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13:“大准将”がやってくる

前回の話


親友から超光速通信がが来る

ここに来た原因と元姫様

元姫様行動を起こす?

 

 

 ケィフトからの超光速通信の後は、特筆することもなく日々が過ぎていった。

 主な作業はクルーとともに操艦のシミュレーション訓練であるが、他にはフラワーズヘヴンから廃艦となった艦船を調査探索しながら、放置されたままのものを分類し、選別化することに費やされた。


 そこで最も活躍したが“ジョナサンズ”達である。

 ニュークリアハザードも物ともせず、モートロイドに仮搭載された彼等葉、次々と利用できる艦船を選別し分類していったのだ。

 そしてその成果がガートライトの目の前に表示されていた。


「全体数として2000隻余、うち利用可能ものは1000隻と。ふうん、結構あるもんだな。これならいけるのか?」

『戦艦、駆逐艦クラスが20%。他は輸送艦、哨戒艦と小型の艦船ばかりですね』


 ガートライトは画面をスクロールさせながら、その概要を流し読みしていく。


「ある程度補修すれば使えそうなのばっかりだけど………。こういうのって再利用できないように潰すもんなんじゃないの?」

『軍規約にはそう記されていますが、その手の法は形骸化するのは世の常というものですよ、ガーティ』

「まぁ、それはそれで俺達が楽できる訳なんだがな」

『そうですね。ガーティは自堕落者ですから』

「………そこはせめて無精者ずぼらという事にしてくれないだろうか」


 どっちもどっちという感想を胸中に持ちながらアレィナは自席で端末を操作する。

 アレィナの方の端末にも廃艦船の数量、状態がランク付けされたものがそれぞれの種類ごとに分類され配列されている。


「それでこの宙域座標の周辺にこれらを配置するのでいいのよ………ですよね艦長」

「………あー、うん、それで頼む。あと他に人がいない時は別に普通の話し方でいいぞアレィナ」

「いいえ、けじめは付けなくてはいけませんから」


 アレィナが真剣な面持ちでそう言ってはくるが、公私のごちゃ混ぜになった今の状況はつげんを考えると、つい口出しをしてしまうガートライトだった。


『以前より盛らなくなったとはいえ、弊害も無いとは思いますが……あるいは年相応ですか』


 ヴィニオがそう口を挟んでくるが、ガートライトにとっては記憶が失われた時の事であり、何ともコメントのしようが無いので、沈黙をもって答えを返す。だが………。


「なっ、な、ななっ、何を見てるんですかっ!?あなた小姑ですか!」


 ヴィニオのツッコミにいまだ慣れていないアレィナはつい反発してしまう。

 ある意味脛に傷持つ感じの意識はそういう風な反応になるのだろう。


『もちろん私はグギリア家のサーヴァントAIです。ガーティの保護者代わりでもあります。些細なことも知悉していますよ』

「くふぅう………」


 ヴィノオのその言葉に二の句が継げずに変な言葉を発するアレィナ。

 近頃は3:7いや、2:8の割合で口負けしているが、元々勝つ見込みの全く―――少しぐらいしか無い勝負なのであるからして、ガートライトはこっそり慰めるぐらいしか術が無いことを知っている。


 空気を入れ替える様に資料を流し読みながら、廃艦船から取り出した部品パーツの運搬状況の確認をする。


「それで取り出した部品は順次運べるようスケジュールは組んでるんだよな」

「っ!はい。それは“ジョナサンズ”達にすでに指示して、こちらに来所した時に使えるようにしてあります」


 アレィナ自身、ジョナサンズ―――彼等AI達との付き合い方に試行錯誤中であった。

 あまりにも人間臭いのだ。最初に覚醒した10名?のAIはすでに自分の名を己で名乗り、次の20名はガートライトに名づけられ、今現在は予備の艦船へユールヴェルン機関(ジェレレイター)の設置搭載作業に勤しんでいる。

 モートロイドの整備点検以外は不眠不休の作業を行い、すでに2号機はロールアウト寸前である。

 

 ともに作業を行うクルーや作業員、研究員達にも好評を博してはいる。が、その人間臭さの為にうっかり人と話をしてる錯覚に陥るとのこと。

 苦情らしい苦情と言えばそんなものではある。アレィナもヴィニオの時の様に扱えば良いのか判断に困るところである。


「みんな、いい子なんだけどねぇ……」


 そんなアレィナの呟きは黙殺されるが、本人も思わず呟いたもので誰かに聞かせるつもりもないので気にはしていない。


「一応スケジュールは組みましたけど、………本当に来るんですか?あの方が」


 分かってはいるが、そんな大人物がこんな僻地に本当に来るのだろうか、少しばかり懐疑的な気分にアレィナはなるのである。


「まぁ、ダメ元でというものあったけど、直接交渉してないからどういう経緯で了承を得たかは分からないけどな。公爵家の御曹司が言うんだから大丈夫だろ」

「またそんなイイカゲンな………」

「大丈夫だって、気のいい爺さんだよ本人は」


 ガートライトの言葉アレィナは思わず目を見開く。


「ええっ!知ってるのっ!!“大准将”をっっ!!」


 そして思わずガートライトに向き直り大きな声を上げてしまう。


 ゴードウェイイル・ヒルハート准将。


 平民から一平卒として帝国軍に入り、様々な事変に功績を上げ平民の英雄と謳われる人物。

 彼の名を一躍知らしめた事件が起きる。


 先々代皇帝の御世。とある惑星を治める侯爵が反旗を翻した。

 秘匿していた300隻の艦隊を引き連れて周辺宙域へと進軍。

 そこに居合わせた星系外周警備隊の50隻。当時少佐あったゴードウェイイル・ヒルハートがこの件に対処することになった。


 本来たとえ上級貴族といえど保有許可数を超える艦船の所持は禁止されており、下手をすれば降家どころか廃家断絶になる怖れのあるものだったが、当時の当主であったべロート侯爵は何を勘違いしたのか、己こそが帝国の祖たる末裔と主張し、秘匿していた戦艦、駆逐艦を持ち出し出征と称して帝星へ向かって進軍し始める。


 そしてその進路上にたまたま哨戒中のヒルハート少佐達と行き合ったのだ。

 当初、突発的に始まった戦闘は警備隊の惨敗であっさり終わると思われた。何しろ300対50。しかも艦種に至ってはリリィトラン級の戦艦対ただの哨戒艦だったのだから。

 だがその予想は覆される。


 警備隊は10隻づつ5つのグループに別れ侯爵の艦隊を包囲攻撃しだしたのだ。

 正面突破で押し切ろうと目論んでいた侯爵軍は、その光景に理解が及ばず混乱をきたした。

 そもそもシミュレーション上で幾度も戦闘経験はあっても実戦とは全く異なるものであり、机上の理論しか知らぬ侯爵軍兵士たちは実際の戦闘を理解してなかったのである。


 それでも300対50。しかも5つに別れた10程の駆逐艦を前にやる気に満ちた麾下の貴族(男爵、子爵)達はバラバラにそれを追い掛け始める。

 統制のとれなくなった艦隊など烏合の衆と変わらぬものと化したと見たヒルハート少佐は、重装甲艦(補給船)を盾として単艦で侯爵の旗艦へと突き進みこれを無力化。首謀者及びその幹部を捕縛したのである。


 ここで賞賛されたのは、誰も死者を出すこと無く捕まえたという点である。

 帝国誕生より200数年はほとんど宇宙空間での艦隊戦というものは無かった。

 せいぜい数隻同士の小競り合いぐらいであった。

 

 この時ゴードウェイイルが用いたのは、電子戦にて眼と耳を無力化し射程範囲ぎりぎりの位置をキープしながら4部隊が撹乱陽動している間に、旗艦を一気に狙うというものだった。

 そして周囲の艦を引っ掻き回しながら旗艦のエアサーキュレーションシステムに潜り込み、空気成分を弄って起動させて完全に兵士達を行動不能にしたのだとか。

 その後連絡を受けた第3艦隊が到着し、それを引き継ぎ本人達は巡回警備隊の通常任務に戻ったという話である。


 その逸話を皮切りに数多くのエピソードがあり、平民でありながら准将の地位にまで登り詰めたのがゴードウェイイル・ヒルハートという人物なのだ。

 その他多大な功績の為大将への推挙がされかけた事が幾度かあったが平民出身の大将などと貴族達の声が上がり、その話は消える事となった。

 その事から平民の軍関係者からは“大准将”の名を冠することになったのは有名な話だ。

 現在は現役を退き予備役待遇で工廠艦の運営に携わっているのだ。ようは閑職に回されたのである。


 そんな“大准将”の名をもちろんアレィナも知悉しており、尊敬をしている人物の1人だ。


「ガートは一体どこで大准将と知り合ったの?」


 資料を繰り作業を進めながらアレィナはガートライトにそう問い掛ける。


「んー、地方のライブラリーを巡ってる時に俺が助けたのが始まりだな」

「え?助けたってどういう事?」


 ホロウィンドウからガートライトへ視線を移し、さらに問い掛ける。


「農耕惑星の小麦工場ウィートファクトリーでうつ伏せで倒れてたのを助けたんだ。3日間飲まず食わずで行き倒れてた。3年くらい前かな」

「はあぁっ?」


 アレィナは一瞬、理解が及ばず思わず変な声で聞き返す。

 帝国の伝説的英雄が行き倒れとかほんとそれ?という感じである。

 その問い掛けにガートライトは先程と同様に言葉を繰り返す。


「だからそん時は何でか知らなかったけど、人の全くいない地域でうつ伏せで倒れてたんだよ。さすがの俺もビックリしたわ」

『そうですね。あれ干物1歩手前でしたから』


 ヴィニオが追随すれば、それが事実だと完全にアレィナは理解する。何とはなしにアレィナの中の英雄像の端っこが欠ける。

 そもそも農耕惑星の小麦工場とは、広大な土壌に品種改良された小麦をオートメーション化されたモートロイドによって栽培管理されているもので、定期巡回以外には余程のことがない限り人間が立ち入ることなど無い場所なのである。


 ガートライトはたまたま情報を得てこの惑星に立ち寄ったに過ぎない。

 聞くところによると、家に帰る途中で何者かに襲われ拉致され、気づいたらこの惑星にいたと言う。

 そして3日3晩歩き廻ってぶっ倒れていたらしい。

 当の本人はいやぁまいったまいったと笑っていた。


 そして帝星への帰路の途中、ガートライトが見せたPictvに夢中になって意気投合して、それからの付き合いらしい。

 ガートライトの話にアレィナの英雄像がガラガラ崩れていく気がした。

 あれ?稀代の英雄はどこに行ったんだろう………。そう思いアレィナは溜め息を吐く。


 類友かよ………と。


 まぁ、ガートライトと付き合ってれば多かれ少なかれ、そういうものに行き当たるのは自明の理ということだと。諦め半分に理解というか納得して胸の中へと仕舞う事にする。

 ガートライトとアレィナはヴィニオに時折口を挟まれながら、書類作業をこなしていく。


 そんな日々を過ごして2週間が過ぎたころ、その大准将から連絡が入ってきた。



『かんちょー! 見に行っていーすか?』

『わいもわいも―ッ』

『あんた等いーかげんにしなさいよ!!どうせすぐ来るんだから』

『っか!おめぇふねの入港シーン観ねぇでどうすんだよ。この燃えるシチュ逃すなんてアホだろがよっ』

『あんたその口の悪さ何とかしたら?』

『っだとぉっ!』


 モートロイドに搭載されたAI“ジョナサンズ”の1C(ファーストクルー)達がガートライトの執務室へと直談判しに来ていた。

 それぞれ言ってることは違っているが目的は一緒だ。

 要は機動工廠艦の入ってくる姿を一目見たいということだ。

 戦艦の発進シークエンスや、登場シーンはPミラーに間では狂喜モノのシーンだ。いただきますとごちそうさま状態だ。

 ガートライトは彼等を見回してから、気になったこと訊いてみる。


水先案内人スキッパーはどうしたんだ?確かアミダか何かやってたろ?」

『航海士長が何人か連れて連絡艇で行っちゃいました』

『当たったのに………』


 航海士長を思い出しなる程と思いながらもアレィナに確認するが、アレィナは首を横にふるふる振る。やれやれとガートライトは溜め息を吐き、彼等に許可を出す。


「停泊宙域に被らないように気をつけろよ。………どうせ皆で行くんだろうから注意してな。ってか俺達も行くんだけどな………」


 大准将ともなれば、それなりの地位の人間が行かなくてなならない。ザーレンヴァッハとその直属のガートライトが出迎えをする予定になっている。

 機動工廠艦の停泊宙域は、ガートライト達が調えた廃艦船を分類した宙域の手前に設定されている。


 もちろん停泊場所としての体裁を整える為に、そばには生活の為の住居を小惑星を繰り抜き資材を運び込み作り上げていた。

 もちろんそれも“ジョナサンズ”を搭載したモートロイドによって為されていた。



 これで真なる近接戦闘格闘型戦艦の建造が本格的に始まることになる。

 ガートライトはようやくここまで来たなと、大准将と機動工廠艦を迎えるため席を立つ。




(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

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