26:基地の内部と副司令
試作第1号戦艦と3隻が案内指示標に従い指定された係留地点へとゆっくりと接舷する。
港湾柱の接舷部の横へとピタリと停止すると、そこから搭乗チューブが試作第1号戦艦の搭乗ハッチへと伸びて行きガチリと接続圧縮、その後空気が送り込まれる。
やがて濃度が安定すると、安全標が赤から緑へと点灯する。
「接舷完了しました。ジェネレーターを待機状態へと移行します」
バイルソンが機関部の操作をして報告をして来る。
「了解。船体状況の確認と補修の必要があったらそれを。こっちは挨拶をしに行くんでクルーは艦内待機Bで。後はよろしく頼みます」
「了解」
「了解〜」
「了解」
3人の返事を聞いてガートライトは席を立ちコントロールルームを出る。
アレィナも副官としてそれに随伴をする為、ガートライトに続く。
艦橋から降りながら、アレィナがこれからの予定の説明を始める。
「これから港湾部の会議室で軽く担当士官と挨拶をして、補給と補修に関しての話し合いをします」
「って言っても特に何か補給も補修も必要ないんじゃないかとお思うんだけどなぁ………」
実際これまでの航行においてジェネレーターに関しては触媒物質の補給は全く必要なく、消耗品に至ってはマーリィ・セレストンが漂流していた宙域でかなりの量を入手していたので、ここで何かを貰い受ける必要な物はないようにガートライトは思ったのだ。
「あのですね。エイディアル航路を進んでいて、補給が必要ないなんてのは本来あり得ないんです!形式上でも補給しないと変に勘ぐられる怖れもあるんだから、ある程度は必要になるってことは分かるでしょ?」
「………まぁ、確かにそうだな。あの宙域に至っては部外秘になるんだろうから、話すわけにも行かないか………」
うわぁ……面倒なと頭を掻きむしるつつ、ガートライトは苦虫を噛むような表情を見せる。
「多分あちらも必要最低限のものしか渡すことがないから大丈夫だと思うけど………」
「いやいや、それで充分じゃないですか、アレィナさんや」
「それで済めばいいんですけどねぇ………」
不安要素ありまくりな試作第1号戦艦とガートライトを見つつ内心で溜め息を吐くアレィナ。
□
「なんでやねん………」
搭乗チューブを通り抜け、モーとロイド2体と共にガートライトとアレィナが港湾柱を通り待合室へ到着すると、ホロウィンドウが現れ次の事を指示してきた。
ガートライトがつい思わずそんな言葉が漏れいでる。
エクセラルタイド中継基地副司令官からの連絡であった。
この中継基地の基地司令は、伝統的に宙航第2艦隊の艦隊司令が兼任している。
だがおいそれとニ足の草鞋が履ける訳もなく、No.2の事務官である副司令が基地内の全ての運用を担っている実質上のトップでもあった。
そんな人物がたかが試作戦艦の艦長を呼び出すなど、本来あり得ないことなのだが。
「俺等何かしたかなぁ………。何にも思い浮かばんのだが………」
ガートライトは頭を掻き掻きしつつ待合室を出て港湾部である外郭部へと向かう。
外郭部へと到着すると、思わず辺りを見回してしまう。
そこはとても小惑星をくり抜いて作られたとは思えない程の風景が上下左右に作られていた。
「これはまた………大したもんだ」
おそらくはコロニー建造の技術「ノウハウ」を応用したと思われる街並みは、第35開発試験場を軽く上回る規模であった。しかもこれで港湾部なのである。
「これはこれで迷っちゃいそうね」
上を仰ぎ見ながらアレィナも感想を漏らす。
『マスター、ここは“都市”なのでしょうか?私が知る限りこのような規模のものではなかったと認識してるのですが………』
モートロイドに搭載されたレイテが、ガートライトへ質問をする。
「まぁ150年経ってるし、増設やら改装やらでこの規模になったと思うがなぁ。それにここはまだ港湾部だから、まだ広くない方だろうし」
『あ、今ヴィニオさまから教えて頂きました。………人とはすごい存在ですね』
レイテが感慨深くそう呟き、お上りさんよろしくキョロキョロ周囲を見回している。
ガートライト達も出入口を出てから立ち止まりその風景を感心しながら眺めていると、1台の無輪移動車がガートライト達の目の前で停車し、中から女性士官が降りてきて敬礼をしてくる。
「グギリア大佐でしょうか?自分は副司令付秘書官補佐のカーマイネ・オールトン少尉であります。司令本部へご案内させていただきます」
20代前半の肩までの亜麻色の髪が敬礼と共に揺れる。
幼さが少しだけ残るその表情は藍色の瞳と共に緊張で固まっている。
自分達相手に緊張する必要なんか無いのになぁと、ガートライトは胸の内で独りごちるが、その彼女の視線はアレィナへと向けられていた。
何だろな?と思いながらガートライトは挨拶を返す。
「第35開発試験場所属試作第1号戦艦々長のガートライト・グギリアです。案内よろしく頼みます」
「同じく副長のエリクトリナル少尉です」
アレィナの挨拶を聞き目がキランとして「やっぱり」とカーマイネが小さく呟き口元を緩める。
ガートライトとアレィナが首を傾げているのに気付き慌てて無輪移動車へと誘導する。
「で、では後部席へお乗り下さい。失礼します。モートロイドは後部荷台へ」
後部席のドアを開け誘導されてガートライト達は席に着くと、カーマイネはナビシートへと座り端末を操作する。
「では参ります」
カーマイネがガートライト達がシートベルトを締めたのを確認した後、無輪移動車《フロ-ポーター》を発進させる。
スルスルと音もなく動き始め、幹線道路へと進入し速度を上げていく。
屋根のない無輪移動車は風を起こしガートライト達の髪をはためかせて行く。
ガートライトは物珍しそうに無輪移動車を眺め、それに気付いたアレィナは小声でガートライトに耳打ちする。
「ガ、艦長。無輪移動車は初めてですか?」
他者がいるので、態度を改めてアレィナが尋ねると、ガートライトは瞳をキラキラされて頷きを返してくる。
子供かと思いつつアレィナは首を傾げる。
「艦長って、あちこちの惑星に(データ探しに)行ってたんですよね?そこで無輪移動車に乗ったこと無かったんんですか?」
アレィナ自身、任地先でちょくちょく見かけた事があったので、ガートライトが物珍しそうにそれを見ているのが不思議だったのだ。
「ないなー。俺が行ったのは中小規模惑星ばっかだから、道路一体型の無輪移動車なんて全く無かったからな?」
「えっ!?そうなの?」
軍勤務のアレィナにとって無輪移動車は当たり前のものだったようで、ガートライトの言葉に少しだけ見を見開く。
物資管理の任地に赴いていたアレィナにとっては、身近にあったものだったからだ。
アレィナが首を傾げていると、ヴィニオが意地の悪そうな声音で説明を始める。
『無知蒙昧なアレィナさんに理解し易く懇切丁寧に説明いたしましょう』
「うぐっ、」
ヴィニオの言葉に二の句を告げずに、唸りながらアレィナは眉を顰めるだけに留める。
『そもそも重力下における反重力もしくは無重力制御には、膨大なエネルギー消費が伴います。そしてフローポーター1台の機体ではそのエネルギーははっきり言って賄うことが出来ません。そこで路面にエネルギーフィールド発信端子を設置して、そのエネルギー負担を賄うわけです』
ヴィニオの説明に得心がいったアレィナは、その続きを予測しながら話しだす。
「つまり、路面と無輪移動車が一体となって機能が成立するってことかしら」
要は車体1つでは事を為さない、インフラ整備が必須のものであるということだ。
それが可能なのは、予算が潤沢な国家か軍だけとなる。
中小規模惑星の領主如きでは、予算の都合上そんなものはとても整備できるはずもない訳なのだ。
「はぁ………、そういう事ね……」
ある種自分も恵まれた環境にいた事に、少しだけ韜晦してしまう。
「いやぁ、軍じゃ当たり前みたいだしな。補給や物資保管の任地じゃ当然あるもんらしいから、気にしなくてもいいと思うぞ」
アレィナの様子を見て、ガートライトは何てことない風に慰める。
ガートライトとしては現状に胡座をかかず、それに反省を自身に促す姿は好感が持てるのだ。
「うん、そうね!知らないことは恥ずかしくないわよね!」
『いえ、無知はちょっと恥ずかしいですよ。アレィナさん』
「くぅっ、」
アレィナが自身を擁護する言葉を発するとヴィニオがそれに突っ込む、それを聞き眉間に皺を寄せつつも拳を握り言い返すことも出来ずそれに耐える。
そんな事をしている内に、無輪移動車は港湾部を抜け主体部へと入って行く。
接続通路を抜けると、そこは港湾部のものよりも遥かに広大な都市の様相を呈していた。
「うおぉ………」
「これは、……」
『ふむ、凄いですね』
『はい、壮観です』
ガートライトとアレィナが思わず唸り、後部荷台へ同伴していたマルコスとレイテは感嘆の声を漏らす。
「初めて見た方は似たような反応をしますね」
ガートライト達の様子を見てカーマイネが口元を緩めて話をしてくる。
これ幸いとガートライとは副司令のことについてカーマイネへと尋ねてみる。
「ところでこの基地の副司令殿はどういう方なんですか?自分はこういう偉い方々と会うことが無かったもので、失礼があると大変なので教えていただけますか?」
カーマイネは少しばかり逡巡しながらも、アレィナがこくりと頷くと頬を赤らめすぐに話し始める。アレィナはそれを見てちょっとだけ汗ジトになる。
「えー………、ボートヴィット大将閣下は、ご自分にも他の方にも厳しい方ですね。かと言って無理難題を言う訳ではなく、能力重視というか優秀な人材をを見分けるお力を持つ方です」
いや~ん………俺と正反対の人間じゃーんと、ガートライとは内心毒づく。
アレィナもガートライとの事を想像すると、あまり良さ気な状況じゃ無いわねぇと少しばかり肩を落とす。
カーマイネの話す事柄がアレィナへのことへと傾倒してるのに気づいたガートライトは、アレィナに目配せして内情を探るよう指示をするが、指を交差せ“無理”と示したのでガートライトも渋々諦めることにする。
情報を得るためにと、アレィナを人身御供に差し出してまで得るつもりはガートライトには無かった。
このダウネスは平民用の居住区となっており、主に自給自足の為の野菜や食肉の農場と牧場が数多く作られていた。
どちらかと言えば日用品や食料などの生産工場と言った方がいいのかもしれない。
平民の軍人とその家族、および農工業従事者がここで働き住んでいるのだとか。
ある種長閑な風景を仰ぎ見つつ、無輪移動車はダウネス、セントラル、アプレルを1本で繋ぐ本線へと進入し、そのままダウネスを通り過ぎて行く。
「シートベルト装着の確認願います」
カーマイネがそう注意を促し、ガートライト達は一応確認をして頷きを返す。
接続部―――この部分は非常事態時に連結解除出来るようにある程度の空間が設けられており、手前300mとトンネルとなっている連結部は一時的に無輪移動車のシステムが途切れることとなる。
だが慣性を維持したまま突入する為、直線の中特に何の問題もなく通過していく。
変化があるとすれば重力が突然失くなる為、一瞬身体が異常を感じるぐらいか。(シートベルトをしてないと大変なことになるが)
接続部を抜けてシステムが再起動され、無輪移動車は何事もなくトンネルを暫く進んで出口へと抜ける。
「「……………」」
今日は驚いてばかりだなぁと、ガートライトはそんな感想しか思い浮かばなかった。
セントラル内部に突入し、ガートライトは口をあんぐりと開けて周囲を見回す。
そこには外宇宙とは思えぬほど、低階層ではあるがビル群が林立していたからだ。
てっきり開発試験場と同じ規模のものと思っていたので、下調べなどしていなかったとは言え驚きは隠せない。
上下左右どこぞの惑星の都市か?と言わんばかりのその風景に、ガートライト達は驚きと共に呆れるほか無かった。
こうしてガートライト達を乗せた無輪移動車は中でも一際大きな建物へと向かって行った。
正面玄関に到着すると全員が降車し、そのまま無輪移動車は自動的にどこかへと去ってしまう。
その建物は他の建物と違い、特徴を持った形状をしている。
8角形に最上階とその下のフロアが他より大きく作られている。
ガートライト達も遠目からそれを見た時、ボルトのようだなぁと心の中で思ったものだ。(想像はつくので、口に出すと何となく憚れるような気がしたからだ)
『ああ、ナントカと煙は―――』
「レイテ!それ言っちゃダメよ」
後ろで納得した声を周囲を気にするでもなく発したレイテを、慌てて小声で窘める。
どこで誰が聞いているか分からないのだ。不用意な発言には気をつけなければならない。
『大変失礼しました。ヴィニオ様のロジックデータに引き摺られてしまいました。てへぺろ』
『私を引き合いに出さないで下さいレイテ。それはあなたのパーソナルロジックでしょう』
抑揚のない声音で謝罪をするレイテに、ヴィニオの容赦無い突っ込みが入る。
「レイテまで毒されてる………」
ガートライトが見ていたPictvで聞いた覚えがあるフレーズを耳にして諦め気味にアレィナは肩を落とす。
一階はエントランスのようで打ち合わせ用のテーブルと椅子とソファーが幾つか設置されており、その先には受付があってそこで職員がこちらを伺い見ている。
カーマイネは彼等に軽く目礼を返してさらに奥へと進んでいく。
そしてエレベーターホールを抜けて、非常階段へのドアを開けてカーメイネが入って行った。
「「??」」
てっきり最上階へ向かうばかり思っていたガートライトとアレィナは思わず首を傾げてしまう。
そして階段を上がり始めたカーマイネへガートライトはつい尋ねる。
「あの………どこに行くんでしょうか?」
その問に思わず“あっ”という顔をして申し訳無さ気に謝罪をしてくるカーマイネ。
「申し訳ありません。ついいつものように階段を使ってしまいました。えっと行く先はこの上の2階です。すいませんエレーベータホールに戻りますね」
「いえ、2階というのならこのまま階段で向かってもらって構いません。てっきりもっと上の階の方へと向かうと思ったものですから」
戻ろうとするカーメイネを押し留め、ガートライトは階段を使うことについて問題ないと告げる。ただつい余計なひと言は付け足してしまったが。
「ナントカと煙はなんとやらですね。確かに基地司令は最上階に席をおいてますから」
聞かれてたかとガートライトは微かに眉を動かす。
しかしカーマイネは特にのそれを追求すること無く、階段を上がり始める。
その様子にほっと息をつきつつ、彼女の後へと2人と2体は続いて行く。
非常階段を上がると通路へと出る。ちょうど行き止まりの位置で、右へと通路が伸びており10m程先に左へと続いている。
幅は軍の規格で、大人が4人くらい余裕で並んで歩けるほどの広さだ。貴族にありがちな装飾の類は見当たらない。
華美を避け機能にのみ重きを置いた様子ではある。
カーマイネはそのまま通路を進み、曲がり角のところで立ち止まりガートライト達を見やる。
近付くと右側には扉があり、どうやらそこが目的の場所のようだった。
即ちエクセラルタイド中継基地副司令の執務室。
アレィナは知らずゴクリと喉を鳴らす。
ガートライトは特に何の気負いも感じていない様子で、その姿を見るアレィナは呆れというか諦め気味に息を吐き対面に備える。
「モートロイドはそちらで待機させて下さい」
「マルコス。レイテ待機してくれ」
カーマイネの指示で扉横に待機をガートライトが命じ、それに従いモートロイドであるマルコスとレイテは扉横へと並び待機状態となる。
それを見てカーマイネが扉に対峙し入室を告げる。
「カーマイネ少尉です。ご指示の2名をお連れしました」
「入れ」
何とも耳に残るバリトンボイスがガートライト達へと響いて来た。
「失礼します」
ドアが滑るように開きカーマイネの視線に促されガートライト達も後に続き室内に入る。
中はかなりの広さがあり、その正面に件の人物が執務に励んでいる。
大振りの執務机には数多くの書類の束が山積みになっており、認可の可否を決済しているようだった。
ガートライトが携わったと思われる署名専用ペンが休むことなく次々と書類へとサインをしていた。
その視線を横で伺いそれなりに愛着があったのかなと、アレィナはふと思ってしまう。
その手の感覚はアレィナにはあまり湧かなかったものなので、少しだけ何となくちょっとだけ不満を感じてしまう。
アレィナ自身は前任地に大した愛着を持つことがなかったものだから。
「第35開発試験場所属試作戦艦々長及び副官をお連れしました」
「ご苦労。貴官がガートライト・グギリア大佐か」
「はっ!第35開発試験場所属試作戦艦艦長ガートライト・グギリアです」
「同艦副官アレィナ・エリクトリナル少尉であります」
「うむ………」
そのひと言の後カーマイネは副司令―――オルウルグ・ボートヴィットス大将の後方へと控え、本人は再度署名作業へと赴き始める。
その姿は文官―――事務職の人間とは思えぬ程軍服は筋肉が張り詰めたようにフィットしている。
短めの紫髪を後ろに流し、だが目元にはデータグラスを掛けて理知的な藍色の瞳が射抜くが如く書類へと注力している。
理知的な偉丈夫といった感じか。
そこはかとなく対人対策の行為(圧迫面接のような)と認識しつつ、ガートライトは気負いもなく副司令へと尋ねる。
「何か御用とお聞きしました。不備等がありましたでしょうか?」
実際はあり得ない事項ではあるが、所詮一時的に駐留しただけのガートライト達が何ゆえ呼び出されたのか、ガートライト自身不可思議であったからだ。
その問いにオルウルグは鋭い視線をガートライトに寸の間向け、その深淵を探るかのように言葉を発する。
「なに、ザーレンヴァイス参謀長官の隠し球をひと目見ようと思っただけだよ。私個人の興味に過ぎない」
「幼い頃の腐れ縁ですね。隠し球など恐れ多いことです」
どうやらあちらこちらにそんな話が流れているようだ。面倒ではあるが助けられている部分もあるので、そのことは軽く答えるように留めるも、さすがに相手は侮れなくガートライトの琴線に触れる言葉を被せてくる。
「そう言えば“図書館の悪役令嬢”は尻切れていて残念ではあるな」
それはただのガートライトへのちょっとした牽制のひと言であったが、ガートライトにとってはあまりにも既定の話であり過ぎた。
オルウルグとしては、参謀長官であるザーレンヴァイス公爵家の継嗣がこの男を使い何をやろうとしているかを探るつもりだけのつもりだった。
ひと癖もふた癖もある乗組員を集め、試作戦艦などというものを使ってエイディアル航路をひと周りするなど。
特に派閥に入ってる訳ではない(中立派と言ってもいい)伯爵位のオルウルグではあるが、情報は何より貴族の生命線だ。
あとはガートライト達の身上調査の折り、気になったことがあったからだ。その確認も兼ねてオルウルグは試してみたのである。
彼が同好の士であるかを。
何故彼―――オルウルグがPictvに傾倒してしまったのかはともかく、彼は少しばかり飢えていたのである。共に語り合える人間がいないことを。少し、いやかなり残念に思っていたのだ。
オルウルグの地位と役職を考えればやむを得ない部分でもある。
そしてたまたまザーレンヴァイス絡みで、補給を名目にやって来る試作戦艦の情報を集めた結果、もしやという人物が目に入って来たのである。
そこで幻の逸品と言われるPictv―――オルウルグが伝手を駆使して漸く手に入れたものをダシにして反応を確かめようとしたのだ。
そして何の警戒もなくその会話に入り込むガートライト。
それはあまりにもガートライトにとってある意味彼自身のフィールドであったが為、アッサリと話に乗ってしまう。
アレィナはありゃりゃと思いつつ、内心を悟られぬよう表情を以前のそれへと変えて行く。
それを見たオルウルグは、以前のままのアレィナと勘違いしてしまい、微かに健在かと独りごちる。
だがその牽制は反対にオルウルグへの攻撃へとなってしまう。
そしてガートライトは笑顔でのたまう。
「ええ、良作ではありますが、最後がアレなので傑作とは言い難く思いますね。よもや本当に悪―――」
「待てっ!」
先程まで余裕を持って相対していたオルウルグが、ガートライトの言葉に思わず意識と視線を向けてしまった。
「貴官はアレを全話見たというのかっ!?」
「ええ、ですが途中から作り手が変わっていますので必ずしもそうであるとは限りませんが、自分はそうであると思っています」
たまにこんな風に作り手が変わったりする事があったりする。
何がしかの事情でデータ類を引き継いで作り上げたりと言うことが、まれに見かけたりするのだ。
だから前半分と後半部のストーリーの内容が180度引っくり返ったりというものも何作品かガートライトは持っていたりする。
ガートライトの言葉に少しばかり動揺の様子をほんの一瞬だけ見せ、平静を装うオルウルグの姿を見てガートライトは言葉を続ける。
「いま、手元にはありませんが、………いえ、御要件は以上でしょうか?」
ガートライトのはじめの方の言葉にピクリと反応を示すオルウルグに、一旦言葉を止めて話を打ち切る。
第三者の前でしかも上位者に対してこういう話を続けるのは、さすがのガートライトも躊躇われたのだ。
「う、うむ。補給の件は話を通しておこう。以上だ」
「はっ!失礼します。後程」
「失礼致します。あ、私供で戻れますので」
オルウルグが退出を促し、カーマイネが動こうとするのをアレィナが押し留めて、ガートライト達は敬礼をして退室する。
オルウルグに聞こえるか聞こえないかの小声で、後の言葉を呟くのをアレィナは耳にして小さく嘆息する。
執務室を出ると、すぐさまヴィニオヘとガートライトは指示する。
「ヴィニオ」
『はい、今送りました。副司令の眼鏡へ』
ひと仕事を終えて、マルコスとレイテを伴い非常階段へと向かうガートライトの背後で奇声が微かに聞こえた。
「見る見ないは自由だしなぁ」
「いや絶対見るでしょ、あれ。で結末ってどうなの?」
ガートライトの呟きにアレィナは確信を持って答える。そして気になった事をガートライトに聞いてみる。
「ん?ああ。いわゆる夢オチってやつだな。悪役令嬢として処刑されて目が醒める、っての。まぁ好き嫌いが別れるな、あの最後は」
「ふ〜ん。でこれからどうするの?戻る?」
「とりあえずメシ食おう。ここにも食堂ぐらいあるだろう」
1階に戻り受付で食堂のフロアを聞いてエレベーターホールへ。
「アレィナ。アレィナ・エリクトリナル!」
アレィナを呼び止める男の声がエレベーターホールに響き渡る。
アレィナは振り向き声の主を見ると、ちっと小さく舌打ちをする。
ガートライトと同年代の男性がこちらへとやって来る。
あれ〜………どこかで見たようなと、頭を捻りながらガートライトは少しばかり記憶を巡らせる。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます




