16:次なる任務
ハイネッゼはその人物の名を聞いて大きく目を見開くこととなる。
よりにもよって、戦艦の心臓とも言うべき機関部のそれも長と呼ぶべき人間がその様な人物だとは思いも寄らなかったからだ。
「だ………大丈夫なんですか?それ………」
クルーの中の中枢たる人物が内通者だということに一抹の不安を抱くが、目の前の2人はたいした事でもなさ気に予定表についての話をしている。
ハイネッゼの呟きを聞いたガートライトが端末をちょいと操作してホロウィンドウを表示させると安心させるようにハイネッゼへと告げる。
「情報ってのは結局どう活用するかで生きもするし死にもするって話ですね、ほら」
そうガートライトが指差すと、ホロウィンドウの中で映像が流れ出す。
どうやら監視カメラからのものらしく、上方から俯瞰した映像が映し出されている。
端末機の前に座った男性士官らしき人物が端末を操作して何やらカードの様なものに取り込む様子が伺える。
そしてハイネッゼはこの人物こそが、内通者であるバイルソン・ヘリウォーズ技術准尉であると気づく。
こわっ。
ハイネッゼはちょっとだけ怖くなった。もしや彼等は誰それ構わず監視行為をやっているのかと、つい穿った見方をしてしまった。
『ご安心くださいハイネッゼ様。この様な事は事態が起こらない限り行うことはありません。ガーティと馬の骨が何をやってるのかも…………もちろん関知しておりませんので』
ハイネッゼの表情を見て何かを察したヴィニオが補足するように声を掛ける。
そう言われたハイネッゼは、それもそうかと納得し安堵する。
ところで馬の骨って誰かしらと首を傾げる。
そんな中ガートライトの後ろでアレィナが、苦虫を噛み潰したような顔をして拳をギリリギリと握り締めていた。
そんな様子を伺いつつハイネッゼはホロウィンドウを見やり目を瞠る。
いつの間にやら画面が切り替わって別の部屋の様子が映し出されていたからだ。
ハイネッゼは知らないが、普段の自信に満ち溢れた態度とは真逆に背を丸めつつ相手を上目遣いで窺うように見ながら、機関士長が先程データを取り込んだカードを手渡し部屋を出て行った。
受け取った執事らしき若い男性はそれをしばらく眺めた後、ダストボックスへと投げ入れる。
『こんなクズを持ってこられても役に立たないというのが解からないのだろうか。伯様のご恩を何だと思っているのやら。まぁこんなは僻地に勤めている輩では分からないでもないか。ふんっ』
下卑た表情を表しながらそんな独り言を呟き、男性は部屋を出ていった。そしてホロウィンドウが掻き消える。
「とまぁ、こんな感じで盗まれたといってもそれを扱う人間がどうしようもないと、あんまり意味も意義もないってとこですかね」
中も見ずにクズデータ扱いする人間であれば、ガートライトの言うように確かに情報というものの扱いを間違っているとハイネッゼも理解できた。
「それにそっちの方はケィフトに頼むしかな……………」
ガートライトが小さく呟くが、ハイネッゼにはさすがに聞こえなかった。
「おおっと、それで思い出した。御曹司にこれを預かってきたんだった」
そういってゴードウェイイルが懐から1つのカードを取り出しテーブルへと置く。
それは先程の映像で機関士長がデータを取り込んでいた物とうり2つの物であった。
ガートライトはそれを手に取りしばし躊躇する。
ゴードウェイイルをちらと見、ハイネッゼを伺い見る。
その様子で何かを察したアレィナが、ハイネッゼへと退室を促す言葉を掛ける。
「ハイネッゼ様、席を外されましょう」
伺いでなく断定の言葉を聞き、ハイネッゼは首を横へと振る。
もう己自身の去就は決まっているのだ。
現在の皇帝陛下は後継者を誰とも決めていない。
確かに10人いる皇子、皇女に継承順位というものはあるだが、必ずしもその通りになるとは誰も思っていないのだ。
それは過去の歴史が証明しているのである意味皮肉ではある。
裏を返せば誰がなってもおかしくない状況と言えよう。
その中で誰がどの人間の後ろ盾になるのかで、今後の自身の立場が決まってしまう恐れがあるからだ。
この様な場末――――辺境の片隅で決めることなど出来ないのだ。
それを気遣いアレィナはハイネッゼへと退室を促した訳だ。
「いえ、もし宜しければ私も同席させて貰いたいものです」
ハイネッゼの言葉にアレィナは溜め息を吐きつつ無言で了解する。
助言はするが、それ以上の事はある意味貴族の責任になる。余計な口出しをして巻き込まれるのはご遠慮したいというのがアレィナの思惑だ。
まぁ、ゴードウェイイルの態度を鑑みれば、婚約者たる己の立場もそのようになるとハイネッゼなどは考えている。
ザーレンヴァイス公爵の傘下に入るという意味でだ。
そんな2人の様子を見つつ、ガートライトは手元のカードを起動させる。
カード表面が淡く光、次にケィフトの上半身が映し出せれる。そしてケィフトが次の任務を無造作に伝えてくる。
『現時刻を以て新型戦艦建造任務をゴードウェイイル准将へ移行。1号艦の試験航行の為、エイディアルス航路の通常航行運転を任じる。その際、対峙した不法艦群への対策を講じて貰いたい。期間は航路航行の2ヶ月間とする』
おやまぁとガートライトは呟き、アレィナは思わず目を見開き口を呆けた様にポカンと開ける。
1号機のこととかどこから情報が洩れてるのかは、まぁ分かってはいるのだが。状況把握があまりにの速過ぎやしないだろうか。
どの道ガートライトの周りにはスカァルテが山程いるって事なのだろうと溜め息交じりに息を漏らす。
「また厄介な任務を言ってきたもんだ………」
「でも命令だから従うしかないわよ、ガート………」
「だ、よねぇ~。海賊退治とかどうなのよ、まったく」
「がっはっはっはっはっ!面白ぇなぁ!あの御曹子」
訳知り顔で3人が話をするのに、理解できなかったハイネッゼがゴードウェイイルに問い掛ける。
「どういうことですの?試験航行なのですよね」
ニヤニヤ笑いながらソファーに寄り掛かりゴードウェイイルがそれに答える。
「表向きはな。このエイディアルス航路ってのは、この星系外縁をぐるりと回る環状航路だ。その中にはエクセラルタイドも途中にあるんで、そこら辺りは宇宙艦隊が常駐してるんで特に何もないんだが、それ以外の航路には出るんだよ」
一瞬出るといわれてお化けかしらと的外れな事を思いついたが、先程ガートライトの言葉でなる程と思い、つい口をつく。
「海賊が出るのですか?まさか!?」
ある意味ハイネッゼの言葉は正しいが、正確ではない。
元々は様々な内乱や戦闘などにより脱走、犯罪者の逃亡その他もろもろの理由で、あぶれ外れた人間によりあちらこちらにコミュニティーが出来たことが始まりである。
そのコミュニティーで糧を得る為に行われているのが輸送船などの略奪だ。
彼等の嫌らしいところは、貨物輸送船を拿捕すると1/3程を奪った後解放するところだった。
生命と積み荷の2/3が無事だったという事と、そのまま追求されることがあまりなかった為(もしくは通報を禁じたか)、討伐部隊を出すこともなく最近まで過ぎていた。
しかし損害額が許容範囲を上まり、さすがに通商圏域の間でも見過ごす訳にはいかなくなったのだ。
ただ星系外縁ということもあり帝国軍が大部隊を出すにも費用の関係で無理であり、小部隊での行動をするにしても捜索範囲が広すぎてどのように捜索すればいいのか判断に迷い身動きが取れなかった。
そしてその時に限って海賊が現れなかったのだ。
結果として輸送費と保険金額が増大し、外縁惑星への援助と支援が難しくなり、自給自足の生活を余儀無くされている。
かろうじて、年数回の大船団と護衛艦隊で航路を往来しているのが現状である。
それをガートライトが乗る戦艦へとやらせようという目論見らしい。
無茶もいいところである。
ハイネッゼはそんな事を聞きながら思ったが、ガートライトの反応は淡白なものだった。
「まー対策を講じろってことで、特に何かしろとは言ってないんで航行試験と訓練の合間ってとこでしょう」
そんな簡単な感じでいいんだろうかなぁ、とも思ったがハイネッゼ以外の誰もが心配も不安にもなっていないので、そういうものかと自分を納得させていた。
コクコク頷いているハイネッぜの姿を見てアレィナは毒されてるなーとなどと、自分の事を棚上げにして心の中で呟いていたりする。
「よっしゃ!ではお前等が戻ってくるまでにしっかり艦は仕上げておくぜ。久々にワクワクするなっ!がははははっ」
とは言っても実際に作業をするのは工廠艦の作業員とジョナサンズになるのだが、ゴードウェイイルは自ら進んで作業に加わったりするのだ。
ガートライトなどはちったぁ年を考えろと言いたくなる程に。
大准将が立ち上がったということで、話し合いが終わった事となりガートライトも立ち上がり敬礼をする。
「では留守中色々頼みます。ある意味静かなところですよ、ここは」
下手に拉致や暗殺なんかは出来ないようになっていると、言外に聞いたゴードウェイイルもニヤリと笑い
ハイネッゼに向かい片目を閉じて話し掛ける。
「では俺等も婚約者らしくしっぽり行こうか、ハイネッゼよ」
冗談と知りつつも、その言葉にハイネッゼは顔を赤らめ貴族らしからぬ声量で返事をする。
「はいっ!ぜひっ!!」
罪作りなじーさんだなぁとガートライトは思いつつも2人が退室するのを見送った。
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とある独身者用住宅の居間で2人女性がソファーに対面に座り歓談している。
互いの目の前のテーブルにはクッキー等の菓子と湯気のたゆたう紅茶が置かれている。
「お久し振りです、先輩。よもやこんな所におられるとは思いもよりませんでした」
「それは私も同じよ。しかも大准将の婚約者だなんて………」
「えへへぇ〜〜」
アレィナの言葉にハイネッゼは少しだけ照れたように頬を赤らめ紅茶を口にする。
この2人の関係はといえば、アレィナが赴任していた任地にたまたまハイネッゼが着任した時の先輩後輩の間柄である。
先輩後輩といっても階級は真逆であったのだが。
「面白い方ですよね、艦長さん。よもやPictvとかっての薦められるとは思いませんでしたし………」
様子を窺うようにハイネッゼがちらとガートライトの事を話題にする。Pictv鑑賞を勧めるあたり全くブレないガートライトではある。
戸板を外した水が勢い良く流れるかの如く、アレィナの口から愚痴めいたのもが次々と飛び出してくる。やがてそれは惚気話へと変化していく。
ハイネッゼは互いに深酒をした時、呂律の回らない調子しながら昔の恋バナを聞いて頭の片隅にしまっておいたのだ。
おーやっぱりかぁ。などと庶民感覚で話に聞き入っていた。
従者がいたら叱られそうなやり取りを交わし、夜が更けるまで語らい合いが続いた。
もちろん紅茶がワインに菓子が酒のつまみに変わりながら。
(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます




