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カラス

作者: 華猫

 黄昏時の荒野を、少年が一人、歩いていた。

 少年は、カラス、と呼ばれていた。もっとも、呼んでいたのは、つい先日死んだバアだけで、今は誰もその名を呼ぶこともなかった。生地だけは上等だがすっかりくたびれた衣を無造作に羽織って腰を紐で縛り、手入れの悪い髪をそのままに振り乱している。身に着けている衣服は他には草履くらいなものだ。

 カラスは、いつものように、食えるものを探していた。

 骨ヶ丘から屍の原にいたる一帯が、カラスの住処だった。

 その名の通り、荒野は至る所に、人の死体が散乱していた。どれもすっかり血の気を失い、白蝋のような肌を晒している。新鮮なものからすっかり干からびたもの、骨と化してやがて塵になりつつあるものまで、状態も大きさも様々な死体が折り重なるように散らばっている。それらがどこからどんな理由で、ここに来た死体なのか、カラスにはどうでもいいことだった。

 ただ食えるか食えないか、それだけがカラスの関心事だった。

 血のように赤い空が荒野にのしかかっている。地と空の際には、黒々とした夜闇がわだかまり、そして、ずっとそのままだった。

 カラスは生まれてからこの方、夕暮れの空しか見たことがなかった。

 熾火のような色をした太陽は、黒雲と共に地平に沿って転がるだけだ。永遠に去ることのない昼日と、永遠に訪れることのない夜の狭間で、カラスは今も、食うための死体を探して彷徨っていた。

 男の腕が目についた。まだ皮膚の色も奇麗な。昨日、ここを通ったときはなかった。

 カラスがその腕を引き上げると、周囲のやや古めの死体の山が崩れて、その下に重なっていた胴体が現れた。

 カラスは喜んだ。

 鼻を近付けてにおいを嗅ぐ。まだ新しい。

 その男は右腕と胴の上半分しかなかったが、カラスには充分だ。腐敗して毒を出すようになるまで、カラスの食い物になってくれる。

 その男の腕と胴は甲冑を着ていた。生前の男には必要だったのかも知れないが、今のカラスには不要だし、そもそもその男が死体となってここにいるということは、その甲冑は役に立たなかったのだ。

 小さな金属板を丈夫な革紐で繋ぎ合わせてある。カラスは、自分の腰紐に差した脇差――カラス本人は〝牙〟と呼んでいる――を抜いて、死体の鎧の繋ぎ目を切った。下地の布地を切裂くと、鎧は簡単に壊れた。

 と、小さな袋が、死体の胸元からこぼれ落ちた。キラキラした糸が織り込まれた真綿の巾着だ。

 カラスは袋を拾って、開けてみた。

 袋の中には、カラスが見たこともない、美しい珠が入っていた。

 カラスは新鮮な死体も好きだったが、キラキラしたもの、光るもの、美しいものは、大好きだった。

 カラスは小躍りまでして、思いがけなく手に入った宝を喜んだ。

 それから、死体の腕を齧り始めた。


 翌日も、幸運が続くことを期待して、カラスは同じ場所に行ってみた。

 昨日の食べ残しの死体が転がっている。まだ充分に食べられる。しかし、目新しいものはない。

 落胆して昨日の残りを平らげようとしたとき、少し離れたところに、新しい死体が落ちているのに気づいた。

 急いでそっちのほうに駆けつけると、それは、丸ごと一人分の少年だった。

 カラスと同じくらいの歳にみえる。ごく真新しく、死臭すら発していない。きちんとした身なりをしている。ここらの死体の大半を占める、病や戦や貧困でぼろぼろになった人間ではない。ここにいるのが不思議なくらいに、きれいな外見をしていた。

 腐りかけた子供の死体なら以前に見付けたが、こんなものは初めてだ。

 カラスはその少年の腕を引き寄せて、細く柔らかそうな指を食いちぎった。

 途端、その少年の死体が叫んだ。

「あ――――――っ!」

 カラスは心底驚いて、宙返りまでして後ろに跳び下がった。

「あああ……」

 少年は噛まれた左手を、右の手で強く握り締めながら、その場に座り込んだ。食いしばった歯の間から痛みが洩れる。

 カラスは齧りとった肉を奥歯で噛みながら、じっと、少年の様子を窺った。

 しかし少年は、流れる血を抑えることに必死になっているだけだ。

 カラスは肉の塊を呑み込んでから、恐る恐る、少年に近づいた。

「オマエ、生きてるのか?」

 カラスが声をかけると、少年は大きく目を見開いてカラスを振り向いた。

「い、生きてるよっ……き、君はなに?ぼくを食べるの!?」

 少年の声が、怯えて震えている。

「食べるのは死んでるやつだけだ。生きてるのを喰ったのは、オマエの指が初めて」

「ぼっ……ぼくの指……痛いよ!返してよ!!」

「もう喰っちまったよ」

 カラスは横を向いて地面になにかを吐出した。小さな爪だった。

「ううう……」

 少年は薬指を失っていた。

「これ、塗るか?」

 カラスは懐から小さな貝殻の容器を取り出した。容器は大分前に、死体から手に入れたものだ。

 中にはひどい臭いのする軟膏が詰められていた。

「なに……?」

「バアの軟膏。どんなケガでも癒る」

 少年は恐る恐る、薬を少し指ですくって傷口につけた。表情が和らぐ。すぐに血が止まった。

「ほんとだ……痛くない」

「な、すごいだろ、バアの薬は」

「すごいや、どうやって作ったの」

「バアが作り方を教えてくれた。オレが作った」

「なんでできてるの?」

「だから、バアだってば」

「――――――」

 少年は言葉を失った。

「それよりオマエ、なんでここにいる?生きてるのに」

「ここって……どこ?」

 少年は周囲を見まわして、そしてようやく、自分が見渡す限りの死体の散らばる荒野の只中にいることを知った。

「な――――」少年の顔が一転する。「な、なに!?ここは……みんな……みんな死んでる……?」

「ここは屍の原。あっちに見えるでっぱりが、骨ヶ丘。ここに来るのは死体ばっかりなのに、お前が来た」

「来るって……どこから?」

「知らない。どっか。ここじゃないとこ。オマエは?」

「ぼくは――何かを探してたんだ、ぼく……ぼくは……そうだ」急に少年の顔が明るくなった。「ぼくは、アシビ、っていうんだ、思い出した」

「ふーん、オレはカラス。アシビってのか、オマエは。探してたって、なにを」

「大事な――お宝の珠だ、たしか」

「珠?」

「そう、天主様からあずかったんだ、すごく大事なものだからって……違う、誰かに盗まれて、それを取り返しに……あれ?どうしたんだっけ……」

 アシビは額に手をやった。

「よく思い出せないや……宝の珠と、天主様が関係してるのは確かなんだけど……」

「死んでたからな、腹減ってるんだろ。オレもだ。喰うか、オマエも」

 カラスはそういって、まだそんなに古くない死体の一部をアシビに差しだした。目に付く限りではそれが一番、旨そうだった。それを真っ先に相手に与えるということで、カラスなりの礼儀のつもりだった。

 しかしアシビは怯えて顔を背けた。

「い、いい……ぼく、そんなにお腹減ってないから」

「そうか」

 カラスはそれ以上は勧めなかった。内心、ホッとした。そして戸惑うアシビを余所に、適当な場所に座りこんで、肉に噛りついた。

 アシビは今にも泣きそうな顔になった。

「ぼく、帰りたい……こんなとこいやだ」

「帰りたいなら、帰ればいいだろ」

「どうやって!?」

「さあ」

「カラスは、ずっとここにいるの?他の場所に行ったことは?」

「ああ、オレは生まれたときからここにいる。余所に行くって、どこにいくんだ?」

「他に、誰か、いないの?」

「バアがいたけど。ちょっと前まで。でももういない」

「その他には?」

「あと、金翅鳥ってやつ、ほら、あれだ」

 アシビはカラスの差したほうを見た。

 茜色の空を、金色に光る、鳥のような形をした点が飛んでいく。

「コンジチョウ?」

「バアが教えてくれた。ときどき、この上を飛んでる。バアがいうには、金剛宮ってとこと、どっかを行き来してるっていうんだがな」

「天主様の御所だ……金剛宮って」

 アシビはじっと、鳥の飛び去る方向を見つめた。

 それは余りにも遠い。とても手が届かない。

「あれについていけば、どっか、いけるんじゃないのか」

「ムリだよ……金剛宮は、地上からじゃいけない」

「オマエ、そこにいたんじゃないのか?」

「まさか。ぼくは地の国の住人だもん」

「じゃあ、あれを捕まえようぜ。あいつに乗って行けば、着けるかも」

「捕まえるって、どうやって?」

「地下のモグラ達に訊いてみる、ちと待ってな」

 カラスは今齧っている腕の肉をすっかり喰いつくして骨だけになると、無造作に投げ棄てた。

 彼が食事をしている間、アシビは落ち着かない様子で周囲を見まわしていた。

 カラスが骨を捨てて立ち上がると、アシビも慌てて立ち上がった。

「こっちこっち。あっちのほうに井戸があるんだ」

 カラスが歩きだして、アシビも後に続いた。。

 そこら中に、かつては生きた人間だった物体の残骸が散らばっていて、歩き辛い。しかしカラスは慣れ切った足取りで器用に、平らな地面を選んでは歩いていく。

 アシビは足を取られまいと必死に着いていったが、そのうち、あることに気づいた。

「……ここの死体って、どうなるの?ずっとこのまま?」

「いんや、そのうち、地下にいる連中が持ってく。やつらは新鮮なのが嫌いなんだ」

「ああ……だから、腐った臭いがしないんだ」

「ちょっとまえ、地下の連中が総出でどっか行っちまって。そのせいでしばらくず――っと、死体がそのままになってたことがあったんだぜ」

「ええ、それじゃあ、大変じゃ?みんな、腐っちゃったでしょう」

 アシビは周囲を見まわした。

「でもなあ、そうでもなかったんだ、いつのまにか骨だけになっちまって。連中、戻ってきてえらく残念がってたなあ。あいつら、骨だって持ってくくせに、不満たらたらで」

「そ、そうなんだ――どこまでいくの?」

「そこだよ」

 カラスが行く手を差した。

 アシビが見ると、小さな、石積みの山がある。近づくにつれ、積石は、全て、すっかり白っちゃけた人の頭蓋骨だと見て取れた。

「あれが、井戸。地下の連中と話したいときは、あれを使うんだ」

 アシビは恐る恐る近づいて中を覗き込んだ。

 なるほど、それは確かに井戸のようで、深い竪穴を、シャレコウベで出来た石垣が囲っている。しかし水の気配はない。暗い竪穴がずっと下まで続いているだけのようにみえた。冷ややかな空気が漂ってきて、アシビの頬をなでた。なんの臭いもしない。ただ冷たいだけだ。

 アシビはカラスのほうを向いて訊ねた。

「この下に、誰かいるの?」

 カラスは慣れた手付きで、〝牙〟を使って手近な死体の首を切りとっていた。そして井戸に歩み寄ると、死体の首を放り込んだ。

「下の連中に用があるときはこうするんだ」

 アシビは再び、井戸の中を覗き込んだ。重い首が落ちていく音が、かすかに響いてくる。やがて、井戸の底から、野太い声が沸き上がってきた。

「なんじゃあ、わしらに、なにかようかあ」

 カラスは井戸に頭を突っ込んで、負けじと怒鳴った。

「おおい、聞きたいことがある」

「なんじゃあ、いうてみい、答えられたら首を、もうひとつよこせえ」

「金翅鳥を、どうやって捕まえたらよいかね」

「コンジチョウだとう?あんなもの、見たくもないわあ。わしらは苦手じゃ」

 カラスは顔を上げて、アシビと顔を見合わせた。

「……あんなこといってる」

 カラスは再度、井戸に屈み込んで、大声で呼びかけた。

「誰か知ってるやつはおらんかねえ」

「わしらは知らぬわあ。お主の婆様なら、知っておったのではないかねえ」

「バアはもう死んだよう」

 アシビは井戸の上下のやりとりを聞いていた。

 ここは、ずっと、夕暮れのままだ。日は沈みも昇りもしない。茜色の空が世界を覆っている。

 金色の巨大な鳥が、アシビ達の頭上を羽ばたいて飛んでいった。金翅鳥だ。さっきよりもずっと近い。

 はっきりと鳥の形が見て取れる。全身を、金色の炎で包んだ、巨大な鳥だった。

 アシビは鳥に見蕩れて、ふと、手を伸ばした。

 届くはずもない。しかし手を伸ばせば届きそうなほど、それは大きく、近くに見えた。

 巨大な鳥は、羽音一つ立てずに飛び去った。

 カラスは、地下とのやりとりに夢中で、気付いていなかった。

「――よし」

 カラスが井戸から顔を上げたのは、金の鳥が地平の彼方に消えた後だった。空の際にわだかまる黒々とした闇の中で、一瞬、金の鳥がまばゆい閃光を放って、すぐに消えた。

「金翅鳥……」アシビはカラスの顔を見て呟いた。

「その金翅鳥、捕まえるってんだよ。ち、地下の連中もアテになんねえなあ」

「どうやって捕まえるの?」

「バアに聞けとさ」

「でも、バアって、死んだんじゃ」

「この先、ず――っと行くと、大きな河がある、その河渡った先で、バアの話を聞けるって、地下の連中が」

 アシビは顔をしかめた。

「その河って、渡っちゃまずいんじゃないの?」

「どーして?」

「だって、死んだ人が渡る河なんでしょ、それ渡ったら、ぼく達も死んじゃうんじゃ……」

「まさか。死んだやつらは、ほら」カラスは周囲に散らばる死者達を見遣って、「ここにいるんだぜ、みんな死んでるんだ。オレ達は生きてるだろ」

「そうだけど……じゃあ、バアは、どこいにるんだって?」

「とっくに地下の連中が持ってったさ」

 アシビは知らず、指の例の傷を抑えた。

「とにかく、いってみようぜ」

 カラスに促されてアシビは歩きだした。が、どうにも気が進まない。

 周囲はずっと、死者の寝転ぶ原だ。よく見れば年齢も性別も人種も、様々な人間がいる。一人一人が全て違う。同じ服装の集団もいたが、よく見ればみな、違う人間だ。

 その全てが、今は、死んで、死体となって、大地の上に倒れている。眠るかのような穏やかな顔のものもいれば、無残な末期を見せている物もいる。しかし全ては、死体だ。

「……みんな、ちょっと前は生きてたんだよね……」

 アシビは歩きながら、ふと、呟くようにいった。

「そうなの?」

 カラスは気のない返事をした。

「ぼく達と同じだよ、みんな。生きてたに決まってる」

「でも今は死んでるだろ。オマエだけだよ、生きて、ここに来たの」

「カラスはどうしてここにきたの?

「さあ?オレはずっとここにいる。気付いたらバアと一緒に、ここで暮らしてたんだ」

「そうなんだ」

 アシビは力なくうなずいた。

 今、この荒野で生きて、動くものといえば、二人だけだ。地平の端から、反対側の端まで、この地上を支配しているのは死だ。

 風すら、ほんの挨拶程度に、子供の遣いのような息を送るだけ。

「ほんとに、この方向でいいの?」

「どの方向でも、まっすぐ歩けば、やがて河に行き当たるって、地下の連中が」

 アシビはますますわけがわからなくなった。

 もうどれくらい、二人は歩いたろうか、風景は一向に変わらない。

 ふいにカラスが立ち止まった。

「腹減った」

 そういって、身を屈めると、手近な死体のにおいを嗅いだ。

「……これが一番ウマそう」

 カラスは一本の脚を手に取ると、脇差で胴体から切り離した。

 アシビは顔をしかめて見つめた。カラスがアシビのほうを振り向いて、切り取った足を差し出した。

「オマエも食えって」

 アシビは大慌てで首を横に振った。

「い、いいいいいいい。お腹減ってないってば」

 実際、アシビは、ちっとも、空腹を感じていなかった。

 ここでは時間が止まっているのだろうか。ずっと歩いているのに、疲れすら感じない。

 カラスは心底旨そうに、脚を齧っている。生のままだ。まるで瓜でも食むかのような顔付きで。

 若い女の脚らしかった。白く、滑らかな肌をしていた。

 いったい、どんな女がその脚を持っていたのか、ふと、アシビは気になって、カラスの周囲を探した。

 すぐに見つかった。

 若い女が、目を開けたまま死んでいた。その右の脚は腿の付根あたりから切落されて、赤黒い切断面を晒している。その先は今、カラスの胃袋に消えようとしているところだ。

 女は、簡素な長衣を身に着けていた。死に顔は安らかだ。やや物憂げな眼でアシビをじっと見ていた。

 アシビは死んだ女と目が合ってしまった。

 長い髪をした女だ。アシビよりはずっと年上の。アシビは突然、胸が高鳴るのを感じた。そっとその女に近づいて、女の頬に触った。女の肌はまだ柔らかく、みずみずしかった。

 アシビは女の頭を抱き起こした。

「奇麗な人だなあ……」

 するとカラスが、顔を上げて、〝牙〟をアシビに差し出した。

「使うか?」

「まさかっ」

「頭を切るのは、ちとコツがいるんだ。脊椎と脊椎の間を、巧く斬らなきゃ。髪も一緒に斬ろうとすると巧くいかないし。やってみせようか」

 カラスはそういって、女の髪を束ねて掴み、ぐいと引いた。

 真白いうなじが顕になる。アシビは息を呑んだ。

 カラスが女の盆の窪に刃を当てようと構えた。

「だっダメっ」

 アシビはカラスを突き飛ばした。

「なにすんだよっ」カラスが怒りと驚きと半々にして、アシビを睨んだ。

 アシビは女を、カラスからかばうように抱締めて叫んだ。

「これ以上、もう、傷つけちゃだめだ!」

「ちぇ、死体は死体だろ、オレ達が喰うか、じゃなけりゃ地下のモグラ達が喰っちまうよ」

「そんなこと。とにかく今は、この人に触らせないからっ」

「ちぇー、旨いのに。喰わないんなら、さっさと行くぞ」

 カラスが不満そうに立ち上がった。

「ええ、でも、待って」

 アシビは女を担ごうとしたが、持ち上げることすらできない。しかし、置いて行く気にもなれなかった。

「行くったら」

 カラスが少し先で振り向いて、怒鳴った。

「どうしよう、この人……置いていけないよ」

「ほっとけって!」

「でも……」

「ったく」

 カラスが戻ってきて、いきなり〝牙〟を抜いた。

 アシビが慌てて女をかばおうとする。

 カラスは女の腕を掴むと、手首を斬り落とした。アシビが、自分の指を食いちぎられたときよりも大きな声で叫んだ。

「うるせえな、ホラ、これ持ってけよ。彼女代わりに、さ」

 カラスは女の手首を、アシビに叩き付けた。

 アシビはその手首を手にして、それとカラスの顔を交互に見つめた。カラスが再び歩きだす。

 手首の切り口はとてもきれいに、骨も肉も切断されていた。まるで作り物めいていた。血の一滴も流れ出ない。死体の一部だとは思えなかった。最初からこんな物体として作られたかのようだ。花のような芳香がかすかに漂う。その匂いすら死ではない。その匂いは、アシビの脳裏のどこかを優しく刺激する。なにか、とうに忘れている記憶が、呼び覚まされるような――

「早く来いったら!」

 カラスが大分先で、叫んだ。

 アシビは女の手首を握り締めて駆け出した。

 それから二人はまた、一緒に歩き始めた。

 全く変わらない風景の中を。

「……あとどれくらいだろう」

「知るかよ」カラスが苛立っている。「こっちのほう、来たことねぇからな」

「こっちのほうって……ぼく達、ほんとに進んでるのかな。もしかして同じとこ、ぐるぐる回ってるだけとか」

 アシビは急に不安になった。何一つ目標になるもののない荒野で、自分の居場所すら見失っている。

「そんなこと、ないさ」

 カラスは力強くいった。が、アシビには、カラスの自信の根拠がわからない。

「ほら、あれ」

 カラスの指した先に、金翅鳥が飛んでいくのが見えた。

「あいつの飛んでいくほう、目指していけば間違いない」

「えええ?いつも同じ方向に飛んでるの?」

「そうさ、金剛宮に向かってね」

「じゃあ……帰りはどうしてるの?地下を通っていくのかな。それとも、毎回毎回、別の鳥が飛んでいくの?でもそれじゃ金剛宮が金翅鳥だらけになっちゃうじゃん?」

「知るかよ」

 カラスは迷うことなく歩き続けている。アシビは彼の後をついて歩いた。

 突然、懐に入れた手首が動いた気がして、アシビは悲鳴を上げた。

「なんだあ?」

 カラスが振り向いた。

「手首が、動いたの……そんな気がしたんだ、きのせいかも」

 カラスは気抜けしたように鼻を鳴らした。

「なんだ、珍しくもねえよ死体が乾いてくると、動いたりするんだ」

「そ、そうなの?」

 アシビは手首を握ってじっと見つめた。その肌はまだ柔らかい。

「あるいは、鬼の仕業かもな」

「鬼?」

「バアがいってた、目に見えない小さな鬼がいて。死体でもなんでも取憑くんだ」

 アシビはつい、手首を放り出した。手首は誰かの顔の上に落ちた。そのまま、微動だにしなかった。

 アシビは恐る恐る、その手を拾った。

 そして再び、歩きだした。

「鬼って、どんなの?」

「風に乗ってくるんだ、生温い風が吹いてきたら、鬼が乗ってる証拠なんだ――ほら、こんな風」

 一陣の風が、二人をねぶるように吹き寄せた。アシビは全身の皮膚が粟立った。生温い風だった。

 その風が吹き渡った後、周囲から、奇怪な音が一斉に沸き起こった。小さな硬い何かを細かく打ち合わせるような……

 死体達が、歯を鳴らす音だった。

「かっカラスっ、死体が……」

「なに、心配すんなって。やつら、好きに騒いでるだけさ」

「でも……こわいよ」

「ほっとけばすぐ、いなくなっちまう」

 カラスには日常のことらしかった。

 アシビは足元の死体達を見た。顎を小刻みに動かして、歯を鳴らしている。すべての死者達ではない。動かない物もいれば、眠りながら歯ぎしりをしているような物もいる。

 アシビはなるべく、動いている死体に触れないよう、気をつけて歩こうとした。

「うわっ」

 前を行くカラスが、一声叫んで、立ち止まった。

「ど、どうしたの?」アシビは飛び上がりそうになった。

「変なもの、踏んじまった……気がする」カラスが引きつった顔でいった。

 アシビは周囲を見まわした。なにも変わらない。それが余計に怖くなって、カラスの肩にしがみついた。

「なっなにするんだよっ」

 カラスが意外なくらいに激しく動揺してアシビを振り払った。

「だ、だって……あ……」

 二人は揃って同じほうを見つめた。

 そこだけ死体がうずたかく積み重なっている。その死体の山が、小刻みに蠢いていた。その下からなにかが、起き上がろうとしているのだ。

 二人は硬直したまま、それを見つめた。大きく見開いた眼で。

 褐色混じりの暗灰色の布の塊が、二人の前に立ち上がった。

 それは二人の背の何倍かはあった。全身にボロが巻きついている。枯れ木が人の格好をしているように見えた。

 ――ああああああおおおおううううう……

 それ、が呻き声を発した。地鳴りのような音だった。

 二人はすっかり縮み上がって、互いにしがみ付きあった。

 細かい塵のようなものが、風に吹かれてそれからこぼれ落ち、二人に降り懸かる。それは、風に揺すられるまま、ゆらゆらと揺れた。

「カ……カラス、あれ、なに?」

 アシビが声を震わて訊いたが、カラスは必死に首を振って叫んだ。

「知らないっ見たことないよ!あ、あんなもん……」

 アシビはカラスもまた、全身を震わせていることに気付いた。二人は身動きも出来ずにそれを見上げた。

 それ、が、ぐううと全身を捻った。

 そのボロの重なりあった隙間の奥に、赤く光る点が点ったのを、アシビは見た。それが眼なのだろうと直観した。

 それが、赤く光る眼で、二人をじっと見詰めている。

 と思うと、ゆっくりとねじくれた腕を持ち上がった。枯れ木のような腕が、二人を指した。

 ふいに、カラスの全身の力を抜けて、その場に崩れ落ちた。アシビは彼の身体を支えようとしたが、堪え切れずに、一緒になって崩れ、尻餅をついた。

 ふああああああああああ……くううううううううううう

 それが、抑揚のついた音を発した。

 もしかすると、なにかの言葉なのかも知れない、とアシビは感じた。

 それ、は、なんの意図かはともかくとして、二人に何かを話そうとしている。二人を助けようというのか、それとも悪意を持っているのかはわからないが。

 アシビは意を決して、それに近付いた。

「おい、どうすんだよう」カラスがほとんど泣きそうな声で呼んだ。しかしその場から動けない。「わけわかんないものに近付いちゃ危ないよ」

 アシビは自分の声が相手に充分聞こえるだろう距離まで近付いた。

 間近で見てもそれは、奇怪で、不確かな物体だった。

 風にはためくボロ布が、全体を覆っている。枯れ木のようにも見える。風がそれをかすめる音がする。他にもなにか、空気の漏れるような短い断続音がする。

 そして、上のほうに点る赤い眼。

 その眼がアシビをじっと見ている。

 やはりこれはなにか生き物なのだ、とアシビは信じた。

 言葉が通じるのかわからない。アシビはその熾火のような眼を見つめながら声をかけた。

「河が、どこにあるか、知りませんか?」

 ゆっくり、一音一音をはっきりと声に出していった。

 少し間が空いてから、反応があった。

 ――ああああ――――

 なにかが這いずり回るような音を立てた。

 アシビは内心、すぐにでも逃げ出したいくらいだった。目の前に立つだけで、足下から震えが這い上がってくる。背後のほうにカラスがいるはずだ。多分、腰を抜かしたまま。彼の顔を見ることができない。

 ――ああう――――

 それが再び、唸った。

「河が――」

 唐突にアシビは、それが、「カワ」と言おうとしているのだと気付いた。その意味を理解しているのかはともかく。勢い込んで叫ぶ。

「そう、河、カワなんです!河」

 ――あ……か……あ

 途切れ途切れの音が、声を絞り出すように聞こえる。

「が……あ……っ」

 それが一声、大きく叫んだかと思うと、突然、その場に崩れ落ちた。

 乾いた音が、重く、砕ける。

 アシビは逸早く駆け出していた。カラスのとこまで走って、その背にしがみ付いた。カラスも必死に腕を振り回してアシビにしがみ付こうとする。

 二人とも、眼は、目の前に見据えたままだ。

 水飛沫が高々と上がるのが見えた。

 そして、波濤が。

 水だ。

 二人は立ち上がって、さっきの、なにかが立っていたところまで近付いた。

 そこには池ができていた。あのなにかの残骸のような、みすぼらしい塊が水面から少し頭を出している。その付近から大量の水が沸き上がっていた。水面は不安げに揺れ動いて、どこか安住できる地形を探すように、折り重なる死体達を洗い、領域を広げていく。

 そこに河ができつつあった。

 水の際の一端が破れ、一気に流れ出した。

 ほぼ平らに見える荒野の中を、もはやかなりの量となった奔流が筋を引いて流れていく。見る間に水嵩をまし、あっというまに、一筋の河が、ずっと以前からそこにあったような顔をして横たわっていた。

 アシビは岸を洗う水に足をすくわれそうになって、慌てて飛退いた。

「これが河か、すげえ」カラスが河を見つめて感心した。

 河は二人の足下から始まっていた。

「――で、これの〝向こう岸〟ってどこだい?」

 カラスは屈託なくアシビの顔をみて訊ねた。

「わ……わかんないよ、こんな河……これって河なの?」

「河じゃないのか?」

「多分……これって、ぼく達の探してる河じゃないと思う……」

「でも、河なんだろ。バアがいってたぞ、河って、こんな風に、水が筋になって、長い髪の毛みたいに流れてるんだって」

 その言葉を訊いた途端、アシビの脳裏に、彼女の面影が浮かんだ。しかし、本当に彼女が長い髪をしていたのか、もう、思い出せなくなっていた。ただアシビの脳裏では、彼女は長く美しい髪、という言葉で記憶されていた。彼女の容貌も、実は、はっきりしない。

 河は勢いを増し、二人の足下に広がる泉から沸き出して飛沫を躍らせながら下っていく。

「この先に、〝向こう岸〟があるんだな、きっと」

 カラスが河の流れ去る遠い先を眺めていった。

「こっちから河が始まってるんだから、河の終わるとこが〝向こう岸〟なんだ」

 そういってカラスが歩き出した。河に沿って左の岸を。

「違うよ! こんなの……」

 アシビは立ち止まったまま叫んだ。

「早く来いよ」カラスが振り向いて呼んだ。

 アシビはぷいとそっぽを向いた。

 そっぽを向いたアシビの視界の片隅で、なにかが光った。

 ハッとしてそれを見つめる。遠くで何かが光っている。金翅鳥の光ではない。それほど高いところではないし、動いてもいない。

 ちらりとカラスのほうを見遣った。カラスは一人でどんどんと先に歩いている。

 アシビは彼方で光る何かに向かって歩きだした。河の流れとは大きくはずれた方向だ。河の始まる池の縁をめぐって、右岸に回り、さらにその先のほうだ。

 死体の折り重なる荒野を、初めて一人で歩くのは、とても恐ろしく感じたが、今は、あの光への好奇心が勝った。

 単なる興味以上に、心を衝き動かされていた。アシビは一心不乱にその光るものを目指して歩いた。

 次第に足が早くなる。

 歩き難さを感じて足下に目をやると、奇妙に思った。あの光のほうに近付くにつれて、足下の死体の数が増えていくようだ。赤茶けた土の地面の見える部分が少なくなっている。

 アシビは慎重に土のところを見付けては足を下ろして歩を進めたが、やがて、一面、隙間なく死体が折り重なって、足を下ろす場所がなくなってしまった。

 顔を上げると、はるか彼方にまだ光はあった。縦に長い人のような形をして、その全身が光っているのだとわかるくらいまでには近付いていた。

 そしてその周囲の地面も、光を反射して、金色にまばゆく輝いていた。その光は、あの金の鳥の輝きとは違っていたが、別の美しさがあった。

 ひどくアシビの心を惹きつけた。もう少し歩けばそれに触れられる、その距離感がなおさら、アシビを誘った。

 アシビは意を決して足を踏みだした。死体を踏んで。なるべく足下を見ないようにして。

 土の地面とはまるで違う。奇妙な柔らかさが、厚い布の靴底を通して伝わってきた。ゆがんだ顔や胸や腹や腕や足や背や尻や、アシビは想像しないよう努めた。

 足はどんどんと早くなり、ついには走り出した。物言わぬ無数の死体達を踏みしだき、アシビは輝くものを目指して走った。

 更に近付くにつれ、足下がぬかるんできた。気を付けよう、と思った途端、足を取られて、アシビは転んだ。

 ぬめぬめとした泥のような感触。

 地を埋めつくすそれは、溶けだして、もはや個々の形を失い、どろりとした液状になっていた。

 あの光る人影はもうすぐそこだった。その照りを受けて金色に輝く泥沼が、アシビの身体を受け止めた。

 アシビは泥に手をついた。何のにおいもしない。それが、本当に、元は死体だったのかすら怪しく思えた。冷たくも熱くもない。

 アシビは顔を上げて、光の元を見つめた。近くで見るとそれはなお、強烈で、しかも美しい光を放っていた。それは純粋な光だ。金の鳥の煌めきとも違う。白く灼熱した光だ。

 アシビはなおもそれに近付こうとした。

 泥が重く足や腰にまとわりつく。泥沼は次第に深くなり、ますます身動きがとれなくなっていく。しまいにアシビは沼の表面に身体を横たえ、手足で泥を掻いた。

 首まで使った沼は、生温く、むしろ心地よい。ずっとそこに浸っていたくなる。目の前の輝くもの以外、なにも見えない。なにも感じなくなる。そのまま、沼の中に自分も溶けだして、一体となっていく――

 不意に心にさざ波が沸き起こった。このどろりとした沼の水は死体が溶けて出来たものだと気付いた。この液体の中に、何千何万という死者達が解け込んでいる。

 あの光は、細長く、一見、不安定な形をしながらも、きわどい姿態で静止している。そして永遠の光。

 死者達の沼の表は、その光を照り返して、静かに輝いていた。

 自分も死体達とともに溶けていくのではなか、と怖れ、アシビは沼から抜け出そうとして――止めた。

 この沼の中は心地よい。あの光だけを見つめていれば、すべての感覚がなくなっていく。カラスに噛まれた指の疼きも、歩き続けて棒のようになった脚も、なにも感じない、恐怖さえも。これ以上、なにを望むというのか。

 ふと、なにかが胸に触れた。ややあって思い出した。女の手だ。

 薄れかけた意識の中で、急速に、彼女の姿が浮かび上がってきた。

 奇妙だ。女の顔も思い出せない。だのに美しい女、という記憶はある。白く透くような白い肌、赤い唇、澄んだ瞳――彼女はそういったもので構成されていたはずだ――その女の手が今、ここにある。

 その手もまた、この沼の中で、溶けて一体になってしまうのだろうか?

 アシビは懐に入れた手にそっと触れた。まだ皮膚の弾力も失われていない。しかしこのままではわからない。やがて彼女も、この沼の中に溶けていく――

 アシビは愕然とした。

 彼女の手、それは彼女の一部だ。沼の中で、自分もまた、彼女と一つになれる。

 しかし自分の意識まで溶けて、一緒になってしまったら、自分の、彼女への想いは消えてしまう。自分の想いの中にさえ、彼女は残らない。この広大な沼の中で。自分の身体が全て溶けたとしても、彼女への想いまで消えてしまうのは堪えられない。しかしそれでは一体になれない。

 アシビは手首を握り締めて、光とは反対の、陸を目指そうとした。

 沼が抵抗する。泥が急に重くなった。アシビを引きずり込もうとしている。

 アシビはもがいた。全身が重い。生温い泥水がまとわりつく。その温さも今は不快に感じた。

 もがけばもがくほど、身体が沈んでいくようだ。ふともがくのを止めてみた――だめだ、余計に沈んでいく。死に物狂いで手足を動かした。

 もう沼の水面は顔のところまできていた。金色に光る不透明な水だ。とっさに眼も口も固くつぶる。

 右手を必死に伸ばして、空を掴もうとした。その手が何かに触れる。水ではない、もっと固さを持ったものだ。

 手を忙しく振ってその何かを掴もうとする。

 掴めた。腕に力をこめて自分自身を引き寄せる。

 足が底に着いた。岸だ。

 アシビは全身引きずるようにして、這い上がった。その場に倒れてしばらく動く気になれない。

「オイ、死んだのか?」

 すぐ間近でカラスの声がした。硬い物で後頭部を突かれる。なんとなく、刀の鞘だろうと思った。

 アシビは顔を手で拭って、眼を開けた。粘り気のある液体がまだ、全身にまとわりついている。その液体が少し、口に入って、甘みを感じた。それは蜜だ。道理で、重く、粘つくはずだ、と思った。

 アシビは起き上がった。目の前にカラスがいて、こちらを覗き込んでいる。心配するというより、好奇心の眼だ。

「生きてるよっ」

 アシビは叫んだ。カラスが死体の腕を手にしているのを見た。青白く、硬直した腕――自分が必死に掴んだのはこれだったのか、と気付いた。カラスが助けてくれたらしい。

「ちぇ――せっかく、人が死ぬ瞬間見られると思ったのに」

 アシビはむっとして、黙って立ち上がった。

 背後を振り返ると、黄金色の密の沼の中、遠くに光の塔が立っているのが見える。同じ光景だ。しかし、その光はもはや、アシビの心を駆り立てはしない。ただギラギラと光り輝くだけだ。

 さっきまで自分を捉えて離さなかった感情は、一体、なんだったのだろうと不思議に思った。

「――ありがとう」

 アシビはカラスに向き直って、頭を下げた。

「溺れるとこだった。あれってなんだろ」

「うん、ああ、あれね」カラスは曖昧に返事をした。「なんか、こわくて、オレは近付かないんだ。あちこちにあるけどな」

「へええ、君にも怖い物ってあるんだ」

 カラスが憮然とした。

「だってさ。あれ、ぎらぎらしてて、なんか、イヤな光だ。太陽とも金翅鳥とも違って」

「でも、初めは、キレイに見えたんだ。だって、こんなところで……」

 アシビの全身が粘ついている。

「べたべたする――これ、蜜だ」

「ほんとだ」

 カラスもアシビの腕に着いた蜜を指ですくいとって舐めて、うなずいた。

「ああいやだな、こんなべたべた。さっきの河で洗わなきゃ」

「どうして?もったいない。いい匂いするじゃん」

「ぼくはいやなんだよ、動きにくいし」

「旨そうなのに――」

「やめろ。ぼくを喰う気?」

 カラスは一瞬間を置いてから、答えた。

「ん、やっぱ死んでるほうがいい」

 アシビはむくれた顔で歩きだした。

 河からだいぶ歩いたように思っていたが、今いるところから眺めると、それほど遠くはないところを、河が流れている。なぜか、ほっとした。

 ふとアシビが振返ると同時に、カラスが口を開いた。

「とにかくさ、さっさと洗って、先に進もうぜ」

「うん」

 二人の少年は歩きだした。

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