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17/55

17:通常航行運用試験の開始

 

 

 数日後、第35開発試験場の発着搭乗タラップにガートライト以下クルー数十名が所長であるザーレンヴァッハより訓示を受けていた。

 

「これより2か月間、ユールヴェルン機関及び通常航行の運用試験の成果を期待する。良いデータを持ち帰ってくれ。では!」

『はっ!』

 ザーレンヴァッハが敬礼をするとガートライトをはじめ全員が答礼として敬礼を返す。

 

「搭乗開始」

 

 アレィナの号令を合図に、クルー達が往還シャトルへと乗り込んでいく。

 整然と歩き移動するその姿は、彼等が軍人であることの証明であるかの様に迅速だ。

 後にはアレィナとガートライト2人が残り、別れの挨拶をザーレンヴァッハと交わす。

 

「まぁ、大変だと思うが、頑張れよガートライト」

「程々にやるよ。データは逐一送るからさ」

「ああ、頼む。こっちもブラッシュアップはしておくからな」

 

 ガツンと拳を当てて挨拶を交わす。

 

「あと、じーさんと新人(ニュービーズ)の方もよろしく」

「いや、あの人俺より階級上だし、はっきり言って放置するしかないんだが………。まぁ新人そっちはこちらも利用するからお互いさまってとこだな」 

 

 ゴ-ドウェイイルの方はハイネッゼと工廠艦のクルー辺りがフォロ-するからいいとして、問題は新人こっちの方だとガートライトは思っている。

 

「いや、あいつ等けっこー自由フリーダムだから気をつけた方がいいと思うけど。まーヴィニオがいるから大丈夫だとは思うけどなぁ」

「え………そうなのか?………分かった気を付ける」

 

 第35開発試験場(ここ)にもヴィニオの分体を置いていくので、あらゆるフォローは可能となっている。

 ヴィニオってどこまで行くのかと、ガートライトはちょっとばかりジト汗になる。

 

 こればかりはなる様にしかならないと己自身の経験則とPictvで学んでいるので、後は流れに任せるのみだ。

 

「では、ちょっと行ってくるわ。貴族関係あっちの方はケィフトに頼んであるんで、お前は気にしなくていいからさ」

「ああ、俺にはあんまり関係ないことだけどな………。つーかそんなに新人たち悪いの置いてくなよな、お前」

「ウンッ!ダイジョウブッ!」

 

 サムズアップでガートライトは応じるが、表情はある意味無表情になっている。棒読みだし。ザーレンヴァッハは、ある意味諦念の意味を込めて溜め息を吐く。

 

「ハイハイ。お前の方こそ頑張れや。ソッチの方がよっぽど大変だと思うしな。はっはー」


 だよなー。海賊退治とか正直アホかとガートライトも思う。

 今迄の部隊や艦隊が捕らえられなかったものを、ある意味新参者であるガートライト達が、飛び込みで何かを為すなど考えられる話では無かったのである。

 まぁ、所詮対策を講じろと言われただけ、しかも正式の辞令にはただの航行運用試験とあるだけで1行たりとも海賊退治そのことについては記されていないので、ある意味気楽なものではある。

 

 往還シャトルに乗り込み試作第1号戦艦へと搭乗すると、そこからは彼等の本領発揮となる。

 指揮操艦室コントロールキャビンに入り、それぞれが持ち場へと着き発進作業(シークエンス)を開始する。

 

 機関士長のバイルソンがユールヴェルン機関を待機状態から励起させ稼動状態へと移行させると、艦内の全てが息を吹き返すように起動を始める。

 0号艦をベースに作られた試作1号艦は、ユールヴェルン機関をある程度簡略し、流動チューブの配置を艦中央部に前後に張り巡らすようにされている。e・r・fエレメントリフレクトフィールド発生装置は艦船首に設定しているのみなので、見た目はただの戦艦という外見のふねである。

 

「ユールヴェルン機関稼働率30%。行けます」

 

 機関士長がテレメーターを確認しつつ報告してくる。


「起動シークエンス全て完了。いつでも発進可能です艦長」

 

 航海士長のエルクレイドがガートライトへと告げる。

 エルクレイドの言葉を受けてガートライトは通信装置を起ち上げ、シート脇の受話器を手に取り彼等へと声を掛ける。

 

スペドクロブダイン。そっちの準備はどうだい?」

スペド|完了』

クロブ問題なし(n.p)っス』

ダイン行けます』

 

 試作第1号戦艦の他に随伴船として3隻がこの艦に同行することとなっている。

 というか、幾多の討論会議ディスカッションの中で出されたアイディアを元に造られたオプション艦であった。

 

 大きさは巡洋艦、もしくはそれより大振りな哨戒艦を再利用し造り上げられたもの

 それぞれの用途に特化した武具ものとして造られたモノ達だった。

 そしてそれを操艦す(あやつ)るのが――――ー

 

『艦長〜〜〜っ、これ、いーっすよ!これっ!』

『コラッ、あんた何言ってんのよ!おバカ』

『のほ〜〜〜っ、面白いっすねぇ!これぇ』

 

 そんな楽しげな声が試作1号艦へと響いてくる。

 そう1艦もしくは1隻につき1人のジョナサンズがその艦を操艦して(うごか)いるのだ。

 これも実験というか実証試験の1つで、ジョナサンズ(AI)1人で艦の操作が可能なのかの検証をこの機会に試そうという事になったのだ。


 この通常航行運用試験には、幾つかの課題が出されている。


 ひとつは耐久実証実験。

 ひとつは限界実証実験。

 そして今ひとつは最高速度実証実験となる。


 それをエイディアルス航路を航行している間に行う訳である。

 これだけでも、かなりというか結構大変な作業ことではある。

 その上不法艦船の対策を講じるとか、ふつう人が聞けば“はぁあ?”という言葉が漏れ出るであろう。

 

 ただこの艦のクルーというクルーがまるで慣れたかの様にこの事を受け入れていた。(ちなみにこの時点で不法艦船の事は伏せられている)

 ガートライトの雰囲気ににあてられたのか、もしくはその空気にいつの間にか感化されたのか、誰も不平不満を表すこと無く指示に従っていたのだ。(ジョナサンズは言うに及ばず)

 

 どちらかと言えば、皆が皆進んで事に当たっている部分が多々ある様に見受けられる。

 どうもケィフトが事前にガートライトが来る予定にして、そういう手合いの人材を先に送り込んでいた節があるとガートライトは思っている。

 面倒がなくてある意味ラッキーぐらいに思っていたほうが良さそうだなと、キャプテンシートにつきながら発進作業の進捗を確認して、再度受話器を手に取り話を始める。

 

「あーえ〜、艦長のガートライトです。これより2ヶ月間ユールヴェルン機関及びその搭載艦の運用試験を行うことになります。とは言え、なるべくらくに楽しく過ごしたいと思いますので、皆も気張らずそれなりに頑張ってほしい。以上」

 

 ガートライトの放送にアレィナは額に手を当て溜め息を吐き、エルクレイドはくっくっくと笑いアレクスは無関係と言わんばかりに何の反応もせず、レイリンとバイルソンは沈黙で答える。

 

『周辺宙域に障害物デブリ及び針路上に艦影なし。問題ありません(n.p)

 

 レイリンの代わりにジョナサンズの1人がそう告げる。

 始めレイリンはなかなか喋ろうとしなかった。したとしても片言だけで要領を得なかったのだが、その理由が分かると(ある意味不適職であった)ジョナサンズの1人を補佐サポートにつけて従事させている。

 これはこれで互いに息があっているというか阿吽の呼吸で事に当たっているので、怪我の功名と言えなくもない。

 それに彼女にはまた別の任務があるからだ。


 そしてガートライトは発進の号令を発する。

 

「ユールヴェルン機関搭載試作第1号戦艦発進!」

了解(i・K)。発進します」


 エルクレイドが復唱し、コンソールを動かし艦を発進させる。

 微かに艦が振動し、重力が身体を軽くシートへと押し付ける。

 この感覚は船乗りならではの醍醐味なのだろうとガートライトは不意に思う。

 

 前方に表示されたホロウィンドウには、漆黒の闇に近い(幾つかの星が光る他は)空間が広がっていた。

 後方に徐々に離れていく小惑星の姿が見えなければ、シミュレーションルームと勘違いしかねない程の感覚は、幾度も宇宙を渡り歩いてきたガートライトでもなかなか慣れるものでもないのだ。

 

 とは言え例え窓があったとしても景色は代わり映えしない事も、理解はするが納得は出来ていないというところか。

 目の前に表示した各種パラーメーターを確認しつつ、そんな思いにガートライトは耽る。

 航行していると感じられるのは艦の微かな振動のみだ。

 

 

 


 試作第1号戦艦と共に3隻の艦がゆっくりと第35開発試験場を離れていく姿を、執務室のホロウィンドウで眺めつつザーレンヴァッハは呟く。

 

「まぁ頑張れや。俺は俺で頑張るからよ」

 

 公爵嫡子であるケィフトから聞かされた言葉を胸に秘めつつ、旅立つ艦を見て拳を握りしめ決意を新たにザーレンヴァッハは飽きること無く画面を見やる。

 そしてその姿が画面から見えなくなると、すぐさま書類作業を始めることにする。

 

 

 試作第1号戦艦は第35開発試験場のある小惑星帯を抜け、現在エイディアルス航路上へと向かう為まっすぐ進んでいた。

 そこから航路へとランディングの後、航行運用試験を行うこととなる。

 その航路に到着するまで3時間ほど。ガートライトはこれからの予定を開発試験場のブリーフィングルームで、伝えた事と伝えなかった事を含めて再度確認する意味でもう1度話すことにする。

 

「ヴィニオ、オートドライブで問題ないよな」

『はい、こちらは私とジョナサンズで対応します』

「ほい頼む。皆そんじゃ2.5Dグラス掛けて。軽くブリーフィングやりまーす」

 

 座席の位置などは、0号艦と変わりはないものの補助席がそれぞれ右隣に設置され、そこにジョナサンズ搭載のモートロイドが常時交代要員として待機していた。

 

 指揮操艦室コントロールキャビン内のクルー全員が2.5Dグラスを掛けると周囲に変化が訪れる。

 地面には緑のラインのワイヤーフレームが刻まれ4角に区切られた床が広がる。

 周囲には星の輝きと黒を基調にしながらもカラフルな宇宙そらが彩られていた。

 

 そこにはガートライトの直属の部下である5人が思い思いの格好でガートライトに相対する形で立っていた。

 

『えー、今回の運用試験の目的を簡単に説明すると――――』

 

 ガートライトが説明を始めると、彼等の中央にイオタ星系の概略モデルが表示される。

 帝星を中心にそれぞれの惑星に主要軌道ラインと、その他様々な航路ラインが色とりどりの線で描かれる。

 そしてその外縁部のラインがいっそう光り輝く様に描かれ、そこに試作第1号戦艦のグラフィックが現れる。

 エイディアルス航路は帝星イオタを中心に左右に長く楕円を描く様に赤く光る線で示されていた。

 

『今回俺達はエイディアルス航路をいわゆる反時計回りにイーウェス、サウウェス、サウイス、ノーイスエリアを様々な試験をしながら2ヶ月掛けて第35開発試験場へと戻る訳だ』

 

 ガートライトが説明している様に、このイオタ星系はおよそ5つのエリアに区分されている。

 宇宙潮流エクセラルタイドを下に配置し上から俯瞰してみた時に、帝星のある中央部分をセントレイ。右上をノーイス、左上をノーウェス。右下をサウイス、左下をサウウェスと呼び慣わしている。

 

 中央―――セントレイエリアには公爵、侯爵、伯爵が領を治め、他の4つのエリアを辺境伯、子爵、男爵といった貴族が治めている。

 そしてそれぞれのエリア1つ1つにも様々に区画が設けられている訳だ。

 

 星系内にあるおよそ150程ある生存可能惑星 (もしくは小惑星)に全ての貴族が関与し、帝国の基盤を支えているのだ。

 これが帝国が興されてから常に続けられている事だった。(まれに反旗を翻す貴族も現れはするが)

 

 まぁそんなことは今のガートライトには全く関係ない事だし、今重要なのはこのエイディアルス航路で起きている海賊行為に対していかに対策するのかの方策であった。

 そこて初めてガートライトは不法艦船対策そのことに対して口を開くことにした。

 

『本来であれば、この航行試験はユールヴェルン機関搭載のジェネレイターの性能の実施試験な訳だが、極秘裏にもう1つの任務を受け渡されている』

 

 その言葉にクルーがそれぞれの反応を表す。

 エルクレイドは目を見開き、アレクスはへぇ~と口を開け、バイルソンはへあっ?と声を上げ、レイリンはあー………とこちらを見やる。全員が呆れ気味にガートライトを見る。

 

 よもや、この艦1隻で海賊退治を行うなどと。

 そんな中、表示されたエイディアルス航路のあちらこちらにポイントが幾つも現れる。

 

『ほんで、ここが過去に輸送船が不法艦船に襲われたポイント。そしておそらくこの近辺にそいつ等のアジトがあると思われる』

 

 それを聞いただけで、理解してしまう。理解してしまった。

 数多の輸送船をその命を失わせること無く鹵獲していった海賊もの達を、自分達がこれからどうにかしようしている事を。

 無理、不可能と言い出そうとするクルーのそれを先んじて、ガートライトが話し続ける。

 

『ただこれ等の宙域に入ったとしても、不法艦船が現れなければどうしようも無いので、もちろんアジトを襲撃するつもりは無いからそこまで気に留める必要ことはないよ。ただ運用試験の間にもし不測の事態が起きたら、その様な対処をする事を知っておいて欲しいという事さ』

 

 ガートライトはさも大したことでもない風に肩を竦めつつそう言った。

 アレィナを始めこの場にいるクルー全員はそれはどうなんだろうかと思いはしたが、結局ガートライト(かんちょう)だからのひと言で納得する。

 本人は仕事をしていただけなどとうそぶくかも知れないが、第35開発試験場でいろいろやらかしているのは周知の事実なのだ。

 

 エルクレイドは周囲を見回しつつヴィニオさんいねーなと呟き、アレクスは成る程と顎をさすり、アレィナはやれやれと肩を竦める。

 バイルソンは頭が痛そうに顔を顰め、レイリンはそれをぼーっと見ている。きっと大変そーだなーとか他人事なのだろう。

 

 その後はこれからの予定などを軽く報告と連絡を終えると指揮操艦室コントロールキャビンへ意識を戻し通常任務へと戻る。

 こうして試作1号艦は一路エイディアルス航路へ向けて3隻の艦船を伴い進んで行った。

 

 


(-「-)ゝ お読みいただきうれしゅうございます

 

ブクマありがとうございます 励みになります (T△T)ゞ (ウヒョー)

Ptありがとうございます 嬉しいです (◎△◎)ノ (ワフーッ)

おかげ様でジャンル別日刊ランキング上位に入ってました ありがとうございます

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ありがとうございます 良かったらこれからも読んでいただくと嬉しーです

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