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2:用度課少尉の転属辞令

ptとブクマありがとうございます

   □


「恋とか愛とかじゃないよな。これって」

『ええ。違うと思います。類は友を呼ぶ。あるいは、1人いれば30人いると思えとか』

「なんだ、俺は害虫かよ」

『公爵令嬢に失礼でした』

「え?俺は?」

『………』


   ▽


 エルファーガ帝国軍本部。この地上50階地下10階の巨大なビルは帝都エルファロンから離れること50kmの位置にある副都市のひとつ、ファーガにある。

 機能集中の愚を防ぐための施策であるが、士官の周りではあまり評判がよろしくない。

 軍本部ビルを中心に発展している街並みは人口100万人の中級都市として、帝国民が居住している。10万人が勤めている本部ビル内にある総務部用度課物品管理13係。係員わずか6名のこの部署で青年が転属の挨拶をしていた。


「ガートライト・グギリア少尉。残念ながら君の申請は却下された。私も君をそれ程重視していない」


 40過ぎの頭の薄い男性が大きなデスクに座りながら目の前の青年にそう語る。

 その言葉にガクリと肩を落とす青年に周りの係員はニヤニヤ笑うか無表情にその姿を眺めている。

 命令書を受け取ると、青年は溜め息を吐き、目の前の男性に敬礼をして辞令を受け取る。


「判りました。謹んで拝命します」


 その後、数々の不始末に閉鎖される13係を青年は後にした。


「くっ。おれの安楽地ピースフルプレイスが………」


 歩きながら拳を握りしめ悔しそうに呟く。


『何を言ってるのですか、ガーティ。そもそもあの場所はあなたに相応しくない所だったのです。地位も人間も』

「そっちこそ何を言ってるんだ、ヴィニオ。軍で使う筆記用具の納入と管理をするだけの素晴らしい仕事だったんだぞ。俺1人で簡単に誰にも煩わせられる事もないものなんて滅多にないんだぞ?配属が決まった時は飛び上がって喜んだもんだ」


 天井に向かって語りだす青年。通りすぎる人々は何の素振りも見せず、気にも留めない様子だ。


『はぁ、趣味に生きるばかりでなく、仕事に生きるのも人生の醍醐味のひとつと思いますよ私は。そもそも、その趣味のせいでこんな事態になったんじゃないですか!』

「いや、趣味のせいじゃなくて、ケィフトのせいじゃねぇか!アイツがあの娘を紹介しなきゃこんな事にはならんかったんだよ」


 どの道、自業自得だと思いながら口には出さずヴィニオは人間臭い溜め息をふぅとひとつ吐く。


『それで、次の職場はどちらになるんですか?』

「辞令書によると試作戦艦の艦長らしい」

『ずいぶんと畑違いの部署ですね』

「どうせアイツの差金なんだろ。たくっ」


 転属拒否をしても無駄だと分かっていたので、全ての私物は片付けて自宅に送ってあるので、手ぶらで軍本ビルを出る。ソーシャルポーターが滑るように目の前にやってくる。それに乗り込み空港へと行き先を告げる。


『ところで場所は何処になるのでしょう』

「星系外縁。帝国軍第35開発試験場だ」


 ヴィニオは試験場の位置を調べ、旅程を直ぐ様で組み立てる。


『あらまぁ。着任までにひと月は掛かりますわね』

「時間だけはたっぷりあるからな、その間楽しませて貰うわ」


 ガートライトのサーヴァントAIは、港に着くまでに開発試験上までの航路を調べて、ネットワークからチケットを次々と購入していく。


――――ひと月後――――


 星系外縁トゥラテス2の居住惑星ラテスへ向かって連結型貨物輸送船トレインシップが減速行動を始める。


「あんちゃん。あれが惑星ラテスの軌道ステーションだ」


 筋骨隆々の壮年の男性が隣にいる青年に声を掛ける。

 前部モニターには拡大投影された軌道衛星ステーションが映しだされている。


「いやぁ、本当に助かりましたよ。よもや、こっちまで定期船が殆ど出てないとは思いもよりませんで……」

「いや、月一では確かに出てたと思うけどよ、運が悪かったと言えば悪かったって感じだな」

「乗せて貰わなければ、ひと月あそこで足止めでしたし、ある意味運が良かったとも言えますし」

「いやぁー!こっちこそヴィニオのねぇーちゃんのお陰で何の心配も問題もなく荷物を運べたんだから、礼を言うのはこっちだぜ。それに暇潰しに色々見せて貰ったしよ。こればっかりはなかなか潰せるもんでもねぇしよ。かはは」


 2週間前に、星系外縁間際のジャンプゲート迄辿り着いたガートライトであったが、そこで立ち往生してしまった。惑星ラテスへの定期輸送船が出発した後だったのだ。

 次の定期船は1ヶ月後との事で、しばらくはこの付近にあるコロニーか、軌道ステーション辺りで過ごそうかと考えた。着任登録は3ヶ月の猶予が、星系外縁という場所が場所だけにあるので、ここからはのんびり行こうと思い馳せていたところに、『輸送船が1隻ありました。この船に頼みましょう』都のヴィニオの言葉にガートライトの目論見は潰えた。

 

 輸送船のオーナーとシップオペレーターに交渉して乗船させて貰うことになる。 (つーか同一人物)

 ステーションの発着場で見たその輸送船の感想は、まるっきり【スペースライナー 1・2・3!】じゃねぇーか!だった。

宇宙を縦横無尽に走るスペースライナーとクルーのPictvピクトモーションムービー

はガートライトのコレクションの一つで、謎のテロリストの戦いと恋と友情と最後のドンデン返しが心に残る全13話のSF物語である。

 その主役メカたるスペースライナー《白 狼》と同じく車輌を何基も連結した列車のような姿をしていた。

 

 プラットホームに船首部分を停泊させて奥の方まで車輌、いや貨物部が連なっていた。

 30基編成の 貨物輸送船。それが“クライドン・キャタピラー”であった。各貨物車両にそれぞれ1台のモートロイドをおいて軌道の修正や貨物内の温度やその他の管理をさせて、付近の惑星間の生活物資を運搬しているらしい。

 

 競合相手もそれほどおらず、かなり割のいい商売になっていると船長のクライドンさんは笑って言った。片道2週間という行程の中で問題なのは、いかにして暇を潰すかであった。

 そこで活躍したのが、ガートライトのコレクション達であった。モニターゲームからVRゲーム、そしてノベライズ。

 その中で船長を夢中にさせたのは、Pictv(ピクティヴ)だった。

 特に気に入ったのが、“漢突撃おとことつげき!!ガンノスケ”という丸いリングでマワシアーマーというボディスーツを着て戦う、汗と友情が熱い全13話の格闘ものだった。

 ライバルとの戦い、師匠との確執と別れ、そして伝説のマワシファイターとの戦い。船長は飽きずにヘビロテしていた。最終回では涙を流し叫ぶ始末だ。


「うおぉぉっ―――――っ!親父を越えろ――――っ!ガンノスケ!!!」


 ガートライトはそんな彼を脇で見ながら、別のPictvを楽しんでいた。うんうん、布教布教。

 こうしてクライドン・キャタピラーはヴィニオの完璧な操船で何の事故もなく、ここまで来たという訳だ。

 何の問題もなくラテスの軌道ステーションへ辿り着き、船長と別れの挨拶を交わす。


「しかし、運賃を払わなくていいんですか?」

「いやいや、こっちこそヴィニオのねぇちゃんにはモートロイドのアップグレードまでしてもらったし。あの………Pictvもコピーさせて貰って運賃なんか貰う訳にはいかねぇよ」


 そう、ガートライトは様々なPictvをタダでコピーして渡していたのだ。熱いのやら泣けるのやらムフフなものまで……。


「では………遠慮無く。ありがとうございました船長」


 軍人らしく敬礼。


「おう!お互いの空気エア気力エネが満たされますように」


 右拳を左胸にドンと当てる。彼等流の挨拶なのだろう。ガートライトも笑みを浮かべ同じように挨拶する。


「お互いの空気と気力が満たされますように。では」


 船長が笑顔でプラットゲート出入口へ去っていった。


「さってと、どこに行きゃいいんだ?」


 取りあえずコンテナムーバーを引き連れて歩き出す。一辺が1.3m程の立方体がガートライトの全ての荷物だ。

 あとは胸ポケットにあるサーヴァントAIのヴィニオくらいだ。


『まずは軍の出張事務所に行ってみましょう。連絡が来てるかもしれませんよ』

「そうかねぇー」


 上司たちの姿を見てるとどう見ても厄介払いの類にしか思えないし、まともに連絡してる事など考えられないものだ。


『ケィフト様ならちゃんと連絡してると思いますよ。何はともあれ行ってみるのです』

「その前に腹拵えだ。腹が減っては何とやらってね」


 思いっきり話の腰を折るガートライトであった。


 腹拵えをして軍出張事務所に行くと、ガートライトより少し年配の男性が相手をしてくれた。というかここには彼しかいないみたいだ。大佐の階級章をつけた彼は、ガートライトに親切に応対してくれた。なんかこわっ。


「はっ。連絡は入っております。ガートライト・グギリア大尉・・


 あれ?俺はいつ戦死したんだろう?二階級特進ってのはそういうモノの筈だが………。ガートライトはそんな風に疑問に思首を傾げる。。


「ひつ月前に中尉へ、一週間前に中尉から大尉へ昇進しております」


 えー何ののその無茶昇進。誰も異議を唱えなかったのだろうか?


「すべてはハーレンヴァイズ公爵閣下のご指示です」


 うわぁー。ケィフトのヤツ、親父さんまで巻き込んだのかよ!って事はこの人は〝ハーレンヴァイズ”派なのか。


「着任しだいその日付けで少佐に昇進することになっております」


 どうやら戦艦の艦長にはその位の階級が必要なみたいだ。まあ、給料が上がるのなら文句もないし、責任が重くなるのはやる形無しってとこか。

 彼はガートライトを奥の部屋へと案内する。

 そこにはガートライトが思いもかけない人物が座っていた。


「久しぶりだな。ガートライト」







(-「-)ゝ 読んでいただき嬉しゅうございます

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