3話
自分に近づくものの正体。
弥乃がわかるわけがない。なぜならば人の目ではそこにいるものを視認できないほどに辺りは暗い。逃げる? オア 話しかける? どちらにしても、ちょっとした勇気が必要。いいや、そんなのんきな話でない。
プルルルルウウ。プルルルルウウ。プルルルルウウ。
おっと、着信音。これには誰もがビックリ。
弥乃はすぐに音を消そうと、受信ボタンを高速に打撃。ケータイが傷つく。
「急いで逃げて! 悪魔は耳が悪い! 多少は音をならしても構わないわ!!」
「えぇっ! わかった!!」
急で逃げて! が第一声とは、なかなか賢いではないか。弥乃がするべき行動を瞬時に察知できた。
木々にぶつからないよう、それでいて素早くその場を離れる。
悪魔? (人に向けるにはすこしひどい言い方にも思える)はそれを追う気分ではない。弥乃が立ち去る姿を見送った。耳が悪くても見えていたら意味ないので前述のカシコと言う評価はどうも微妙だあた。悪魔(やっぱりふさわしい表現なので使いたいと思う)だって弥乃を食おうとは思うまい。いや弥乃の容姿はかわいいので食うのかもしれないけど、今はたまたまその気分でない、かもしれない。
悪魔の気配がなくなるまで走ると、弥乃にも冷静さと言うものが訪問する。しまった、そういえばその場を離れるなと言われていた。いやいや、しかし事情があったのだ。仕方がないのである。と、弥乃は納得する。
「アナタは誰?」
「なに寝ぼけた事言ってるの? 弥乃」
「ええっと、え? 」
「にしても、どうしましょう。早く森から出ないと」
「ねぇ、悪魔って何?」
「悪魔? 何を言ってるの? 弥乃、少しヘンよ。ちょっと休む?」
「え、私は大丈夫」
「ふーん。まぁ、いいわ。こっちにいきましょう」
弥乃は“こっち”と言われた方へついていく。そういえば、さっきまでケータイを持っていた覚えがある。そういえば、そうだったっけ? 曖昧だな。
「どこに行ったのかしらねぇ。◎◎」
あれ。それは弟の事ではなかったか? どういう事だ?
「う~ん。そんなに◎◎はまだ小学生だから遠くにはいかないはずなんだけど」
「もうッ。人騒がせね。やっぱり110番呼ぶべきだったかもね」
「ん? あ、110番?」
「ああ、やっぱり必要ないわ。もしもの時にとっておきましょう。大騒ぎは嫌だしね。まぁ、弥乃ももしもの時は私のケータイ使っていいから」
「うん。わかった」
「あたしのケータイ、家の人から電話来るかもしれないから、無視していいわ」
「ゴメンね、祈里ちゃん。迷惑かけちゃって」
「いいわよ。弥乃の頼み事は断れないわ」
「ありがとう」
「だから、いいって。ん? えっ!」
あー。弟くん、崖に落ちているじゃないか。死んではいないようだ。しかし、このまま放っておけばたーいへんだろうな。だって骨折とかならまだしも、意識ないようだし。
「◎、◎◎っ!」
弥乃が叫ぶ頃には。
祈里の姿も、弟の方に崖の方。あれれ。なんでや。
後ろから押された方な気がして、弥乃も落ちてった。フォール