29:模擬戦前のあれこれ
前回のお話
レイヴズの横流しの話に応じるガートライトに
基地のNo.3から模擬戦を命じられる
相手はあのボルウィン
何かを企んでることを予測し対策を考える
ちょっと短いですすみません m(_ _)m
翌日、最悪と最善の対策をある程度立ててから、剣と槍及び随伴艦として第7艦隊から輸送艦が1隻と盾を伴ってガートライト達は指定の宙域へと到着する。
そこは中継基地からエイディアル航路方面へ1時間ほど進んだ障害物も何もない宇宙空間だった。
小惑星やデブリ、岩塊などがあれば下手な小細工もあるやなどと邪推していたのだが、それはさすがに無い様であった。
逆にそれだけ自信があるのかも知れない。
そしてこの指定された宙域はガートライト達にとって好都合なものであった。
ガートライトが係留させてある船団は、ここより少し先にある(サウザン方面の小惑星帯の中であったからだ。
「つーか何でモートロイドが、こんな細かい作業が出来てるのかが分からんのだが………」
レイヴズがコントロールルームで操艦作業をしているモートロイド達の姿を見て独りごちる。
輸送艦の運用に関しては、周知の事実であるものの公には憚れるものなので、極秘裏にということでレイヴズの部下数名のみを伴って行なっていた。
足りない人員に関しては、試作第1号戦艦からジョナサンズ搭載のモーとロイド十数体でまかなっている。
小型とは言え100m級の輸送艦を操るには心許無いはずなのだが、それを補って余るほどの安定感をもたらしていた。
「なぁ、ガー。あれって本当にモートロイドなのか?」
モートロイドとはそもそも単純作業にしか適さないものなのだ。それが操艦、通信、艦内運用を人間と同等、いやそれを上まるかの能力でもって遂行していたのだから。
「はっはっはー………何を言ってるのかねレイヴズくん。どこからどう見てもモートロイドにしか見えないだろうが」
そう言う意味で言ってるんじゃないんだが、とレイヴズはその言葉を口の中だけで押し留める。中身についてはあまり語りたくはないのだろうと、察して別の話題へと話を持って行くことにする。(ヴィニオのこと知っているので何となくではあるがレイヴズは理解に至った。)
「それはそうと、模擬戦に行かなくていいのか?ガー」
「まぁ一応指示はしたし、問題はないよ、多分」
操艦室内の予備座席に腰かけているガートライトは、レイヴズの心配を余所に呑気に答える。
まぁ多少の不安は無きにしも非ずなのだが、ここまでくると腹を括る他ないのだから。
問題が出たのならアレィナが連絡してくれるだろう。そうガートライトは気持ちを落ち着ける。
盾を督戦艦としてその宙域へ残し、ガートライト達を乗せた輸送艦は指定された宙域を通り過ぎ小惑星帯へと向かう。
一方指定された宙域では、剣、槍、盾に搭乗しているクルー達がまったりと過ごしていた。
アレクスとエルクレイドは試作第1号戦艦で待機をしており、こちらにはアレィナとレイリン、バイルソンが盾で開始時間を待っていた。
0730帝国標準時の現在、他にというか対戦相手も来ていない状況だ。
もともと盾には人間が搭乗するスペースはなかったのだが、急遽この事態において簡易的にではあるが作られる事になったのだ。
本来であればそのように簡単に作れるものではないのだが、もともとあった操縦室を遮蔽密閉して作り上げたものである。
だがガートライトが行ったものであるゆえに、色々通常とは異なった仕様になったことは言うまでもない。
簡易キッチンは言うに及ばず、トイレにシャワー室が付いたとなればそれこそである。
異なったと言ってもその程度なので使い勝手という点ではあまりにも理に適っている時点で、誰もが口を噤むほか無かったというのはある意味自明の理であるのかも知れない。
とは言っても3人が3人共(いや1人はともかく)会話というものになかなか機会がなかったということで、アレィナとしても少しは歩み寄れればと思っていたのだが………。
(会話が………出てこない………)
なんとか会話を試みようと思い口を開こうとするが、何を言えばいいのか思いつかずそのまま口を閉ざしてしまい、つい沈黙してしまう。
そもそもアレィナ自身この手の会話はそれ程得意ではない。
職務上の会話であればそれ程労することもなく出来るのだが、それ以外のものとなると途端に会話というものが途切れてしまう。
ガートライトがいればある意味緩衝材としての役割を担い会話も成立していくのだが、いかんせんガートライトが不在の今アレィナが先陣を切って話を盛り上げていかなければならないと思ってはいるが、生来の性格も相まってなかなかに上手くいくものでもないという話だ。
うん、無理だ。
アレィナはそう結論づけて、とりあえず今自分が出来るであろうことに注力する。
まずは対戦する相手――――ボルウィン・オーギュンデが搭乗する戦艦と剣と槍のスペックを比べてみることにする。
正直あまりにも差があり過ぎるとアレィナは思っている為、ただの確認作業にしか過ぎないのだが。
このエクセラルタイド中継基地で乗られている艦全ては、形骸化してはいるが対敵との戦闘へと備える為に初代皇帝の御世から必ず最新鋭のものを採用することを義務付けている。
故に今回の対戦相手の艦ももちろん最新鋭の戦艦になるという訳だ。
ただの意趣返しの為だけに、こんな事をやるというのも大人気ないとアレィナなどは感じてしまうのだが、原座位の世の常と言われれば文句の言いようもないのが実情だ。
「ローズホルン級戦艦オーギュンディラル。全長320m、主砲2連装ビームカノン2門、パルスガン副砲2門、複層形装ミサイル発射口6門、そして浮遊砲台4基………ねぇ」
アレィナの呟きに作業をしていたバイルソン機関士長が答えを返してくる。
「ですな。正直言って実際に軽巡艦で戦えなんぞと自分が言われた日には、尻尾卷いて逃げざるをえんでしょう」
アレィナが呟きに返って来た言葉に若干の驚きを胸の内だけで抑えて、機関士長へ気になっていたことを聞いてみることにする。
「やはり、この模擬戦というものは無理があるのでしょうか。門外漢なので、私自身よく理解できてないのですが」
帝国軍と言っても基礎訓練などは皆同様と入っても担う仕事はそれぞれ異なってくる。
もともと事務畑であったアレィナとしては、学んでいるとは言ってもそれが自身の中で結実している訳ではないのだ。
アレィナのある種謙虚気味の態度と言葉に、口元を緩めつつバイルソンが答える。
「そうですな。もしスペック通りの話でしたら問答無用でこちらの負けなんですが、ジェネレーターの性能と、AIの対応如何によってはどうなるかわからんと言うところですな」
以前と比べてその態度が軟化したようなバイルソンの言に、なる程と呟いてアレィナは納得する。
アレィナにとしてはバイルソンに対して多少は表面上はともかく、内心ではちょっとばかり警戒をするべき対象なのだ。
どのような理由であってもガートライトにとっての敵であるのならば、アレィナは躊躇せずにそれに対峙する意志を持っている。
それは今まで宙ぶらりんであった己の生き方の指針とも言える絶対的なものでもあった。
要はアレィナもガートライトに毒されてしまっているということに他ならない。
もし本人がそんな事を言われれば完全否定するであろうが。
「前方よ、り反応、あり。当該戦艦、到着で、す」
レイリンがレーダーを視認しながらアレィナ達へと報告してきた。
どういう教えをしていたのかは分からないが、以前のレイリンの耳慣れない言葉がようやっと耳に違和感なく聞こえてくる。
たどたどしくはあった。
そして鈴の音が響くような声音は、本当に以前のだみ声と同じなのかとアレィナは己の耳を疑ったりもした。
自分の声がハスキーゆえのちょっとした羨みと妬みの心がない混ざった感想ではあるのだがその声と容姿と性格で、一部の女性士官の間にアレィナ親衛隊なるものが存在してるのは本人ばかりが知らない情報だ。
そんな現在の状況と全く関係ない思考を頭を振るって霧散させて、アレィナはメインモニターを見てやってきた戦艦の姿を視認する。
「最新鋭戦艦ローズホルン級1に浮遊砲台4,そして審判船が1と」
ボルウィンの事だからと警戒はしていたのだが、取り決め通りの戦力にアレィナも心なしふぅと息を吐く。
最悪の事態の1つとして小隊規模あるいは中隊規模と艦隊と相対することも考慮していたからだ。
どのみち武器の類は封印されて使えないので数で来たところで問題はないのだが、それでも不安はあるのだ。
『通信入りました。アレに切り替えます』
「よろしく」
盾が相手からの通信を受け、前もって用意しておいた映像へと切り替える。
メインモニターが切り替わり、ボルウィンの姿が現れる。制服制帽を見につけそれなりに艦長らしさは見て取れる。あまり見たくはないかなとアレィナは独りごちる。
『グギリア大佐、お待たせした。では0800時より模擬戦闘を始めよう。くれぐれも宣誓に恥じる事無いようにお願いする』
エレベーター前であった時の狼狽ぶりは影もなく、従来のふてぶてしさが表に出ている。
『こちらこそ、よろしく』
ボルウィンと違い特に気負いもない普段通りのガートライトの姿が簡潔に挨拶をしている。
もちろんこれは前もって作られた映像で、実際のガートライトは輸送艦の方へと乗り込んでいる。
そして映像自体フェイクなので、適当に作られたクルーの映像が作業をするように動いていたりする。
その中にアレィナ達の姿はない。
ボルウィンがそのフェイク映像を見回して訝しむような表情を見せる。
『副長はおられないのかな?彼女は以前に任地で知己だったのでねぇ』
(ひぃいいいっっ!)
ぞぞわと悪寒と共に震えがアレィナの背筋に走る。
よかった!応対しなくてよかったよっ!!アレィナは胸中で叫ぶ。
『副官は試作第1号戦艦の方で待機中ですね。そろそろ時間です。お互い頑張りましょう』
『ああ、くっく………互いになっ!』
口元を歪めながら笑いを堪える様子を見せて通信が切れる。
「やんだぁ………あれぇ」
「あぁ………ちょっとなぁ……」
レイリンとバイルソンがちょっとだけ引いている。アレィナももちろん同じだ。
自分がこの場にいないことになっていて本当に良かった。そうしみじみとアレィナは思ったのだった。
審判用探査プローブを展開し終えた審判船が、指定された座標に停止している艦同士の中間地点へと配置につくと通信が入ってくる。
『審判船AIのヴァニスタス0212です。これより模擬戦闘訓練を行いマス』
審判船のAIが簡潔に模擬戦のルールの説明を始める。
本来なら中継基地で説明をするのが通常なのだが、今回は特例ということでこのような形になったのだ。
アレィナは散々っぱら調べ上げたその内容を聞いていく。
要は互いに5km離れた位置から進んで、いかに相手へダメージを蓄積させて勝敗を決するというものだ。
そのダメージ数値については、審判AIが判断するとの事。
そしてその審判AIの審査は絶対である事。
なんとも公平性に欠けることが丸分かりな話にアレィナには見えてしまっていた。
「もう何か仕掛けるって言ってる感じよねぇ………」
「ですな。剣、槍ともジェネレーターは正常作動しています」
「再度、通信は、いります」
アレィナが審判AIについて感想を漏らすと、バイルソンはそれに同意しつつ2隻に状況を伝えてくる。
そして再度通信が来たことをレイリンが伝えると、ホロウィンドウが現れV−0212の文字が表示される。そしてその下には時刻とカウントダウンが刻一刻とその時を刻んでいる。
『まもなく0800帝国標準時です。7……6、5………2、1!模擬戦開始しマス』
審判AIの声と時刻が0800になると、ホロウィンドウの画面が“進軍”と表示が切り替わり模擬戦の始まりを告げる。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
ブクマありがとうございます!感謝です! (T△T)ゞ




