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25:エクセラルタイド中継基地へ

前回のお話

 

骸骨の山を抜け、船を起動

現れたAIが事の真相を話すのを

ガートライトが(こりゃヤバイと)止めて

ケィフトへ丸投げる

 


 

 マーリィ・セレストンを発見して6日が経過した。

 予定では3日前にはこの宙域を出て予定の航路に向かう筈だったのだが、例のナノマシン兵器の完全無効化と追加で探索・精錬の要請があった為、期間を少しばかり延長したのだ。

 そして超光速通信の秘匿回線を介して事のあらましのデータを、追加でカプセルライナーで送り帰ってきた返答はこちらの部隊がそちらに行く迄警戒と警備に当たれと言ってきた訳だ。

 

 帝国軍司令部参謀局局長からの命令なので、従う他なかったという内訳もある。

 その指令をガートライトがクルーへ告げると、2人は了解したと頷き2人は笑顔を見せて先の話を進言してきたのである。

 目の下にクマを作りながら何故か肌つやつやのアレクスと、元気が有り余ってるエルクレイドには程々になとガートライトは許可を出す。

 

 ガートライトとアレィナ(およびヴィニオ)には、マーリィ・セレストンについての調査結果(言えない事以外)の報告書の作製が待っているので、他に目を掛ける余裕が無かったという部分もあった。

 その後レイリンとバイルソンからもそれぞれ別の要請が来たので、これも許可する。(こちらはやって見ても悪くないと判断したので、すんなり通す)

 

 一応マーリィ・セレストンは推進装置バーニアを補修し、動かせるようになった時点で試作第1号戦艦のいる位置まで移動を終わらせていた。

 ナノマシンについては細かく調査を行い、ヴィニオが感知しうるものは全て無効化に成功していた。

 

 ガートライトはちょっとお疲れ気味で、身をしょぼつかせつつ冷えて温くなったコーヒーを口にする。

 粗方のデータ処理を終え報告書にサインを認め、取り敢えず2日掛かりの作業を終わらせ安堵の息をはぁ〜と吐き出す。

 隣のデスクでは俯せて寝息を立てているアレィナの姿がある。

 データの確認だけとは言え、あまりの膨大な量に呆れを通り越して思わず無我の境地に入るところだったなぁとガートライトは独りごちる。

 データ類の全ては参謀局々長(ケィフト)へ丸投げしたので、あいつは多分親父さんに丸投げするんだろうとガートライトは確信しつつ、背凭れに身体を預けしばしひと休みとする。

 

 要は平和ボケした皇帝と取り巻きの1部が、何をトチ狂ったのか訳分からん政策をうち出したという事が、今回の発端な訳になる。

 だが資源や居住可能な惑星が限られてるとは言え、共に大脱出エクソダスをくぐり抜け彷徨を続けた同じ人類どうほうに対して、“この宙域は我等が住まうところである。余所者共は早々に立ち去れ”などとうそぶく人間達に対してとるもんじゃないと、今に生きるガートライトでも理解できるものなのにである。

 結局は政策は無に帰し、帝国滅亡の危機はAI達の機転によって回避された訳なのだが。

 改めてかの国が“敵”であるという認識をガートライトは胸の内に刻む事となった出来事である。

 

 あまりにもガートライトに似つかわしくない思考ではあるが、これはどの道人という種が生きていく上での逃れられない思想そのものであると言わざるを得ない。

 天秤のおもりは片側にあるのみである。 

 

『マスター。連続勤務時間が15時間を超えました。一時休まれては如何でしょうか』

 

 ホロウィンドウが起ち上がり、執事服を纏った青年が声を掛けてきた。

 

「……うん、そうだな。少し休むとしよう。さすがに眠い」

 

 ガートライトは立ち上がり、そばにあるソファーへと飛び込むように倒れ込み意識を手放す。

 

 

 

 


 試作第1号戦艦と随伴艦3隻は、エイディアルス航路をウェスを過ぎサウザンスへ向けて緩やかに進んで行く。

 そして1週間ほどを掛け無事サウザンスへと到着し、試作第1号戦艦とクロヴダインスペドの3隻はエクセラルタイド中継基地へと入港することになる。

 参考に通常の戦艦の航行ではこの時点で優に2週間掛かるところをである。(しかもゲートを利用しての期間でだ)

 その間の航行データの収集に関しては、皆疲れながらもホクホクとしていた。

 

 このエクセラルタイド中継基地は、第35開発試験場と同様に小惑星を刳り抜き居住可能なものにしている。

 だがその規模は第35開発試験場をはるかに超えるものであり、最前線という名に相応しい大きさを持っていた。

 

『失礼しますマスター。まもなくエクセラルタイド中継基地へ到着いたします。準備をお願い致します』

 

 ホロウィンドウが現れ、そうガートライトに声を掛けてきたのはメイド姿の女性である。

 少しばかり寝ぼけ気味のガートライトがむくりと起き上がり、しばらくうとうとしてから返事をする。

 

了解(I.K)。到着までどのくらいだ?レイテ」

『2時間42分18秒ほどです、マスター』

 

 ガシガシと頭を掻いてガートライトがベッドから這い出る。

 航行自体は何事もなく進むことが出来、だがその分結果報告のための書類作成に忙殺されていた。

 ガートライト本人はのんびり過ごすつもりであったのだが、クルー達の行動の為に様々な事柄について上へと報告するべきものが続々出てきた為であった。

 

 なのでエイディアル航路を航行中に出来るだけの実証実験及び検証を行っていた。

 そのデータ量は航行試験の時と同様に膨大であったので、最高責任者であるガートライトはその溢れるように出てきた成果を的確に判断し報告する為の書類データコードの確認の為の署名サインをひたすら行っていた訳である。

 

 ある意味上役の務めとはいえ、ガートライトにとっては苦行に等しいものであった。

 ヴィニオやアレィナの協力の下かろうじて事なきを得たのだが、やはり疲労は蓄積されここ数日は回復のため作業量をセーブしていたのだ。

 とは言えさすがのガートライトもクルーを差し置いてのんびりする訳にも行かず、彼等に混じり日々作業に邁進していた。

 

 そして件のマーリィ・セレストンとの邂逅で1つの変化があった。それはクルーと言うかAIが2名、試作第1号戦艦に加わったことだ。

 そう、マーリィ・セレストンで生き残った?たった2人のAI達だ。

 本来であればこのままマーリィ・セレストンと一緒に、やって来た部隊に引き渡すのが常であるのだがヴィニオを交えた話し合いの末、マーリィ・セレストンのメインCPから試作第1号戦艦のメインCPへと移動することとなった。

 

 その理由の1つとしては、彼等の身元の保持と下手に彼等を前面に出すと何があるのか分からないという懸念があったからだ。

 どちらかと言うとヴィニオが先達の2人に対して敬意を払い、2人をガートライトの下へと誘ったというのが事の真相ではある。

 

 そして彼等2人はヴィニオが主とみなすガートライトを自らマスターと呼び、現在この試作第1号戦艦で過ごしていた。

 それは彼等にとって新たな生を得ることに他ならない。

 2人は150年の時を経て様々な知識データを蓄積して行った。

 

 そしてそれはジョナサンズとの邂逅を経てまた次なる発展を遂げることになる。

 特にマルコスは、その姿を上層部に知られていると判断しその姿をヴィニオの協力のもと変えて行く。

 初老の姿であったマルコスは青年へその姿を変え、ダミーはそのままマーリィ・セレストンへと据え置く。

 もう1人のAIレイテは、その姿のまま試作第1号戦艦へと移ることとなる。

 

 マスター呼びはさすがにやめて欲しいのだが、どうにも頑なな2人に現在は諦め気味のガートライトであった。

 制服へと着替え、メインコントロールルームへと向かう。

 艦内は0.5Gに重力が固定されており、ガイドローラーに触れると流れるように移動を始める。

 程なく主管制室メインコントロールルームへと到着する。

 

 この試作第1号戦艦は旧世代の戦艦をベースにしている為、主に半重力(0.5G)を前提に設計施工されており船体から艦橋への移動は、上方にぽっかり開けた1本の縦穴のような通路になる。

 艦橋自体は全部で3階層となっていて、上部から作戦指示室コマンドコントロールルーム主管制室メインコントロールルームそしてメインCPシステムが下部に設置されていた。

 もちろん緊急対応用に艦橋以外にも、コントロールルームとサブCPシステムは艦内に設置されてはいたが、それはまさに万が一の為のものであり、艦橋が使用不能にならなければ使用されることは無いだろう。

 

 今世代の戦艦の構造としては、艦内中央部に司令室コマンドルームを設置、操艦と索敵等を艦橋から行うようになっている。

 要は艦橋は飾りなのだ。

 貴族階級に塗れた人間による情報操作と根回しが行われ、安全性を重視した今の形に持っていった経緯となる。

 どちらがいいのかとは使う人間によって変わりするが、ガートライト達にとっては特に何のデメリットもなく運用をしていた。

 

 指揮官席コマンダシートに着きホロウィンドウから映し出される映像を見てガートライトは嘆息する。

 眼前に広がる光景は、さしものガートライトにそうさせてしまう程の規模であったのだ。

 いくつかの巨大な小惑星を繋ぎ合わせ、いくつもの小さな小惑星をより合わせたような形になっている。

 見た目的には巨大な四角柱にその4つの柱それぞれに4つの立方体が繋げられ、立方体の頂点3箇所に接舷部が伸ばされている。

 接舷部である柱《ポートビラ―》には20隻の艦船が駐留でき、約960隻が収容可能となっている。

 

 それが3つ縦に連結されている姿は、圧巻のひと言であった。

 帝国軍宙航第2艦隊の拠点となるエクセラルタイド中継基地ヘラルディステイトだった。

 この中継基地は中央部をセントラル、上部分をアプレル、下部分をダウネスといい、何事にも差別ーーー区別を付けたがる帝国軍士官によってランクが付けられていた。

 

 即ちセントラル、アプレル、ダウネスの順で、それぞれ貴族、上級士官、平民と区分けされていた。

 特に力を示すことが位を表すと言われる第2艦隊の特徴を、ある意味表していると言えよう。

 だがそれはあくまで俗称であり、実際は上から第1,第2,第3中継基地と言う正式名称がある訳だ。

 

『通信入りました。エンゲージポイント、第3中継基地ヘラルディステイトB−3−17,18,19、20への係留許可指定来ました』

 

 レイリン付きのジョナサンズが代わりに応対をし、ガートライトへと報告してくる。

 そして指定された場所は、下部分《ダウネス』の端も端のところであった。

 

了解(I.K)。指定位置に移動してくれ。ゆっくりな」

 

 レイリンへ了承し、エルクレイドへと指示する。

 

「いやー扱い悪いですねぇ。端っこの端ですね」

 

 案内指示標ナビゲラインを見ながらエルクレイドが苦笑いしながら航路を変更していく。

 

「まぁ、余計な面倒になるよりかはナンボかましさ。質実剛健を旨とする第2艦隊(ガンディーズ)らしいがね」

「いやいや、ただの脳筋っすよ。あいつ等」

 

 ガンディーズ―――宙航第2艦隊の別称を口にしつつ、つい思ったことをガートライトが口に乗せるが、エルクレイドの方が辛辣であった。

 

「まぁ、こっちは到着報告と補給だけすればすぐに発つだけのことさ。何の問題もない大丈夫、うん」

 

 あーあ……とアレィナは胸の内で溜め息を吐く。きっとまた面倒事が起こるんだろうなという予感を感じつつ、のんきなガートライトの言葉を聞いていた。

 

 


(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

 

ブクマありがとうございます!励みになります (T△T)ゞ (ガンガリマス!)

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