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14/55

14:航海士長 エルクレイド・ターンジブル

遅くなりました

前のお話


大准将が来るって

どんな人

今時行き倒れなんて

 

 

 目の前で繰り広げられているその光景に、エルクレイドは我を忘れたようにそれに魅入る。

 エルクレイドがこれまで操っていた艦達には、そもそも異層空間変移システムを搭載している艦など無かったのであるからしょうがない事ではある。


 通常は超長距離移動は一定の宇宙空間に設置された異層空間変移システムゲート(通称)という物があり、ほとんどの艦船がこのシステムを利用している事となる。

 よって何も無い空間に紫紺の輪がぐんっと広がり大きくなって内側に紫電が中心からバチリバチリと放たれる光景は、やはり眼福に値するものだとエルクレイドは感慨に耽る。


 そしてそこから巨大な構造物が徐々に姿を現す。

 エルクレイドがその出現している構造物の上方から俯瞰して見ていると、その姿はいまだ出現途中ではあるが正面から見れば凹の形をしていることが確認できる。


 ズズズという音が聞こえそうなほどゆっくりと現れるその姿を見て、皆が感嘆の声を上げる。


『いやーっ、やっぱいいっスね~』

『ん、かっこEー』

『すごいすごい』

『…………GOOD』


 エルクレイドと共に水先案内人スキッパー役を担うことになったジョナサンズを搭載したモートロイドがホロウィンドウを拡大した映像を見ながら歓声を上げている。

 エルクレイドはその構造物が完全に出現する前に作業に取り掛かることにする。


「はいはい、君等。お仕事するよー。艦の正面に移動開始」

『了解っス』『I・K』『あいけー』『I・K』


 コクピット内にいるジョナサンズが返答し、それぞれが作業に取り掛かる。

 エルクレイドもコンソールを握り締め操船を開始する。

 水先案内人スキッパーの役割を担うため、1度構造物の前方へと船を動かし位置取りをする。


『相手との通信確保完了』


 通信担当のジョナサンズがデータのやり取りを開始する。


了解(I・K)。ビーコン発信」

『I・k』


 誘導レーザー(トレスビーコン)を発信させ向こうの受信を待つ。

 相対速度を合わせてじりじり進ませる。

 エルクレイドは自身がこんな速度で船を操作できるようになれるとは思っても見なかった。

 第35開発試験場(ここ)に来て、彼等と会って全てが吹っ切れた………いや、満足したのだろう。

 燃え上がるようだった衝動の炎は今は微かな熾火程の大きさまで収まっている。


 

 

 

 エルクレイドがそれに目覚めたのは幼い頃―――――まだ4才か5才の頃だったと覚えている。

 侯爵である父親に連れられて家族で領地を訪れた時だった。


 侯爵領のある惑星デーレイティアは農耕惑星であり、大陸の5割が穀倉地帯となっており、その半分近くを侯爵家が所有管理していた。

 その当時侯爵家では、そこで生産された穀物の大量運搬の為の貨物列車カーゴライナーのリニアレールを宇宙港スーペースポートまで敷設したのだ。


 資産をかなり費やした設備投資であったが、3年後には黒字へと転ずることになり侯爵領は潤うことになった。

 その列車を目にしその速度を体感した幼いエルクレイドは魅せられてしまったのだ。


 速度スピードというものに。


 目の前を一瞬にして横へ移動していく。景色が流れ次々と移り変わり行くその現象に。

 最初は見てるだけ乗るだけで満足してたエルクレイドだったが、成長するにつれ己が操るものでスピードを味わいたいと思うようになる。

 はじめにミニライドビーグルで邸内を乗り回し、成長と共に乗り物も変わっていった。


 だたその間に大きな変化が1つだけあった。

 その兆候がAI管理による空間輸送システムが構築され、貨物列車で荷を運ぶ必要性が皆無となってしまったこと。

 そして次の最も大きな災いが原因不明の細菌により8割の穀物が全滅の憂き目に遭ってしまったことだ。

 後に土壌に何者かが細菌をばら撒いたことに因る汚染(バイオハザード)と判明したのだが、事は領地崩壊の直前にまで及ぶこととなった。


 今までの蓄財ですぐに困窮するという事はなかったターンジブル侯爵は、転機を図ることにする。

 これまでの農耕路線から一転し観光路線へと転換したのだ。

 溜め込んでいた資産を活用して、貨物列車をメインに据えホテルやアミューズメント施設を次々と建設していく。

 侯爵のある種博打とも言える政策は、ものの見事に成功することとなる。

 そして運営には、グレーラインのその類の者達と協力し、反対勢力や対抗組織、貴族などを排除していった。 

 

 エイルクレイドはその様子を幼いながらも父や兄達の背中を見て成長していった。

 その中でこの仕事は自分には向いてないものだと理解した。とても清濁併せ呑むことなど出来そうもないなと。

 そして残念だと思ったのは、自分以外の人間が貨物列車―――今は輸送列車のあの光景を楽しむことになったということだ。


 自分だけの風景は無くなり、消費されるものになったのだと。

 そうスピードに魅せられたエルクレイドは、自分だけのそれを追い求めるようになっていった。

 走る、駆ける、進む。足で、脚で、車輪で、ただそれを求めた。

 そしてエルクレドが行き着いたのは“飛ぶ”ことだった。


 これまでのエルクレイドは、自身が負傷するような事故を起こさなかったことから裕福になった侯爵家の三男に甘い父親はあっさりエルクレイドが求めたものを買い与える。


 個人用の飛行翼艇エアウィグシップは全長5mほどの1人乗りの空を“飛ぶ”ものである。

 軽くレクチャーを受け、すぐさまエルクレイドは乗り込み動かす。

 そしてすぐに手足の如く飛行翼艇を操れる様になる。

 エルクレイドは速度を上げる。限界直前まで、空が雲が大地が流れ線となり点となり、新たな地平を見せてくる。


 エルクレイドはああ、これだ!これなんだと歓喜の声を上げ叫ぶ。


「――――――っっ!!」


 それは唐突に起こった。原因は機体の整備不良とも何者かの工作とも言われたが、結局は不明という話になる。

 成人前のエルクレドはこの事で1年をベッドの上で過ごすことになった。

 もともと危機察知能力に優れていたエルクレイドは、その時誰が何の為に行ったのかを理解した。


 兄弟同士の確執などどこにでもあるものだ。例え己にその気がなくとも、不安に駆られる心を抑えることなどなかなか出来るものではない。

 エルクレイドはリハビリを受けながら、その時家を出る決意をする。

 完全回復したエルクレイドは、両親の反対を押し切り帝国軍士官学校へと進む。


 もともと文官肌ではなく、身体を動かす方が性に合っていたので、都合が良かったこともある。きっと兄達は安堵していることであろう。

 士官学校では可もなく不可もなくといった感じで何事も無く過ぎていく。

 成績は中の上といったところで、機動制御の科目だけが他を抜きん出て突出していた。

 そんな事もあり、エルクレイドの配属先は希望通りの宇宙航空隊となる。

 そして今迄の鬱憤を晴らすように宙航戦機スペシアバトラーにのめり込んで行く。


 実戦の全く無い宙空隊では模擬戦だけが戦績となっていた。

 その中でエルクレイドはめきめき腕を上げ順位を上げていった。

 そこで仲良くなったのが、サッカ・ヤサンデという平民だ。


 穏やかな性格で、人懐っこい性質たちはエルクレイドばかりでなく隊のみんなと仲良くなっていた。とても宙空隊の荒くれ共には似つかわしくないな等とエルクレイドは思ったものだ。

 操船の技術は、細やかな操作で巧みに宙航戦機を操り、スピード馬鹿のエルクレイドにも匹敵していた。


 その頃から、飛ばし屋エルクと呼ばれていたエルクレイドによく突っかかってくる人間がいた。

 エルクレイドと同じ侯爵家の人間で名をイェッケン・スカナアーツという。やたら格好つけたがりの男であった。

 確かに容姿はそれなりに整っているのだが、その性格がちょっとばかりいただけなかった。

 とにかくやる事為す事陰険なのだ。しかも誰がやったか分からない様に仕掛けをしてくる。


 エルクレイド自身は特に何をされても気にすることもなく(要は脳筋)、むしろ嬉々としてやられた事を逐一記録して宙航隊の掲示板に上げたりして、逆に周囲の方が問題視してしまった程だ。

 焦りを感じたイェッケンはその時一計を案じる。


 整備員を買収してエルクレイドが乗る機体に細工をさせ事故を起こさせる、そんな筋書きだったようだが、思わぬ事態が巻き起こる。

 サッカの機体の調整が間に合わず、ちょうど非番だったエルクレイドの機体を使用した時に起きてしまった。


 事故というにはあまりにもあからさまな、あまりにも酷いものだった。

 サッカは一命は取り留めたものの、2度と宙航戦機に乗ることが出来なくなってしまった。

 その事に怒り心頭となったエルクレイドは証拠が無いにも拘らずイェッケンを往来の真ん中で叩きのめしてしまう。


 被害者であるはずのエルクレイドが加害者となってしまった瞬間だった。


 後に事実が判明し、イェッケン・スカシアーツは処分されることになるのだが、この時点ではエルクレイドの処分はまぬがれながった。

 降格の上、辺境の第35開発試験場へと転属となった。

 エルクレイドは苦い思いを胸に刻み宇宙航空隊を後にする。

 第35開発試験場に着任してからは、無気力になりただ怠惰に日々を過ごしていった。


 試作型戦艦々長(かれ)等が来るまでは―――――


 ガートライト・グギリアと言う男は見た目は芒洋とした人間だった。

 掴みどころの無いと言うか、何とも判断に困る人物である。


 そして彼を見ながら、エルクレイド自身が何故自分はこんな無気力な人間になってしまったのか理解出来ていなかった。

 表面上は何ともチャラい印象であり、本人もそれを意識してか人に対しては、相手が印象したと思われる程々の(チャラい)態度で人付き合いを適当に行っていた。


 現在試作型戦艦のクルーには執務らしい執務というものが殆どなかったので自由に過ごすことは可能だ。 エルクレイドはガートライトからの指示の他にはさしたる作業もなく日がな1日機動空挺(バイナルカローラ)に乗り込み宙域内を乗り回していた。

 最大船速で宇宙空間を疾駆する。膨大なエネルギーが消費されていく中、暗闇の中を自身が感じたこともない重力ちからをその身に受けながらスピードを流れる全てを感じ受け取る。


 その重力ちからに意識が途切れそうな瞬間、突然エネルギー供給が停止し、身体が浮遊する感覚に失いかけた意識が浮上し戻ってくる。


『私はガートライト・グギリアのサーヴァントAIのヴィニオと申します。よろしくお願いいたします』

「ああ………」


 しばらくの間この声の主が一体何を言ってるのか理解出来なかった。

 え?この流暢に言葉を話す女性がAIと名乗った。

 AI?えっ、えっえ―――――ーっ!?エルクレイドにとってそれは有り得ないことだった。


「ちょっと待ってくれ。君がAIというのは本当なのか!?」

『もちろん本当のことです。証拠を出せと言われても出すことは出来ませんが』


 エルクレイドが理解しているAIとは人間の命令にただ従うだけのものだ。ましてや会話等が成立する筈がないのだ。

 俺はやはりおかしくなったんだろうか等とエルクレイドは己を省みつつ、どうすれば良いのだろうかと普段使わない脳ミソをフル回転させようとするが、如何せん脳筋である自分に何が出来るとも思わなかった。


『信じる事も理解も必要ありません。こういうものだと納得(・・)していただければ結構です。そして私の言葉は上司であるガートライト・グギリアの言葉と理解していただければと思います』


 上司である艦長の名を言われてしまえば結局従わざるを得ないなと、エルクレイドは胸の内で独りごちる。


「………分かった。で、俺は何をすればいいんだ?」


 こうなれば話は早く進む。エルクレドは投げやり気味にそう問い掛ける。エルクレイド本人は気付きもせず、その無気力だった意識はヴィノオのその言葉に浮き立っていた。


『はい。あなたの能力ちからを見せて下さい』


 エルクレドはヴィニオに明日指定されたシミュレーションルームへ行くように指示される。

 そうしてエルクレイドはこのAI(ヴィニオ)とガートライトにその意識を変革させられることとなる。


 試験場へ戻り機動空挺バイナルカローラを降りたエルクレイドは、ヴィニオという訳の分からない存在の言葉に従う前に、エルクレイドは上司であるガートライトに確認を取ることにする。

 ガートライトの執務室には、本人と共に副官であるアレィナ・エリクトリナルが側に控えていた。

 1部で苛烈な人間だと噂を聞き齧っていたエルクレイドは少しばかり及び腰にはなったが、その視線は話しほど冷たくも厳しくもなかった。


 むしろエルクレイド―――ーいや、ガートライトを見つめるその瞳に、まるでおとぎ噺に出る女神の様な慈愛に満ちたものをエルクレイドは感じてしまった。何だこれ。

 そしてガートライトの言葉はあまりにも簡潔なものだった。


「うん。しばらくはヴィニオの言う事に従ってもらいたい。ま、嫌ならそれでもいいけどな」


 上官らしくないその言葉にエルクレイドは目を大きく見開くが、ただその言葉に親しみを感じたエルクレイドは上官の指示に従うことにする。

 面白い。この上官もヴィニオという訳分からんAIもエルクレイドの思惑の外のものだった。ふふっ、あはは。

 エルクレイドは思わず口元に笑みがこぼれるのを感じ取る。


 結局、上官であるガートライトという男はアホだったとエルクレイドは結論付ける。

 ことある毎にPictvという映像媒体を見せて来ては感想を聞いてくる。

 確かにエルクレイドの琴線に触れて来るものもあり、思わず夢中になった物もある。

 エルクレイドとしては付き合い方に術のある分かりやすい人物だという事だけだった。

 特別嫌だとか駄目だとかと言う認識が無かったのはある意味奇跡かもしれない。


 逆にヴィニオに関しては辟易するものだった。

 まるでエルクレイドの心の中を見透かすかのような発言をかまして来て、エルクレイドはヴィニオに苦手意識を感じる様になってくる。

 それでも今までと違う己を発見することもあり、なんとも表現の仕様の無い思いにさいなまれてしまう。


 その始まりはありふれたシミュレーションルームから始まった。

 第35開発試験場にはその用途に応じた施設が多様に設置されている。

 ヴィニオに呼び出されたエルクレイドは、その施設のひとつに今こうし立っている訳である。

 すると何処からかヴィニオと名乗ったAIの声が響く。


『お待ちしておりました。こちらのシミュレーションマシンに座り2.5Dグラスを装着してください』


 ヴィニオの指示通りに座席に着きグラスをつける。

 するとグラス内のモニターからシミュレーションマシンと同様の映像が目の前に広がる。

 エルクレイドが馴染んだコクピットではない、様々なテレメーターが並びスイッチ等が配置されている。

 実際にコンソールを手に握るとしっかりと感触が己の手に伝わってくる。

 同調に何の問題がないことを見てつい感嘆の声を上げる。


「すげっ」


 この手の機械マシンはタイムラグが多々あり、そのせいで乗り物酔いに似た感覚を受けることがあるのだが、それらの兆候は全くと言っていいほど感じることがない。


 触れる事の出来ないリアルな全周囲映像のことを2.5Dトゥーハーフディメントと言われ、エンターテイメントで多く活用されていた。

 ただ映像そこへ“入り込む”だけのものなので、実際の肉体とリンクさせようとすると違和感と酔いを伴うことがあるのだが、エルクレイドが見ているそれは己が肉体と繋がったかのように目の前の手や視線が移動していた。


 しばらくその事に感じ入っていると、ヴィニオと名乗ったAIが声を掛けてくる。


『こちらのシミュレーションマシンでしばらく訓練を行っていただきます。これから操艦してもらう試作型戦艦の全ての操作を覚えていただきます』


 そんな無茶苦茶なことをヴィニオが言ってきたので、エルクレドは嫌になったら逃げればいいか等と考えていると、ヴィニオが話を続ける。


『もしこの訓練をクリアして頂ければ、中尉の求めるモノをこのマシンで提供できるのではないかと思っております』


 ピクリ、いやカチンとエルクレイドの何かがかんに障り、ヴィニオに対し反感を感じる。

 俺の何が分かるというのか、エルクレドが求めるのはただスピード、それのみである。

 確かにこのマシンは高性能ではあるのだろうが、実機を経験しているエルクレイドにとっては児戯に等しい。


 ただ、それを口にし怒りを表してもしゃくなので、見た目落ち着いた風を装い、エルクレイドは求めるものが何かを尋ねることにする。


「へぇ、あんたが俺の何を知ってるのかは分からないが、もし俺の求めるモノが分かるのなら試しに見せて貰いたいものだな。AIさんよ」


 少しばかり怒りを含めて煽りながら、エルクレイドはそう問いつめる。

 この時点でヴィニオの術中に嵌っているとも気付かず抗うように問い詰めるエルクレイドにヴィニオはすぐにその答えを示す。ガートライトがこれを聞いてれば「ダメぇ、ダメだよぉ〜」と注意を促していただろう。


『ではどうぞ』


 ヴィニオが言い終わらると同時に目の前にあったコンソールや計器類が消え、新たに黄金色の大地と夕日の沈む地平線が現れる。

 エルクレイドはその風景の中椅子に座った状態で宙に浮かんでいた。


「こ、これは―――ー」


 それはエルクレドが過ごした故郷の今は無い在りし日の姿だった。

 そして全周に彩られていた風景がゴォオッという風の音と同時に後ろへと流れ出す。

 いや、エルクレイド自身が高速でこの風景の中を飛びつき進んでいた。


「うおおぉぉぉお――――ーっっ!」


 その事に驚き声をエルクレイドが上げる。ただその中には驚愕と少しばかりの喜びが混じっているのを、本人が気付いたかどうか。

 たゆたう黄金の原の上を飛ぶ飛ぶ飛ぶ。

 エルクレイドが喜びを露わに出す寸前に、風景が元の場所へと戻ってしまう。


「えっ?あれっ!?」


 エルクレイドは慌てて周囲をキョロキョロ見回してしまう。


『どうやらお気に召されたようなのでよろしいでしょうか』


 わずか1分にも満たない時間にエルクレイドは思わず乗せられ魅せられてしまい、気恥ずかしさの為か顔を赤らめてしまう。


『ではこちらのシミュレーションマシンで訓練してもらい、その成果如何によって先程の様な映像を提供しましょう』


 ヴィニオの言葉に眉を顰めつつもエルクレイドは従う事にする。


「………分かった。分かりました。よろしくお願いします」


 この時点で、エルクレイドヴィニオという存在に敵わない事を本能で感じ取り抗う事をやめたのだった。


『中尉は小型艇を主に操作していましたので、戦艦は全くの素人です。特に重量のあるリリィトラン級の艦は制御に細かな操船が必要になって来ます。今からそれを訓練で覚えて頂きます』


 そうして試作0号艦が完成するまで、エルクレイドとヴィニオはマンツーマンで訓練を続けていた。

 ヴィニオは成果によって飴を与え、時には飽きそうになるなるエルクレイドを叱咤して訓練を進めて行った。

 訓練を負うごとにエルクレイドの操艦技術はメキメキと上達して言った。本来なら必要といえない物までヴィニオは網羅して訓練に取り入れプログラムを組んで言ったのだった。


 その中でエルクレイドは何をとち狂ったのか、ヴィニオを口説き始める。2.5グラスに現れたヴィニオに惹かれてしまったらしい。結局は振られるのだが、エルクレイドはそれにめげず何度もヴィニオにアッタクをする。そしてその思いは実らず、結局何度も振られる事となるのだった。


 「ヴィニオってば罪作りだなー」とガートライトが茶化すと、ヴィニオは『不可抗力です』と言い返していた。


 ヴィニオにとってはマルチタスク作業の中の内のひとつと言うだけの事なので、特に意識メモリーに残る話でもなかったのである。


 その甲斐もあってか、実際に駆逐艦の操艦をした際には、研究所にいた操艦経験者が舌を巻くほどの腕前となっていたのだ。

 訓練方法を問われたエルクレイドは、ヴィニオに(紳士的に)断わりを入れてその事を話すと、たちまち採用される事となり、その後教育プログラムのひとつに組み入れられる事となる。


 こうしてエルクレイドは過去の痛みや苦味を孕んだ想いを彼等によっての乗り越えさせられてしまった。本人が気付く事もなく。

 エルクレイドがそんな今までの事に耽っていると、構造物から通信が入って来る。


『こちら、移動工廠艦 ムーンヴェイス。停留位置の指示アナウンスコール願います。通信担当ハイネッゼ・ベルトラウム。進路の先の(デア・サクセレイト)貴方の存在に感謝を( ・アブ・アベーラ)


 本来であればデータ通信のみで停留位置ポータルフィールドを伝えるだけで済むのだが、友誼を深める。もしくは親愛の情を示す場合等はこうして通信をして来る事がある。最後の方は何を言ったのかエルクレイドは分からなかった。

 艦長と大准将が知己ということで連絡をしてきたのだろうとエルクレドは推測した。


あなたの厚意(デア・サクセレイト)に感謝を(・ピィア・オルスゥ)


 ジョナサンズの通信担当が通信に対し“船乗りの言祝ぎ”の返礼を返す。

 その事に目を見張り丸くするハイネッゼ。

 それはモートロイドの姿というより、返された言葉に驚いたようだった。


『ふふっ、よく存じていましたね。古い船乗りの挨拶を』


 その笑顔に魅せられたエルクレイドは通信担当のジョナサンズが答える前に、間に入ってハイネッゼを口説き始める。

 あるいはそれが正しかったのかもしれない。何故なら通信担当がこれを覚えたのは、ガートライトが魅せたPictv“嵐の漢と華の姫”の一節だったからだ。


『はじめまして私この艇の艇長を勤めますエルクレイド・ターンジブル中尉と申します。あなたの声とその笑顔につい話に割り込んでしまいましたことお赦しください。お詫びと言ってはなんですが、よろしかったらこの後お茶など如何でしょうか?良い店を知っていますので」


 エルクレイドは淀みなく白く光る歯をキラリと見せて笑顔でハイネッゼへと話しかける。

 その後ろでは、ジョナサンズの4体がこそこそと相互通信を使って他に知られない様に会話をしていた。


『エル士長釣れると思うっス?』

『ムリ〜〜だとおもU〜』

『成功率30%』

『………oh、not』


 ヴィニオを口説くたびにまずいところを指摘修正されていったエルクレイドは、たちまち口説きスキルを上達させていっていた。

 そう女性所員を相手に手練手管を駆使して3人に1人は口説き落としていたのである。

 しかも別れる時は本人納得づくというあり得ない話と共に。


 ただしエルクレイドの戦法は相手を知り得た上での手法なので初対面の相手には厳しいものがあった。当然相手の返答は言わずもがなである。


『お褒めいただき有り難うございます。ですが私婚約していますので、他の殿方とのそういう席は遠慮していますの』


 一瞬の落胆の後、すぐにエルクレドは復帰して話を続ける。


「それは残念です。貴方のような麗しい方の隣に並び立つ方が羨ましい限りですぅう?」


 ホロウィンドウのハイネッゼの肩にゴツイ手を乗せ抱き寄せるように現れた男性将校がそれを告げる。


『それは俺だ。羨ましかろ。はっはっはっはっは』


 エルクレイドが士官学校で知っている大准将と言われる人物が笑いながら言ってきた。

 あんぐりと口を開けてエルクレイドとジョナサンズは心の中で突っ込んだ。


(((((あんた年いくつだよっっ!!)))))


 大准将と何とか挨拶を交わし停留位置を伝えて移動工廠艦ムーンヴェイスの水先案内を終える事となる。


 大准将に全部持って行かれた感のある5人はガートライトに報告をして(少し怒られて)任務終了となった訳である。

 エルクレイドはその足で端末で誰かと連絡を取って消えていく。ジョナサンズはその姿を見て呆れるように肩を竦める。


 ここにきてヴィニオとガートライトによって己自身を得たエルクレイドは見た目通りの人間になったという感じである。

 エルクレイドはこの後第35開発試験場の2大女殺し(フロイラインキラー)として名を馳せることとなる。

 もう1人は言わずもがなである。

 

  


(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます


あけまして御目出度うございます

本年も気が向いたら読んで頂けると嬉しいです


すいません全部入力したと勘違いして一回更新しました

すぐ直しました申し訳ありません1/11 14:55

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