートの時間に何をやろうが一向に構わない。

 ガートライト自身暇さえあればPictvの鑑賞をしているのだから、それも当然だとも言える。


 ただ趣味と仕事が同じってのはどうなんだろうとは思うガートライトではあった。

 とまぁこんな訳で、任務と言っても航行中に何かが起こるということは稀であるし、そしてその任はジョナサンズが率先して担っているので、主要メインクルー以外の者達は自分の研究の為にその時間を費やしていたのだ。

 まさに研究中毒アカディミアホリィクと言えよう。

 そして今回の開発試作品を利用するにあたって、その中の研究員クルーの研究が目に止まったのだ。


 

  

   □ 


 


 その時この1回こっきり噴射筒(ディスポゼブゥスタル)―――DB01と名付けられた開発試作品は、一時的にその改修作業が止まっていた。

 基本コンセプトとしては、宇宙空間における障害物デブリの排除、または移動を目的としたものである。

 DB01を挟みこむように設置面に回転軸のついたものを装着し、群体稼働による並列処理装置を組み込んだもの。

 

 そこまでは良かったのだが、そこからこのDB01をどのように固定設置すればよいのかと考えあぐねてしまったのだ。

 アンカーを取り付けて岩盤に咬ませる案もあったが、回転軸の稼働部分と強度の折り合いがつかず断念。

 磁力を用いた方策も考えられたものの、やはり接地面に対するコストを考慮してこれも断念。

 そしてそこに出てきたのが、ルートゥウデが研究していた混合接着添付材というものである。

 

 アレクス配下の彼―――ルートゥウデ・デリゲンバイツは、男爵家の六男でまぁ家族にとってはどうでもいいというような存在ではあった。

 ルートゥウデも特にそんな扱いには頓着せずに育ち(親代わりにメイドの婆ぁやが育てていた)、そして幼年学校中等年次の時に彼が一生を共にするであろうものとの出会いがあった。

 

 それが混合接着材との出会いである。

 幼年学校からの帰る道すがら、何らかの事故ヒューマンエラーにより2台の液体物を積んだトロォリーカーが横転し、その積み荷が漏れだして2つの液体が合わさる瞬間を目にしたのだ。

 目に染みる刺激臭を受けながら、ああっとルートゥウデはそれを見つめる。

 

 衝突により辺りに散らばったものがその液体に触れるやいなや、転がり動いていたあらゆる物がピタリとその動きを停止した。

 

 「おおぉー………」

 

 まるで時が止まったかのようなその様子に、ルートゥウデは興味を惹かれる。

 その中には知らずにそこに入り込んでしまい、身動きが取れず脚を固定されたまま倒れてブリッヂ状態になったりしてる人間もいたのだが、ルートゥウデの目に入ることはなかった。

 ルートゥウデはひたすら感動していたのだ。液体すげぇっ!!と。

 

 その後ルートゥウデは混合接着材類について知識を求め邁進する事になる。

 やがて紆余曲折を経て、この第35開発試験場へ赴くことになる彼だった。

 ちなみに25歳の彼は、とても成人してるとは思えない容貌をしていて、何気に女性士官の中で人気があったりする。彼は狙われている。

 こんな辺鄙なところだと童顔は色々優遇されてしまうのだった。

 

 

 そしてガートライトと彼との出会いも、DP01の改修作業が停滞していた時である。

 その日気分転換にガートライトが試験場内を散歩していると、何らかの異臭が漂ってくるにに気づき、なんだろうと気になりそちらに向かったことからだ。

 

 そこは諸実験試験棟と言われる建物で、開発した物の発動や発生などの実際に試すための施設である。

 ついに鼻どころか目にまで突き刺さってきた刺激臭の元がここであると分かった。 

 というか目の前に完全防備の宇宙服ノーマルスーツを身につけた人間がいくつもの容器を周りに置いてマニュピレータを使って作業をしている姿があったのだ。

 

『あら、あの方は………』

「何だ知ってるのか?ヴィニオ」

 

 ガートライトの問い掛けにヴィニオは呆れを含んだ声を出して答える。

 

『何言ってるんですガーティ。うちのクルーのルートゥウデ・デリゲンバイツさんですよ。たしかこの基地からの出向で材料工学を専攻していますね』

「材料工学ってことはアレクスの専門か」

 

 いや、あの格好で誰を何にと判別せよと言うのかと、ガートライトは思わず反論したくなったが言えば10倍になって返ってくることが分かっているので、その事には触れずに別の話へとシフトする。

 

『ええ、ですがアレクス少尉と違って八方美人というわけではなく、たった1つの研究に注力している方ですね』

「たった1つ?ふーん」

 

 ルートゥウデが作業をしている様子を離れたところから(目が痛いのと臭いので近寄れない)ガートライトが眺めていると、憲兵隊(MP)がやって来て速やかにルートゥデを捕らえて去って行った。

 確かに一歩外に出れば宇宙空間というこんな場所で、空気を汚すような行為をしてればこうなるのは火を見るより明らかではある。

 そして同時に処理班が到着して、容器類を回収していった。

 

「…………」

 

 あれ?もしかしこれって俺が責任問われるのだろうか………。

 いや、いくら部下だといっても出向してるのだから俺だけの責任とは言われないといいなぁ。とガートライトが彼等が去った後を見てると、ヴィニオが先ほどの続きを話して来た。

 

『後で憲兵隊(MP)本部に行かないとダメですね。あと彼の専門分野は接着溶材の研究ですね』

「接着溶材………ああっっ!!」

 

 こうしてDP01の改修進捗が彼、ルートゥウデを引き込むことにより進展し始めたのであった。

 そして今回、海賊を相手にするに当たり仕様の一部を変更することにし(回転軸を4つにして接着しやすくした)、出航までに何とか作り上げることが出来た。

 

 所詮これは廃物利用というだけのものなので、小細工という程のものでもない。

 ある種の保険と捉えているだけの話なので、上手くいったらラッキーという程度のものだ。

 それでもザーレンヴァッハからは格納庫に空きが出来たと喜ばれたのだった。

 

 こうして対海賊との第1段階の計画が始まった。

 上手くいくかどうかは神のみぞ知るといったところか。

 ガ-トライトはDB01の移送作業を見ながらそんなことを思ったのだった。

 

   □

 

 

 エイディアル航路サウイスエリアのイーステ方面にその宙域はあった。

 その宙域はなかなかな特殊性を持ちゆえに、そこを知悉している者にとっては格好の隠れ家となっていた。

 幾つもの重力井戸グラヴィタウェイルが乱立している場所。

 重力観測員カッパーイデントを伴い予め決められた航路を通り抜けることが出来るものだけが行ける楽園イソルダ

 

 それが海賊団“栄光たる黄金グロリィゴゥルディ”の本拠地である。

 輸送船を何十隻と連結して居住空間を作り上げたその拠点には、100名余の人間が在中している。

 どこにでも社会に適合できず外れる人間というのは存在する。

 そんな人間を保護しかつ働かせることを至上の喜びとのたまうのが、この海賊団の首領たるダルクウェル・ベントその人である。

 

 この拠点の他に宙域には、憂国勇姿団“ミスティアミースト”や宇宙旅団“真白き明星”と名乗る者達が住んでおり、その艦数も戦艦や軽巡艦を全てを合わせると20隻ほどがこの宙域に存在していた。

 いわゆる私掠船という者達だ。ならず者と言い換えても構わないだろう。

 彼らは基本個々で業務しのぎを行っているが、時には共同で業務に取り組むこともなくはない。

 そして今回入ってきた情報タレコミに、彼らは共同で業務を行うことで話し合いがついていた。

 

 その楽園イソルダの1つ。海賊団“栄光たる黄金”の本拠地である“ベイベェーズ”の居住区にある執務室と書かれた部屋で引き締まった浅黒い筋肉を晒したタンクトップに短パン姿の壮年男性が安楽椅子に深く身体を預けるように横たわりながら趣味の映像鑑賞をしていた時だ。

 

「お頭ぁ――――っ!!準備出来やしたぁ――――っっ!!」

「っきゃろおぉぉ――――っっ!団長アドミュラーだあって言ってんだろっ!てめぇえはよぉお―――っっ!」

 

 執務室に大声を上げて飛び込んで来た若者に壮年男性が怒鳴り付ける。その髪1本ない禿頭とギョロリとした黒目、もみあげから顎そして鼻の下には丁寧に整えられた黒々と蓄えられた髭。

 初めてその魁偉を見れば怖れを抱くことになるであろうその姿。

 だが若者はその姿に特に恐れることなく、怒鳴られたことに対して畏まる。

 

「ひぃいっっ!すいやせんでしたぁあっっ!!あどみーぃい?」

「ああっ!もういいっ!!わぁーった、わぁあ―――っった!んじゃ、行くぞっっ!!」

合点承知アイアイアイ!!」

 

 壮年の男性―――ダルクウェル・ベントはいそいそと服を見につけ、若者と共に愛すべきふねへと向かう。

 

「よぉおっし!久々の合同業務あわせしのぎだ。しっかり主導権とんねぇとなっ!!」

合点承知アイアイアイ!」

 

 そう、まだ彼等は気づいていなかったのだ。その背後に崩壊の足音がヒタヒタと近寄って来ていることに。

 

 


 

 

 

(ー「ー)ゝ お読みいだたき嬉しゅうございます

 

Ptありがとうございます!感謝です! (T△T)ゞ

ブクマありがとうございます!感激です! (T△T)ゞ

 

おかげ様でジャンル別日刊5日連続3位になりました

感謝を言葉に変えて更新しました

これがいまのせーいっぱいです m(_ _)m (アリガトウーデス)

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