1話
Y・Tちゃん、おめでとう。
少し怖い作品になってごめんね。本当にごめんなさい。
普段から明るい君には似合わないと思うけど、まぁ、明るいプレゼントはみんなしていると思うから、まぁ、このプレゼントは気が向いたら開けてみてほしい。
「◎◎、見つかったぁー?」
「グスッ、ううん。見つかんないよぉ」
そこは暗闇だけが見える森のなか。辺りは二人ほど声を除けば、小さく、冷たい、微風を感じる程に静かである。
普通なら近寄りがたいこの森にいる姉弟のうち、姉と思われる少女は顔が歪むほどの泣き面の弟を見て、どうしようか、と嘆息した。
「本当にこの辺りで無くしたの?」
「うん……」
「全くもう……仕方ないんだから」
この姉ーー弥乃の声は少し震えていた。
その要因はなんだと言うと、……言うまでもないような気がするのだが、この暗闇と森が醸す、“ここにいると怖い!” “ここでは何が起きるかわからないから逃げたい!”という警告の振動を押さえているのである。
「うううっ、ごめんなさい、お姉ちゃん……。家の鍵落っことしちゃって、」
「もう充分怒ったからいいよ。泣き止みなさい。でも今後は絶対に、このもりで遊んじゃダメだよ。危ないんだから」
弥乃が念を込めた、森は危険、の言葉は近所で有名だった。
この森では頻繁に物がなくなる。特に、価値のあるものはすぐになくなる。金、家具、車、など。もちろん、人間もいなくなる。人間がいなくなるほどの騒ぎでもなければ、誰も噂しない。
弥乃の友人も一人、いなくなった覚えがある。しかし名前を覚えていない。なぜだ、なんでなんだ、と弥乃は何度と頭を巡らせただろうか。もしかしたら、この森にその娘(男児でなかったはず)の名前を、この森が無くしてしまったのかもしれない。いや、そんなことはあり得ない。物はいくつも無くなっているが、記憶が無くなる何てことはない。
捜索が長く感じ、発見が困難だと弥乃は思い始める。
もし、鍵が誰かの下に渡ってしまえば、悪用されるかもしれないので弥乃は必死だったが、しかしこんな森にいるくらいならば鍵なんていくらでも、泥棒に渡してしまってよい。それよりこの危険な森から抜けるべきだ。
しかし遅かった。
残念な弥乃である。回避しようと思ってみれば、すでにそこに弟の姿はない。
そういえば、弥乃よ。弟の名前は何だったかな? 教えておくれよ。