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24/55

24:事の真相はミザルキカザルシリマセン

前回のお話

 

マーリィ・セレストンへお邪魔します

レイリンさんかっけー

メインホールに骸骨と殺人ナノマシンの山

どうしょましょとガートライトは考える。

 

 

「さてと、これからどう行動するかなんだが………。手としてはやっぱメインホールを抜けて上層部へ向かう方法と階段を使うしかないと思うんだが、皆は何か意見あるか?」

『問題は機能不全になってるらしいナノマシンが生きてるの(どうなのか)という事よね。で、どうなの?』

『現在エネルギー切れで停止してると見た方が良いと思います。ノーマルスーツとて完全密封されてる訳ではありません』

 

 アレィナの問いにヴィニオが簡潔に答える。

 さすがに自分が骸骨になるのは御免こうむりたい。

 

「階段はノーマルスーツの大きさだとちょい狭いし、時間が掛かり過ぎるしなぁ………。ヴィニオ、ナノマシンの散布状況って感知できるか?」

 

 ガートライトがヴィニオに確認すると、返事の代わりにホロウィンドウが現れてメインホールにあるナノマシンの位置情報を表示してくる。

 画面全体が真っ赤に彩られていた。

 

『ぜぇんぶまっかだべあ、どうすんだが?がんぢょ』

 

 全部真っ赤だ、どうするんですか?艦長。なんとなくニュアンスで、だんだんレイリンの言葉が分かってきたガートライトはしばし考え込む。

 

「プロクラムってことは、生体型バイネスでなく機械型メカニケスってことだよな?」

『そうです。生体型バイネスであれば自壊するでしょうし、プログラム解析など出来ませんから』

 

 だよなぁーとガートライトは独りごちつつ、ジョナサンズ達に指示を下す。

 

「ナノマシンの位置が変化するか見てみたいんで、あの骸骨を一箇所に纏めてくれないか」

了解(I.K)

了解(I.K)

 

 2人のジョナサンズがビシっと敬礼して、メインホールへと入っていく。

 

『何を調べるの?ガート』

 

 ガートライトの意図が読めずに、アレィナが何をやろうとしてるのか聞いてくる。まだショックから回復してないのか、口調が崩れ始めていた。

 

艦長がんぢょう自分わがどジョナザンズで階段さ行げばどおもんだげど』

 

 レイリンが自分とジョナサンズが階段から先行しようかと提案してくるが、ガートライトはその案を却下する。

 

「その手もあるが、ナノマシンだけの話じゃないおそれもあるから、別行動はあまりやりたくない。せっかく進言してくれたが悪いな」

 

 ガートライトがレイリンを軽く褒めつつ宥める。

 

了解アイゲ

 

 レイリンはちょっとだけ照れつつ返事を返してくる。少しだけむむっとなるアレィナが、ホロウィンドウを見て声を上げる。

 

『あっ!見て!』

 

 赤だらけだったメインホールだったが、次第に空白の部分が増え1部が濃い紅へと変化していった。

 

「となるとナノマシンは殆どが骸骨に付着してると見た方がいいかな。それでも漏れはあるだろうしなぁ」

『んだす』

『そうですね。後はナノマシンを破壊できればいいんですけどねぇ………』

 

 3人はしばし沈黙し、その後同じ考えに辿り着く。そしてかぶる様に同時に声を上げる。

 

「パルスロッドか」

『パルスロッドね!』

『バルスロッドぉだべ』

 

 そう機械式のナノマシンであるならば、電磁パルスを一瞬でも受ければ破壊されることは火を見るよりも明らかだ。

 そうは言っても下手に使って船体の機器やジョナサンズに影響が及んでも本末転倒になる。

 

「パルスロッドって偏位指向性って出来たっけ?」


 ガートライトがレイリンにパルスロッドの指向性について尋ねる。


『へば、設定さ変更すば出来でぎるだ……です』

『だいたい1mから1.4mの範囲ですね』

 

 レイリンの答えに、ヴィニオが補足するように答えてくる。

 とはいえ指向性を持たせても、電子機器にどれだけの影響が及ぶのか分かってないところがあるので、慎重にならざるを得ないのだ。

 

「よもやこんな所で使うことになろうとはな………」

『備えあれば憂い無しというものですね』

 

 ガートライトの呟きに、ヴィニオが直ぐ様返しを入れてくる。

 ガートライトがコンテナバッグを持ち上げ1番下の段から銀色に煌めく布を取り出す。

 広げると2m×1mほどあろうか。裏側はつや消しにした黒い塗布物がコーティングされている。

 

『それって磁性体吸収コート?かしら』

「ああ、あとは電磁場反射材の部分もある」

『よくそんなもの持ってたわね』

「んー、いわゆる“こんな事もあろうと”的な?」

『よく分かんないわよ』

 

 ガートライトが取り出したものを見て、アレィナが推測を口にし首肯したガートライトに感心すると、1部の人間にしか分からない言葉を言って来たので、アレィナは少しばかり呆れる。

 

『どはっ!びっぐりこげだっ!』

 

 布を手持無沙汰にいじっていたレイリンが角にあるギミック部分をうっかり触ると布がピンと一瞬板のように変化したのに驚き声を上げる。

 

「ああ、宙空間使用モードだな。下手に布のままだと絡まったりするしな」

 

 ピンと張っているとはいえ元は布なので、手で触ると抵抗もなくたわむ。

 

「とりあえずこの布越しにパルスロッドを握って遮蔽しながら上に移動しようと思うんだが………」

 

 ガートライトとしては極力安全に事を成し得たかったので、ジョナサンズは論外としてガートライト、アレィナ、レイリンの3人のうち誰かが行く事になるのだが、女性2人にやって貰うもの、ちと男としてどうなだろうかと思い直し改めてガートライト自身が行うことを口にする前に、レイリンが手を上げ言って来た。

 

『わが………自分が行くだ……です』

「大丈夫か?下手すりゃ機能停止のおそれもあるんだが………」

 

 レイリンの発言に、しばし躊躇したあと諭すようにガートライトが確認をする。

 

問題もんでね…ないです。ごのスーツも耐磁仕様でだすげ……です』

 

 確かに一瞬とは言え、パルスロッドを起動して何の不具合もないとなればそうなのだろうとガートライトは考えレイリンに許可を出す。

 

「分かった。ジョナサンズが移動を終えたら行動を開始する。頼むぞレイリン!」

了解アイゲッ!』

 

 ガートライトがいつになく力強く言葉をかけると、照れた様にレイリンが敬礼をする。

 その様子を見ていたアレィナは溜め息を吐きながら肩を竦める。

 

『あらかた移動させたようですよガーティ』

 

 ヴィニオの言葉にホロウィンドウを見やると、赤部分が船首方向に固まるように表示されている。

 とは言っても開いた部分は1/3にも満たない。

 一体どれだけの骸骨がいるというのだろうと、何とも呆れ果ててしまうガートライトだった。

 

『艦長〜大体終わりました〜』

了解(I.K)。一旦戻って来てくれ。レイリンが先行して、その後に俺達が続く」

了解(I.K)〜。戻ります〜』

 

 ガートライトがジョナサンズに指示したあと、入れ替わりに前面に布を置いて布越しにパルスロッドを握ってメインホールへとレイリンが入って行った。

 中に入ったのを確認してヴィニオが指示をする。

 

『パルスロッドを1秒起動して下さい。まずそれで様子を見てみます』

了解アイゲ開始がいししまんす』

 

 レイリンが指定の位置に着くとホロウィンドウが瞬間ホワイトアウトして真っ白になり、ノイズ混じりの後元に戻る。

 

「おっ、どうやら上手く行ったみたいだな」

『みたいね。スーツの機器も異常無しだわ』

『はい。周囲にあったナノマシンと移動させたナノマシンの幾つかが行動不能となったようです。レイリンさん、こもまま上へゆっくり移動しながら1秒、3秒、1秒の間隔でパルスロッドを起動して下さい』

了解アイゲ

 

 ヴィニオが再度指示した後レイリンは静かに移動を始め、3秒間隔で1秒パルスロッドを起動していく。

 その度にホロウィンドウがホワイトアウトを繰り返し、元に戻ると赤のポイントが消えていった。

 何の問題もなく20mほど上昇して目的の第3層へとレイリンが到着する。

 

『到着しただ………です』

了解(I.K)。俺達もすぐに移動する』

 

 レイリンからの通信を受けてガートライト達はすぐに行動へと移して行く。

 ライトボールを先頭に扉を開けてメインホールへと入り、そのまま床を蹴り上昇。

 

『うええぇぇ………っ』

 

 対面に骸骨の山々を見ながら上へと移動する。

 アレィナがそれ等を見て変な呻き声を上げている。相変わらずホラーは苦手なようだと、ガートライトは口元を緩める。

 全員が第3層へ到着し、改めてナノマシンの状況を確認するが、この辺りには朱の光点は見当たらなかった。

 

『ナノマシンはどこから来たのかしら……』

「おそらく下層部分じゃないかな。こっちには反応も無さ気だし、そこら辺は後で調査しよう」

了解(I.K)

了解アイゲ

 

 今度は船尾側へ1ブロックほど進み、階段前へと到着する。 

 

『メインコントロールルームは、この上の階になりますね』

 

 アレィナが船内図を見ながら報告してくる。

 

「無重力状態である意味助かったよなぁ」

『んだす』

 

 ここもジョナサンズを先頭にガートライトは身体を傾けなんとか入り、殿しんがりにレイリンが就いて上がって行く。

 何事もなく4階層に辿り着き、ドアを手動でこじ開け通路へと侵入する。

 やはりこの通路にも人も骸骨も見当たらない。

 或いはメインホールに全ての人間がいたのかも知れないとガートライトは考えるが、本来船が航行するにあたってそんな事はあり得ない話だ。

 

 下の階層の部屋と違い、豪華さや豪奢等はなく、システマチックに設備が設けられているようで、大人しいというか地味な印象をガートライト達に与えた。

 

「まぁ、見えないところに金を使う謂れもないか……」

『ですね』

『んだす』

 

 軽く警戒しつつ周囲を見渡して、さらに移動を始める。

 そうしてようやく目的のコントロールルームへと到着することが出来た。

 

「はぁ、やっと到着か………。ヴィニオ、エネルギー充填供給の方はどうなってる?」

『現在25%というところですね』

「なら取り敢えずジェネレーターを起動させることを第一に行動しよう」

了解(I.K)

了解アイゲ

 

 ガートライトの指示にアレィナとレイリンは頷き返事をする。

 そして各々がシステム周りを確認しながら復旧作業へと取り掛かる。

 

 ジョナサンズを伴い機器の現在の不具合(摩耗や損傷)がないかを見てみるが、やはり動力が通じていないとあまり出来ることもそれ程無い。

 コントロール類の破損がないかは、ジョナサンズが内部構造を開きコード等に異常がないかを粗方確認し、ガートライトに報告をする。

 

『艦長、特に異常や音大は見当たらないです。実際に動かしてみないと分からないんですけど』

了解(I.K)クロブへガートライトだ。メインコントロールルームへ現着。どうにもこっちからじゃジェネレーターの起動が出来ないようだ。そっちからやって貰えるか?」

 

 予備動力源も全く反応がなくこちら側でアプローチは不可能であると判断し、ジェネレーターから直接起動させるようガートライトは指示する。

 

了解(I.K)っス。じゃあ起動運転開始するっス』

 

 槍ジョナサンズからの通信からしばらくすると、船体に微かな振動の後、各種モニターや計器類が光り始める。

 

 150年振りにマーリィ・セレストンが息を吹き返したのである。

 

『うわぁ………古臭いシステムぅ。マニュアルはと………』

 

 アレィナが復活した計器類を眺めながら操作を始める。

 とは言ってもあまりにも不慣れなシステムで多少の遅延は否めない部分はあるが、辛うじて分かる範囲での操作をしながら現状把握に努めようとする。


 すでに人は失し、無人の野となったにも関わらずそれは生き長らえ力を戻し動き出し始めた。

 

『システムチェック開始。………やっぱりあちこちガタが来てるわね』

 

 アレィナが旧いコンソールをいじりながら作業を行う。

 

『通信システムさ、問題もんでねぐ動ぎます』

 

 レイリンが慣れた手つきでコンソールを操作して報告してくる。よく分かるなぁと半ば感心しつつ、ガートライトはものは試しとレイリンに指示をする。

 

「それじゃ試作1号艦(001)へ通信をしてみてくれ」

了解アイゲ

 

 レイリンは淀みなく機器を操作して回線を繋ぐ。

 

『あ゛………』

 

 そこでレイリンが何かを思い出したように身体を硬直させる。

 

『ごめんないさいレイリン。ちょっとこっちの機器を見て貰える?通信は私が受け持つわ』

 

 アレィナがレイリンに向かって自分が扱っていた機器の操作を頼み、入れ替わるように移動して通信を始める。

 何の問題もなく通信が行われ、当直のジョナサンズが通信に出ている。


 あーそういやそうだったなとガートライトは頭をコツコツ叩いてしばし反省をする。

 レイリンのコンプレックスを忘れていたガートライトのミスである。(本来それでは困るのだが、サポートがあるので問題ではなかったのだ)

 ジョナサンズに任せる手もあったが、後の祭りだ。アレィナには感謝だな、表には出さずガートライトは胸の内で手を合わせる。

 一方ヴィニオは、船内にあるマスターCPに対してアクセスを行っていた。

 

『おや、まぁ』

 

 非常時用の最小出力待機モードに入っていたCPは動力源ジェネレーターからのエネルギー供給を得て、通常モードへとモードを切り替えた。

 それを境にモニターが、インジケーターが、室内灯が沈黙を破り意志あるように現在の状況を表示する。

 そしてガートライトとアレィナのモニターが不意にずれたかと思うと元に戻る。

 いや、現実ではなく船内の仮想空間の映像に切り替わったのだ。

 

 何故ガートライトとアレィナがそれに気付いたのかと言えば、2人の目の前には執事服を着た初老の男性が立っていたからである。

 

『帝国の方とお見受けいたします。ようこそマーリィ・セレストンヘお越しくださいました。わたくしこの船の電脳空間部門を管理運用を担ないますマルコスと申します』

 

 目の前の状況に少しばかりついていけず、ガートライトは息を呑む。

 

『ガーティ、彼はこの船の管理AIの1人です。現在はこの方ともうお一方がいるだけで、他の方々はデータが抹消されてる状態です』

 

 ヴィニオからの報告であらかたの状況をそういやそんなのがあったなと理解して軽く頷き、ガートライトはマルコスへと話し掛ける。

 

「え~、自分は帝国軍開発局第35開発試験場所属、試作第1号戦艦艦長のガートライト・グギリア大佐です。失礼ですがマルコスさん、現在の状況はどこまで理解されてますか?」

 

 ガートライトはヴィニオとの付き合いも長いことから、AIに対しても年長者(と見える)相手に対しては人と同様の応対おする。

 それに少しばかり目を瞬かせるという人間臭い仕草をした後、マルコスは丁寧な物腰でガートライトの問いに答える。

 

『私達の乗るマーリィ・セレストンに非常事態(エマ-ジェンシヴ)条項プロティカルが発令されてから151年9カ月21日程経過しております。定期的に緊急宙間信号エマジェンストレクレグは発信しておりましたが、よもや本当に来ていただけるとは思いもよらず望外の喜びを感じ入ります』

 

 なんとも本当に“人”と話をしている感覚に陥りつつ、ガートライトは次に乗員の事について尋ねる。

 

「分かればでいいんですが、あの骸骨になった乗員はいつ頃からあの状態になったんですか?」

「はい、非常事態条項が発令されるおよそ1時間前の事です。船内のあちこちで起こりましたので、ポーターロイドで移動をさせまして次第です。映像も記録しております。閲覧なさいますか?』

『ひっ!』

「いや、いいです。あとは皇帝陛下の印の入ったコンテナボックスはどこにあるのでしょうか?」

 

 ホラー映像を見せられると思ったアレィナは声を上げたのを聞き、ガートライトはそれを断わる。

 さすがに食事が摂れなくなる事態は避けたい。

 そして本命かんじんの話にガートライトは入る事とする。

 

『グギリア大佐。残念ながらそれはプロテクトコードにより爵位相当以上の人物でなければ話す許可が出せません』

 

 ふむ、有資格者でなければ答えられないと。だがこの会話で船内にそれがあると確信しただけである意味充分なのだが、ある程度の把握は必要と考えガートライトは子爵位の認証票サーコードをヴィニオが指定したアドレスへと送る。

 送られてきた認証票を確認したマルコスが、居住まいを正し軽く頭を下げる。

 

『失礼いたしましたグギリア子爵様。件のものは下層部第3層12ブロックの貴賓室に保管されております。ご案内いたしましょうか?』

「いえ、場所が分かれば問題ありません。そうですね、あとはどうしてこの状況―――マーリィ・セレストンがこの宙域にいて乗員乗客がナノマシンによってあのような姿になったのか、説明は可能ですか?」

 

 ガートライトは聞きたくはないが、聞かなくてはならない事項をマルコスへ確認すると共に説明を求めてみた。 

 

『可能でございます。そもそもこのマーリィ・セレストンは宙空間の周遊旅行を主目的として、帝星からエクセラルタイドのある中継基地を経由して、また帝星へと戻る旨のものです。ですが別のまた1つ目的がこの船にはございました。それは――――』

「ちょっと待った!」


 マルコスがさらに言葉を紡ごうとした時、ガートライトは突然それを遮る。

 これ絶対自分たちが聞いちゃいけないヤツだと直感したガートライトは、己の権限を発動させる。

 

「これより話される会話、及び情報は、帝国秘匿情報不開示条項81の2項により艦長ガートライト・グギリアの権限においてそれを聴取・視聴を将官及び上級爵位以上以外の者は禁ずる」

 

 その言葉と共に、ここにいる3人を含む全員がその情報を知る資格がなくなり、電脳空間よりシャットアウトさせられる。

 

「ジョナサンズ“サト”。マルコス氏からの会話を記録しデータアクセス権を将官及び侯爵位以上の人間に設定してくれ。メモリーキューブに記録後、会話、映像データ抹消」

了解(I.K)。会話、映像をメモリーキューブに記録後、その間の自身の記録データは抹消します』

 

 ジョナサンズの声を確認してから電脳空間から追い出されたガートライトは、再び復旧作業へと取り掛かる。

 アレィナとレイリンは少しばかり首を傾げガートライトを見やった。 

 これ以上は見ざる聞かざる知りませんに徹するだけなのだ。知らない事が正しいこともあるのだと、ガートライトは溜め息を吐く。

 ガートライトの顔をモニター越しに覗き見た2人は、この事に関して口を噤むことを心に決める。

 そうして2人も作業に戻ることにした。 

 

   □

 

 

了解(I.K)会話、映像をメモリーキューブに記録後、その間の自身の記録データは抹消します』

 

 ジョナサンズ“サト”とやらの声を確認した後、ガートライトの声は聞こえなくなった。

 相変わらず如才ない。

 自己の保身というか、危機察知に関する嗅覚はさすがに鋭いなとケィフトはついぞ呟く。 

 

『公爵閣下が皇帝陛下に命ぜられたのは、かの国との友好条約の締結でございました。以前よりエクセラルタイドの凪の時に物資等に流通を行い、互いの親交を深めようと試みておられたとのことです』

 

 まさかとは思ったが、よもやそんな事を企てていたとは。

 たしかに1部に親和派と呼ばれた派閥が昔に存在していたらしいとは聞きかじった記憶はあったが、よもや皇帝が率先して行おうとしてたとは思いもよらなかった。

 

 ガー、命拾いしたなお前。

 

『今回の行幸も皇帝陛下の特使として、互いの国での停戦合意と不可侵条約及び人と物の交流を行う上での締結となるはずでした』

 

 かの国のろくでも無さは、過去の文献を見るだけで幼子でも分かりそうなものなのに、そんな事をやろうとするとは頭にお花畑でも沸いてるんじゃないのか?何を考えてるのかとケィフトは訝しむ。

 

『公爵閣下がコンテナボックスを確認する映像がございます。ご覧下さい』

 

 画像が切り替わり、豪奢な部屋の一室が映し出される。

 そしてそこには、派手な貴族服を纏い笑顔を見せる初老の男性の姿があった。

 この人物が当時のニッスィンショー公爵なのだろう。現在の公爵と髪と瞳の色は違っているが、ウリ2つといっていい程良く似てる。

 

『゛この悦ばしき日に立ち会えることを光栄に思う。これを期に人類はまた1つとなり、さらなる繁栄を迎えることだろう”』

 

 舞台俳優さながら大仰に身振り手振りを交え、映像の人物は語り掛ける。

 いやぁ、本当にそっくりだ。仕草すら血が為させるのか。悪い人じゃないんだが、いちいち動きが鼻につくのだ。

 

『“では、ただいまより届けられた品々の確認を行う事にする。不正をなくすため、行動の一部始終を映像に残す事にする“』

 

 コンテナボックスに向き直り、解除キーらしき端末を操作してコンテナボックスを開け始める。

 ピーという音とともに、圧縮空気が噴き出すプシュッという音が鳴りコンテナボックスの上部分が静かに上へと持ち上がる。

 公爵が中を覗き込み、映像もそれに続く。

 

『“な、何だとっ!?こんな馬鹿なことがあかっ!!”』

 

 中には何も入っておらず………いや、何かが書かれた紙切れが1枚だけ入っているのみだった。

 

『“おのれ、おのれ、おのれっっ!!我等を謀りおったかっ!ががあっがあ―――――ぁぁっっ!!!”』

 

 紙切れを拾い上げそれを読むと、その表情は怒りの形相となり声を荒げる。

 だが、すぐにその声は言語不明の叫び声と変化した。

 

『“ぐほっ、ごぼぅっ、何だこれはっ!奴等目ぇ………やつら……あぐぅ、ばがぁ………”』


 苦しみだしたかと思うと、何の前触れもなくバタリと倒れそのまま動かなくなってしまった。

 その後の光景は見るに堪えないものであった。

 

「これがガーの言ってたナノマシン兵器か………」

 

 しばらくそのままの状態で、豪華な服を着た骸骨となりはてた公爵を皮切りにマーリィ・セレストンの惨劇が始まった。

 下から上への阿鼻叫喚が画面の中で繰り広げられる。

 状況を把握したクルーと総監船長グランドキャプテンの指示により航路を外れ天頂方面へ移動を開始する。

 もしこの判断がなければ、帝国は滅んでいたかもしれない。

 ケィフトは我知らず、背筋に冷や汗が流れ落ちるのを感じてしまう。

 記録映像が消え、再びマルコス現れ説明を再開する。

 

『私達ミレイヌタイプAIは、人のいなくなったマリィ・セレストンをなるべく人のいない宙域を目指しましたが、折悪く宇宙嵐に見舞われ半数近くの同胞(AI)が失われ推進装置バーニアにも不具合が生じ、流されるままこの地のたどり着いたと推測いたします。それで現在私達は――――』

 

 映像を消しケィフトは背凭れに身体を押し付け上を仰ぎ見る。

 要はあの国との融和政策をとろうとした当時の皇帝とその取り巻きが、手痛い裏切り(表切り?)に会い危うく帝国崩壊へと導きそうになったという話なだけだ。

 

 超光速秘匿通信で送られて来たこれらをデータをどう使うか、ケィフトはしばし思い悩むが後の事を考えるとどうにも面倒に感じてしまい、半ば投げやりな気分になってくる。

 

公爵おやじに丸投げるか」


 軍に籍をおいてはいるが、公爵継嗣とはいえ大した権力ちからを持っている訳でもないのだ。

 人知れずマリィ・セレストンを運び込み、1万余の死者の特定と皇帝の勅命の原因究明の調査。

 ………やっぱり丸投げよう。

 別のホロウィンドウに映し出せれている紙切れを見て眉を顰める。 

 

 “250 傻瓜 去死ロ巴!!”

 

 要約すると馬鹿な愚か者め死ねと言ったところか。性質たちが悪くねじ曲がっている。今も時折りちょっかいを掛けてくる馬鹿共。

 エクセラルタイドがあるうちは問題ない。だが、あれが消え去った時、どのような事態にも備えなければならないのだ。

 

 奴等は“敵”なのだから。

 

 やっぱり丸投げしようと改めて心に決め、これらのデータを送ってきたガートライトへ思いを馳せる。 

 今頃は通常航行でエクセラルタイド中継基地付近まで来てるだろうか。

 

 冷めて温くなった紅茶を口にし、ケィフトは公爵ちちおやへ丸投げする為の資料を作り始める。

 


(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

 

ブクマありがとうございます!感謝です (T△T)ゞ 

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