31:その後、そして海賊達のいるところ
前回のお話
模擬戦開始
ボルウィンの卑怯な手口にも
慌てることなく避け躱して膠着状態に
ガートライトのやっちゃいなよ!Youの指示で
剣と槍が力の片鱗を見せて勝利する
□
あの模擬戦を終えてから1週間が経つ。
この間ボルウィンにとっては散々な日々であった。
辛うじて依頼のものは義父の元へと送ることが出来たが、それ以外の事については日頃下げもしない頭を下げてばかりであった。
しかも修復の為にいつもの上層部の発着場でなく、中央部の修繕ドッグへと向かわせられたのだ。
かつて見ることのなかったその艦の姿に、それを見た人間は嘲笑あるいは侮蔑の視線をボルウィンへと向けた。
クルーとの関係にも幾らかの亀裂が生じたが、その辺は気にする事のものではない。
散々旨い思いをさせてきたのだ。それに対しての代価と考えて貰えれば逆らうなどとありはしない。
ある意味それまでの立場が逆転したとも言えるのだが、何故かボルウィンにはそのことに関しては堪えるということがなかった。何故ならば―――
「くく、グギリアに苦境に陥らされてグギリアによって耐性が出来てるとは………全く皮肉なことだ」
幼年学校時代の経験により耐性が出来ている故に、敵対する同僚からの雑言にも笑ってやり過ごすことができていた。
現在の問題は義父からの命をどうすればいいのかと言う話だった。
3ヶ月に1度、この中継基地の余剰分の物資を廃棄したことにして、こちら側に融通させるというものだ。
義父であるオーグュンデ伯爵から超光速通信が入ったのは先程の事であった。
普段であれば物資を送った後は特に何の知らせもなかったのだが、今回は何故か違っていたのだ。
そのやりとりはボルウィンとしてはあまり理解できるものではなかった。
そもそも物資の調達に関しては、全て第7艦隊の人間に上位者の命令という形で指示していたので、詳細に関しては全く把握していなかったのである。
いやそれが出来てこその貴族の資質の一部ではあったのだが、この時はそれが災いしてしまった。
義父であるオーグュンデ伯爵のその言に、寸の間その意味が理解できなかったのだ。
『ボルウィンよ。うむ、そなたに命じよう。先日送ったものと同じ物を至急送るが良い。同じ物をだぞ!』
そう言うと義父であるオーグュンデ伯爵はボルウィンが答える間もなく通信を切ってしまった。
正直訳が分からなかった。いつもの様にいつもの物を送った筈なのだ。
なのにいつもとは違う義父の要求に異変を感じたボルウィンは、新たな指示を兼ねて担当者に問い質そうと執務室へと向かう、が。
「確か第7艦隊の誰だったか………」
「第7艦隊兵站管理士長ヘイクツグス少佐であります」
執務室へ戻り端末を開き始めたところで、誰であったかと呟く。所詮ボルウィンにとってはその程度の認識であった。
記憶を巡らせるボルウィンに傍に控えていた副官が代わりに伝えて来た。
「うむ、助かる」
ボルウィンのその言葉に思わず目を剥く副官。
普段そのような言葉を発しないボルウィンを見て驚いたのだ。
だが現在だけの事であろうと思い直し、執務へと副官は戻った。
気を取り直しボルウィンが通信をすると、意外な返事が帰ってきた。
「何?出来ないとはどういう事だ。パディウィック大将閣下からのご意向であると理解しているのか!?」
ホロウィンドウに映る第7艦隊の担当士官は、表情は申し訳なさ気にしながらも、その根底には揺るがないものがあった。
それは彼の言動の節々に現れていたが、ボルウィンが気付くことはなかった。
『そのパディウィック大将閣下からの指示により我が第7艦隊分駐部隊の所属替えが行われ、現在我々はオルウルグ大将閣下の麾下になっておりまして以前のような指示はオルウルグ閣下の承認無しには行えないのであります』
「なっ!?いつの間にそんなっ………!」
『1週間程前かと存じます』
ヘイクツグス少佐の言葉を聞き、ボルウィンは口の中に苦味が生じる気がした。
そうボルウィンは気づく、いや直感できてしまったのだ。
自身が義伯父に依頼したことによる結果なのだと。
ギリリと拳を握りしめると、爪が食い込む感触がする。
「了解。………分かった。邪魔をしたな」
ボルウィンは通信を切りしばし瞑目する。そして溜め息を1つ吐き、切り札を切ることにする。
脅迫材料が失われた今となっては、切り札でも何でも無い。だがそう思わせ今回限りと言うことで物資を吐き出させる他、今のボルウィンには思いつけなかった。
後日何とか物資を調達し送ることが出来たのだが、何故かオーグュンデ伯爵から「違う!これではないっ!!」と叱責を受けてしまう。
データ上の物資はまさしくその物資であったのだから、違うと言われてもボルウィンには分かる筈もなかったのだ。
こうしてボルウィンの苦難はしばらくの間続くのであった。
□
中央部の一角。上層部付近に広大な施設が立ち並ぶその建物の1つに研究局がある。
単にラボと称されるそこは、主にエクセラルタイド関連の研究の為の場所であった。
その研究局のビルの一室。フロアの1/3ほどの面積を容するその室内で、1人の男性がいくつものホロウィンドウを表示し映像を凝視していた。そう食い入るように。
その室内へはまた1人の青年が入って来る。
年の頃は20代半ば。亜麻色の艷やかな髪を腰まで伸ばしそのまま流している。
軍服を着てはいるが、とても軍人には見えぬその容貌は、数多の女性の目を奪うことであろう。
その優美かつ端正な顔はいま現在不機嫌に眉間へと縦じわを作り、高貴な人間特有の金色の瞳は中にいた男性へと冷たく鋭い視線を向けている。
「ノゥバート!私は来いと言った筈だが、何をやっているのだ貴様は!!」
声を荒らげてはいるが、それ程耳障りというものではない。
どちらかというと節度を弁えた怒り方という感じを受ける。
それもかなりの上位の人間の嗜みというような仕草だ。
ノゥバートと呼ばれた男はその青年の声にやっとホロウィンドウから視線を外して青年を見やる。
「……ああ、ファルエルライド。来てたのか……」
三十路過ぎの痩せぎすの男は、その眠たそうな琥珀の瞳を茫洋として青年へと向ける。
その態度に舌打ちを軽くしながら肩を竦めて男ーーーノゥバートへと近寄る。
「俺の呼び出しにも応じず一体何をやっているんだお前は」
そう言って青年―――ファルエルライドは優雅に執務机に腰を掛けて、ホロウィンドウへと視線を移す。
「………これは?」
「ああ、先日あった模擬戦闘の映像記録だ。実に興味深いものだ」
「ふむ………そう言えば模擬戦闘好きの者がいたな。確かオーグュンデ伯の女婿だったか」
つまらなさそうに映像を見ていたファルエルライドはその端正な顔を顰め眉間に皺を寄せた。
「何とも出鱈目な組み合わせだな。戦艦1と軽巡2では勝負になるものか。馬鹿馬鹿しい」
フンと鼻で笑うその仕種も嫌味にならない。
「まぁ見ているといい」
ノゥバートはそう言いながら1つのホロウィンドウを拡大させた。
「はぁっ!?なんだこれは!」
主砲を放つ戦艦の攻撃を、奇妙というか妙ちきりんな機動で軽巡艦はその砲撃を躱していた。
「これに何の意味があるのだ?いや、こんな動きをしていれば、中の乗員はひと溜まりもないであろうに………」
ファルエルライドは半ば呆れ気味にそんな言葉を漏らし、更に映像を見やる。
その軽巡艦の上下左右に転がりながら移動をする様は、見ている方としては滑稽で非常識に見えた。
そしてもう一方の軽巡艦は、また不可思議な移動をしていた。
一瞬艦が明るく輝いたかと思うと、いつの間にかやはり上下左右へと移動を行っていたのだ。
「何ともおかしな動きだ。こんな事が可能なのか?」
「ああ、光学系のシステムを使えばあるいは………だがこれだけの広範囲となると、どれだけのエネルギー消費となるかが問題ではあるがな」
パッと船体が輝くと次の瞬間横や上下へと移動しているのだが、意味のない行動としかファルエルライドには見えなかったのだ。
「いや、必ずしも意味のない行動とも言えない。確かにレーダーで実体を把握すれば意味がないとは思うがとは思うが、浮遊砲台相手には充分に効果的ではある」
ファルエルライドの考えを読んだかのように、かの艦の動きをそのように評するノゥバート。
その言葉にファルエルライドが改めて映像を見ると、確かに遠隔操作された浮遊砲台はその動きに翻弄されているようだ。
ほほぅとファルエルライドが納得の声を上げていると、ノゥバートが今度は別の映像を拡大させて見せてくる。
「この浮遊砲台の機動も秀逸だ。見てみるがいい」
「ふむ、動きとは言うが大した事は出来ないだろう。所詮は浮遊砲台だ。何ぃ!?」
そう断言しながらファルエルライドがその映像を見て思わず目を見開き驚きを表す。
相手方との戦力差を考慮した10基の、旧型ではあるがその浮遊砲台は一糸乱れぬ動きを見せていたのだ。
エネルギービームを発射し、攻撃をする浮遊砲台を翻弄しながら巧みな連携を繰り返し、同士討ちへと陥らせていく。
「んんっ!?ちょっと待て。これは模擬戦であったよな。何故武装封印が為されてないのだ。おかしくはないか?」
ファルエルライドが訝しみながらノゥバートへと問い掛ける。
だがノゥバードは何者かを馬鹿にするように鼻で笑いながら、何を言ってるんだという顔をしてファルエルライドへと返す。
「全てのデータは武装封印が為されていると、電子記録に記録されている。もちろん審判船からのデータも同様だ。これはなんらかの演出用のエフェクトなのだろう」
そう、たとえ実際の映像に映し出させているモノが何であれ、データの上では何も記されていないのだ。
どう見ても実砲を放っていると分かっていても、そんな事は有り得ませんという貴族の建前が顔を覗かせてくるのだ。
その事をノゥバートの発する言外からの言葉に、ある意味貴族の理というものを忌避しながらもファルエルライドは呑み込むように首肯する。
「………なる程。まぁ分かりたくもないが、やむを得ないというところか。ふん!くだらぬ」
変なところで潔癖さを見せるファルエルライドに、ノゥバートは口元を緩めて話を進める。
「さて、そしてこれが問題の映像だ。見てみるがいい」
「ん?問題というのは何なのだ?」
「見れば分かる?と思う………」
半ば諦め気味に言葉を紡ぐノゥバートを訝しみながら、拡大された映像へと視線を向けるファルエルライド。
これも先程と同様に意味のある行動とは思えなかった。
そう1隻の軽巡艦が戦艦へと接近したかと思うと、船体を船尾を軸に右から左へと回転したのだ。
その瞬間画面にノイズが走る。
寸の間ファルエルライドは顔を顰め、次の場面に思わず声を上げてしまった。
「なっ、なんだこれはっ!?」
そう戦艦の主砲2門が刃に断たれるように刎ね飛ばされたのだ。
「次も面白いぞ」
ノゥバートが漏らした言葉を耳にしたした後切り替わった映像は、正面からかなりの速度を出して戦艦へと突進する軽巡艦の姿。
そこに再び画面にノイズが走る。
ファルエルライドにも少しばかり理解ができた。
どう見てもこのノイズが作為的――――いずこかの何者かが意図的に行ったものなのだと。
そしてノイズが収まると、戦艦の艦橋の先端部部が欠き消えていた。
「………………」
ファルエルライドはあまりにも突飛な出来事に、どう認識をすればいいのかと思わずガシガシと頭を掻いて呻いてしまうと言う、高貴な人間にそぐわぬ行いをしてしまう。
「ぐぬぬぅっ!ノゥバートっ!これは、これはなんなのだ!何なんだ!!」
ファルエルライドは日頃の沈着冷静さもかなぐり捨てて、眼前に映し出された映像を見て己を失う。
「落ち着け、ファルエルライド。現在この現象はどこからか飛来してきた障害物によるものだと結論づけられている」
「はぁああ!?そんな訳があるかっ!どう見てもあの軽巡の仕業にしか見えぬわっ!!」
「ああ、俺もそう思ったが軽巡艦のデータは調べても大したものは出ず、逆に基地のデータベースからこのような事故《、、》の例が数件見つかったのだ」
「……………」
あり得ない話ではない。
このエクセラルタイド近辺では、超重力帯や空間歪曲現象というものが、稀にではあるが起こることがあるのだ。
わずか数件ではあっても報告例があるのであれば、それなりに頷けもする。
「あまりにも都合がよすぎるがな………」
ようやく落ち着きをとり戻したファルエルライドは、腕を組み目を閉じながらそう評を下す。
だが基地のシステムは帝国でも最新のものを採用しており、おいそれと侵入もましてや書き換えなど出来うる筈もないことをファルエルライドは経験上知悉していた。
「それでだ。これを見てくれ」
ノゥバートが端末を操作してホロウィンドウに別の映像を画面に映す。
どうやら修繕ドッグの中のようで、そこに1隻の戦艦が固定具に支えられて係留されていた。
「ふん。これがその成れの果てという訳か」
「それは正確ではないな。現に修復されて現状復帰しているのだからな」
「………ほぅ。てっきり廃艦になったと思ったが」
ファルエルライドは顎をさすりそんな感想を漏らす。
「いや、修復自体は特に面倒でもなかったようだな」
「んぬ、どういうことなのだ?主砲2門大破に、飾りとは言え艦橋が破壊されてるのだぞ?」
ノゥバートが船体前部をさらに拡大させて、主砲が配置されていた部分をピックアップする。
その断面はまるでその姿が本当であるかのように磨かれていて奇麗なものであった。
「実際この砲塔の回転軸部分の交換のみで、あとは予備部品でなおすことが出来たらしい。パディウィック大将からなるべく大事にならないようにと、厳命された結果が功を奏したというところか」
「どちらかと言えばあの一族は吝嗇がすぎると思うがな。いい加減にしないと監査が黙っていないぞ。だが主砲がそれで済んだとしても艦橋はそうはいかぬのではないか?」
ファルエルライドの問いに、今度はノゥバートは別のホロウィンドウを出して艦橋部分を2つ表示させる。
つまりはビフォアアフターである。
修復前は艦橋部分に突出したようなカプセル状のものがあったのだが、修復後にはまるでそんなものは最初から無かったかのような造りに変わっていた。
「くっ、くふふ。なるほどオーグュンデ伯家らしい個性的な艦ではあるな」
ファルエルライドはくつくつと愉快そうに口元を歪める。
「推測ではあるが、おそらく何らかのエネルギーフィールドを発生させて部分的に分解したのではないかというのが現在のところの見解になる。しかも効果範囲幅1mmという精度でだ」
ノゥバートは全てのホロウィンドウを閉じて、1つのホロウィンドウを表示させる。
「ん?この艦は?」
「これがあの軽巡艦2隻が随伴している戦艦だ。試作第1号戦艦というらしい」
「試作な………ふん。もしそのような能力が有り得るのなら是非取り込みたいがな。どこの所属だ?」
「ああ………、これだ」
ファルエルライドの問い掛けにノゥバートは端末を操作して情報をホロウィンドウに表示させる。
「第35開発試験場……とな。聞いたこともないな。どこにあるのだ」
星海図に画面が切り替わり、その中で赤い点が点滅を繰り返す。
その示している位置はノーウェスエリアのエイディアル航路を外れたその先。いわゆる辺境と言われるところであった。
「ふん。よくこんなところで兵器開発なんぞ出来るものだ」
感心と呆れを混じえてファルエルライドは呟く。
「ああ、少し前に前任者を更迭して新しい所長を据えたようだ。そしてそれを指示したのがザーレンヴァイス公だ」
その名前をノゥバートから聞くと、ファルエルライドは彼らしくもなくあちゃーという表情を滲ませて肩を竦める
「はん、………なる程。相変わらず鼻の利くことだな。狸親父めが」
ファルエルライドが吐き捨てるように放った言葉に、それを聞き咎めたノゥバートがファルエルライドへと聞き返す。
「なんだ?その狸親父というのは」
「ああ、我が妹御が教えてくれた言葉で、何でも腹黒く煮ても焼いても食えぬ者のことを言うのだそうな。面白かろ」
「狸―――大脱出以前に大陸にいたという生物だったと記憶してるが、まさかそんな比喩があろうとは………」
オーストリエア‥ザーレンヴァイス公爵。
ノゥバートやファルエルライドが知る貴族の中でも群を抜いて厄介と言えるであろう帝国宰相。
そしてさらに厄介なのが、その嫡子たる帝国軍参謀長官のケィフト・ザーレンヴァイスだ。
こちらも父親と同様に曲者で、なかなかに侮れない人物である。
今までの功績を考えうると、とてもではないがファルエルライドとしては頭を下げるしかない存在だ。正直敵対などしたくもない存在だ。
「妹君というのは確か臣籍に降られたあの方か………」
「ああそうだ。今頃士官学校に入学していることだろうよ」
「士官学校?………。ああ、あの方ならそういう事もあろうか」
ファルエルライドの言葉に、半ば納得半ば呆れの声を上げるノゥバート。
「あの娘は敏いからな。帝位と己が命を比ぶれば、自ずと解は見えることだろうよ」
ファルエルライドは、はぁと諦念と溜め息を吐き漏らし肩を竦める。
「お前―――貴方様はそれでも至尊の冠を目指すのか、帝位継承権第8位ファルエルライド・ディルネルク・エルファーガ殿下」
ノゥバートのその熱のこもった視線にファルエルライドは気にする素振りも見せず、傲岸不遜とも言える態度でノゥバートに相対する。
「そうだ。例え進む道が険しく茨であるとしても私は進む。………とは言え継承位が中途半端ではあるがな」
ファルエルライドは、内心の様々な葛藤を抑えながらノゥバートへと応える。
「その為にもエクセラルタイドを超える術を手に入れなければならぬ」
その言葉にノゥバートは席を立ち、ファルエルライドの膝元へと臣下の礼をとる。
「御君の御心のままに」
彼等の他にも今回の模擬戦の結果に注目した者もおり、その価値に気付いた者は我先に食指を伸ばそうとするが、狸親父の勇名は伊達ではなく結局その者達はリスクを恐れ静観することに留めたのであった。
□
時は少しばかり遡り、試作第1号戦艦がエクセラルタイド中継基地をを出立して数日後のこと。
途中航路を外れ小惑星群へと向かい輸送船団と合流し、エイディアル航路へと向かう道すがら今後の方針を伝える為、簡単な会議をガートライトは開いていた。
艦内にある小会議室に集合したクルー―――主要5人に他を加えて、全員が2.5Dグラスをかけてガートライトの説明を聞いていた。
「え-試作第1号戦艦の目的である船体のスペックデータの収集の他に、命じられている海賊の探索についてなんだが………」
「艦長、闇雲に探しても無駄だと思いますが、何か手立てがあるんですか?」
クルーの1人がそんな言葉でガートライトを牽制してくる。彼等としては自身の専門外のことなので正直手に余ると思っているのだ。
ガートライト自身も、俺らしくないわなぁととは思いつつも命令であれば従わなくてはならない。
宮仕えのつらいところだな。そんな事を思いながらも命令を下す側としては彼等の言に頷く訳にもいかない。
「まぁ、まずはこれを見てくれ」
ガートライトがそう言うと同時に、2.5Dグラスで見ている空間に立体的な星系図が現れる。
「おおっ!」
「ふわわっ!」
「すご~い………」
クルー達が驚きながら、精緻に作られたグラフィックをしがしげとそれぞれが見回す。
「そんで、これが集められたデータから判明した襲撃カ所になる」
パパパといくつもの球体が立体図へと出現する。
それはエイディアル航路全域に及び、その航路上に球体がいくつも点在している。
「やはりこの辺りが多いですなぁ。要所であるので仕方がないのですが………」
バイルソンが顎を擦りながら呟きを漏らす。
そうこれから向かうであろう航路上の先に襲撃の痕跡が多く集中していたのだ。
「艦長、この色違いの球体はなんなんですか?赤が多いってことはこいつが襲撃のヤツだとして、他のは未遂とかですか?」
エルクレイドが緑の球体を指差して訊ねてくる。
ガートライトが球体をタッチするとホロウィンドウが現れ、日時と座標そして襲われた船の情報が表示される。
「ああ、これはとある筋からの情報―――いわゆる口コミや噂、あるいは目撃情報なんかを集約してビッグデータ化したものだ。赤が襲撃で緑が口コミで黄色が目撃情報な」
あの後レイヴズからの報酬として頼んでいた情報はすぐにガートライトの元に届けられ、それをヴィニオやジョナサンズたちが処理を行いこのようなものを作ったのだった。
そして赤の球体が最も多い部分、サウザンスとイースラを結ぶサウイスエリアの航路がこれからガートライト達が向かう場所でもある。
「艦長。この辺りだけやたらと緑の球体が多いのですが、ここに何かあるんでしょうか」
皆が興味津々に球体をタッチしている中で、アレクスは不思議そうに緑が固まっている箇所を指し示す。
「まぁ分かっちゃいると思うが、そこが海賊―――私掠船を操る者達が潜んでいるであろう拠点の付近だと俺達は見ている」
この場合俺達というのは、ヴィニオとジョナサンズ達のことだ。
緑が固まっているのは都合3ヶ所。エイディアル航路を少しばかり外れたサウイスエリアの中となる。
「なもんで、予定地点に到着したら剣、槍、盾には先行して“アレ”をばら撒いて貰いたい」
『『了解《I.K》』』
『了解《I.K》っス』
「アレですか。………一種の再利用ですね」
アレィナが若干呆れを含む物言いをする。ガートライトも然もありなんと思いはするが、口に出すことはしなかった。
指揮官ともなればその辺りにも気を付けなくてはならないとガートライトでも自覚はしているのだ。
こうして海賊に対する準備が、粛々と行われていくのであった。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
ブクマありがとうございます!励みになります!(T△T)ゞ




