23:メインホールは骸骨だらけ
前のお話
件の船へと出発
乗員名簿に公爵の名を発見
相変わらずのやな予感のガートライト
そして到着
入った時のハッチを通り過ぎ奥へと進む。着装室前に行くと自動でハッチが開く、中ではすでに2人が装着を終えて待機していた。
ちなみに帝国軍が宇宙へ出る時に着る制式着衣は、まず肌に直に着る宙間下衣《スペシアインナ―》―――これは無重力空間における血液などの循環をナノマシン搭載の圧迫繊維で調整するもの。
その上に平常着衣を身につける。これに生命維持装置とメットアタッチメントを取り付けるとパイロットスーツとなる。
そして宇宙空間で実際に活動する時に着装するのが、宙空間活動服となる。
上下にパーツが別れた少し大きめのもので、関節部分にパワーアシスト用のモーターと圧着固定リングを付けたものだ。
このパワーアシスト機能のおかげで、ある程度不自由なく宇宙空間で動くことが可能となる。
ガートライトはハンガーに置かれている下部分に足を入れ、足元を固定させ胸元の下で位置を調整して固定具を閉めると、足首、膝、太股にある圧着リングが軽く締まる。
次に上部分を下から潜るように被り、頭部をしっかり出すように調節して腕を通していき、手袋状になっている部分に手を嵌めてこちらも固定具を締めると、手首、肘、上腕部分が圧着リングで固定される。
すると腹部下まである上部分の端と下部分とがブシュッと音を立てて密着していく。
そしてすぐに背部のバックパックから酸素が供給される音が、シュウと微かに聞こえてくる。
そして目の前にモニターが現れガートライトの体調(心拍数、体温、脳波状態)状態を表示し、異常なしと判断した後モニターが着装室へと映像が切り換わる。
ご多分に漏れず船外活動用の宇宙服にも窓はなく、モニター越しでの行動となっている。
それはやはり安全性への尊重とモニターの技術革新があってこそだ。(まれに透明な素材を使った服を使用する者もいはする)
そのノーマルスーツの欠点の1つとして素早い行動が出来ないことがあるが、そもそも宇宙空間で素早さが必要かと言われれば全く無いと言えないこともない。
人という種は無理とか不可能と言われると、それを覆すと道なき道を敢えて突き進もうとするところが往々にしてある。
大脱出にしても、天変地異の兆候が見受けられた時点で、巨大な移民船を各国共同で作り上げ曲がりなりにも成功させた経緯があるのだ。
無重力空間で素早く動けない?なら動けるように工夫しよう。障害物を使って慣性モーメントを行い、なければ搭載したスラスターで動きを制御しよう。
或いは体幹を自在に変化させ重心を変えることによって移動を可能とする――ー技術が次々と生み出されていき、それは昇華され1つの格闘技として華開いて行った。
それが無重力格戦技である。
アレィナの影に隠れててよく見えなかったのだが、レイリンが着装していたのがノーマルスーツでなく、0Gアーツで身に付ける格戦着衣だったのである。
そういや彼女は機動宙空連兵隊から第35開発試験場にやって来たんだったけか。
不測の事態の対処に当たるにはある意味適任かと、レイリンの姿を見てガートライトは納得する。
格戦着衣はその言葉通り無重力空間での格闘に重きを置いて安全を重視した上で、移動と機動に特化した装備を備えている。
例えば各関節部に簡易スラスターを付けて無重力空間での行動の制限を極力減らしていったのがコンセプトにある。
なので頭部に装着するメットも偏光仕様ではあるが直に空間を視認するものになっているのだ。
特に何があるとは思えないが、保険は必要なのでレイリンには少しだけ期待しておこう。大丈夫だよな……多分。
心の中でそんな事を思いながら、ガートライトはレイリンをモニターで眺めつつ着艦するのをしばし待つ。
槍に着艦した時と同様に少しの振動の後、カカカンとプシッギュルルと音がした後着艦完了をジョナサンズが操艇室から通信してくる。
『着艦完了です。空気排出の後上部ハッチを開放します』
『了解艇内待機で周囲の警戒と連絡を頼む。そんじゃ行動開始しますか』
『了解』
「了解」の言葉と共にボディランゲージでサムズアップをアレィナとレイリンがしてくる。
『上部ハッチ開放します』
天井の1部がシュッと音を立てて、左右にゆっくり開いていく。
アレィナ、レイリンの2人が先行して床を蹴り上昇していく。彼女達も軍人であり士官学校での教養課程にも宙空間活動の課目があり、ある程度の行動は余裕で行うことが出来る。
ガートライトはそれを確認した後、足元にあるコンテナバッグの取手を掴んで軽く床を蹴って上へと向かう。
コンテナバッグの分バランスを崩してしまったガートライトは2人に捕まれて事無きを得る。そこにアレィナが秘匿回線でガートライトに話し掛ける。
『何やってるんですか!訓練は受けていたんでしょう?』
ガートライトのモニターな右下にアレィナの顔画面が現れ苦言を呈す。
「無理言うなよ。元々俺は事務職で軍に採用された人間なんだ。宙空間活動なんて第35開発試験場で基礎課程20時間やったくらいなんだ」
ガートライトが毒づくように反論するが、ヴィニオによりあっさり嘘を暴露される。
『ガーティはデータ収集のためあちこちの惑星に行ってる中で、もちろん宙空間活動もお手のものですよ』
素直に謝ればいいものを言い訳めいた物言いを認め自爆してしまうガートライト。
顔画面のアレィナがジト目でガートライトを見やる。
お手のものと言える程、宙空間活動が得意という訳でも実際はないのだが、ヴィノオの見立てでは熟練者にも劣らぬ適応力があると認識している。
現に連絡艇から出たガートライトの動きはひょいひょいと言った感じで、マーリィ・セレストンの第1層資材搬入ハッチにいとも容易く取り付き、ささーと先行したジョナサンズが開放した資材搬入口へと入って行った。
『あっ、1人で先行しないで!』
『あ゛わわ゛わ゛っ!』
アレィナとレイリンが慌ててガートライトに続いて搬入口へ入りジョナサンズがそれに続きすぐにハッチを閉じる。
すぐに周囲が暗闇に覆われるが、ガートライトがコンテナバッグから球体を取り出して宙に放り投げる。
上方m程に達すると、そこで停止して光を発し始める。
簡易の照明装置であるそれは、周囲を照らしつつ前方と下方向を重点的に照らしていく。
もちろん暗闇の中でも設計図面データから船の3Dによる空間認識は可能であり、ガートライト達の着装するノーマルスーツのモニターから見ることが出来るが、現実との齟齬を解消するためには必要な措置ではある。
そしてまずここで始めに行う事は、船内の気体成分の解析―――何があるのか分からないのでそれの―――確認作業になる。
とは言え、ジョナサンズの1人が手に持つ分析器ですぐに判明するのだが。
『特に異物が混入しているということは無いようですね』
いち早く分析結果を見たヴィニオがそう言ってガートライトへ伝える。
とは言うものの先に何があるのか分からない状態なので、それを加味して警戒しながら先に進むことにする。
搬入用ハッチの中とは言っても、ここはあくまで緊急用のものらしく両脇に幾つかのコンテンブロックが山積みにされ固定してある以外特に何もないようだ。
というより人がいたという痕跡が見当たらない。
たしかに150年前の船の状態は悪くない、どころか以前と同じと思わざるを得ないと感じられる。
ガートライト達は周囲を探索しながら室内を見ていく。
『艦長、開きま〜す』
「了解。やってくれ』
現在船内には動力源がまわってないらしく、次の部屋へのドアは閉ざされているが、緊急作動システムを作動させて自動から手動へとジョナサンズが切り替えて開放の報告をすると、ガートライトはすぐにそれを了承する。
ドアがモートロイドの手により音もなく開かれていく。
とても150年前の船とは思えないほど。
その部屋は着装室のようで、左右に何着もの一昔前の宇宙服が折り畳まれて置かれていた。
入って来たドアを閉めてロックを掛ける。
この辺りは宙空間活動要項にある基本的なことであり、士官学校及び兵士訓練校では頭でなく身体で憶えこまされることだ。
生命に直結することなので、徹底的にしごかれることになる。
これは宙空間で活動する一般平民にも及び、軍ほどではないもののカリキュラムが組まれている。
なので中途採用で事務職であるはずのガートライトも、この手のイロハはもちろん履修しているので特に慌てることもなく作業の進捗を見守っている。
自分でやんなくていい分楽でいいなーとは思っている。
搬入口ハッチのドアをロックしたのを確認して、要領を得たジョナサンズが着装室のドアを苦もなく開ける。
その先には人が10人は並べる幅の広々とした通路が遥か先まで続いていた。
「これは………なかなかだな」
光に照らされた通路を光量を調節されたモニターを通して見て、ガートライトは独りごちる。
『重力制御もありません。通路間の成分も特に異常はありませんね』
すぐに成分分析の結果をヴィニオが全員に伝える。
『サブコントロールルームはこの先の3ブロック先にありますね』
アレィナがナビを確認して位置を知らせてくる。
「それじゃ先に進もう」
『了解』
『了解』
軽く床を蹴り前へ飛び浮きながら進んで行く。
下手に歩くよりは、宙を滞空しながら進むのが効率的だからだ。
しばらく何事もなく進んで行き、分厚い隔壁のエリアを2つ過ぎた三叉路を左に曲がろうとした時、レイリンが声を掛けてくる。
『止まっでっ!』
その声にガートライトとアレィナはすぐに反応して、スラスターを逆噴射させて緊急停止させる。
しかし先を進んでいた1体のジョナサンズは止まらずに通路に入ると、何かに飛ばされるように右へと吹っ飛んでいった。
『あぁ~~れぇ~~~~っ!』
そんな声を上げて通路を漂って行ってしまった。
ガートライトはそおっと腕を伸ばし通路に向けてその様子を覗き込む。腕―――というか手の甲部分にはカメラが付けられていて、こうした視線の利かない場所でも警戒時の確認の為使うことが可能となっていた。
手の甲のカメラからモニターに映し出されていたのは、通路の中央に立っている全高140cm程の円柱状の物体の姿だった。
全員のモニターに映し出されているそれを見て、アレィナがあれが何かを伝えてくる。
『あれは暴徒鎮圧用の警備ユニットだわ。まさかまだ動いてるなんて………』
その感想はガートライトも同様であった。150年という年月鑑みても、動くものなどないと油断したことも否めないが、まさかという思いがないでもない。
ムービングライトの光を察知して警備ユニットがギコチなく動きながら、こちらに向かって来た。
よもやこんな事態とは想定してなかったので、武器携帯などしていなかった。迂闊といえ迂闊であった。
『艦長下がってください。自分達が盾になります』
ジョナサンズの1人がそう言ってガートライトの前に向かおうとするのを遮るように、レイリンが飛び出した。
『対象無力化さ移行すんま゛す』
床を蹴り壁を蹴り通路の左へ入ると、パスッとくぐもった音と同時に黒い何かが壁に弾かれこちらの通路に入ってきた。
4隅に錘を付けた1m程の大きさのネットがガートライト達の横を通り過ぎる。
「ワイヤーネットか。あぶな」
『あのユニットって初期対応の緊急対策時に出すやつよね………本当一体何があったのかしら』
ネットを横目にアレィナは呟くが、ガートライトの視線はレイリンと警備ユニットの動きに集中していた。
警備ユニットはあくまで暴徒鎮圧用のものなので、相対するものには対応できても上方に対する備えはなされていない。
上方の壁を右に左に蹴りユニットを翻弄し、天井を蹴りその勢いとスラスターを吹かしてユニット上部のカメラアイを蹴り込む。
全周囲カメラアイといえど、動きが伴わなければあまり意味を為さずダメージを受けカメラ部分に蜘蛛の巣のように無数に罅と亀裂が入り視界を潰す。
反作用で戻る力をスラスターを使い、そのままくるりと回転しユニットの背後に着地すると、主回路部分に手にした棒を押し付け一瞬だけ起動。パチリと光を発し警備ユニットはその活動を停止した。
レイリンが使ったその棒はパルスロッドと言われるもので、電子機器に一時的に高出力の電磁パルスを与え機器自体を破壊もしくは機能停止にするものである。
高出力と言っても人体に影響が出るものではないのではあるが、電子機器を内蔵する現在のあらゆるものに対してかなり有効なものである為、使用に関しては一定の許可が必要になるものだ。
そういやあれって許可出したっけかな?とガートライトはついぞ思ったが、ど忘れしただけかと思い直しスルーしておく。
『パルスロッドの許可はアレィナが副官権限で出してます』
「あ、そう………」
なにかガートライトの扱いがここに来てぞんざい過ぎる気がしないでもないが、ガートライト自身は特に気にも留めない性質ので問題にもならない。
それよりもガートライトはレイリンの動きを見て感心する。
「大したもんだ。なかなかあれだけの動きは出来ないもんなんだが、勿体無いことしてるよな機動宙空連兵隊も」
『優秀な上に自分より若く異性となれば脳筋は疎むしか無いじゃないんですか?こちらとしては有り難いですけど』
機能停止した警備ユニットを見ながら、ガートライトの言葉にアレィナが重ねるように答える。
もちろんガートライトもその事は知っているし状況は把握していても、その技を目の当たりにすればそんな感想が口から漏れるのも仕方ないことだ。
『でも本当にそんな役割が必要なの?あまり意味が無いように思うんだけど』
「ん〜、変に分割すると統一性がない分いろいろ齟齬が起きる恐れがあるらしいから、必要といえば必要かな?」
人であるならば脳から出された指示を手足がそれに従い動くものなので、手足がバラバラに意志を持つことなどあってはならない。
「なぁに、そんなに複雑なものにはならないさ。より単純なものこそ最良の一手とも言うだろ。シミュレートではそんなに悪くない結果だったし、彼女に任せてみるさ」
ガートライトはアレィナの顔画面を見てそう話す。
『くす、サポートにはジョナサンズをつけて?』
「うーん、そこら辺は自助努力だな」
レイリンが戻ってきた事で話をやめて、ワイヤーネットの絡まったジョナサンズを開放して、ガートライト達はサブコントロールルームを目指す。
途中何度か警備ユニットとかち合うが、どれもすでに機能停止をしていた。
あの1機だけが何故か稼働していたのだろう。
何とかサブコントロールルームへ辿り着き、ドアを抉じ開けて中を確認する。
やはりここにも人はおらず、動力源を失った機器は沈黙し何も語ることはない。
「こりゃあ、さすがにお手上げだな。槍がケーブルを接続するのを待つしかないか………」
ガートライトはそう言いながら次の行動の方針を打ち出す。
「取り敢えずメインコントロールルームへ向かおう。そこで動力源の供給を待ってから調査した方が手っ取り早そうだ」
『了解』
『了解』
サブコントロールルームを出て、そのまま通路を船首の方向に移動する。
階段や昇降機はあるが、動力の通ってないただの箱を利用する訳にも行かず、階段はノーマルスーツではちと狭い。
3層をぶち抜いたメインホールから上へと行ったほうが良策と考えてルートを算出する。
『でもここまで来ても人の姿が見当たらないのは、どういう事なのかしら』
アレィナが通路を進みながらそんな疑問を口に出してくる。あえて死体と言わないのはある種の配慮か。
確かに乗組員の姿ぐらいはあって然るべきなのかも知れない。
あるいは何らかの事故により、この船から退去したとも推測は出来なくもないが、この150年の間生存者と名乗り出るものも皆無であり、その可能性はこの宙域を見れば考え難くもある。
「そういや昔の逸話にこんな話があったっけな。………とある大陸の港に1隻の船が着いたんだが、湾の途中で停止したそ船を衛士達が乗り込んで中を探索したらしいんだが、誰もいなかったんだそうだ」
コクリと喉を鳴らす音がガートライトの耳に入る。続けてガートライトが話を進める。
「その上置かれていた食器の中の食べ物や飲み物はまだ温かく湯気が立っていたらしい」
『ほで、そんがらは?』
その声に一瞬何と言ったのか理解に及ばずガートライトとアレィナは首を傾げるが、ヴィニオが簡潔に訳してくれる。
『それで、それからとレイリンさんが聞いています』
よく分かるなぁとガートライトは内心感心しつつ話を続ける。
「10程いた船員は1人も見つからず、船長室にあった日記の最後のページに妻の名前が書かれていたのみで、原因は要と知れず怖ろしくなった港の人間がその船を燃やしてしまったらしい」
ガートライトが低い声音で語る話と、周囲の様子がリンクして不気味さに輪をかけアレィナは唾をゴクリと飲み込む。
「その船の名がメアリー・セレスト号と言うらしい。似てるだろ?この船の名前と、もしかして――――」
『艦長〜〜ぉ、メインホール前です』
『ひゃあああ〜〜〜〜ッッ!』
『ブンぎゃあああ〜〜〜ッッ』
あまりに雰囲気を出し過ぎたガートライトの語りに息を呑んでいた2人は、ジョナサンズの声掛けに驚き止まることを忘れ叫んで、扉にガツンとぶつかってしまう。
『あだっ!』
『ホゲっ!』
「あ、悪い」
2次被害を避ける為、つい躱してしまったガートライトが2人に謝る。そして少しばかり脅かし気味に話をしたことも含めて。
『大丈夫。こちらこそごめんなさい………』
『も゛しわげねっすぅ………』
「いやいや、悪いのは俺の方だから気にしないでくれ」
互いがペコペコ頭を下げている風景はなんとも場にそぐわぬ雰囲気だが、クルー同士の交流を考えてみればある意味良かったのかなとガートライトは思ったりした。
『艦長〜ぉ、い〜ですかぁ?』
「ああ頼む。開けてくれ」
目の前の両開きの扉は木で出来たもののようで、全面に精緻な彫刻が施されている。
中央部分にはよく見なければ分からないように意匠が為された文字でメインホールと刻まれている。
「細かいところに金掛けるなぁ。さすがに………」
ガートライトが呟くと、レイリンとアレィナも扉を見て感嘆の声を上げている。
ジョナサンズが慎重に片側のドアノブを手にして引いていく。
まずは彼等だけで安全確認をする為中へ入り調査をする。
その中で1人のジョナサンズがポツリと呟く。
『うわぁ………。スケルトンさんがいっぱいだぁ……』
その言葉が気になり、ガートライトもメインホールへと入って行く。
ちなみにスケルトンさんとは2流商社勤めの骸骨が主人公の5分程のホームコメディPictvだ。
製作者がデータを公開したお陰で、数多くの人間が100話に及ぶスケルトンさんを作り上げたという珍しい作品である。
「うおぅっ!!」
ガートライトは唖然とその光景を仰ぎ見て微かに呻く。
『どうしたの?………はぁあっ!?ひぃいっ!!』
アレィナの声に制止しようと口とを開くが、時すでに遅し。メインホールの様子を見たアレィナは驚き昏倒、意識を失ってしまう。
アレィナのノーマルスーツが一時的に緊急安全モードへ移行するが、リンクしている他者と体調データが正常であるのを確認し移行を停止し通常モードへ戻る。
他者がリンクしてる場合にセーフティモードになると着装解除時に後々大変になるので、こういう場合は自然に意識を戻すことが逆に安全になるのである。
『ほだこれ、びっぐりだ………』
レイリンは呆然とした様子で言葉を紡ぎ、それらを見ている。
メインホールの中には夥しい数の服を身にまとった骸骨達が宙に浮かび漂っていたのだった。ドレスやスーツ、お仕着せを着た骸骨がところ構わず浮かんでいた。
「うわぁ、夢に見そうな光景だ」
『ガーティ!一旦ここから退避して下さい。気体成分に問題があります』
ヴィニオが内心焦りながら問題発生を喚起して来たので、ガートライトはジョナサンズ達と気を失ったアレィナを引っ張りメインホールから退出する。
10mほど下がったところでガートライトはヴィニオに尋ねる。
「で、問題ってのは何なんだ?ヴィニオ」
『機能不全のナノマシンが数百万単位であの中にあるようです。現在プログラムのアルゴリズムを解析してます。しばらくお待ちください…………出ました。………これはかなり酷いというか悪辣としか言えないものですね。よくこんな物を作る人間―――いえ、人だからこそ造り上げるのでしょうか』
その声音には一瞬ある種の侮蔑が込められているような気がしたが、ガートライトにとっての人生経験に置いては当たり前なことであるのでガートライト自身には何の感慨も起こらないのだ。
ヴィニオの憤慨はさておきガートライトは事の詳細を聞きたくはないのだが、後々の事を考えて尋ねることにする。
「んで、そのナノマシンはどんな役割りを担ってたんだ?」
ガートライトのあまりにも簡潔な物言いに呆れつつも、ナノマシンについての説明をヴィニオは始める。
『タンパク質をひたすら分解破壊させていく類のものですね。しかもエネルギー源がそのタンパク質というのが嫌らしいというか性質が悪いというか』
タンパク質の分解、そしてメインホールの骸骨の山々と連想すれば自ずと答えが見えてくる。
「対人仕様のナノマシン兵器か」
『ですね。しかも使用されてるプログラムは“こちら”のものではありません。少しばかり発展させたものではありますが、おそらく“あちら”のものだと推測されます』
「“あちら”ねぇ………。本当に厄介事だった」
どうしたらヴィニオが“あちら”のプログラムを解析できるかなどは、ガートライトも知悉(というか原因)なのでまぁ、今は大した問題にもならない。
問題はこれからどうすればいいかという事だ。
『あ、は、はれぇ?』
そこで気絶していたアレィナが意識を取り戻す。左右を身体を動かして周囲を確認して安堵の息を吐き出す。
『夢だったのね、ふぅ』
「いや、夢じゃないし」
『んだんだ』
ガートライトとレイリンの姿を右に左に繰り返し見て、それからアレィナは声を荒らげる。
『ええっ!?夢じゃない?ってか何で骸骨が服着てんのっ!?それにあのッ………え、乗………客ってことなのっ!?』
声を荒らげはするものの、言葉は発するうちに冷静さを取り戻し己の推論を口にするが、その結論に改めて驚く。忙しいことだ。
「でだな――――」
メインホール内に充満してるだろうナノマシン兵器について説明してると、槍ジョナサンズから通信が入って来る。
『艦長〜。ケーブル接続完了したっス。これより供給充填を作業開始するっス』
「了解。やっちゃってくれ。俺達もメインコントロールルームへ向かう」
『了解っス。作業開始するっス』
槍との通信を切り、やれやれとガートライトは溜め息を吐きながらメインホールを通り抜ける為の相談を始める事にする。
(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
ブクマありがとうございます 感謝です! (T△T)ゞ




